柔らかくて強い 2
亜紀と呼ばれた女性は龍太から1つ空けて椅子を引く。
そして思いついたように首に巻いていたタオルを外した。
亜紀はワンレングスの長い髪がエレガントで一見美人と見紛うが程遠い。
涙で霞む目で見ても亜紀の顔は最強の部類と見て取れる。
千香良の思うところの最強は可愛いブス。
少し離れた目は円らだが、鼻が随分と低く口元も印象が薄い。
そして随分、雀斑が目立つ。
けれども、愛嬌が有る。
「新品だから使って」
千香良は躊躇わず差し出されたタオルを受け取り、顔を拭く。
石鹸の香りは柔軟剤だろう触感が柔らかで心地よい。
「ありがとうございます……あの……これどうしたら……」
千香良は使い終わったタオルの扱いに困る。
洗って返すという発想がない。
亜紀は薄く笑って受け取るとズボンのベルト通しに絡げている。
千香良は、その様子にもう一度頭を下げて礼を示すと食事に戻った。
龍太は弁当を食い終わったようで弁当風呂敷で包み中。
「龍太君、この娘に何をした?」
亜紀は左手で顎杖を付き龍太に顔を向け睨む。
「いや、俺は何もしていないと思うけど……さっき、土間屋が男と間違えて、下ネタを振ったのが嫌だったのか?」
龍太は亜紀に説明しつつも、千香良に向かって質問系。
リンゴを咀嚼中の千香良は首を横に振り否定する。
その程度のことでは泣かない。
「じゃあ、何……」
「コラ……」
問い質そうとする龍太の頭を亜紀が再び叩く。
「そんな事でこの娘が泣くか。あんたが何か言うか、するか、したんだよ」
そして、また龍太は叩かれる。
「だから……」
そして、また……
「女子の涙を彼氏でもない男が詮索しない。ねぇ」
亜紀は千香良に同意を求めて口元を綻ばす。
「悪い……」
龍太は素直だ。
言われてみればその通り。
初対面に近い千香良に涙の理由など聞くべきではない。
「私は亜紀。長良グループでダンプ乗っているの。貴方の名前も教えてくれる……」
「ダンプ?」
千香良は亜紀に職種に驚きを隠せない。
「此奴は千香良って言うんだ。で、17歳」
代わりに答えた龍太に亜紀が睥睨。
「此奴、言うな」
「悪い……」
龍太は千香良に手を合せて詫びて見せる。
「ウフフ」
亜紀に怒られては謝る龍太が可笑しくて楽しい。
そして大人同士の会話を羨やんだ。
「千香ちゃんか……女の子が入るって聞いていたけど随分、綺麗な娘だわ……」
背もたれに体を預けた亜紀は腕組をして千香良を見極めだした。
「だろ」
龍太も賛同の一言を口にする。
千香良は意外な言葉に上気した頬を両の掌で押し挟んだ。
潰れて頬に唇が尖る。
「良い娘ね。現場の男の中には下品なのも居るけど、最近は少ないから大丈夫よ……私じゃ頼りにならないかも知れないけど何かあったら言って。嫌じゃなければ龍太に私の携番とライン教えてもらっといて」
千香良は席を立つ亜紀に起立して頭を下げた。
シャツタイプの上着とスタンダードなズボン。
背筋を伸ばして歩く後ろ姿は颯爽としている。
千香良は亜紀をもっと知りたいと思った。




