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大罪支配世界 ロストエデン

Inevitable and miracle

作者: 徘徊猫

 久しぶりにジャンル選択を見たんだけど……異世界でヒストリカルって、何さ? 今までなかったような、ううむ…後でどんなジャンルか知らねば。

 「キュイィィィィッ」

 「キュイ、キュイッ」

 翼を持った二羽? の鳥の豪脚が土を踏み締めて、木々が生い茂る森をかけてゆく。

 「わあああっ、早いよ。早い。このまま突っ切れ!」

 「お姉ちゃんっ、うわぁぁぁぁぁっ?!」

 後ろで腕を引くフリューゲルに目もくれず、アリアは騎乗している鳥——クレスティアに指示を出す。それに応えて、彼女らの乗るクレスティアは前方に加速している。……隣町で買い物するだけだというのに、なぜこんなにはしゃげるのか。


 「ねえ、父さん。あれはいいの?」

 その様子を呆れた目で見た後、前で座る父に振り返る。父は苦笑しながら、クレスティアの手綱を握る。

 「アリアは動物に良く好かれるからな、流石に振り落とされないと思うが……目を離さないでおくか」

 「えっ——ひゃぁぁぁぁぁっ?!?!」

 あまりの加速した勢いに目を閉じながら、父の腰に腕を回して、背に向けて体勢を傾けた。


 *


 「あははっ、楽しかったね!」

 「それはあんただけっ、うぷっ、うぇぇ……」

 込み上げてくる吐き気に堪えられず、アリアから顔を背けて木陰に向いた。


 「……はぁ、はぁ……そっちは大丈夫?」

 「お、お姉ちゃんこそ……うっ」

 同じように顔色の悪いフリューゲルの背をさすり、えずきを落ち着かせていく。日が昇る頃に家から出発して、今は日が頭上に差し掛かっている。


 「まだそんなに経ってないのに、そんな調子で大丈夫?」

 「うっさいわね……ふうっ、少しはすっきりしたわ」

 口に残ったものを持ってきた水筒で洗い流し、アリアを睨む。ただアリアの方はそんな事を意にも介さない様子で、こんな事を思うのも馬鹿らしく感じてきた。


 少し離れたところで、父はクレスティアたちを休めている。また暫くしたら、ジェットコースターみたいな重力を感じることになるだろう。

 「そうだ、フィーちゃん。この小道の向こうに花畑があったよ。一緒に見に行かない?」

 「そう、どんな花があるのかしら」

 寄りかかっていた木を離れて、よろよろと少しずつ歩き出す。

 「それは……見てからのお楽しみ! でも、綺麗だよ。幾つか花を摘んでおこうかな」

 その様子を見て、アリアは私の腕を背に回して、自然と私が寄りかかる形になった。

 「……花を摘む、厠に行きたいってこと?」

 「どうしてそうなるの?!?!」

 顔を赤くするアリアの様子を見て、少し恥ずかしくなり目を逸らした。




 「へえ、少し道から逸れるとこんな場所があるのね」

 鬱蒼とした森にぽっかりと穴の空いた場所に、こぢんまりと花畑が生まれていた。どうしてこんな場所が生まれたのかと周囲を見回すと、幾つか倒れた木が苔に覆われていた。

 「ねえ、フィーちゃん。やっぱり花を幾つか摘ませて貰おうよ。こんなに綺麗なら、きっとみんなの心を動かせると思うから」

 「そうね。花を枯れさせないように、丁寧に積んでおいて。入れものは……取り敢えず水筒に挿せばいいわね」

 首から下げていた水筒を取り出し、少しある水を惜しく思う。……この後使えなくなって、大丈夫かと。


 「ありがたくいただくね」

 アリアは地面に膝をつけて、何本かの花を摘み取る。

 「……時間を取り過ぎると、父さんを心配させるわ。戻るわよ」

 「うん!」

 水筒に入れられた花々は瑞々しく、鮮やかな色を晒していた。






 *






  度々休憩を挟んで、隣町に着いたのは日が傾き始めたあたりだった。しかし、町の様子には活気があり、夜が近づいているとは思えない。それなりに大きな町なので、そんな事もあるだろうか。

 「……随分と賑やかね。この町の人たちも年末のお祝いをするの?」

 「ああ、おそらく年末か年明けはどこも賑やかなはずだ。新たな一年を迎えるってのは特別なことだからな」

 父の話を聞いて、そう言うものかと納得する。前世はそこまで行事を意識しなかった弊害かもしれない。


 すっ、と隣にいるアリアに目を移すと、案の定目を輝かせて今にも目の前の屋台に飛びつきそうだった。

 「フィーちゃ——」

 「言わずとも分かるわよ……小遣いを渡すから、少し待ちなさい」

 「やったぁっ!」

 預けられていたお金を別の袋に移して、アリアに渡した。アリアはそれを受け取ると、一直線に串を売っていそうな屋台に駆け込み数十本単位で注文していた。


 「父さんはフリューゲルと買い物に行って。私はアリアとここら辺にいるから」

 父は私の首元にあるポーチを一瞥した後、私の目を見て話し始めた。

 「ここら辺は治安がいいから、下手な心配はしなくていい。だが、どんな時でも用心は必要だ。お前とあいつがいれば問題はないとしても……お前らから離れるのは……」

 少しずつ顔を険しくする父に、私は少しだけ背中を押した。

 「そんな心配なら、さっさと用事を終わらせくればいいでしょ。外なんて、中々来れないし……アリアのわがままもあるけど、軽く見て回るのも悪くないと思うの」

 屋台を巡りたいと、村に向かう途中で口にしたのはアリアだ。決して、私は言ってないし……思ってもいない。それに付き合う過程で、少し見れる時間を取れるのなら良いなと。


 「……そうだな。お前たちにもそういう時間も欲しいよな、遠くには行くなよ。……フリューゲル、確か錬金術に必要な材料が必要だったな。フィーネたちを待たせないよう、手早く済ませるぞ」

 少し考える素振りをした後、父はフリューゲルを呼んで、共に人垣の奥に去っていった。


 *



 口にたらふく蓄えたアリアの顔を見て、ハムスターかと言いたくなる。

 「あふぇ? ふひゅーへるふぁ?」

 「食い終わってからにしなさいよ……父さんたちはもう行ったわ。取り敢えず、あっちで座りましょ」

 道の端に腰を下ろして、町の様子を詳しく見てみると、何処もかしこも浮かれた様子で家族連れが目立っている印象だ。両親に手を引かれて、無邪気に笑う子供が眩しく見える。

 「……少し羨ましいよね、他の人が幸福に見えると自然とそう思うよ」

 串を私との間に置いて、手をとめたアリアがそんな事を呟く。

 「あんたも、それを口に出す事があるのね、意外だわ」

 「もうっ、フィーちゃんは私を何だと思ってるの? 私だって、人を羨んだりすることはあるよ。でも、羨ましいだけ、私は今でも満足してるから」

 次の串を手に取って、アリアは少し考えた様子の後、私の口に串を近づけた。


 「それも、フィーちゃんのお陰! なんちゃって」

 「もぐっ、……何よそれ。それにしても、この串美味いわね」

 「だよねー!」

 口に広がるタレの旨みを楽しみながら、時間が経つのを待っていた。……楽しい時間はあっという間に過ぎるが、串だけではその時間を満たせるはずもない訳で。


 「……んっ、あの人絵を描いてるよ。フィーちゃん、一緒に見に行かない?」

 串を大事そうに食べて、落ち着きなくしていたアリアの目に丁度止まったものがあったらしい。

 「確かに、手を動かしてるわね。それで、どうして絵を描いてると思ったのよ」

 「手の動きがそれだったから、見れば分かるよ? フィーちゃんの個性的な手の動き以外はね。何で、あんな絵を……ま、いいや」

 どうしてみんな私の絵を貶すのだろうか。個人的には可愛いと思って描いてるのに。


 「すみませーん、何を描いてるんですか?」

 そんな事を考えていると、その隙にアリアがその人に声をかけていた。正直、その人には話しかけてほしくなかった。明らかに異様な見た目をしていたから。フード付きのローブを着て、腕に包帯を巻き付けている女性。背はそれ程高くないけれど、その異質な髪が幼さを感じさせない。まるで真っ黒な布にカラフルな色を散りばめたような……とにかく近寄りがたい人だ。


 「……おやおや、君は随分と好奇心旺盛なんだね。私にとっては嬉しいが、気軽に知らない人に話しかけてはいけないよ。悪意を持った人ならどうするつもりだったんだ」

 その女性が顔を上げると、目も包帯で覆っていた。その女性にアリアは物怖じせず答える。

 「さあ? どうするんだろうね。でも、誰だって知らない人に話しかける時はあるから、その時にあなたは相手に悪意があると考えて話しかけるの? それは疲れると思うなあ」

 「ふふふっ、それもそうだ。それは相手を知ってからでも同じだと思うがね」

 少し警戒しながら、私もその人に近づいた。首に下げたポーチを握って。


 「私は……ライラ。様々な街を巡り、物を売るキャラバンの一員さ。といっても、私に商売は分からないけどね。何か欲しいものはある? 何か値切ってあげようか」

 「ううん、大丈夫。私はアリア、こっちはフィーちゃん!」

 「どうも……フィーネです。よろしくお願いします」

 この輪の中に混ざるのは気が進まないが、こうなってはしょうがないだろう。


 「そうか、二人ともよろしく。固くならず、私には気軽に接して欲しい。何か君たちと話題を交えたいが……でも、私は面白い話を持ってないからな。そうだ、逆に君たちの話を聞かせてよ。きっとその方が良い」

 意外と気さくな人なのか、感情を手振り身振りで伝えてくる。

 「いいよ! でも、何から話そう。じゃあ、まずは——」

 アリアはいつもしているような大したことない話をし始めた。しかし、それでも良かったのか、

 「うんうん、それで?」

 と、ライラは相槌を打って、続きを催促する。


 「——で、カーメルの毛は私を眠りに誘うの! きっと、あの毛並みに抗える人はいないよ」

 ……大げさに語っているが、抗えなかった私に突っ込む資格はないかもしれない。

 「犬か、あの普段寄り添ってくれる温かさと、外的に見せる残忍な本能は確かに絵になる……おっと、話が逸れた。続きを話してくれるかい」

 しかし、この人は何処かがおかしい気がする。変人らしさもあるが、それも一面に過ぎないというか……少しの間しか接してないから、それは当たり前か。


 「話すのも良いけど、ライラお姉さんは何を描いてるの? 見せて欲しいな」

 「それは構わないが、きっとつまらないぞ?」

 彼女の傍に置かれていた画板をアリアに差し出した。

 「へー、随分と芸術的だね。あまり言葉にし難いけど、夜中を照らす暖かな灯りって気がする」

 「! よく分かるね、テーマとしてはそんなところだよ。そう、まさにこの町の雰囲気を絵に落とし込んだんだ」

 私も覗いてみると、ただ黄色と黒を中心から渦みたいに描いてるようにしか見えない。ぼやけた感じが明るいとは思うが。

 「……これ、そんなに凄いの?」

 そんな呟きを漏らしてしまうくらいには、凄さが分からなかった。


 「凄いか、凄くないかは関係ないよ。美術なんて、見た人の心を捉えたかが大事だから。でも、この作品に込めた想いを紐解いてくれる人は画家にとってもこの上ない喜びなのさ。描いてみれば、どれほど技が詰め込まれているか分かるが、技法も所詮は絵を描く為の筆でしかないからな……熟練の目利きだからといって作品の見方が異なれば評価されない事もある。作品を作者と同じ目線で見てくれるという事は、数少ない理解者を得ることと同じ意味を持つから、嬉しくないはずがないんだよ。ただ、それが大衆に理解されるとは限らないから……要するに、凄くはないと思う」

 「あっ……結局凄くないんですね」

 頭に浮かんだ疑問符は消えることなく、解き方の分からない問題の答えを渡された気分だ。


 「こんな目だからね、実物を書き写すことはできない。どうしても、抽象的なものを捉えたくなるのさ。だから、評価する点が絞られる。私は作品を評価してくれなくても構わないけどね。数少ない私の趣味だから」

 目が見えないのは、画家にとってはかなりの致命傷ではなかろうか。参考にする絵も、そもそもの実物すら形を捉えられないのだから。


 「ねえねえ、ライラお姉さん。これもらって良い?」

 「良いけど……本当にそれで良いのかい? キャラバンには、もっと良いものがあると思うんだけど。例えば……化粧品とか、香水とか? んっー、どうも最近の子たちが何を好むのか分からないな」

 私たちの歳でそれを渡されても暫く使い道がないだろう。家を出ることが少ないから。


 「……もしかして、最近の子は花が好きなのかな? フィーネちゃん方から良い匂いがするんだ」

 そう言われて、首に下げていた水筒の方を見た。

 「これは途中で摘んだ花ですけど……たぶん最近の子に私たちは当てはまらないと思いますよ。普段ここに生活してないので」

 「そうなのか、……なるほど。どうりで君たちからは俗世の香りがしない訳だ。ふむ、ドルイド……あの子は元気にしてるかな」

 暫く沈黙していたライラは、その後にすくりと立ち上がった。


 「そろそろ時間だ、楽しかったよ。きっといつか君たちに会う時があるだろう。その時は力になるから、私たちのキャラバンを贔屓してくれると嬉しいよ」

 「えっ、もうそんなに時間が経ったの?!」

 空を見上げると、既に夕陽が沈む時間だった。

 「なんだい、そんなに私との話が楽しかったのかな。私も君たちと話せて嬉しかったよ、時間を忘れてしまうくらいに。じゃあ、三人ともまたね」

 画材を身につけて、こちらに手を振りながら去る彼女を見送った。


 「不思議な人だったね、それにしてもお父さんたち遅いなー」

 「……あっ、いたわよ。どうりで遅いわけね、そんな大きな買い物をして」

 こちらに近づいてくる父さんの脇には大きな箱が抱えられていた。……さらに後ろには、何かが詰め込まれた袋もある。

 「待たせて悪かった、最新式の……何だったかを見ていたら時間が早く過ぎてな。何かあったのか?」

 「特に何も……少し人と話してただけよ」

 彼女の去った方向に振り向いても、もうあの異様な姿はない。

 「じゃあ、そろそろ帰るか」

 ふと気になって、フリューゲルを見ると何かを口にしていた。

 「……僕は要らないっていったのに」

 私たちよりも父の方が何かあった気がするのだが、あえて聞くのはやめておこう。


 *


 「あっ、やっと戻ってきたっすね。ほんと、気ままなんだから」

 「何だよ、自由時間は私の勝手だろ? 君にとやかく言われる筋合いわないね」

 私は同じキャラバンの同僚に向けて口をとがらせる。

 「……御身の特別性を分かっておれるのか?」

 馬車の奥の方にいた別の仲間から、そんな事を言われる。

 「それはどっちの話だい。別に私の権力で君をギルティしても良いんだよ?」

 「……したところで何になる、既にこの身は穢れているが」

 「君に逆のセンスがないって事が証明されるよ。全く、無骨な武人ってのは風情を知らないの?」

 少なくとも、彼はそんな理由でここにいるのだろう。暫くの沈黙が辺りを支配する。


 「……しないよっ、君ら本当に私をいじるのが好きだな! ちっ、まあいいや。私は可愛らしい子たちと会えたんだ。君たちと違って、反応が初々しくて面白かったよ。君たちと違ってね!」

 「ご乱心ですか? 牛の乳飲んだ方がいいすっよ。あれ、頭に効くらしいっすから」

 「もう君たちの話を聞いてやるものかっ! 早く馬車を出してくれ!」

 フィーネたちの目の前ではあった謎めいた部分が取り払われ、彼女は自身を虐める彼らにそっぽ向いて寝た。


 (……全く、いつからあんなに私を蔑ろにし始めたんだ。考えるだけ無駄か、そんな事より——)

 憤懣やる方ない気持ちを抑えて、彼女は今日刺激された事に思考を興じる。


 (あの二人は面白かったな、特にあの子。あんなにも……ああ、その様子を見届けたい。きっと、安泰な日常を送る事はないんだろうね。久しぶりにゾクゾクしたよ)

 それは果たして誰に言ったものか、口を弧に歪ませて、彼女は妖艶に笑う。

 砂漠の向こうから来たキャラバン、クィンハルト……そこに所属する異質な容姿を持つ少女。目は包帯で覆われて、その表情は僅かに動く口元でしか判別できない。

 彼女が望むのは自身の心を動かす物事と、世界にたった一人しかいない恩人との一時。自分の従者たちに連れられて、今日も彼女は旅をする。


 ……長くなって、尚且つ本編に送るには間が悪いので、ここに書いた話でした。この話は、シルシナキセカイ『Parental duty』の前日譚になります。こちらを見て、気に入ってくださった方は是非、本編も見てくれると嬉しいです。露骨な宣伝ですが、作者は欲張りなので、許してください。では、……ストックが溶けているから補充しないと。

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