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虎の威を借りる吸血鬼  作者: トカウロア
故郷脱出編
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第五話、嫌なことからはさっさと逃げてしまおう

あけましておめでとうございます。


……この台詞、昨日言いたかったなぁ。

戦闘描写って難しいですよね。


 お母様の瞳が大きく見開かれる。傷を癒した私が歩を進める。狙いは当然、出口の方向。それと同時に流れた血液を散らばっているお母様の血液……槍を形作っていたものと混ぜてゆく。だが私の動きを見てお母様は素早く出口の前へと陣取ってくる。ちっ。


「両手以外からの『吸精』(ドレイン)……手を抜いていたのですか。」

「手を抜いていた、なんて心外だなお母様。単に状況を見て使わなかっただけだとも。」


 お母様が私のやったことを言い当てる。と言っても別に何か特別なことをしたわけではない。『吸精』(ドレイン)は接触した場所から魔力を吸い取る魔法、それは手の平から使用することが多いが別にそれ以外から行えないわけではないのである。単にそれが楽であるというだけだ。


 むしろ口、とりわけ犬歯などは手より吸収効率がいいほどだ。……吸精というより吸血だな。いやもしかしてこの魔法が吸血鬼(ヴァンパイア)たる所以なのだろうか?


 ともあれ重要なのは手と口、関係ない身体の部位の両方から使用できるということ。つまりこの魔法は特に使()()()()()()()()()()()()ということである。つまりこの魔法は私に刺さった武器――『血液操作』(ブラッドウェポン)で作られた血槍に対してもそのまま『吸精』(ドレイン)できるのだ。


 そして『吸精』(ドレイン)した魔力で『再生』(リジェネ)を使えばあら不思議。実質ほとんどダメージがなくなるのだ。私が物凄く痛いということ以外は。涙を流したくなるほど痛いということ以外は。……結構なダメージだな、これ?


 私が今まで使わなかったのも半分くらいはそれが理由である。ダメージ的にはノーダメージとあれば、お母様は喜々として攻撃を激しくするに違いない。さすがにいくら機嫌が悪いお母様と言えど私を殺したいわけではないので適当に死ななそうに見えるラインで止めてくれるだろう、とも思ったのだ。が、さっきのは正直見えている情報だとラインぎりぎりでそういうのができるのか心配になったし、何より単純に痛いし疲れたのでもう帰るために使ったというわけだ。


「世迷言を……」


 お母様は私の態度に苛立ったのか、それとも私がこの程度余裕だと判断したのか今までよりも遥かに多い血槍を宙に浮かべる。私には同時に放たれるそれを防ぐ手段はないし、()()()()()()()。避けるスペースなく敷き詰められた血の槍が次々と私に刺さっていく。激しい痛みが私を襲う。だが人というのは慣れる生き物らしい。悲しいことにこの身体を槍が貫通する感覚に少し慣れ始めている自分がいる。こんなの慣れたくないんだがなぁ……。


「痛いな。すごく痛いぞ、お母様。私が思うに―――これは虐待ではないかな?」

「実質的に無傷にしておいて何を。それに我ら高貴な存在たる吸血鬼(ヴァンパイア)にはそれ相応の強さが求められるのです。」


 刺さった槍が全てただの血液となって落下する。その時にはすでに私に空いた穴は全て塞がっている。あっ……私に新しく空いた穴は全て塞がっている。え?なんで言い直したかって?……そこは親御さんに聞くといい。


「なるほど、つまり相応の強さを示せばこんなことをしなくてもよい、と。」

「―――いいえ、足りません。あなたにはもっともっともっと強くなってもらわねば。」


 次の瞬間、部屋全体を眩い光を纏った電撃が襲う。その衝撃から少し遅れてバチバチという音が耳へと届く。一歩遅ければ今頃直撃していたに違いない。私が展開した『血流操作』(ブラッドウェポン)の盾――反液状なので盾というのかいまいちわからないが――に流れる電流を見て冷や汗を流す。


「いきなり固有魔法使ってくるとかさすがにどうかと思いますよ、お母様!?」


 正直いらっと来たからといって調子に乗りすぎたかもしれない。本来であればこのままお母様の横を抜けて後ろの扉から出て行くか、壁を無理やり壊して出て行こうと思ったんだが―――、私の目の前にいるお母様はバリバリと帯電し、今にも電撃をこちらに放ってきそうだ。お母様の固有魔法『稲妻』(ライトニング)、電撃を操るというスタンダードだが実に恐ろしい魔法である。


 電撃、というとその手のプレイだったりあるいはテレビで白衣を着た科学者さんなどが出演者に流しているイメージがあるかもしれないが、雷は古代においては神格化されるほどの存在であるし、単に魔法の攻撃と見ても速い上に防ぎづらく、適当に纏えば近接戦でも有利が取れるという隙が無い効果だ。


 さらに厄介なのがこの世界における固有魔法の特性である。固有魔法に至った魔導士は自身の扱う固有魔法に応じて身体が最適化される、というものだ。それはお母様を見れば分かりやすい。今のお母様の周りには電流が時折バチバチと流れている。そうなれば普通であればお母様にもダメージが行くはずなのだが……そうなってはいない。これが最適化の一種……自分の扱う魔法やその同系統の現象に対して強い耐性を得るというものだ。


 それではこれらの知識を元に現在の状況について考えてみよう。まず私がいるのはお母様が所有している狭い部屋。壁に所々赤黒い染みがあるがそれ以外のモノはない、なんとも殺風景というか嫌な予感のする部屋である。そして出口の前に陣取っているのがお母様、その周囲には今か今かと発射の時を待つ電流が漂っている。


 こうなってくるともはやお母様は雷撃を部屋の中で適当に放ち続けるだけでいい。先ほどは集めておいた血を上手く使うことで防ぐことが出来たが何度も行うことができる、というわけでは決してない。私の防御が間に合わないように連続で放つ、あるいは大技を放てばいいのだから。


 正直さっきかっこつけなければよかったな、と後悔が出てくる。いやでも仕方なくないだろうか?痛かったし、もう帰りたかったし、それを少しかっこよく装飾するくらいは誰だってやることだろう。えっ、誰でもはやらない?……一定数いるんなら十分多いのでセーフ!セーフだと言い張らせてもらおう。


 それでこの状況をどうやって突破するか、であるが……正直なところ思いついてはいる。というか結局変わらないのだ。回復量でゴリ押せば何とかなる。なってしまう。何故ならお母様と言えどさすがにこういう修練等を行うための場所以外で魔法をバンバン放つわけにはいかないからだ。ゆえに部屋の外に出れればほとんどクリアしたようなものなのである。


 では何を悩んでいるか。これもやっぱり変わらない。普通に考えて、攻撃レベルの電流なんて受けたら痛いに決まっているだろう。フィクションに出てくる彼らとは違……違うとは言えないが!こんな如何にもファンタジーな世界だと私にとってたとえ現実だとしても実質的にフィクション側の住人とそう変わらないからな!!


 だが、痛いというくらいの権利はあるはずだ。なんというかこの世界の住人はフィクションの彼らと同じく問題ないですという顔でやってのける可能性がありそうなのが怖いが。対して私の場合はどうか。いやこれでも私は前世からやればできる子であって、別にできないということはないはずだ。メンタルだって自分で言うのもなんだが、私は結構前向きなタイプである。安きには流れるが、必要なら必要なことも、その、どうしても先送りにも人に丸投げにもできないならやる、はず、なのだ。


 しかしそれは問題がないという訳ではない。何度だって言うが私は痛いのが嫌いである。相手が美人とはいえМ属性はないし、あったとしても『再生』(リジェネ)が発動するラインというのはレベルが高い。


 ゆえになんとか私はなるべく痛くない方法をさっきから考えている。考えているのだが……しかし時間というものは有限らしく、お母様が私向けて電撃を放ってくる。しかも一撃ではない、複数の雷撃が私を襲う。それを『血液操作』(ブラッドウェポン)で防ぐ―――などはしない。というかできない。


 雷というか電流は基本的に凄まじく速い。走馬灯なのか、あるいはファンタジー的な現象なのか、あるいは吸血鬼(ヴァンパイア)の特性なのかは分からないが私に迫る雷撃は見えるものの、それに対処する時間などまるでない。ゆえに私は迎撃を諦める、というか諦めざるを得ない。諦める=直撃のため諦めたくはなかったが。なかったが、仕方ないのだ。泣きたい。


 バチバチバチ――――!!


 電流が私の身体を貫く。点滅しているかのように感じる視界。身体中を走る鋭い痛み。挫けてしまい所だが、ここで挫ければ余計に痛い目に遭うのは分かり切っている。ゆえにこそ動かねばならない。ああ、痛い目に遭うのが私でなければこんなことせずに眺めていられるのに。


「ぎぃぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 獣のような咆哮をあげる。あげることで痛みを緩和する。あるいは緩和した気分になる。こういうのは意外と気の持ちようが大切なんだ。それから同時に目くらまし、ならぬ耳くらましでもある。私の背中に『血液操作』で集めていた大量の血液――私のモノだけでなく、今までで飛び散ったものを回収している――をくっつける。そして雷鳴が止まったタイミングで――――思いきり私の背中を押す。要はポンプだとかウォータースライダーみたいなノリだ。


「うぉぉぉぉぉぉ!?」

「っ!?」


 それをすれば当然私は前方に向かって思いきり飛ばされる。雷撃を放った直後に自分の方へと向かってくることは予想できなかったのか、一瞬の間が生じる。そして部屋の中という限られた空間で戦っているのだからそれで十分なのだ。


 刹那の攻防。すでに私を撃ち落とすには時間が足りない。ゆえにお母様は『稲妻』(ライトニング)を纏う。結果として起こるのは弾かれた上に電撃を浴びる私。なんだこの扱いは。まるでぼろ雑巾みたいなんだが。


「あばばばばばばばばば!?」


 しかし私にダメージが入るだけで、私が物凄く痛くて怨みに思うだけで、放たれた私は止まらない。止められない。つまりどういうことかというと、私はお母様とごっつんこ、思いきり衝突したわけだ。


「ぐっ―――!!」


 予定ではこれでお母様を押し倒し――もちろん変な意味ではない――そのまま脱出するつもりだったのだが、なんということだろう、お母様はその場でぐっと足腰に力を入れて耐えているではないか。ついでにもしかしたらワンチャンあるかもしれないと思っていたラッキースケベ的な展開もなし。やはりあれはフィクションにおける主人公補正という奴だったのだろう。せっかく起きても問題になりにくそうな立場に生まれ変わったのだからやってみたかったのだが。あ、もちろん意図的にやったりはしないぞ?前世含めてパートナーのいなかった私にはハードルが高いしな。それに意図的にやってしまったら()()()()ではないからな。


 話を戻そう。今の状況は思いきりぶつかった状態の私、それを受け止め反撃しようとするお母様。我々の間に距離はない。さて私が手をこまねいていればすぐにでも私は手痛い反撃を受けるだろうが、この距離は『血液操作』(ブラッドウェポン)でも『稲妻』(ライトニング)でもなく―――『吸精』(ドレイン)の距離だ。


「ぐぅぅぅ!?」


 お母様が魔法行使を行うよりも速く、私の『吸精』(ドレイン)が発動し、お母様の魔力を吸い上げてゆく。それと同時にもう一度『血液操作』(ブラッドウェポン)で私を押す。正直これはこれで痛い。『稲妻』(ライトニング)よりはだいぶマシではあるが。


 その後お母様が遅れて『稲妻』(ライトニング)を放―――






「―――がぁ!?」


 私は思いきり吐血する。身体を伝う電流。その圧力が増していく。それこそお母様の方にもダメージが出るほどに。だがそれよりも恐ろしいのは、お母様の身体の幾か所もから血の槍――『血液操作』(ブラッドウェポン)の槍が私を貫いている。これではいくら私の背を押そうが意味がない。私は『吸精』(ドレイン)で槍を次に次に消していくが、それに対抗するようにお母様も槍を増やしていく。


 いったいなにがお母様をそこまでさせるのか、と考える。お母様は相変わらずこちらを凄い形相で見ており、そう簡単に諦める様子はないようだ。だがその焦点は少し虚ろで―――


「認めません。私から逃げることなど認めません。(あなた)はあの人間/混ざり者(おんな)に勝つのです。」


 ああ、なるほどと私は嘆息する。どこでスイッチが入ったのかは分からないが、どうやらお母様のトラウマを刺激してしまったようだ。私に組み付くように手を回す。ぎりぎりと強い力で締め付ける。同時に私に刺さっていく血の槍、槍、槍。それに対して苦悶の表情と声をあげたいところだが、私はあえて笑顔を作る。


「ははっ、お母様の負け戦に巻き込まないで欲しいものだな。お父様の心が誰に向いているかなど火を見るより明らかだろうに。」

「なっ――――」


 嘲笑。朱に染まるお母様の顔。彼女は怒りに染まり言い換えそうと、雷撃を強めようとする。だが―――





「―――隙ありだ、お母様。」


 私に刺さっていた槍を全て『吸精』で崩壊させる。それと同時にお母様を掴み、それを後方へと叩きつけるように投げる。やっていてよかった体育の授業。習った当時は何の役に立つんだと思っていたが、うろ覚えで、身体能力のゴリ押しとはいえ役に立ってくれた。ありがとう。


「かはっ!?」


 地面に叩きつけられたお母様が耐えられずに息と血を吐く。普段ならともかく自分を巻き込んだ『稲妻』(ライトニング)、身体から放ち続けた『血液操作』(ブラッドウェポン)、私によって奪われ続けた魔力、そしてなにより頭に血が上がった状態で隙を突かれたことで、そのダメージはそう軽いものではないだろう。


 だがここで一番重要なのはそれではない。私の後ろに投げられたということはつまり私と位置が入れ替わったということ。私はそのまま素早くバックステップする。そしてそのまま反転。私の目の前にあるのは出口。となれば当然私は全力疾走させてもらう―――!!


 背中に突き刺さる槍と電撃、もう動けるのはさすがだが、その攻撃はもはや私の心を疲弊させる嫌がらせにしかならない!!そして私のような小者は逃げ足が速いと相場は決まっているものだ。あばよ、お母様!!

主人公最強モノではないですけど普通にスペック自体はかなり高いです、イオカルさんは。

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