第四十三話、何で逃げた先でこんなに戦わなければならないのか④
気が付くと どんどん伸びる 更新日
「ああ、よかったよ。狙い通り合流できた。あるいは間に合ったと言うべきかな?では諸君、第二ラウンドを始めようか。」
「っ!さらに新手が!?おい、ルーニベどうなっている!?そっちの吸血鬼はすぐに殺せる手はずだっただろう!?」
「……ごめん、どうやらこのお姉さん、かなり強いみたいでさ。」
「イオカルさんに、ルーニベ!?」
「イオカル!?よかった、無事だったんだな!?」
私の登場に掛けられる声。そこに混じるのは驚愕と安堵。私だけではなく銀髪くんの方も見て驚いていることからどうやらルーニャちゃんは銀髪くんの知り合いのようだ。というかもしかしてルーニャという名前はルーニベからちょっと変えたのか?まあ偽名名乗る時に参考元があると名前考えやすいのは分からなくはないけれど。
とはいえ驚くのは皆一瞬の事、テーツイくんだけはまだ動き始められていないが、それ以外の面々はすでに動き出している。銀髪――ルーニベくんはすでに一番動きが悪いと判断したテーツイくんにナイフを持って接近し始めたし、ルーニャちゃんはそれを庇おうとテーツイくんの近くへと移動し始めた。大剣を持った青年の敵はこちらを脅威と判断したのか、あるいは逆に与しやすいと思ったのかこちらへと剣先を向け、何事か――恐らくは私に対して固有魔法の発動を――しようとしている。
無論私も魔力を補填しようとなんか世界観のおかしいロボットの所へ行こうとも思ったんだが、このままだと容赦なく必殺技チックなものを撃たれて大ダメージを受けてしまいそうだと引き下がる。てっきり『光輝の剣閃』は近距離攻撃用の固有魔法だと思ったんだが、なんかモーション的に多分ビーム系っぽいからな。雑兵が多い場所に行った方がいいかと思ったがどうやら選択を間違えたらしい。
というかこの世界でも剣からビームを出すのは普通なんだろうか?前世のフィクションではバンバン使われていた表現ではあるが、そもそも剣そのものは近距離戦闘用、もっと言うと戦場より市街線とか屋内戦用の武器……だった気がするんだが。いや、むしろ近距離用の武器にオプションで遠距離攻撃と言うのは万能性を求めるという点で割と理に適っている、のだろうか?
「ぼーっとしていると危ないぞ、テーツイくん?」
「っ!?あ、ああ、悪い!!」
ひとまずテーツイくんに声を掛けつつ、位置取りを変更しようとする。目標は当然ルーニベくんだ。ルーニベくんは魔力が少なくなっていることは把握しているし、左足の負傷で動きも鈍くなっている。そして彼の近くに行けば大剣を持った子犬族――――仮称大剣くんも大技を撃つわけにはいかなくなるだろう。
だがそんな私の動きはお見通しだったのか、ルーニベくんは素早く転身すると投げナイフをルーニャちゃんへと投擲しながらバク転して距離を取る。本当に負傷しているのだろうかと思わずにはいられない華麗な動き。いやむしろ負傷しているからこそ手を使えるバク転だったのだろうか?
だが相手がプロならこちらの味方もプロである。投げられたナイフ程度気にすることはないと言わんばかりに手に持った紅い短剣――おそらくは『血液操作』によるもの――で弾くと同時にルーニベくんの引いた先へと『石の壁』を出現させるルーニャちゃん。
「っ―――!?」
「そこっ!!」
後ろに勢いよく移動しているときに急に石の壁が出現したらどうなるか、当然そのままならごっつんことぶつかってしまうだろう。だがルーニベくんは持ち前の運動神経でそれを回避した。石の壁を無理やり蹴って方向を変えたのである。
だが回避したとしてもそこには余計な動きが生まれてしまうのは避けられない。生まれた隙をルーニャちゃんが見逃すはずもなく、巨大化した首が毒の牙を突き立てんと襲い掛かった。
「ぐぅぅ、相変わらずだね。……だけどっ!!!」
「――――――――――!!!(不味っ!?)」
咄嗟に屈んで躱したものの素早く首が方向転換、そのまま負傷している左足に噛みつき、体内へと毒を注入していく。小さく苦悶の声が上がる。当然そのままなら毒も身体に回ってそのまま終わりだろう。
だが、いくら負傷し魔力が底を尽きかけているとはいえそのまま何もせずにやられるほど易しい相手ではない。自分の足に噛みついている首を持ち、そのまま石の壁の斜め後ろへと向かって『天の翼』――と慣れてないのか効果量は低いが誰かの速度を上昇させる『追い風』をルーニャちゃんに掛けているのか?――を発動。一気にルーニャちゃんの身体を宙へと放り出させた。
「今だよ、ルエド!!」
「ああ、任せてくれ!!」
そこへ待っていたと言わんばかりに子犬族の大剣持ち――ルエドくんが腕を大きく振り抜く。固有魔法『光輝の剣閃』によって放たれる光の帯がその直線上に配置させられた私たち三人を撃滅せんと突き進む。
テーツイくんが咄嗟に『暴風の鉄槌』――固有魔法名かっこよくないか?私なんてフリーライダーだぞ、フリーライダー。ちょっとこの格差どうかと思うんだが?顔なら確実に今世の私の方が上のはずなのにどういうことだろうか――を放って迎撃しようとするも、覚えたての固有魔法如きにやられるような魔法ではないと言うように迫り来る光が風の拳をあっさりと跳ね除ける。
「なっ、俺の魔法がまるで効いてないだと!?」
「くっ、まず――――」
そしてルーニャちゃんは空中にいるために対応しきれない。いや正確には素早く『救助山羊』でテーツイくんと私の前に躍り出ているし、『硬質化』を利用して衝撃に備えているが、しかし先ほどの『暴風の鉄槌』の弾かれ具合を見るとそれでは足りないだろう。
まあルーニャちゃんと私は『再生』で凌げる可能性は十分あるだろうが、しかしそれをしてしまえば大きく魔力を消費してしまう上にテーツイくんという攻撃用の人材を失ってしまう。
ゆえに打てる手があるなら打つべきであるからして、私もまあこの状況ならメインで動くこともやぶさかではない。狙われてるのは私もだしな。とはいえこれがどれだけ有効かはまだ分かっていないんだが……駄目そうなら最悪死ぬ前にテーツイくんから魔力を『吸精』しておけばその後の戦闘、というか撤退も何とかなるはず。
「――『光輝の堅盾』。」
私が発動させたのは『光輝の堅盾』、『光輝の剣閃』の持ち主であるルエドくんのもう一つの固有魔法である。発生した現象はやはり、光の盾の出現。飛来した光の奔流を同種の盾が引き受け、ここから先へと活かせないよう拮抗する。
というか二つの固有魔法持ちとか初めて見たな、そういう存在がいることは知っていたんだが。魔法も剣と盾でしかもシャイニングとかなんというかまぁ、如何にもかっこよさそうでちょっといらっとするけれど、そこはそれとしてやはり驚きだ。
「なっ、それは俺の―――くっ、コピー系の固有魔法か!!だがっ!!!」
驚きを一瞬露わにするも、それがどうしたと言わんばかりにルエドくんは自身の固有魔法にさらに魔力を注いでいく。対して私も彼から魔力を吸い上げて拮抗せんとするも、私の使い方の問題か、あるいは吸い上げるという一工程のロスの差か、段々と天秤が彼の方へと傾いていく。
「ぐっ、このままでは……」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
光の矛と盾のぶつかり合いの最中、その衝撃で細かい音など聞こえないはずだというのにピシリという嫌な音が耳に届く。あるいはそれは幻聴だったのだろうか?ただ確かなことは私が展開している魔法の盾に罅割れの亀裂が刻まれ、もう間もなくこの均衡が破られるということだ。
「時間稼ぎありがとうございます、捕まってください!!」
けれどどうやら私の頑張りは無駄ではなかったらしい。私の盾が破壊され、こちらへと光の津波が襲い来るその直前、『天の翼』と『飛行』、『韋駄天』を発動させたルーニャちゃんが私とテーツイくんを脇に抱えて一気に疾走する。
「っ――――避けられた!?」
「どうやら一手足りなかったようだな?」
一呼吸の後に、私たちが居た地点を削り取っていく光。その力の前には山という大自然の堅牢さも意味をあまり為さないらしく、光が過ぎ去った後を見ればそこには大きく削れた岩肌が存在した。これに当たっていればどうなっていたことか、と思ってしまう。
だがまあ、それはそれ。当たっていれば危なかったのかもしれないが、しかし当たらなかったのだ。そして今のがあちらの千載一遇の好機だったのである。何故ならお返しにと『光輝の剣閃』を放とうとしてもできないことからこの魔法には何等かの制限――恐らく回数によるものか、もしくはチャージ式なのだろう――があるようだし、ルーニベくんはさきほどのルーニャちゃんの飛行に合わせる形で彼の種族魔法の『追い風』を発動したため魔力は底を尽き、毒も回ってさらに左足を負傷という満身創痍。
地面に降り立った私たちをじりじりとこちらを囲むように配備された何やら如何にも量産型人型決戦兵器と言わんばかりの存在もいるが……正直私にとっては『吸精』の的になりそうな気配が割とある。そして連戦と私の魔力の不正利用、大技を切ってしまったことでルエドくんもかなり消耗が激しいと来た。ゆえにこの場は我々の勝利―――――――
「―――っ!?」
瞬間、私はある存在を感知して大きく飛びのいた。その動きに反応してか機械兵たちがこちらへ向けて『魔弾』を放つのを同じように『魔弾』で相殺する。多少傷を受けはするものの、この程度なら何とかなるだろう。今はそちらよりもこちらを注視すべきだ。
「イオカルさん?いったいどうしたんですか?」
機械兵たちとの弾幕戦に参入しながら時折『石の壁』なども用いて優位に立っていくルーニャちゃん。テーツイくんも1テンポ遅れたものの固有魔法で機械兵たちに重い一撃を入れていく。それに対してもちろんルエドくんは対処しようとするのだが、私が時折『魔弾』や『影絵の獣』をルーニベくんの方へと放てば、彼を護るためにこちらへ来れなくなった。
「不味い、新しい魔導士がこちらに――――」
「(新しい魔導士?もしや彼女が来たのか……?)」
やはり思った通り、この場だけならこちらの勝利は揺るがなさそうだ。だからこそ私が警戒するのはこちらへと一定の速度で向かってくる『死神の鎌』なる固有魔法を有した暴鮫族。
私の魔法が他者の魔法を対象とするが故の裏技的なソナーによって発見できた新手である。それが敵か味方かまでは分からないが、しかし状況的に敵である可能性が高いと判断したほうがいいだろ―――あちらのスピードが上がった!?こちらが発見されたのか!?
「っ、すまない!ちょっと離れる!そのまま戦況を維持しててくれ!」
「なっ、イオカル!?」
私はルエドくんの『韋駄天』を発動させると機械兵に接近、そのまま機械の心臓近くの動力源らしきところに『吸精』を行い、魔力を回復させていく。その間もあちらの攻撃が止むわけではないため被弾率も上昇するが……私の『再生』効率ならお釣りは来るはずだ。せめて思いきり一度思いきり殺されても復活できる程度の魔力は確保しておきたいのである。
そして私の様子から、あるいは自身も何等かの種族魔法を発動させでもしたのか、私が警戒する方へと同じように視線を向けるルーニャちゃん。そんな視線の先へ「おらぁ!!」という掛け声とともにテーツイくんが弾き飛ばした機械兵が宙を移動しやってくる。
機械兵がちょうど我々の視界を塞ぐ。おそらく新手の魔導士はもうすぐそこまでやってきているはず。この距離なのだからこちらの戦闘音に気付いていない訳ではないだろうに、気にせずこちらへと向かってきたのだ。
隠された視界の隅に黒い影が映る。その影が岩影から姿を現したちょうどそのタイミングで機械兵がぶつかり――――――
「邪魔。」
「なっ…………!?」
―――――そして一気に黒く染まって崩壊し、空気へと溶けていった。
姿を現したのは正しく死神のような不吉な容姿の少女。真っ黒なゴスロリ衣装に色素が抜けてしまったのではないかと思える真っ白で長い髪。少女であるにも関わらず可愛らしさよりも美しさ、それも不気味やら恐怖を駆り立てるという表現が似合うそれを放っている。
けれど外見よりも目を引くのは手に持った吸い込まれてしまいそうなほど黒い鎌と黒い歯を持つ多数の浮いた鮫だろう。そう、少女は大きな宙を浮かぶ鮫に跨り、鎌を持っていたのだ。しかも鮫は一匹ではなく彼女に続くように3匹、合わせて計4匹存在している。ちょっとした映画くらいなら彼女だけで取れてしまいそうなほどだ。
そのあまりに非現実的な光景に思考が停止する。私は今いったい何を見ているのかと混乱で頭が埋め尽くされる。いや、落ち着こう。あの魔法は『眷属鮫』、自身の手下となる宙を浮かぶ鮫を召喚する種族魔法、だったはずだ。確かマジックアイテムを取り合った時にルーニャちゃんも使ってたはず。
そうだ、ルーニャちゃんだって十分色々と現実を離れした光景を見せてくれたではないか。ゴスロリ系少女と死神の鎌と鮫なんていう如何にもB級と言わんばかりの組み合わせが、何故か奇妙な説得力を持ってしまっているからといってなんだというのか。そう、落ち着いて、落ち着いて対処すればいい。いや普通に落ち着いて考えても見るからに強そうなんだがな?
誰一人として動かない、奇妙な沈黙に包まれたその場を、鮫から降りた少女が、コツコツという小さな音を鳴らしながら歩く。ついに沈んでしまった月に代わって登ってきた太陽が、白い暖かで忌々しい光を私たちに放っていた……。
というわけで以前登場した鮫娘ちゃんの再登場です。




