after 16
ピーターとモリーの挙式は控えめながら、皆に祝福される、とても良い式であった。
ピーターは自信に溢れ、モリーは絵画のように美しかった。
そんな二人の晴れ姿を眺めていると、リリーはもうそれだけで涙が出てしまい、何度も何度も目元を拭ってしまった。
二人には「そんなに泣いたら涙が枯れてしまうよ」と笑われてしまったけれど、嬉し涙なんだから、どんなに流しても構わないわと、リリーは思った。
それほどリリーにとって、二人の挙式は幸せ以外の何物でもなかった。
「次は、あなたの番ね」
モリーに、こっそり耳打ちされ、リリーは破顔した。
こんなに幸せでいいのだろうかと思うくらい、今のリリーの人生は順風満帆だった。
これも全て、リリーを信じ支えてくれた皆のおかげなんだと考えると、自分はなんて恵まれているのだろうかと、リリーは心の底から思った。
ーーああ、お父様たちにもピーターの晴れ姿を見てもらいたかったわ。
今ここに両親やサイラスがいてくれれば、更に良かったのにと思ったのは、ピーター達には内緒だ。
二人にとって、こんなに幸せな日に、わざわざしんみりさせるようなことを言いたくはなかった。
今は亡き人達の分まで、リリーが代わりに祝う。
それを彼らはきっと望むだろう。
「そういえば、リリー」
「なあに?」
「ピーターから聞いたのだけれど、宮廷女官になるって本当?」
「ええ。わたしにできることは少ないかもしれないけれど、大変名誉なことだから頑張ってみようと思って」
「大丈夫。あなたなら、きっと立派に陛下を支えられるわ」
「支える……そうね。今、陛下はラント公妃と離れてお暮らしになっていると伺ったわ。さぞ心寂しく思っていらっしゃることでしょうね」
女王が即位して間も無く、女王の実母であるラント公妃は、女王が住まう宮殿から遠く離れた地に居を移したときく。
重積を担う年若い女王からすれば、心の支えを失ったも同義であり、きっと不安に思っていることだろう。
リリーはそう純粋に考えたが、モリーは違ったようで、少しだけ思案するそぶりを見せてから言った。
「わたしは……陛下はあえて自分から別離を選んだのだと思うけれど」
「そうなの?」
「ラント公妃は、大層躾に厳しい方だと伺ったわ。幼い陛下を、わざわざ他国の教会に預けるくらいだもの。いくら宮殿から遠ざけて、貞潔や道徳を重んじる女性に育てあげる為とはいえ、幼子を遠方に追いやるのは、私からすれば酷なことだわ。勿論、私の境遇と比べるのは、非礼に当たるとは思うけれど、公妃のような方は、守る為なら子どもを抑圧しても構わない、そう考えていらっしゃると思うの。私の両親もそうだったから、よくわかるわ。私は気概がなくて、両親の言いなりだったけれど、気高い陛下はそれを良しとしなかった。だからこそ、公妃を宮殿から遠ざけたのではないかしら」
それが事実かどうか、リリーにはよくわからなかった。
とはいえ、たとえ自ら女王が自立を選んだのだとしても、家族と離れるのは、やはり寂しいものではなかろうかとも思う。
あらゆる側面から女王を支えることが求められる女官という立場であればなおのことだろう。
あまり立ち入ったことに首を突っ込むべきではないけれど、できるだけ女王の心に寄り添いたいと、リリーは思った。
それは女官としてというより、リリーの生来の気質ゆえ、そうしたいと思ったのだ。
ーー陛下がどのようなお考えなのか、私にはわからない。下手をすると、不遜なことだと思われてしまうかもしれない。だけど、私は……。
女王のことを知りたい、そして支えたいと、リリーは強く思うのだった。
リリーのその純粋な思いが、今後若き女王にどのような影響を与えていくことになるのか、今のリリーには知る由もなかった。




