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虎の威を借りる吸血鬼  作者: トカウロア
故郷脱出編
9/46

第九話、長期休みが終わりそうになるとソワソワするよな

もうすぐ10話なのにいまだに主人公の能力が出てこない能力バトルものとは……?


「まったくもう……」

「悪い悪い、つい揶揄い過ぎた。」


頬を膨らませるルーニャちゃんを宥めながら屋台で購入したクレープを口に頬張る。わざとらしいクリームの甘さが口に広がり、それを果物の汁気が中和する。空は少し黒よりも青が増してきたが未だ太陽は現れず。私たちは街の中央にある公園のベンチで休憩をしていた。傍らにはあれからいくつかの店で購入した品々――洋服以外に雑貨等も――を入れたキャリーバッグ。頬を膨らませながらもなんのかんのと一緒にショッピングをしてくれたあたり本気で怒っているわけではないのだろう。


「……まあそれはもういいですよ。それよりどうしたんです?いつもより急いでるみたいでしたけど。」

「いやほら、もうすぐフレリアちゃんとの再戦の期日だろう?で、今回は珍しく多少の訓練とかもした(お母様による強制)んだ。大変な思いをしたんだからやっぱり勝ちたいだろう?それゆえに験担ぎで色々購入したんだよ。」

「験担ぎって、いやまあイオカルさんらしいですけど。……というか験担ぎになるんですか、これ?」

「ふっ、決戦前に散財するとか如何にも勝ちを確信してるっぽいだろう?それにほら、こうしてなんか御利益がありそうな品々も買ったしな!!」

「あ、その金色の熊の像結局買ったんですね……。」

「……そういう何を言ってるんだこいつ、みたいな表情は良くないと思うぞ?」


 呆れた声で私の持っている金の熊を見つめるルーニャちゃん。その表情は、ゴミを買った人を見るような可哀そうな目つきであり、私の心をズキズキと刺してくるとともに何か開いてはいけない気がする扉を開かせようとしてくる。少し危なかったかもしれない。


 だがこの金の熊、言うほど悪いだろうか?確かに可愛いという類のモノではないが、木彫りの熊のような凛々しい顔つきをしているのだが。見れば見るほど自信満々に見えるこの表情、そしてメッキとはいえ綺麗な金色が、なんというかこう、すごくいい感じなのだ。……感覚的過ぎてよく分からない?まあそれはそうなんだが、しかしこういうのはフィーリングだと思うんだよな。


 ファンタジー世界なだけあってこの世界にはいわゆるマジックアイテム、魔法の力が籠った物品があるらしいのでそういうのならもっと違うんだろうが。そういうのはどう考えても高いし個人で所有するような代物ではないのでそこらの雑貨屋などには置いているはずもないのだよな。あったら買っていた。楽に強くなれるとか素敵だからな。


 なんて話して――呆れられていたんじゃなくて話してたんだ、いいな?――いる間にクレープを双方食べ終え食後の休憩も終わる。時間帯的にそろそろ家に帰る時間だ。だからそろそろ帰ろうか、とルーニャちゃんに声を掛けたのだが―――


「ねぇ、イオカルさん。」

「ん、なんだ?」

「……何か、隠してませんか?」

「おいおい、何を言ってるんだ。そりゃそうだろう。誰にだって隠し事の一つや二つくらいあるさ。ルーニャちゃんだって私に話していないことくらいあるだろう?」

「そういうことじゃないですよ。今日の様子もそうですけど、話に聞いたサルダ様……イオカルさんのお母様との特訓だってそうです。いつもなら付き合わずにすぐに逃げていたでしょう?」

「いやそれは普通に逃げ遅れただけだって。逃げれるなら逃げていたさ。痛いの嫌だぞ、私。」

「……本当に?」

「無論、本当だとも。私が今まで君に嘘を吐いたことがあったかい?」

「もうその発言が嘘なんですが。さっきだって実はこのクレープ屋には裏メニューとして人間の肝を入れたメニューがあるって言って店員さんを困惑させていたじゃないですか?」

「……人というのは未来へ進む生き物だ。いつまでも過去のことにこだわるのではなく明日のことを考えようじゃないか。」

「いやついさっきのことですよ!?」


 さすがに少し露骨だったかもしれないな、と思いながら私はルーニャちゃんの言葉に対してとぼける。話して味方になってくれるのなら別に話してもいいんだが、残念ながら現状で彼女が私の味方になることはないだろうし。まったくもって残念だ。


「……ともかく、そろそろ太陽も登ってきそうだしそろそろ帰らないか?」

「……私では力になれませんか?」

「……………………。」


 私は彼女の言葉に答えずに歩き出す。しかし「私では力になれませんか」、ねぇ。それはルーニャちゃん本人が一番よくわかっているだろうに。まあそれでも今日のデートモドキは楽しかったし、良しとする。とはいえ急ぎ足だったのは残念だからな、また今度、ゆっくりできる時にでもショッピングへ行こう。買い物をするのはやはり楽しいものだからな。



 無言で帰路を歩く私を白くなってきた空と消えかかった星が照らしていた……。






















「さ~て、シリアスっぽいやりとりも終わったしここからはお楽しみの時間だ。」


 家の中、私用に用意された部屋の一つに私は居た。おそらく太陽が昇っているのであろう刻限。すなわち吸血鬼が治めるこの地においては皆が就寝している時間帯。私はブラッドワインを飲みながら大きな鏡の前に立っていた。それは何故か。自身の姿を鏡でじっくりと見るためである。


 まずはぴっちりとした、けれども丈の短いスカートとなっている事務服に赤い縁の眼鏡、それから黒いストッキング。可能な限り凛とした表情を浮かべ手帳を片手に持って開く。言うなればキャリアウーマンというべき姿。金髪だからどうだろう、黒の方がいいんじゃないかと思ったが、金髪であることにより、なんというかこうできる感じが増した気がする。地毛であることも大きな用意だろう。自然な色彩が真面目さをアピールしているのだ。


 だがこれで終わりではない。この状態で椅子に座り足を組む。当然その角度は鏡に対して正面だ。するとどうなるか、見えそうで見えない魅惑の空間が私の頬ずりしたくなるような太ももの上部に―――――え?何をしているんだって?


 これはこの世界で私が新しく修得した趣味。一人ファッションショーである。きっと世のゲームプレイヤーの大半は異性のキャラに好みの服装を着せてみたり、アクションで動かして際どい部分を見たりしたことがあるのではないだろうか?私のこれもその延長である。つまり私自身を着飾ってその様子を鏡で見て楽しむのだ。


 何せ金髪でスタイルの良い吸血鬼だ。これを自身の自由な服を着せてじっくりと見れる、しかも好きなポーズのおまけつきで。この特権を活かさないはずがないと思わないだろうか?ん?でもそれは結局自分じゃないかって?だとして何が問題なのだろうか?自分だろうが別に付き合ったりするわけではないのだ、ただ鑑賞するだけなら何も支障はない。まあもちろん?この姿で外へ出ろと言われればさすがに否を突きつけるがな。この身体は私専用なのだ。


 などと頭の中でいもしない誰かに説明をしながら私は次の服装へと着替える。ちなみにこの着替えシーンの間も私は鏡を見ているのだが、当然それだといつもよりも着替えにくい。だが美女の生着替えを誰憚ることなくじっくりと見れるチャンス、多少の不便さは許容してしかるべきだろう。……今まで何度もやってきたおかげか少し慣れてしまった気がするが。まあそれに関してはわざとゆっくり着替えることで対応しよう。以前の着替えるのに手間取る姿も趣があったのだが、王道はやはりこのゆっくり着替えであるしな。うむ、実に艶かしい。


 私は次に来たのはいつもの服装を少し派手にしたような衣装。背中には特製の黒い蝙蝠族(バット)のモノのような翼が付いた服。表情は不敵に、そして自信満々に。椅子もさっきまで座っていた地味なものから装飾が付いた物へと変える。それと同時に後ろにちょっとした絵……月夜の城の絵を飾る。


 鏡に映った姿はまさに悪の吸血鬼。まるでラストダンジョンのような漆黒の城と如何にも悪役そうな表情が実に似合っている。手に持ったワイングラスの中の赤もいい味を出している。味覚的にも視覚的にも、な。


 ポーズも足を組む、手を前に突き出す、『魔弾』(マジックショット)を放つ寸前で止める、などなどの姿を取り、鏡を見て楽しむ。たまに際どい姿をするのもこれまたいいものだ。もちろんテーマ性、悪の吸血鬼というイメージは崩さないように気を付けながら行うのがポイントである。


 その次に私が飾った絵は燦燦と照りしきる太陽に白い砂浜―――ビーチの絵だ。この絵を飾ったということは当然、私が着る服装は水着である。海もないし『吸血鬼』(ヴァンパイア)は泳げないというのに何で水を弾く下着なんて作るのだろうという目で見られつつ作成したビキニタイプの水着へと着替える。


 その過程では当然全裸になる過程もある。だがここでスポポポーンと着替えたりはしない。それでは風情は台無しだ。ここでは一枚ずつ、先ほどよりもさらにゆっくりと、身体でギリギリ見せてはいけない部分が鏡に映らないように細心の注意を払って着替えてゆく。その姿はまるで誘っているかのようで私も少し興奮気味だ。


 水着に着替えた後は淫靡さを抑え、顔を笑顔へと変える。ここで求めるべきは健康的なエロスだろう。いわゆる悩殺ポーズを行いつつ、合間に泳いでいるようなポーズやビーチバレーをしているポーズなども入れてゆく。可能なら別の角度からも見たいところだが、見ている対象が私であるがためにそれは叶わない。ここは少し残念なところ。


 こんな風に色々とポーズを決めていれば当然時間がかかる。だが今に限ってはそれが狙いでもある。ガブガブと飲んでいた酒の効果によりいつもは薄く暗めな私の頬が少し赤みがかる。そう、これだ。これを待っていた。


 すかさず私は今日購入したあのピンクでもこもこの服を着る。この時気を付けるべきポイントは表情と仕草だ。身体よりここはスカートを抑えるべきか。演出するのは普段はクールな女性が何らかの理由によって可愛らしい服を着せられてしまい戸惑い恥ずかしがる場面だ。私は別に恥ずかしいわけではないのでこの演技は中々に難しい。だがこの顔の赤み、酒による赤さがまるで赤面しているかのように見せかけるのだ。そしてこの服はこのシチュエーションに実に合う。この服を買ってよかった、少し高いかと思ったがこの服にはそれだけの価値があるということを分からせてくれた。


 そして私のテンションも盛り上がってくる。そろそろ眠りたいところであるしこれでフィナーレにしよう。私が箪笥から取り出したのは今までのお金のかかった服装ではなくボロくて所々穴が開いている服。服を、下着も含めて脱いでその布を纏う。同時に分厚い首輪――さすがに鍵が掛かるようなものではなくちょっとしたフェイクのもの――を付け、じっと鏡を睨みつける。


 おおっ、おおっ、おおおおっ!?エロい。これはもうエロいとしか言いようがない。凄い、凄いぞ。この子がヒロインの年齢制限のあるゲームがあったら私は間違いなく購入するであろう。そんな出来だ。これは、これはいけない。実にえっちだ。素晴らしい。


 大きな衝撃とともに固まること数分。舐め回すように鏡に映った自分を視姦する。手が出せないのはとても残念ではあるが、しかし出してしまうと結局自分になってしまうのでそこは諦めるべきだろう。まあ経験のない私はあっても尻込みしてしまうだろうが。それに受け側の立場であれこれされるのは正直全く惹かれない――妖艶なお姉さん系キャラによるものを除く――のでやはり仕方がない。


 満足した私はいつもの服装……というかパジャマへと着替え、服のいくつかを今日買ったばかりのキャリーバックへと詰めていく欲を言うとこのボロ布と首輪も詰めたいのだが、さすがにこれは箪笥にしまうことにする。もこもこの服や水着などの他の服は入れておこう。


 ついでに私は私物や幾つかため込んでおいた宝石などの貴金属も布製の袋に閉まった後にバッグへとしまう。それから箪笥の中を漁り高そうな服とよく使う服も選んで入れて行く。


 なぜこんなことをしているのか?……それは私があとどれくらいこの家、いや街にいられる時間が残っていないからだ。そう、私はお金と荷物を持ってこの街をもうすぐ出て行く予定なのだ。


 その理由は―――――――

イオカルさん、レベル高くないですかね……?

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