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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
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柔らかくて強い 5

 



 『プラスター工房ムラオカ』の目の前はバス停だ。

 行きは早く便(びん)がないが、帰りはバスが通っている。

 

 流石にドカジャンでバスは恥ずかしい。

 制服姿の女学生達がチラ、チラ見てはコソ、コソ話す。

 男子と思われていたに違いない。


 今日は千香良の初出勤。

 先に風呂を済ますと、夕食のメニューも千香良の好物が用意されていた。

 シンプルなフレンチサラダはスナップエンドウ入り。

 豆腐とアボカドはオリーブオイルと塩+レモン汁で食べる。

 スープは店のコンソメで、牡蠣のグラタンはカレー味。

 メインは海老フライでタルタルが、こんもり添えてあった。


「千香ちゃん、今日はどうだった?」


 夕飯を食べながら母が聞いてくる。

 父と兄は、まだ仕事中だ。


「いつもよりお腹が空いた」 


「そう……」


 千香良は、いつも母が思うような返事をしない。

 多分、誰に対しても、ズレている。


「続けられそう?」


「うん」


 千香良は脊髄反射で答えてしまい、自分でも驚いた。

 実際、穴埋め作業は好きだ。

 少し固めのセメントみたいな材料を詰め込んで丸い鏝で押し込む。

 作業事態は単純なのだが、慣れてくると感触で詰め具合が分かるようになり楽しくなった。


 龍太曰く、初心者は穴に材料を詰めるときに大方(おおかた)溢す(こぼす)らしい。

 その点、千香良は慎重で筋が良いと褒められた。


 元ヤン男の出現ですっかり忘れていた。


「何か良いことがあったの」


 千香良の口元が綻ぶ様子に母が聞く。


「私、筋が良いって……」


 海老フライにタップリとタルタルを乗っけながら千香良は嬉しそうだ。

 白いご飯も光っている。


 今日は〆を従業員に任せて父も早く帰って来ると言っていた。

『赤煉瓦』の閉店時間はPM9時。

 千香良は黙々と夕食を平らげ、そのままダイニングにいた。

 同然、手にはスマホだ。


 相変わらずグループラインは鳴りを潜めている。


 その代わり、館さん、上大園さん、鷹見さんから返信があった。


 叔父さん、お爺さん、はラインを打つのが苦手な人が多い。

 千香良は良くても既読スルーだと思っていた。


【よろしくね】


【了解】


【頑張ってね】

 

 それぞれ簡単な一言だが千香良は凄く嬉しかった。


 そして、暫くすると父が兄を伴い帰宅した。

 夕食は店で済ましてくるのはいつも通り。

 遅い時間の食事は肥満の元なので営業時間中に交代で賄いを食す。

 

「お仕事、楽しかったみたいで、続けられそうだって」


 母が父達に話をしている。


「そりゃ、建設現場なら千香良の暴力が通用する相手もいないだろうからな……」


「私、暴力なんか振るっていないもん……」


 兄の軽口が千香良は咄嗟に反応してしまうが、途中で堪える。(こらえる)


 父も母も承知のことだと頷いている。

 しかし、兄は違う。

 白黒をはっきりさせたいタイプだ。


「だろうな。何で、ちゃんと先生に言わなかった」


 千香良は詰問される。


「言いたくない!言っちゃ駄目なことだもん」


 千香良が後になって気が付いたことだ。

 

 個人の性的嗜好に纏わる話は無闇にするものではない。

 結果、自分は退学になってしまったけれど、下級生の性的嗜好を暴露してしまわずに良かったと思っている。

 

 千香良は実は柔らかくも強い。


「お兄ちゃん、済んだことだ……千香良が退学になっても言いたくなかったんだから聞くな」


 相葉家での父の言葉は重い。


「だけど……千香良が世の中を嘗めているのは本当だ。頭だって悪くないはずなのに勉強しない。勉強は出来る、出来ないじゃなくて、するか、しないかだ。家の手伝いだってそうだ。大体、左官屋みたいに覚えることが多い仕事、母さんもどうして千香良の薦めた……理由が分からない」


「そのぐらいにしとけ」


 父が窘めるが、兄は最期に一言。


「どうせ、続かない」


 千香良も言われっぱなしでは面白くない。

 売り言葉の買い言葉とはよく言った物だと思う。


「左官は続けられる。天職だもん」


【トラック野郎は天職】


 亜紀のラインのステータスプロフィール。


 さっき、見ていた……


 

読んで下さってありがとうございます。

次回から、起承転結「起」~「承」に移ります。

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