柔らかくて強い 3
PM3時を廻ると日が陰りだし急に寒さを感じだす。
「事務所で休憩するか……」
龍太の提案に千香良は頷き小走りで後に続く。
ヘルメットを外すと乱れた髪が顔に掛かり鬱陶しい。
千香良は頭の片隅で美容院の予約を考える。
中途半端に伸びた髪は鬱陶しい。
そして、現場事務所に入ると休憩中の人が3人。
皆、作業着姿だが千香良には何をする人達か分からなかった。
龍太が軽く会釈をすると相手も返す。
その程度の間柄みたいだ。
「俺は珈琲の無糖ブラック、千香良は好きなものを買え」
龍太は千香良に小銭を渡すと昼休憩と同じ席に着いた。
千香良は小銭を握りしめ自動販売機に向かう。
さっき泣いた烏が……とは、よく言ったもので千香良はケロリと機嫌が良い。
生まれ持った性質か?
育った環境か?
千香良は我慢を溜め込む癖がある。
そして何かの弾みで泣き出してしまう。
思春期の女子には多い症状と言えばそれまでだ。
けれども、龍太はそんな事は知らない。
どうも調子を狂わされる。
龍太は17歳の自分を思い出す。
十代の頃に付き合った女性は3人。
薄情な事に顔も名前も覚えていない。
初体験は16歳。
相手は友達の姉。
確か、当時は24歳だったはずだが……
結婚して、子供を産んで、離婚して、又結婚して……
亜紀は年を取らないのか変わっていない。
左手に抹茶オーレ、右手にブラック珈琲。
千香良は自動販売機で買ってきた飲み物をテーブルに置くと龍太の隣に座った。
「亜紀さんってどんな人です?」
不意に千香良が亜紀の名を出した。
それでも龍太は動じることもない。
余りにも古い記憶だ。
「見たままの人。良い人過ぎて寧ろ胡散臭」
「龍太さんと同級生?」
「いや、30歳は超えているだろ……若いな」
「ふ~ん」
千香良は亜紀の携番とラインを聞きたい。
けれども黙っている。
プライベートなツール交換は人それぞれで意味が違う。
大人の社会には社交辞令が横行していると聞く。
初対面の千香良が本当に聞いて良いのか悩むところだ。
大人の社会には社交辞令が横行していると聞く。
俯くと睫が陰を落とし千香良は大人に見せた。
龍太は熟々見とれてしまう。
しかし、それは綺麗なだけで惹かれはしない。
「あっ、そうだった……」
龍太は思いだしたようにスマホを取りだす。
「亜紀さんの携番とライン……それと俺のと……上さん、館さん、鷹さん……親方は知っているな」
「はい」
千香良は慌てスマホを取り出し、ラインを開く。
すると返信が誰からも来ていないことが分かる。
今朝、今日から左官屋の見習いに行くことをラインした。
【ゾロ似の男と一緒】
それと喜ぶパンダのスタンプ。
仕事中のラインは御法度。
確認はしていない。
(既読スルー?)
不安に思うことは現実になるという。
千香良は物憂げに視線を落とした。
「どうした?」
龍太は、またしても暗い顔の千香良に狼狽える。
「……友達に、はば、にされている……」
千香良にとっての優先順位は縁の切れかかった友人が一番。
口にした不安が、それを物語る。
けれども、龍太にしてみれば、仕事中に呆れた話だ。
今の調子では、千香良は一人前になれないだろう。




