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after 27


「ご懐妊です」


リリーは思わず口をポカンと開けてしまった。

必死に状況を整理すべく、リリーは現状について考えた。

ここは寝室で、リリーはベッドの上、傍らには医師がいる。

最近、月のものが遅れているとレイチェルに相談したら、すぐに呼んでくれた医師だった。

そして、その医師から告げられたのは、リリーの妊娠について。

リリーは自然と、お腹に手をやった。

まだ膨らんでさえいない薄い腹部を反射的に撫でて、リリーは顔を上げた。

医師とは反対側の椅子に座っているダレンへと視線をやる。

ダレンもまたリリーを見ていた。

その表情は柔らかく、笑みを浮かべている。

リリーは腹部に当てている手とは反対の手を、ダレンへと伸ばした。

彼はすぐに立ち上がり、逞しい腕で優しくリリーを抱きしめてくれた。


「妊娠してくれてありがとう。私達の子どもに会えるのが今からとても待ち遠しいよ。嬉しくて嬉しくて仕方がない。君は今どんな気持ちだい?」

「私もよ。私もとても嬉しい。私、自分は妊娠し辛い体質なんだと思っていたの。それがまさか私のお腹の中に赤ちゃんがいるなんて、今だに信じられないわ。これって夢じゃないわよね?」

「勿論、夢じゃないよ」

「念の為に、私の頬を思いっきりつねってくれる?」

「そんな酷いことできないよ。その代わり、私の頬をつねるといい」

「私だって、そんなことできないわ」


お互いに、どんな理由があれ傷付けることはできないと言い合ったところで、どちらともなく笑い声が漏れた。


「もう、私達ったら馬鹿みたい」


笑いながら、そう言ったところで、傍らの医師がゴホンと咳払いした。

リリー達は一瞬見合って、慌てて抱擁を解いた。


「す、すいません」


医師は「構いませんよ」と言って微笑んだ。


「大変おめでたいことですので、浮かれてしまうのは当然です」

「……重ね重ね、すいません」

「いえいえ。ですが、浮かれていられるのは今だけかもしれませんよ。こう言っては何ですが、奥方は年齢的にも出産のリスクが高い。気をつけなければいけないことは多いでしょう」

「それは具体的にどういった内容ですか?」


問うたのは、リリー達ではなく、使用人のレイチェルだった。

彼女は真剣な眼差しで、医師に詰め寄っている。


「私、出産に立ち会うのは初めてで、詳しく伺いたいのです。間違いがあってなりませんから。奥様は私にとって、とても大切な方なんです」


そのことばは、とても嬉しく心に響いた。

と、同時に、リリーにとっても出産に関する知識が豊富とは言えないことに気付いて、急に焦ってしまった。

以前、妊娠した時はすぐに流産してしまった。

それは他人の悪意によるものだったけれど、もしかすると元々流産しやすい体質である可能性だってあるのだ。

そう考えると、リリーは怖くて怖くて仕方がなかった。


ーーせっかく授かった生命なのに、流産なんて絶対に嫌だわ。


もう二度と、大切な子どもを失いたくない。

それはリリーにとって切実な願いだった。

以前、生死を彷徨った時に出会った、我が子リチャードのことを想い、リリーは胸が苦しくなった。

ダレンはそんなリリーに一早く気付いて、気遣うように肩を撫でてくれた。

それに勇気付けられ、リリーは姿勢を正した。

レイチェルは、次々と医師に質問を投げかけ、医師はそれに適切に答えていく。

その内容を一問一句逃さないよう、リリーも必死に耳を傾けた。

そして、それはダレンも同様だった。

いつしか、この寝室は先ほどの幸せな空間から一変して、真剣な学びの場へと化していったのだった。

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