第二話 幸せな夢と日常
週一投稿を目指していく予定です!
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「ー...ーー...!!」
「ーー.........ー!」
遠くで何かが叫んでいる。
意識はここにあると薄らとした自意識の中で、
今自分が何を果たそうとしているか、それを確認し、
それでその意識のなかで、これを果たさなければならないという使命感に導かれるがまま、
右手に持っているこう、神々しくも金色に見えるようで、七色に光って見える仗剣を、荒廃と焼け焦がれて廃退が進んだ世界に振りかざす。
そうすれば、仗剣から出た極光の光が、
赤色に染まり灰が降っている空に突き刺さり、
光の割れ目から、徐々に透き通る綺麗な青色の空が広がっていき、命の誕生を知らせる風が優しく吹く。
ひび割れ、毒に汚染された生物が生きることを拒否するかのような土壌は、
振り下ろした仗剣の先から滴る、七色に光る滴が浄化していき、
垂れたその地点から
陽の光を浴び新しい朝を歓喜するかのように延び始めた草に覆われ、瞬く間に世界を癒していった。
「......ーーー」
生きる希望を無くした人垣からそれを見ていた、腕に赤ん坊を抱く二十代くらいの女性が自分に近寄り、その光景に涙しながら、自分の手を取り、自分の名前を掠れた声で連呼しながら、崇めるかのように、
祈るような姿をとる。
それに続いて、他の人たちも続くように首を垂れさせ始めた。
自分はその光景を確認した後、仗剣を異次元に仕舞い自分を元いた場所に転移させる。
そしてその後に残った人々は、それぞれが散らばって、(散らばると言っても歩けばすぐに着く距離だが)彼ら自身の家を建て始め、各々の生活を始めた。
自分は、その光景を空から遠目で眺めているような感覚のまま、時を過ごす。
いつの間にか、その集落がどんどんと成長をし、交易場、歓楽街、競争場、と建物の種類が増え続け、集落から街へと呼ばれるようになり、最終的にはこの世界一番の国となりあらゆる土地の覇権を握っていた。
そして時は流れていき、人々の笑い声で包まれるような、幸せで包まれた温かい空気を感じて、
そこで自分の意識は薄くなり、だんだんと体を引っ張られているような感覚が強くなっていき、小鳥の囀りが聞こえて目を覚ました。
「......……なんだ、夢か」
帰ってそのまま眠りについてしまったため、肩が痛みを訴えている。
ゆっくりと肩を回し、骨の鳴る音が響けば、実際は肩に悪影響だろうともその痛みが引いたようで、気が一気に抜けた。
それにしても不思議な夢だった。
うろ覚えだが、自分が神様になり世界を救っていた様な、そんな気がした。
「...神様かぁ、世界を救うとかそんな願望が自分にあったって事か」
人は頭でものを考える。自分が世界の救世主となる夢を見るということ、つまりそれは心の片隅にあった願望が夢という形で出てきたというわけだ。
「さてと、今日も仕事か......今日は平穏でありますように」
窓辺に小鳥が物欲しそうな目でこちらを向いていた。
この小鳥は、嵐の夜に羽が傷つき、弱っていたのを助けてあげたところ、
毎日、陽が登る前に、窓辺に餌を貰いにくるようになった薄緑色の小鳥だ。普段から家の中で干している果物を潰し、粒状にしたものをを小皿に乗せてそこに置く。
助けた時に何を餌としてあげればといいのか分からなかったため、市場で見かけない時がない程よく売られている、赤色の丸っこい果物を、保存用として乾燥させたものをあげたのだが、その時からこの小鳥はこれを好んで食べている。今では忙しい毎日の中での楽しみの一つとなっていた。
その羽をサワサワと撫でると、羽毛ならではのふんわりとした感じと、サラサラした感触が手から伝わってくる。
野鳥にしては質感が良すぎるような気がするが、誰かに飼われているとするならば、あの嵐の夜に出かけていたというのは不自然だ。
だからこそ、この鳥を自分は野鳥だと勝手に認識し、
もし家に入って来ることがあれば、念のために木材で作った鳥籠になんとかして入れる予定だ。
そういえば「鳥は幸運を呼ぶ」そんなことを聞いたことがある。
ベットから降り、
ヨレヨレになった仕事服を、両親から学んだ初級の火と水魔法で伸ばしながら身支度をする。
自分の両親は、王宮の専属魔法士団の団員だったが、十数年前に近隣で発生した魔物行軍で戦死した。
親が亡くなるその時までは両親の給金で少し贅沢ができていたが、当時七歳だった自分は仕事につく事ができず、親が残してくれた貯金を切り崩して生活をしていた。
なんとか生活をするために働き口を探したが、年齢が年齢なので、日雇いの仕事しか見つからなかった。
死ぬ気で働いていたが、遂には親が残した貯金が二年後には底をつき、仕方なく住んでいた家も売り払った。そのお金で費用のかからない今の貧民街にある自宅を購入し、下働きを探しているという噂を聞きつけ、なんとか今の職について約十年。現在に至る。
今その頃のことを思い出すと、よくその状態で生き残れたなと思う。
何せ家事もこの世の中での生き方も、ろくに知らない状態で社会に放り出されたのだ。そのまま露頭に迷って野垂れ死んでいてもおかしくは無い。
でも生まれてこなければよかったと思ったことは一度もない。
何故なら親が残してくれた、初級から難級の範囲が書かれている『魔法大全』という題名の本と、
その詳しい説明書があったおかげで初級魔法全般を覚えることができたからだ。
魔法というのは指南をしてくれる人物、俗に言う師匠がその発動式、方法、魔力の練り方を伝え、彼らの前で教え子達がその目の前で実践を幾度も行うことで、取得させていくものなのだ。
親が残した説明書、これがあったお陰で日雇いの仕事の種類が一気に増えたと言っても過言ではない。
中級の魔法も本には書いてあったが、流石に独学では方法や想像をすることができず、未取得のままだ。
干し果実を食べ終わった鳥が「チュンチュン」と鳴きながら自分の肩に飛び込んで来た。
そして自分のシャツを小さな黄色い嘴で突いてくる。
「こら、服が千切ちぎれるだろ?」
そう言って優しく足から包み込んで窓側に持っていく。
そして手を開けばいつもはそのまま飛んでいくのだが、今日は飛び立たずにこちらをじっと見つめている。
「どうしたんだ?」
「.......」
そう言って小鳥の体を指で突き、早く行かせようとするが、目を自分から離さず、
じっとこちらを見つめ続けている。
意思疎通はどうもしようもないが、何かを伝えようとしている雰囲気は伝わってきた。
すると何かを諦めたのか、ため息と思われるものをついてそのまま飛び立っていった。
「一体なんだったんだ.......?」
いつもと異なる小鳥の行動に若干疑問を持ちつも仕事服に腕を通し、仕事場へと向かう。
そうしてまた、いつものように精神的に追い詰められて疲れた足で帰り、飯を取り、趣味の本を読んで、彼の一日は幕を下ろすのだ。