健気で圧巻 3
龍太の‘龍’に乙葵の‘乙’
鳥肌の原因は第六感。
けれども引き金となった刺激は字面だろう。
千香良は徐ろエンジンを掛ける。
そして、運転に集中することだけを考えて家路に車を走らせた。
「千香ちゃん、見て……」
すると、家に戻ったん、母が千香良にすり寄ってきた。
片手にスマホを持っている。
そして、乙葵から送られてきた龍乙の写真を開く。
「うん、私も真君からラインをもらった」
「可愛いわね……乙葵さんにそっくり。でも、髪はお父さんかしら?どう見ても天然パーマよね……お父さんは外国人かもしれないわね……でも、黒髪だから日本人?違う!きっと韓流よ」
母は普段自重している反動で箍が外れると詮索に歯止めが効かないようだ。
それに反して、千香良はどうしても話に乗れない。
とても重大な真実を孕んでいる可能性がある。
けれども母はお構いなしで龍乙の写真に夢中だ。
「今日のお昼は龍太さんに焼き肉を御馳走してもらった」
「やだ、羨ましい。千香ちゃんだけ狡いな~美味しかった?何て名前の焼き肉屋?」
やっと母がスマホから目を離す。
焼き肉に食いつく、とは思わなかった。
千香良は話題が移って安堵する。
「『3代目福雲』」
千香良は話題が移って安堵する。
「『福雲』さん、だったら、お父さんの現役時代は常連だったけど……支店かなにか?」
「息子さんの店だって……汗を掻いたからシャワー浴びるね」
「お昼が焼き肉だったらお夕飯はお素麺でいい?」
浴室へと向かう千香良の背中に母が聞いてきた。
「うん。お素麺にして」
千香良は出来るだけ陽気な声を出す。
けれども、その表情は神妙だった。
全くの他人事なら無問題。
千香良も運命の悪戯に心が浮き立っただろうに……
入浴中も夕食時も頭の片隅から龍乙がどいてくれい。
けれども敢えて考えない。
もし仮に千香良の第六感が正しくても真実を追究するには千香良は若い。
荷が重すぎる。
【今日は左官組合のイベントでした】
(これで良……)
千香良は子供達と一緒に取って写真を添付。
三上にラインを送信。
【聞いてないけど】
【そうだっけ?言ったと思っていた】
三上に予定を逐一報告しない。
約束した日に会えれば十分なのだ。
けれども三上は過干渉気味。
少し辟易しているが、同時に慣れも生じている。
適当にスルーして、話題を代えるのが1番。
円満に交際する知恵としておく。
【それよりも龍乙くん可愛い過ぎ】
咄嗟に出たのが龍乙の名前。
避けたい気持ちの裏返しが口にさせる。
【そうだろう。こっち、ダンスを習っています】
そして動画。
ヒップホップらしきダンスを踊っている。
【姉さんもダンスチームに入っていたんだって】
千香良は次に添付された写真で確信を持った。
プリクラを写真に撮った物だろう。
3人のギャルの横にそれぞれの愛称が落書きされている。
今よりも随分とあどけないが真ん中が乙葵。
アルファベットで『KOKKO』と書かれていた……
千香良は震える手で文字を打ち込んだ。
【明日から仕事だった】
【悪い、おやすみ】
千香良からの最期に星空にペンギンがおやすみのスタンプ。
今夜は眠れそうもない。
明日、龍太にどんな顔をして会う?
そして千香良は明日の現場を思い出す。
【明日の現場は高城さんに頼まれたのもセレモニーホール。AM8時から。至急、相談にのって下ださい】
千香良に救世主は……
やはり高城だった。
読んでくたさってありがとうございます。




