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ガテン系の女 愛より、恋より、修業中  作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
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賢明で愚か 5




 龍太は呼び出しブザーを押した後もメニューから目を離さない。

 千香良は個室で無言の龍太と向かい合い、少し緊張している。

 すると、対応は思いの外早く、女将がやって来た。


「もう、機嫌は直ったかしら……」


 千香良は女将の言葉に反応できない。

 素直に頷くのも違う気がする。

 些細な事だが非があったのは女将の方だ。

 お伺いを立てるにも、言いぐさが子供扱いで忌々しい。


「余計なことを言うな」


 女将は龍太の言葉に肩を竦める。

 一見すると大らかだが、違う。

 分かって千香良を煽っているのだ。


 千香良は、男と間違えたのもわざとではないかと疑ってしまう。

 そして大袈裟に謝ったのも、千香良を悪者に見せるため。

 要するに、意地が悪い。


「それよりも注文いいか……塩タン1人前と ‘福雲セット’ を2つ、で、飯は大盛り。千香良も食えるだろ?」


 千香良は頷く。

龍太の前で小食を装っても無意味。

 夏でも食欲が落ちないのは千香良の強みだ。

 現場でも感心されている。


「それとノンアルコールビールと……千香良は何を飲む?ウーロン茶か?それともジンジャエール……」


「龍ちゃんは相変わらず優しい……」


 女将が茶々を入れてくる。


「私はウーロン茶にする」


 千香良は無視をしてやる。

 龍太も相手にしていない。


 すると女将はまたもや肩を竦める。

 癖のようだ。

 多分、至る所で余計なことを言っているのだろう。

 反省の色がない。


 そして注文を繰り返すと出て行った。


「悪いな……彼女は末の娘さんで看板娘って奴でさ、知り合いでもないんだけど……なんて言うのかな……俺には女は分からん……」


 龍太は以前にも「女は分からん」と言っていた。

 千香良も頷いて同意する。


「今日来ていた幼稚園の先生も……手伝うつもりでエプロンしてきたんだろうけど、イベントの趣旨も段取りも、一切、聞かずに隣にいるだけなんだ。何をしにきたのか理解出来ん」


「それは、龍兄に会いに来たんだよ……合コンで会った人でしょう」


 千香良は龍太の野暮天ぶりに呆れてしまい、言わなくても良いことを言ってしまった。


「参ったな……」


 龍太は一瞬、目を見張ると千香良から顔を背けた。

 合コン参加を千香良が知っているとは……

 頭を掻いて決まりが悪そうだ。


「はっきり言って面倒くさい……」


 千香良は龍太に失望しそうだ。

 溢した本音が頂けない。


「お待たせしました」


 そこに勢いの良い声聞こえた。

 ドアをスライドさせて入ってきたのは男性従業員。

 タイミングが良い。


「おっ、来た、来た……」


 先ずは飲み物と塩タン。

 

 従業員はテーブルにそれらを置くとコンロに火を付ける。

 そして、踵を返すと、直ぐさま ‘福雲セット’ 2人前を運んできた。

 お盆には肉の皿の他にカクテキ、ミニサラダ、ライス、みそ汁、それにデザートのスイカがついている。


「手前からカルビ、ロース、イチボロースです」


 従業員は皿に乗った肉の説明をしてくれた。


「お疲れさま」


「はい、龍兄も……」


 ノンアルコールとウーロン茶で乾杯すると、龍太が塩タンをコンロに乗せた。

 勿論、グビッとノンアルコールで喉を潤してから……

 

 塩タンの焼ける甘い匂いが鼻を擽る。

 すると、龍太が塩タンをトングで挟んだ。


「食えるぞ、塩タンはレモンダレな」


 ふわりと、千香良の取り皿に塩タンが置かれる。

 千香良は伺うように龍太を見ながら塩タンを口に運ぶ。

 

 シャクっとした噛み心地に爽やかなレモンの香りに肉の臭さが打ち消され、塩みと旨味が口に広がる。


「美味しい」


 千香良は薄いタンを初めて食べた。


 そして次々に肉を焼いては食べていく。

 油の甘味とタレが相俟って何とも飯が進む。

 千香良は間にカクテキを摘まんで口をサッパリさせては、肉と箸が止まらない。

 加えて味噌汁も出汁が利いていて千香良の舌に合う。

「美味いか?」


「うん、美味しい」


 交す言葉は以上。

 話などする間もない。

 2人とも、あっという間に大盛り飯を平らげてしまった。

 色気もなにもない。

 ただ、黙々と食べている。

 それども千香良は三上とのデートよりも幸せを感じていた。


「腹は一杯になったか」


「うん、満足過ぎる」


 そして頃合いを見計らってか女将がお茶を持ってきた。


「美味かった」


「でしょう……良い肉にしておいたから」


 女将は軽口を忘れない。


 千香良は女将の少し観察してみる。

 容姿は普通。

 化粧で返って個性が見られない。

 髪は結んでいるが多分セミロングだろう。

 女子校のクラスメートにも似たタイプがいた。

 

 快活でムードメーカーなのだが、自己中心的。

 自分の意に添わないと虐める。

 

 龍太にとっては知り合いに内にも入らないらしいが女将は違う認識だ。

 無駄話を止めない。

 千香良は女将を少し気の毒に思う。

 幼稚園の先生も然り……

 

 今まで、見えなかったが、龍太の正体はダメンズだ。

 

 すると龍太の携帯から着信音が響く。


「悪い……」


 席を立つ龍太。

 そして女将は下善に取り掛かる。


 千香良は女将と取り残されて警戒してしまう。

 

「龍ちゃんは、あの小娘が忘れられない……てっ……噂だけど……小娘って誰か知っている?」


 千香良は冷ややかに尋ねられる。

 多分、コッコだ。


「私は、龍兄と仕事をしているだけだから……プライベートは知らないんです……」


「あっ、そう」


「行くか……」


 そこに龍太が戻ってきた。

 早いお戻りだ。


 もしかしたら、千香良と女将の会話は聞いていたかも……


 千香良はそれでも何食わぬ顔をする。

 

 それと同時に賢明で愚かな行為だとも思った。


(龍兄ってコッコさんが今でも好きなの……?)


 軽い調子で聞いてしまえば……

 時々、擡げる(もたげる)不可解な気持ちも消えるだろうに……



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