第四十四話、何で逃げた先でこんなに戦わなければならないのか⑤
鎌を持って鮫を引き付けたロリとか属性過多では……?
「……なんでまだここにいるの?」
鮫の群れを引き連れた幼く見える少女が疑問を口にする。その視線の先にいるのはルエドくんとルーニベくん。その様子はどう見ても初対面には思えない。というかあれだよな?やっぱり相手側の増援だよな?
ゴスロリ系美少女(鮫)と大剣使いの子犬族と推定クォーターの暗殺者ってどういう組み合わせだ?あれか、色モノ系が多くなったファンタジー系TRPGのパーティか何かだろうか?一応テイマーにシーフに戦士で割とバランスよく見えるけれども。
「先にメルマークの近くに行って、先行試作……えっと、機械兵を配備させておく予定だったはず。それには時間が掛かるから二人は先に向かった。……なのに私が追い付くくらいの場所にいるし、機械兵もほとんど駄目になってる。どうして?」
「済まない、こちら側の不手際だ。不確定要素を排除しようとしたらこの体たらく。言い訳の使用もない。」
「いやぁ、でもさでもさ、シェイプシフターが居たし流石に放置は出来ないよなぁって。あれに引っ掻き回されたら結構ひどいことになるよ?それに結果論だけど吸血鬼のお姉さんも結構強いし。」
やはり彼らは仲間のようだ。つまり倒すにしろ逃げるにしろ相手方の人数が一人増えたということ。それも恐らく最も強い存在が、である。正直天を仰ぎたくなってくる。
私が何か悪いことをしただろうか?いやまあ割とちょくちょくしている自覚はあるが、でもほら私のは、なんと言おうか、そう、愛嬌があるというかな?小悪党的なろくでなしムーブであるからして報いを受けて死ぬがいい、なんてされるようなあれじゃないと思うんだよ、うん。
今からでもいいぞ天の女神、私に媚びを売るがいい。今なら許してあげるからさ。……なんて願ってはみたものの何かが変わるわけでなし。というかちょっと目を背けたいんだが私の幸運値低くないか?気のせいだと信じたいんだが、なんというか、こうトラブル続き過ぎるというかな?もしかしてこれが天の女神なりのアプローチなんだろうか?だとしたらふざけるなこのメンヘラ!慰謝料を寄越せと罵ってやるところなんだが。
と、頭の中で愉快なことを考えていてもしょうがないので私も発言してみよう。みすみす敵にただ情報交換させるというのも勿体ないしな。それにちょうど気になったことが1つあるんだ。正直に答えてくれるかは分からないがせっかくなので質問してみよう。
「先行試作と言った後に言葉を濁して機械兵と言う。もしかしてそれはあれだろうか?機械の奴の名前を言おうとして思い出せなくて誤魔化した、という奴ではないかな?」
「イオカルさんっ!?そこは突っ込んじゃいけないところですよ!?」
「…………名前、覚えにくかった。」
少し恥ずかしそうに頬を赤く染める少女。正直可愛い。ソーシャルゲームで出てきたらガチャ回しそうになるくらいに可愛い。とはいえ冷静に考えればこの状況、明らかに危ないし『死神の鎌』なんて固有魔法、絶対ヤバい類のものだとしか思えないので内心結構ビクビクしていたりするのだけれども。
だから今の発言も単にツッコミを入れたくなったとか、ボケとしての血が騒いでしまったとかそういう理由だけではない。人(この場合は人間ではなくもっと広い意味での人)という生き物はその場の雰囲気の影響を強く受ける。それは恐らく社会を構築するにあたって進化の過程で身に着けた能力なのだと思う。後で考えると別にしなくてよかったけど雰囲気に流されてしてしまった、なんて経験も大抵の人物にはあるだろう。
今回の行動はそんな人の性を利用しようとした試みである。こういう風にシリアスな雰囲気を壊してしまえば、あれ?これ戦わなくてもいいんじゃないかって方向に持って行けないかと思ったのである。そうでなくともこの会話の合間から交渉の余地を探りたい。あと減ってしまった魔力を自然経過でできる限り回復したいというのもある。
「それで……不確定要素って、この人たち、だよね?なら、ちゃっちゃっと片付ける。」
「うぉっと、ちょ、ちょっと待たないか?あー、君たちは話から察するにメルマークに用があるんだろう?それで私たちが不確定要素になるのを嫌って戦いを仕掛けに来た。だが、現段階で予定よりもだいぶ時間が掛かっている、とここまでいいよな?」
「…………あってる、けど。」
「そうかそうか、だったら提案だ。我々は引き返してメルマークには近づかない。君たちのことももちろん何も見なかったことにしよう。だからこの戦いはこれでおしまいにしないか?そちらとしても損切りするにはいい時間だと思うが。」
「なっ、イオカル、何を……!?」
後ろの方で何やらテーツイくんが驚いたような表情をしているが、無視だ無視。もしかしたら向こうで誰か死んだとかあったのかもしれないが、だからといってここで全滅とか誰も喜ばないだろう。
私としてもこいつら顔が良くて腹が立つとか、散々嬲られて仕返ししたいとか、もう疲れたから早く終わらせて休みたいとか色々あるがこうやって我慢して交渉しているのだぞ?むしろここは褒めてくれ。私は褒められて伸びると吹聴するタイプなんだ。
「……確かに、時間はない。でも―――――数人殺すだけならそんなに時間、かからない。」
次の瞬間、気が付けば距離を詰めている少女。瞬く間に振るわれる鎌。ルーニャちゃんが私を呼ぶ声。テーツイくんの怒号。辛うじて首を断たれるのを回避したものの代償として右腕が宙を舞う。奔る痛みが表情筋を動かした。けれどまだ問題はない。この手の表現は嫌いだが、腕の一本程度ならすぐに『再生』で―――――
「―――っ!?再生しない!?」
「私の鎌は『死神の鎌』。避けられぬ死を与えるもの。死したものは蘇らない。」
ぐぉぉぉぉ!?不味い、不味い!?『再生』が通用しないとか本気で死んでしまう!?せ、せめて防御をしなければ!
出現する私とルーニャちゃんそれぞれによる『石の壁』。数を持って現れる『影絵の獣』とルーニャちゃんの『眷属鮫』。直接少女を狙ってに放たれる『暴風の鉄槌』。
必殺と言ってもいい連携。ルーニャちゃんでさえこれだけの攻撃に晒されれば対処は困難であろう3人による協力攻撃。だがその悉くが死神の鎌によって刈り取られていく。数多の石の壁は一薙ぎで全てが相殺され、風の拳も鎌の柄で突く動作だけで霧散する。動物たちの群れもあちらの鮫が嚙みついただけであっさりと息絶え瞬く間に駆逐された。
「攻撃力、いや干渉力が高すぎるのか!?他の何より鎌が優先されるとでも!?」
「それだけじゃありませんよ、あちらの『眷属鮫』の歯も恐らく『死神の鎌』とやらです!!」
「種族魔法と固有魔法を高レベルで併用してるのか!?」
放ったはずの攻撃は左程の時間稼ぎにもならず、急いで飛び退いたはずの私にもう追いつく少女。くっ、いくら苦手とはいえ『強化』も明らかに私より上なせいでスピードが違いすぎる!?というかなんで私を狙うんだ、脅威度で言うなら最も強いルーニャちゃんか逆に最も弱いテーツイくんのはずじゃないのか!?
「ならこれはどうだ!?」
「っ、目が……!!」
迫り来る追撃の初手を再生できない右腕の断面から『血液操作』を応用して血を噴き出し、目くらましにすることで回避する。少女の白い肌と髪、黒い服が朱に染まる。……こういう趣味はなかったはずだがなんかいけないプレイをしているような気が少しだけしてくる。が、まあ今注目すべきことではないな。
「なるほど、やはりこうすれば治せるのか。」
「……気づかれた。でも。」
私が発見したこと、それは断面よりも内部の部分から血を噴出させる、つまり断面を一度壊すことで『死神の鎌』に斬られたという情報をリセットし、『再生』を適応させられるということだ。
ぶっつけ本番ではあったが、成功してよかった。どうやら『死神の鎌』という魔法で回復阻害が行えるのはあくまで魔法でできた鎌による切断部のみらしい。余談だが私の魔力が少し心許なくなってきたのでルーニャちゃんの『再生』を使わせてもらった。
「くそぉぉぉ、やらせるかぁぁぁぁぁ!!!」
「一人で足りないのなら連続攻撃ならどうです!?」
「いい攻撃。でも、足りない。」
しかし私が見つけたせっかくの攻略法もあまり意味がない。これは魔法の攻略云々ではなく単純なスペックの問題だ。轟きを上げて放たれる暴風を跳ね除け、迫るテーツイくんを蹴り飛ばす。私を助けに飛来したルーニャちゃんの翼を鎌の一振りで捥ぎ取り、放たれる首や血の槍を避けながらさらに追撃を入れて墜落させる。ルーニャちゃんは私の見つけ出した対処法で身体を再生させるもやはり一手、二手遅い。
「そうか足りないか。だったらこれは、どう、だぁ!」
おそらくこちらに迫っているのだろう私を死へと導く鎌。視認も少し危うくなってきたそれを、軌道を予想して迎え撃つ。本来ならば彼女の『死神の鎌』にそのような行為は無意味だろう。だがもし迎え撃つものが同種のものであったのなら?
「!!」
響く金属音。交差する黒い鎌と鎌。戦闘中、初めて少女の瞳に映った動揺の色。そう、彼女は後から来たがゆえに私の固有魔法がコピー系であることを知らないのだ。ゆえにこそこの拮抗は彼女にとって予想外。そして例え油断や動揺をしていなかったとしても、予想外であることに対する対処は常よりも1テンポは遅くなる。つまり今がチャンス!!ここで勝負を仕掛けるぞ!!
「っ、どこに―――――――」
『陽炎歩き』で視線を外し、相手の正面ではなく側面へと回る。振り上げる鎌。けれどただ振り下ろしただけではきっと彼女は対処してしまうだろう。ならばこそここで求められるのは気づいた時にはどうにもならない強力な一撃だ。
できるかどうかは不明だが失敗しても効果がないわけではないのでやり得だと私は新しい試みに着手する。発動するは『光輝の剣閃』。必要最低限ながらもなんらかの使用条件を満たしたそれを振り上げた漆黒の鎌を媒介に発動する。収束する黒い色が眩く光る。
「『死神の鎌』と『光輝の剣閃』!」
私の放った斬撃が光を伴い少女に明確な死を届けんと咆哮する。見開かれた目が打開策を探そうと激しく周遊し、黒い鎌を振るい威力を抑えようとしながらも、素早く斬撃の軌道から逸れるために跳躍する。その動きは咄嗟の行動であるというのにきちんと有効な手立てを打っている。十二分に素晴らしい判断力と言えるだろう。だがしかし、先ほどの言葉を返すようだがそれでも少し足りない。最低でも真っ当に動けないほどの傷は負ってもらお―――――
「させるかぁ!!!」
「こっちを忘れてもらっちゃ困るなぁ。」
飛来する数本の投げナイフが肌を抉りその衝撃で微かに軌道がずれる。同時に展開される光の盾が黒の波を一瞬押しとどめる。ほんの僅かなずれ。本来ならば多少軌道がずれたところで大部分は当たると言えるだろうし、『光輝の堅盾』は強力な魔法だが『死神の鎌』の前では多少優秀な防御程度でしかない。
「―――礼を言う。」
けれどこの場にいるのは死神の化身。僅かな運命の綻びを見つけ、そこから死へと導く災厄の象徴。そんな魔法を使い熟す相手に、そんな魔法を修得する相手に、その差異はあまりにも大きかった。
小さく可愛らしい足が一歩を刻む。私の振るった黒き光の側面に鎌が当てられる。入り込む黒い鎌が漆黒の光を柔らかいスポンジのように分断する。切断された光が地を削り、薄く光る空を黒に彩る。
攻撃の後、その場にいるのは全くの無傷、完全に健在の黒い少女。黒いニーソックスがさらに一歩を詰める。息がかかりそうなほどの至近距離。ああ、こんな場面でなければ役得だと喜べるものを。
苦し紛れに拳を放つも細い腕に絡め取られ、そのまま身体ごと視界を反転させられる。背中に感じる衝撃。痛みを無視して『暴風の鉄槌』を近くの地面に叩きつける。反動で飛び上がる身体。首を狙った鎌が代わりとばかりに左腕と左足を切り取った。
案山子のような身体に鞭を打ち、翼を生やして空を飛ぶ。四匹の鮫のうち1匹が風の鉄槌で、もう一匹が突然腹部目掛けて競り上がった石壁で蹴散らされるも、残った二匹が私の翼を捕食した。
ゆえに私の逃避行は失敗。眼に映るは可愛らしい死神。黒い処刑台のギロチンが、囚人たる私の首に慈悲の心を与えるべく加速する。
ああ、それを受けるのは嫌だと、本当に死んでしまうと思うのに、身体が満足に動いてくれない。いいや違う、死を前にして思考が早く動きすぎているのだ。思い起こされる再びの過去。走馬灯の中でゆっくりと迫る私の死。思考を巡らせど巡らせど回避する術はない。
「 さ よ う な ら 」
ゆっくりと聞こえる可愛げのある声色。両断される私の身体。発動できない『再生』。響く悲鳴が私の終わりをこれ以上なく説明してくれる。落ちていく私の意識と瞼。きっと地面に転がっただろうにその感覚ももはやなく。
――――こうして私は今世では初めての、経験としては2回目になる死という終焉を迎えることになった。
残念、イオカルの冒険は、ここで終わってしまった!!




