父が遺した日記に勃起が収まらない
『1996年。⚪⚪日。春明のデビュー映画を見る。高校生同士の恋愛は美しい。春明の表情が固い。緊張が見られる。あいつは俺に似て本番に弱い』
『1999年。⚪⚪日。春明。二作目おめでとう。何事も勝負は二回目からだ。悪党の役だった。悪口の演技が下手。善人に育ったからかな。そう考えると嬉しい』
『2000年。⚪⚪日。いいぞ春明。この年齢でこの渋さは中々出ないのではないか?男前に磨きがかかっている。ギラギラしているな。若者はこうでなくては。手前味噌ではない。元気が一番』
「……」
親父が死んだ。
親父には俺の『全て』を否定され大喧嘩して親子の縁も切られた。俺は18から親父に会ってないし連絡もしていない。
だから俺の存在なんて無いことになってると思ってた。
冬彦の奴が言いやがったのか?あいつは弟のくせに俺に全く似てなくて真面目で寡黙だったからノーマークだったよ。余計な事を。
親父の部屋からは俺の出演したビデオやDVD。そしてその感想を綴った日記帳があった。
2020年までの作品全部見てたらしい。どんなチョイ役でもほとんど声だけの出演の作品でも調べてネットで購入して見てたそうだ。
『2015年。春明。身体だけ映る。声は確かに春明だがなんだか腹が出てきたな。元気もない。情けない。俺がこいつと同い年の時はもっと元気だった。腹を出すなら腹から声を出せ』
親父。って事はあんたも意外と遊び人だったんだな。母さんが死んでからずっと一人だと思ってたが……。
『2020,春明。久しぶりにメーンキャスト。相変わらず悪役が下手。当て逃げされそうになったらもっと怒るだろう。動きにもキレがない。ふにゃふにゃと情けない。頑張れ春明。いつかまた会えるならイワシのお煎餅を食わせてやりたい。頑張れ春明。頑張れ頑張れ。俺は生きてるぞ』
あんた死んじまったけどな。イワシのお煎餅ね。冬彦に聞いておくよ。
キレがなくてふにゃふにゃで悪かったな。
「頑張れ頑張れ……か」
よしっ!年齢のせいにしてられるか。やる気が出てきたぞ。
イワシのお煎餅を買ってやる!バリバリ食ってバリバリやるぞ!
新しいゲイビデオの出演が決まった。メーンキャストだ。
「ハルちゃん先輩インポって聞いてたけど大丈夫なんすかぁ?」
「あっ?テメー誰に口聞いてんだ?」
「……あっ。すんません」
相手役は『あれ?この人こんな怖かったっけ?』とぶつぶつ言っている。
二十歳そこそこのガキなんかにゃ負けるかよ。
お前をヒーヒー言わせてやるからな。
俺はイワシのお煎餅バリバリと噛りながらスタジオに入った。




