幼くて疑わない 2
休日の動物園はカップルが多い。
原田を意識した途端、やたら目に付く。
至る所で手を繋いだり、腕を組んだりとラブ、ラブしている。
それでも家族連れには及ばないだろう。
子供が走り回って危なっかしい。
「あの子、危ないね……」
千香良が溢すと案の定、駆けてきた男の子が千香良にぶつかった。
5歳ぐらいだろうか……
お構いなしで走り去る。
千香良も原田も呆気にとられて見送るだけだ。
すると追いかけてきた父親らしき男が頭を下げ、下げ、千香良の横を過ぎていった。
「あれ……」
休日の行楽地。
偶然、知った顔と遭遇したりする。
「あっ」
男は急ブレーキで止まると振り返った。
元ヤン男だ。
休日でも作業着を着ている。
「悪い、あれ、甥子。それと、この間の床屋の件も……謝るわ……」
元ヤン男は一旦、立ち止まると早口で詫びて、又駆け出した。
「誰?」
原田は如何にも胡散臭そうな男に怪訝な表情を浮かべている。
「うん……土間屋さん」
千香良は元々、口数が少ない。
聞かれたことだけを答えた。
「やっぱり、建設現場はああいった感じの人が多いんだろうな……あれが細マッチョか…………」
原田は千香良の答えに納得した様子で元ヤン男を眺めている。
元ヤン男は甥子確保に成功。
そしてセメントの袋のように肩に担ぐ。
頭を逆さに担がれているにも拘わらず甥子は遠目で見ても楽しそうだ。
「力もあるだろうな……男でも憧れるよ」
原田は独り言のように呟いている。
千香良には解らない感慨だ。
それに龍太を見慣れている千香良には元ヤン男の体躯などたいしたことはない。
「ねぇ……早くお猿さん見に行こう」
千香良は恐る恐る原田の袖を引いてみた。
「悪い……僕に周りには居ないタイプだから、観察してしまった……」
特に意味のない言葉だが千香良は少し卑屈さを感じてしまう。
女子の間では良くある感覚だ。
けれども最近は男の方が容姿を気にするご時世だ。
背の高さや、目の大きさ、指に長さまで……
見た目が気になる。
確かに元ヤン男は今時のダンスグループっぽい雰囲気でカッコイイ。
けれども原田だって2枚目の部類だろう。
地味だが整っている。
千香良は理想のタイプと実際に好きになる人は違うことを最近、知った。
恋人には優しくて穏やかな人が好ましい。
「行こうか……」
どさくさに紛れて、原田が千香良と手を繋ぐ。
北園のメインはイケメンゴリラ。
その他にも、ひょうきんなオラウータンに威厳あるマンドリル、可愛いいフクロテナガザルと飽きさせない。
中でもワオキツネザルはじっとしていなくて面白かった。
千香良は、仄かに頬を色づかせて北園を巡った。
気が付いているのか、いないのか……
原田の表情は眼鏡で分らない。
そして、回り終えた千香良と原田は予定通りお茶をしている。
館内は暖房と、ひといきれ、で暑いぐらいだ。
それでも原田も千香良もホット珈琲を頼んだ。
それとチェロスも。
原田は砂糖もフレッシュも入れる派らしい。
両方、投入している。
「そういえば……千香ちゃん床屋に行っているの?さっきの人謝っていたけど……」
千香良はフレッシュのシートを剥がす手を止めた。
どうやら聞こえていたらしい。
現場男は、本当に声がでかくて困る。
千香良は回答に困り唇を尖らして難しい顔だ。
「あのね……男の子と間違われて、床屋さんを薦められ…………」
嘘ではない。
千香良としては賢い返答だ。
「高城さんも彼も失礼だな。僕には女の子にしか見えないけど……どうしてかな?」
どうやら何気に気になっただけらしい。
取り留めなく話題が移る。
千香良は益々唇を尖らしカップにフレッシュを入れる。
琥珀に白のマーブルが綺麗に浮かぶ。
原田といると表情も豊かになるようだ。
「お兄ちゃんが言うには各自の願望によるんだって……」
「例えば?」
原田が既に砂糖とフレッシュを入れた珈琲を一口啜る。
「背の高さとか、髪型?かな……それと悩んだ挙げ句の人は、どちらが失礼じゃないかで決めているはずだって」
「へ~お兄さん、鋭いね」
「うん、その床屋さん、私に1つ歳上の幼馴染みなんだけど、お兄ちゃんはベタ褒めするんだよ。中学卒業と当時に家業を継ぐって決めて偉いって」
千香良にしてみれば流れで話題に出しただけだ。
しかしながら情報は原田にいらぬ憶測を与えた……
動物園のルートは某園を参考にしていますが、多少脚色しています。
悪しからず。
お読み下さってありがとうございます。




