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after 4

まるで太陽に愛されたかのような暖かさを感じながら、リリーは屋敷の居間パーラーへと足を踏み入れた。

この屋敷は比較的、新しく建てられたのだという。

建物は古ければ古いほど価値があって良いとされているが、リリーは新しい建物も好きだった。

住む人が変わっても、それぞれの思い出が積み重なって、それが歴史となっていく。

そこに、リリーは何か希望のような明るさを感じるのだった。


「とても日当たりが良いのね。気持ちがいいわ」


リリーはシルビアとアリソンに向かって微笑んだ。

ここは彼女達の実家である。

社交界シーズン前の貴族は、そのほとんどが自身の領地で過ごす。

リリーがこうして彼女達の屋敷にお邪魔しているのは、その為だった。

シルビア達の父親が治める領地は、リリーほどではないものの、都市部から若干離れた場所にあり、ちょっとそこまでといった具合に、お手軽に来ることができる距離ではなかった。

にも関わらず、リリーがこうして足を運んでいるのには理由があった。

ダレンとの婚約話を打ち明ける為だ。

エリザベスから出された条件もあるので、結婚はまだ本決まりではないのだが、彼女達にはリリーの口から直接伝えたかった。

とはいえ、リリーの表情は晴れない。

それは、彼女達、とりわけアリソンの気持ちを慮ってのことだった。

リリーは以前から何となく、彼女達姉妹が大なり小なりダレンに想いを寄せているのではないかと考えていた。

優しい彼女達ではあるものの、リリーがダレンと結婚すると知れば、少なからずショックを受けるのではないか。

そう思っての、今回の来訪だったのたが……。


「おめでとうございます!」


声を合わせて祝辞を述べるシルビアとアリソンに、リリーは気圧された。

二人とも瞳を輝かせて、満面の笑みを浮かべている。

明らかに、歓喜の表情だった。

思っていた反応と違うことに、リリーは一瞬、戸惑った。


「子爵は家柄も完璧で、誰が見ても素敵な方です。これ以上、お似合いのお二人はいませんわ。わたし、とても嬉しい気持ちで一杯です」

「ええ、全くですわ」


何度も満足そうに頷きあっている二人に、リリーは照れる気持ちもあったが、それ以上に心があたたかくなってきて、自然と微笑んだ。


「そんな風に言ってくれて、本当に嬉しいわ。どうもありがとう」


リリーの幸せを手放しで喜んでくれる友人達を持てたことに、リリーは心から感謝した。

リリー以上に幸せそうに笑っている二人を見ていると、ダレンのことはリリーの早とちりだったのかもしれないと、そう思った。

むしろ、変に考え過ぎてしまったことに、申し訳ない気持ちにさえなる。


「レディー・リリー」

「何かしら、アリソン」

「実は、わたし、子爵のことをずっとお慕いしていました」


リリーは思わず咽せた。

勘違いだったと判断した矢先の、アリソンからの突然のカミングアウトだったからだ。

シルビアは一瞬、アリソンに咎めるような視線を送ったが、アリソンの表情から何かを悟ったようで、黙って見守ることにしたようだった。

それを知ってか知らずか、アリソンは気負いしていない自然な感じのまま、話を続けた。


「子爵とは社交界デビューの時に出会いました。わたしの一目惚れで、彼はわたしの理想そのものでした。だから、最初はレディー・リリーのことを良く思っていなかったんです。あなたの悪い評判を鵜呑みにしていたこともあって、子爵を取られたくないという気持ちから敵愾心を抱いていました。嫉妬していたんだと思います。明らかに、子爵にとってあなただけが特別な人だとわかったから。でも、レディー・リリーと親しくなるにつれて、子爵を想う気持ちと同じくらい、あなたのことも大好きになりました。だから、今は素直にお二人の幸せを祝うことができます。本当におめでとうございます」


ニッコリ微笑むアリソンには、清々しささえ感じられた。

好きな人の幸せであれば、その相手が自分でなくとも喜ぶことができる。

その境地に至るまでには、きっとアリソンの中で沢山の葛藤があったのではないか。

そう思うと、リリーの胸は締め付けられた。


ーーアリソンはああ言ったけれど、きっとダレンへの想いはまだ全て消えた訳ではないんじゃないかしら。


人の心は、そう簡単には変わらない。

強い想いほど余計に募るものだ。

リリーだって、そうだった。

かつて、愛した人に裏切られたと知って尚、その愛情は消えなかったではないか。


ーーでも、アリソンはそれでもわたし達の結婚を喜んでくれる。わたしのことを好いてくれているからだわ。


アリソンの好意ははっきりと伝わった。

彼女の素直な性格ゆえだ。

シルビアだってそうだ。

純粋に慕ってくれているのが、彼女の表情から手に取るようにわかる。

この歳で、こんなに良い友人達と巡り会えたことに、リリーは心底感謝した。

リリーは右手でアリソンの手を、そして、もう片方の手でシルビアの手を握った。


「ありがとう。本当にありがとう」


声は若干、震えていた。

でも、この歳下の友人達は気にしないだろう。

リリーの瞳に涙が浮かんでいる、それ以上に彼女達の瞳もまた潤んでいるのだから。


ダレンと幸せになりたいと思った。

リリーよりも、リリーの結婚を純粋に喜んでくれるこの大切な友人達の為にも、ダレンとの結婚を認めてもらえるように努力しなければならない。

リリーはそう強く決意した。

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