第四十五話、殺す気か!!??
順調に伸びつつある更新頻度……
やりたいことが多い……
「――――殺す気か!!??」
完全なる静寂、全ての感覚が喪失する宵闇、二度味わってなお慣れないその感覚から帰還した私は思わず叫ぶ。大声によって肺の中に空気が入り、生の実感が伝わってくる。無理やり接着したせいか、あるいは死から生還したためか、身体が少しむず痒いような違和感を訴えかける。けれどもその違和感が生きていることを感じさせて少し心地良くもあった。
すぐそばの地面には大量の血、衣服……は私の血を染み込ませている『再生』用以外は完全に切断されているか。地面に転がっているために土で汚れてもいてそれはそれは―――いやもう血のせいで土の影響とか誤差だな?
せっかくのビジュアルが台無し……あー、でも土や血に塗れる美女というのもある種の美しさというか地獄に咲く一輪の花的なかっこよさがあるのも確かだ。流石今世の私、こんな状況でもそれなりに絵になるとは。やはりこの世界でもただしイケメンと美女に限るという法則は健在だ。
なんて復活がてらいつものように思考を回してちょっと心を落ち着かせる。なにせ、ほら、流石の私も死ぬのは中々ショックだったのだ。もっとも私よりも驚いている人々がこの場にはいるようだが。
まず一番驚いているのは私に死をくれやがったあの顔が良い少女。黒が似合う幼い鮫使いだ。大きく目を見開くと同時に少し震えているようにも見える。同じくその脅威を知っていたからなのか、あるいは渾身の技で仕留めたと思った敵が蘇ってしまったからか、ルエドくんも呆然としているように見える。
ルーニベくん、はさすがと言うべきか、一瞬は驚いたもののすでに投げナイフを準備して―――っと、こちらに放ってきた!?左足を負傷しているというのにちょっと元気すぎやしないだろうか?ファンタジー補正とでも言うつもりだろうか。再生能力を持っていない奴がそんなに元気だと相対的に私の強さが減るからやめてほしいんだが。
「いやいやいや!?そりゃ当然、殺す気ではあったと思います―――っよ!!」
飛来したナイフをルーニャちゃんが『黒剣』で作った短剣で撃ち落としながら私に呆れ顔を見せてくれる。テーツイくんは、なんというかほっとした、という様子で顔から喜びが零れ落ちている。ふむ、男であることがとても残念ではあるが、まあ私の復活に対してそのリアクションなのは嬉しくはある。ポジティブ感情を向けられて嫌ということは……まあラインさえ弁えていればそうはないからな。
「どうやったの?」
「……ん?」
「あの時、確かに、死んでた。今まで『再生』が上手い吸血鬼と戦ったことだってあるけど、それでもああなったら死んだ。でも、あなた、死んでない。どうして?」
「はははっ、これは少しは意表を付けたということかな?だけど我々は今敵同士。命綱の仕組みをペラペラと話すわけがないだろう?破られた今度こそ死んでしまうじゃないか。」
「……むぅ。」
とはいえ実のところ何故蘇れたのか、その理由に確証があるわけではない。だが恐らくはこうではないか、という予想は存在する。昔の事なのだが、お父様に『再生』のコツを聞いた時、自分が死なないと信じ続けること、と教わった。それさえできれば吸血鬼は魔力の続く限り不滅の徒であり続けられると。
対して目の前の少女の固有魔法『死の鎌』はどうか。彼女の言を信じるならばこの魔法は発生させた鎌やそれを付与した物体に死を与える力を齎すものだ。ゲーム的には即死・防御無視・蘇生無効、というところだろうか?……言っておいてなんだが物凄く強いな。怖っ。そんなものを人に向けないで欲しい。
さてこれらを比べると相性は最悪のように思える。なにせ『再生』で傷を癒せず、問答無用で死を与えるのだから。自分が死なないと信じ続けるも何もなく、問答無用で殺してしまうこの魔法はまさに吸血鬼の天敵と言っても過言ではないだろう。
だがそれでも完全に負けている、というわけではない。少なくとも『死の鎌』で受けた傷であっても受けた部分を取り除くことでそれ以外の部分から再生することは可能だ。またこれは推測にはなるが、永続するわけでもないと思う。使い勝手を考えるに燃費もかなり良い様なのだが、永続で効果を発揮する、ともなればそこまでの使い勝手でいられるかかなり怪しいと思うのだ。それに一度壊したらずっとそのまま、では取り回すのがあまりに危険すぎるしな。
まあこれはただの推察で、実際どうなのかは分からない。ただ少なくとも概念的な強制力はそこまでではないはずだ。いや概念的な強制力ってなんだ、と言われれば上手く説明できる気はあんまりしないんだが。
でも前世のフィクションで得た知識をもとに考えるに能力の強制力が強いのなら仮に斬られた腕の付け根を切り落として再生し直す、というやり方は通じないはず。だってそこから先は死んでいることには変わりがなく、失われたものはもう二度と元には戻らないのだから。
なのでこの方法で『再生』が使えるということは死んだということを一度リセットしてしまえばまた『再生』が使えるということ、のはずだ。……くっ、未知の分野過ぎてあれもこれもだろう、とかはずだ、ばかりだ。でもしょうがないだろう、私だって死んで蘇ったのはまだ2回目なんだから。
さて、話を戻そう。『死の鎌』による死はリセットすることができる、つまり永続性のある死ではない。ただそれでも一度死んでしまうことは避けられず、肉体を再生させることで自身が死なないようにする『再生』では太刀打ちできない、というのがこの相性関係の理由だったはずだ。
しかしそれは逆説的に言えば、死んだ後に、あるいは死んだことに『再生』を使えば覆せる、ということにならないだろうか?
お前は何を言っているんだ、と思われるかもしれない。確かにそれは無茶もいいところだろう。死んでしまえばそこで終わり、『再生』なんて使う暇はない。ああ、そうだ。それは至極当然の考えだと思う。けれど、けれどだ。思い出して欲しい、そもそも私が何だったのかを。
そう私は転生者。一度死んで、新たな存在として生まれ変わった者である。つまり私にとって死は未知でも終わりでもない、ということになる。死からもなんとかしてしまう経験があるのならそこからはいつもの『再生』で対応できるんじゃないか、と思ったんだ。
だって終わりというなら首が刎ねられたり潰された時点で終わりのはずだし、そこからでも『再生』が出来て、コツが自分が死なないと思い続けることなら、結局同じことだろう。首を刎ねられるのだって元普通の人間からしてみれば十分に死だと思うしさ。
とはいえこれは全部私の完全なる推測で事実かどうかは全く持って分からないんだけどな。後で見返したら、頓珍漢で的外れなことを思ってしまったと恥ずかしくなるかもしれない。
けれど、自分が大丈夫だと思っているから大丈夫という可能性があるんだからこういう理屈でだから私は復活できる、と思っておいた方がいいだろう、うん。結局なんやかんや言っても人生を上手く生きるコツは適度な楽観である、とも個人的に思っているしな。間違ってたらその時にまた考えればいいのだ。
「………………………。」
「………………………。」
などと少女と見つめ合い(あるいは睨み合い?)つつ現状の考察をしてみたが、そこでこの蘇生の非常に不味い問題点に気付いてしまった。魔力消費である。
なんとこの画期的な私の新しい命綱くんは普段の再生と比べると大分魔力の消耗が激しいのだ。具体的にはもう一回殺されたら蘇生できないことは確実で、少女以外の魔力消耗状態の敵じゃ完全に吸い殺しても多分足りないくらいだ。
――――つまり現状!全く持って!!危機を脱出していないのである!!!
なんかここから反撃だ、みたいな雰囲気になってる(主にテーツイくん)が無理無理無理!?これ以上は本当に死んでしまう!?というか純粋に戦闘技術一つ取ってもこの場で一番強いだろ、あの子!どうしろって言うんだ!?
何かないのか、希望は?ルーニャちゃん……も万全ならともかく現状じゃきつい。鮫に乗って移動って手段を考えると中々に厳しいし、テーツイくんに時間稼ぎもあんまり期待はできない!
テーツイくん以外の他のメンバーと合流?恐らくどこかで隠れるなら休むなりしてるんだろうが、正直あの集団より今のテーツイくんの方が強いからな、ぶっちゃけ役に立たないと思う!
どうする?どうすればいい?えー、と、取れる手段は―――、いや今とさっきまでとは状況が変わった!この状況なら再チャレンジしてみる意味はあるはずだ!!
「さて、もういちど聞いておこうか。もう、やめにしないか?今のを見ただろう?勝てるかはともかく時間を掛けさせることくらいなら問題はない。私とてどうせ殺されるのなら盛大に嫌がらせをして死んでいくからな。それに勝てる道もないわけではない。―――だが、それはお互いが損をするだけだと思うのだよ。」
あえてゆっくりと、なるべく尊大に、そして自信満々に聞こえるように、やや低くした声を発する。気分は断られたら「ああ、残念だよ。君たちとは分かり合えると思っていたのに。」とか言うタイプのボスキャラだ。
この状況、私目線ではもはや万策尽きた、という感じだがあちら視点では最強の駒の必殺技が通じなかった、という場面だろう。停戦を投げかければ二回目は使えない、という疑念も出てくるだろうが、しかしそもそも私は死を覆す前から停戦を申し出ていた。だからこれが余裕のなさなのかそれともそういう性格なのかの判断も付かないだろう。
それに少女以外の二人、ルエドくんとルーニベくんには私の脅威は十分伝えている。疲労や消耗していることが分かってもそれがどの程度なのか、そしてどれくらい『吸精』と『再生』で挽回できるのか、その判断を付けるのは容易ではないだろう。
実際あちらも悩んだようにお互い視線を交わし合っている。どうする?飲んでもいいんじゃないか?でもこれを放置するのか?なんてところだろうか?結構悩んでいるようだ。
けれどさすがに我々の目の前で話し合うのはどうかと思ったのか、最終的には―――おそらくあの少女に判断を委ねることに決まったのだろう。ルエドくん、ルーニベくんが軽く目を伏せて頷き、少女が一歩前に出た。
「その停戦、受けてもいい。でも、条件、ある。」
「――条件?」
「私たち、あなたたちにメルマークへ来られるの困る。けど今戦ってたから、信用ない。だから、交換。」
「交換?何をだ?」
「人質。」
あちらの出した答えは条件付きの停戦。よ人質を交換して約束を守るようにしたい、らしい。まあこちらは停戦後からこっそり付けられて奇襲される可能性が、あちらは迂回されてメルマークへ移動される可能性がある。
それを避けるためにお互いに短期的な人質を出し合う、というのは悪い考えではないだろう。いくら傭兵の類だろうが、そう簡単に捨てるのは難しいだろうしな。ルーニャちゃんは……結構悩まし気だ。まあ確かに不安もあるからなぁ。
ならここで考えるべきは誰が人質になるかだ。まずあちらの人質は左足を負傷してしまったルーニベくんだろう。このままついて行ってもどこまで仕事ができるか怪しい以上、一番向いている人選だと思う。
ルエドくんもあり得るかもしれないが、少なくともあの少女はない。それはあちらもメルマークに行くにあたって戦力が必要というのもあるが、純粋に人質の意味を為さないからだ。単騎でそれ以外を蹂躙できる存在なんて引き受けようものなら実質的な人質はむしろそれ以外のメンバーになるだろう。
対してこちらが人質に出すのは誰か、テーツイくんは便宜上こちらのリーダーだ、となると彼を連れて行かせるのは中々問題なような気がする。それに彼は見るからに気が立っているからな。正直人質に出すには気が引ける。ああ、それからヤバノメに戻った後の説明やら何やらもあるか。正直テーツイくんを差し出すのが戦力的には一番楽ではあったんだが、それは諦めたほうが良さそうか。
だがルブラリエちゃんとかを差し出そうとしてもあちらは難色を示すだろう。ここは正念場だ、つまらないことで戦闘再開、なんて自体は避けたい。それに回復要員を差し出すのは色々と不味いだろうしな。かといって他の固有魔法を使えない連中なら余計に人質としての価値が落ちる。
う~む、不味いな。こうなってくると私かルーニャちゃんか、という選択肢しかない。だがルーニャちゃんの仕事は私の護衛だ。正直せっかくの護衛を遠ざけるのは安全面でも、支払ったお金がもったいないという経済面で見ても、知り合いの美少女を傍に置いておきたいという趣味の面で見ても避けたい自体だ。
そうなるとどうする?人質を断るか?だが、これもあちらとしてはかなり悩んで出した結論であるような気がする。つまり交渉がひっくり返るのは割と簡単そう、という場面。であるならば人質を断るのは避けるべきだろう。だが、それだと私かルーニャちゃんが人質に――――――――いや?
「――――いいだろう、人質交換。こちらは問題ない。」
「なっ、イオカル!?」
「だったらここは私とルーニャちゃんが人質として行くことにしよう。」
「ええっ!?」
「…………二人?」
「そりゃそちらはこれから仲間と合流するんだろう?それにどうやら雇われ兵で切り捨てやすそうな気配もある、多少の戦力確保は許してもらいたいものだが?……人質としての役目なら複数だろうと果たせると思うが?ああ、そちらが出す人数は一人でも二人でも構わないぞ。」
「…………どう思う?」
そこで少女が後ろの二人に問いかけた。声に出したのはまとまりかけているからか、あるいは話を聞かないと決められないと思ったからか。ともあれ、3人とも悩んでいて色々と話す声が聞こえてきている。
まあそうだろう、かなり押し込んだ提案だ。そもそも私たちが二人も行ったらそのまま不確定要素連れてきていることになりかねないからな。普通なら断る、だろう。だがそうは言ってもこの状況、話がまとまりかけていてできることなら早くしたいはずだ。すでにあちらの予定が押しているのは分かっているからな。
だから速さを優先して通る可能性はあるはずだと思う。結局私とルーニャちゃんがいなければテーツイくんたちなど警戒の対象ではないだろうし、どうせなら見張れる範囲において、という妥協も成り立つしな。
それが通らないにしてもこちらの提案を蹴った形になれば、他の要求―――例えばテーツイくんを人質にする、のようなものが通りやすくなるだろう。時間が掛かるのが嫌なのは向こうなのだから、こちらがテキパキと妥協しようとしている姿勢さえ崩さなければあちらが譲歩してくれる、と思う。多分。
「連れていく、のでも私、困らない。だからこのまま、に一票。」
「いやしかし本末転倒じゃないか?」
「別にどっちでもいいけど、そろそろ急がないと不味いんじゃない?」
やはり私の予想は当たっていたようで中々悩んでいる様子だ。こちらに対する意識も少し薄れてきた。せっかくだからこの隙に何か、とは一瞬思うもの、周囲にはまだ4匹の鮫が浮かんでおり手を出すことも逃げ出すことも躊躇してしまう。
ちらりとルーニャちゃんへと視線を向ければ、彼女もこちらを見て苦笑い。やはりこのまま大人しくしているしかなさそうだ。私は魔力の回復速度は割と優れている方だとは思うが、しかしだからと言ってもそんな急に全快するわけではない。できるだけ貯めておきたいが、果たして……?
順調に害悪構築になっていく主人公である。




