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after 17

リリーは女王という高貴な人を前にし、自然と首を垂れたい衝動にかられた。

それは決してリリーが権威に屈したという訳ではない。

女王はまだ十代で年若く、元々小柄ということもあって威圧感はあまり感じられなかったが、持って生まれた女王の気品そのものに、リリーは感服してしまったのだ。


「顔をあげなさい」


声量がある訳でも、また反響するでもなかったけれど、女王の声はよく通った。

言われるがまま、リリーは視線をあげた。

声からの印象通り、女王の容貌にはまだ幼さが残っていたけれど、その切れ長の瞳が彼女の意志の強さを物語っていた。


「女官長から話は聞いています。あなたが宮廷女官として仕事に励んでくれることを期待していますよ」

「ありがとう存じます。陛下の御為、誠心誠意尽くす所存でございます」


女王は鷹揚に頷くと、探るような視線をリリーに寄越した。

が、それも一瞬のことで、女王は傍に控えていた女官に何言か囁いた。

それが退出の意だと悟ったのは、女王が厳かに立ち上がったからだ。

リリーは慌てて礼を取り、女王が女官を連れて立ち去るのを息を潜めて見守った。


「レディー・リリー」


ややあって呼ばれ、顔を上げると、そこには女官長であるクランドン伯爵夫人の柔和な笑みがあった。

夫人とは、寄付の件で一度顔を合わせたことがあったが、まさかこんな形で再会することになろうとはついぞ予想していなかった。

世間とは狭いものである。 


「あら、実はそうでもないのよ?あの頃、わたくしは女官の人事について頭を悩ませていたんですよ。そして、エリザベスに相談したら、あなたを推薦されてね。だから、わたくしはあの日、あなたに会う為に教会に出向いたんですよ」

「まぁ、そうだったのですね」

「ごめんなさいね。あなたを見定めるようなことをしてしまって。でも、あなたは女官に相応しい人物だとすぐにわかりましたよ。だから、エリザベスを通して打診させてもらったの。あなたには大変期待していますよ。陛下にはわたくし達よりも、あなたのような年頃の近い女性の存在が必要ですからね」


リリーとて決して年若いという訳ではなかったけれど、今、女王の傍にいる女官のほとんどは、リリーよりも歳上の、いわゆる経験豊富な女性達だった。

そのことを踏まえると、夫人の言いたいことも何となく察せられる。

彼女達の多くは、勤勉、禁欲、節制、貞淑を良しとする価値観を持っている。

女性の理想像である、いわゆる"家庭の天使"像を強く求められて育った世代だからだ。

そんな女官達に囲まれて過ごす日々は、年若い女王にとって見本になる反面、窮屈さを感じることも多いのかもしれない。

とはいえ、様々な年代の人が傍にいる環境は、女王の見識や視野を広げることに繋がり、それがマイナスに働くことは決してないだろう。

だからこそ、リリーは「精一杯、努めます」と力強く頷いた。

それを、夫人は満足そうに見つめ、微笑んだ。

何か一つ問題事が片付いた、そんな表情にも見てとれたが、その時のリリーには夫人の思惑を察するには及ばなかった。

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