第四十二話、何で逃げた先でこんなに戦わなければならないのか③
なんか一週間に一話ペースになってる……?
もうちょっと早くしたいな、と思いつつ色々別の事に手を出しててすまない……。
「ぎぃ……がぁ……!!」
切断される身体を見ながら『吸精』を発動させる。けれど発動するのは私が切断される一瞬であり、その回復量は微々たるもの。本来ならば決して断たれてはいけないはずの首ももはや落花生か何かのようにポロポロと落ちていく。多少なりとも魔力の消費を抑えようと『血液操作』で身体を繋ぎ合わせてから『再生』を発動していたりはするものの、それもやはり焼け石に水。
『天の翼』を利用した移動を銀髪くんが行い始めてから私は防戦一方という言葉すら生温い窮地に陥っていた。刻一刻と減っていく魔力量、痛みを訴え続ける電気信号、もはや途切れることなく流れ続ける血液。
そんな危機的な状況において私が未だに明確な死という終わりを迎えていないのは主に相手の拙さにあった。いや拙さというよりは不慣れ、あるいはミスマッチというべきか。『天の翼』を利用した移動速度は確かに凄まじく速い。そこから正確に私を切断していく技術もまたとても悔しいが評価に値するものだ。
けれど車が急に止まれないように『天の翼』で加速した銀髪くんもまた止まれない。通過際に私を数分割していくだけだ。いや普通に致命傷だし滅茶苦茶痛いからやめて欲しいんだがな?……なんか私の感覚が麻痺してきた気がする。もっと怒ってもいい案件じゃないか、これ。敵だからって言われればそれまでだけども。
もう一つ言うのならば『天の翼』による動きそのものも悪くはないのだが、私を通り過ぎた後に大きく旋回してまた私に回ってくる動作に隙がある。いや隙というのは語弊があるな。正確に言うのならルーニャちゃんが見せた動きと比べると一段から二段ほど落ちる、というべきか。
以前仮称芋虫くん――確か正式名称はロッキーワームだったか――と戦った時に私は今の銀髪くんよりも優れた『天の翼』の動きを見ている。無論彼の『陽炎歩き』によってかなり補足しづらくはなっている。だがそれでも以前に見たことがあるという経験値が私に有利に働いていた。
そしてさらに私が有利になる条件として一つの推測がある。この強力な魔法を彼が今までこうして使ってこなかったということは恐らく燃費に難があるのだと思われるのだ。ハーフやクォーターであるならば種族の使い勝手は大元の種族より劣ることが多いし、手加減を私にする必要もないだろうからな。であるならば魔力の消費という点では『天の翼』を展開し続ける銀髪くんと『再生』を使い続ける私の勝負ということになる。
いや彼にとって不利な点はそれだけではない。私は精神的なものを除けば『再生』の影響である程度体力も補強できるのに対して、あちらは左足の負傷に高速移動と明確な消耗がある。だから、このまま続けていけば私がギリギリ有利のはず、なんだが―――――
「がっ!?ごほっ、がほっ!?……ああ、くそっ、鬱陶しい!!」
「あっはっはははははははは!!!ほらほら、どんどん行くよお姉さん!!」
口から溜まった血を吐き捨てながら悪態を吐く私。対照的に銀髪くんはまるでテンション上がってきた、と言わんばかりに攻撃のキレが増していく。より速くより強烈に。放たれる攻撃の感覚がどんどん縮んでいく。『再生』が間に合わないほどの攻撃ペース。
「そらっ、隙ありだよ!」
「がっ―――――――!?」
そしておそらくは最初から狙っていたのだろうナイフの切断ではなく蹴りによる攻撃が私にクリーンヒットした。宙に浮かび上がる私の身体。ここぞと言わんばかりのラッシュ。お手玉のように弄ばれ、どんどんと上がっていく高度。
気が付けば私の身体は完全に宙へと浮かび上がり、その状態で上下左右から止めどなくラッシュが行われていく。不味い、私が自然に落下する速度と銀髪くんが私を攻撃し、上へと飛ばしまた方向転換して攻撃するまでの速度が釣り合ってしまっている。
削られ四散していく身体。しかも私が再生を行う部位―――頭部だけはきちんと対空を維持し続ける几帳面さ。ふとした拍子に飛ばしてくれれば脱出できるものをと苦々しく思いながら私はサンドバックに甘んじる。というか甘んじるしかないのだ。
強い痛みもさることながらそれ以上に感じるのは焦り。そう、私の魔力が尽きかけているのだ。ただでさえ厳しかったのに、ここに来て銀髪くんの殺害スピードが上がったせいである。
「あ……が……まずっ……魔力が……」
「おっと、余裕がなくなってきたね?さぁ、ラストスパートと行こうか!!」
迫り来る銀の刃という名の死。再びの走馬灯。フラッシュバックする前世の記憶。何度も行われた攻撃により血を失うことに慣れてしまった身体。奔る痛みももはや起爆剤にはならず、ただ辛さのみを演出する。
嫌だ。ああ、嫌だ。こんなところでは死ねない。死にたくない。そもそも何故私が死ななければならないのか。私が死ぬのはいつだって最後の最後であるべきだろう。私はずっとずっと最後まで笑いながら生きていたいのだ。
何?ホームシックもあるだろうに、それでも生きていたいのか、だと?辛いことも多いはずなのに?何を言う、だとしても生きたいに決まっているだろう。
無論、この世界は前世と比べれば質が落ちることは間違いない。食事や酒も悪いとまでは言わないがバリエーションに乏しいし、命の危険はあるし、やらなければならないことも多い。娯楽なんて天と地の差があるだろう。純粋に環境という点で見れば私にとってはやはり地球の方がいいのは確かだ。
だが、だからと言って今生に良い点がないのかと言えばそうではない。容姿は私好みでとても良いものだし、健康面だって吸血鬼としての力で多少の不摂生程度では小揺るぎもしない。他者の容姿という点でも今世の方が見ていて楽しい子が多い。……まあイケメンも多いのは減点だが。
そしてその健康の力は寿命にも及ぶ、ただでさえ魔導士に至れば寿命が延びると言われている。そこに吸血鬼と言う種族ゆえの長命に、『再生』が重なれば理論上不老不死も夢ではないほどだ。
だから私は今生の良かった探しをしつつ、美味しい食べ物やら可愛い子やら戦闘はともかく魔法というファンタジーな楽しさやらを味わってそれなりに笑顔で過ごしてきたわけだ。
それにこの手のものは時代が進めば自然と向上していく。現段階でこの程度の品質があるならば前世と同じような水準にたどり着けさえすれば、前世以上の世界が待っているかもしれないという未来への希望もあるのだ。
だというのにここで死ねと言わんばかりの苦難を投げつけてくるのはちょっとあんまりじゃなかろうか。私が何をしたのか、とまで言うつもりはないが果たして殺されなければならないほどだろうか。というか仮に殺されなければならないほどだったとしてもそれで死んでいいという理屈にはならないだろう。
それにほら、可愛いは正義とよく言うじゃないか。確かにどちらかと言えば私は美しい系だが、表情を緩ませれば可愛い顔だってできる。むしろ普段美しい系の表情がここぞの時に緩むことでギャップからより可愛くなるとすら思うんだが。何故こんな目に遭わなければならないのか。私は可愛く、そして可愛いは正義なのだから肯定されて然るべきだろう。まあ可愛くなくても私は肯定されて然るべきだが。
可哀そうは可愛いとでも言うつもりか。その性癖もまあ同意できる面はあるが頼むから私に適応させないで欲しい。コンビニスイーツくらいなら奢ってあげてもいいから。
というかだな、そもそも私はバトルジャンキーでも軍人でもないんだが?なんでこんな当たり前みたいに殺し合いなんてしなきゃいけないんだ。百歩譲っても私が一方的に殺せるような場くらいだろう。痛いし苦しいし、おまけに死んでしまう?なんだそれは。嫌に決まっているだろう、そんなの。
辛いことはなるべく避けて、避けれないなら他人に押し付けて、なるべく笑顔で健やかに、いっぱい美味しい思いをして私は暮らしていたいんだ。けれどこの世界は理不尽で、私にそれを許さないとばかりに暴虐を雨霰と投げつけてくるのである。ひどい話だ。
私に加護を与えるべき天運は役立たずで、味方をしてくれる他人も今はいない。ならばどうする?どうすれば私は私の理想へ行けるのだろうか?相手が心変わりして攻撃を止めてくれる?ノーだ。そんな奴ならそもそも首なんて刎ねてこない。死力を振り絞る?それで解決するのならそもそも振り絞らなくても解決できただろう。やる気なんてものは精々カタログスペックの5割も左右できれば上々程度の存在だ。仮にそうでなかったとしても、少なくとも精神力の力押しでなんとか、なんて私には似合わないだろう。
ではどうするか。打開策が全て駄目だというのなら、運命も他人も自分自身も状況を打破するに足りないというのなら、それぞれを積み上げ積み重ね、でっち上げて目標値に届かせるより他にない。
運命?転生などという事象を体験した私が死のうとしているというのに、これ以上どうにかするタイミングなんてないに決まっている。私は主役だ。少なくとも私はそう思っているし、実際少なくとも何かを持っているのは確か。ならばこそ主役が、キーキャラクターがこんなつまらないところで死ぬはずがない。
他人?そこにいるだろう、実に楽しそうに笑いながら、死力を尽くしている存在が。縦横無尽に飛び回り、力を行使する死神が。敵であることなど些細なものだろう。この場にこうして存在するのだから、寄生先には十分だ。
自分自身?ああ、無論私は私を信じているとも。強いのも、ともすればかっこいいのも、人として真っ当なのももしかしたら他の奴なのかもしれない。けれど、そうけれど最後に笑うのは私だ。他の誰でもない私こそが最後の最後に美酒を味わうにふさわしい存在なのだ。
「―――――であるならば、やってやれないはずはないだろう。」
でっち上げた三条件が新たな地平を切り開く。元より固有魔法が自身のみを以て行使する魔法だというのならば、逆説自身にとって必要な条件を揃えてやってしまえば開花するということに他ならない。私の本質はどこまで行っても他者から甘い汁を吸い取り、負担を押し付ける寄生虫なのだと認めてやろうじゃないか。
怠惰な寄生虫に似合わない痛みや苦しみは勤勉な労働者が受け取るべきなのだ。ああ、無論ただとは言わないさ。代わりに私はそちらの楽しさと強さを対価として受け取ろう。それこそがあるべき姿なのだから。
自身の卑小さに対する自己肯定が、私という魔の法を一段先へ押し上げる。発動させるは種族魔法たる『天の翼』。そもそも利用できるのが固有魔法だけなどという縛りがおかしいのだ。汎用魔法も種族魔法も魔法という括りには違いなく、同じリソースを使っているものなのだから本来私が使えないはずはない。
それを封じていたのは純粋な技量と、初めて使った時にそうだったからという先入観と、頑張ろうとしなくてもなんやかんやなんとかなってしまう環境によるものだろう。だが私に近づいてきた必要性という死神の足音がその枷を1つ壊したのだ。
ゆえにあとはただできることを当たり前のように行うだけ。一気に増幅された『強化』を行使している『再生』途中の『天の翼』へとかけていく。そもそも空中お手玉なんて真似は結構な精密性を要求される行為だ。そこへ急加速と飛行を行えるこれらの魔法を行使すれば当然万全には決まらない。確かな技量で身体の右側を引っ掛けてしまったものの先ほどよりは大分マシな結果だろう。
「へぇ……?どうなってるの、それ?どう見ても純正の吸血鬼だったのに。」
私の行った種族魔法の行使に驚いたのだろう銀髪くん。けれどそれでも手を緩めずに私へと果敢に攻撃を行ってくる。ああ、それは普通ならば正解だろう。私は確かに窮地を脱し、今や相手と同じく飛行手段を手に入れたものの技量に関しては未だあちらの方が上。これでもまだ打ち合えば負けるに違いない。
だが私はそもそも真っ当な技量比べなんてやるつもりはなかった。猫人族の種族魔法である『夜の瞳』を起動して目的の地点を見つけ出すと同時に身体の向きを整える。今の私には固有魔法だけでなく種族魔法だって能力対象であるがゆえに、その魔法から銀髪くんの種族だって分かってしまう。
『天の翼』、『韋駄天』、『夜の瞳』、『救助山羊』、『火の粉』、『鉄の声』――――翼人族、猫人族、山羊族、小人族、4つの種族が混じっているとは随分と混血が進んでいるものだと思うもののそれはそれ。思わず都合がいいとほくそ笑んでしまう。彼が種族魔法が不得手であることがはっきりと分かったのだから。
「さぁ、斬り合いの勝負と行こうじゃないか。」
「へぇ、随分と強気だね。じゃあ遠慮な――――く!!!」
私の元へと突撃してくる銀髪くんの動きを『夜の瞳』で捉えながら、彼が今まで使用してこなかった種族魔法のコンボ、『天の翼』と『韋駄天』を同時に使用する。瞬間、身体にかかる圧倒的な負荷、何がに追突した痛みと、身体を鋭利な何かが感触。
ああ、彼がこれを使用しなかったのも理解できる話だ。速すぎてとてもじゃないがコントロールできない。これではただの突進である。―――だが今回に限ればそれでいい。『吸精』が得意な私は相手に触れるだけでこの魔法を行使できるし、まだギリギリ『再生』で1~2回蘇生する分の魔力は残っている。
「なっ、くっ、斬り合いって話はどこだい、全く。無茶苦茶するな…………あ?」
「くははははっ、敵の言うことを信じたとでも?いいや、そちらはきちんと警戒していたじゃないか。とはいえどうやらガス欠で上手く行かなかったようだがな?」
このコンボの更なる欠点、クォーターゆえの燃費の悪さが彼に牙を剥く。私たちの翼が消え、重力が想定通りの動きをしようとするのだろうが、その前に仕事をするのは慣性の法則だ。勢いよくぶつかった身体が空中でぐるぐると回転し、私の視界も遊園地のびっくりハウス状態。しかもあちらには魔力切れ特有の倦怠感と脱力感だって襲っているだろう。
そして私も運動は不得手ではないものの、こんなアクロバティックな動きに対応できるほど人間を辞めているつもりはない。結果互いになすすべなく空中をぐるんぐるんと転がっていく。ついでに吐き気も込み上げてくるが、さすがにこれに『再生』を使う魔力の余裕はない。……まあいざとなれば銀髪くんにでもかければいいか。あ、でもあっちに掛けられるのは嫌だな、どうしたものか。
「ぐっ、まず……!!」
「がぁ!?」
そんな私の心配に応えてくれたのだろうか?横合いから暴風によって吹き飛ばされた鉄の塊が私と彼を強打し、そのまま分離させる。その拍子に転がってきた鉄を掴んで魔力を『吸精』したのだが、その結果として私は思いきり地面に衝突した挙句に鉄の塊が衝撃で身体へと突き刺さっていく。
猛烈な痛みと吐き気にのたうち回りたくなるものの、キャラクター性を維持するためにぐっと我慢。そして傍に居たルーニャちゃんの『再生』を使いつつ私は可能な限り強そうに見えるよう意識ながら立ち上がった。
「ああ、よかったよ。狙い通り合流できた。あるいは間に合ったと言うべきかな?では諸君、第二ラウンドを始めようか。」
身体と衣服を血に染めながら吸血鬼としての不死性を見せつけた私を、空に浮かぶ雲に囲まれた孤独な月が照らしていた。
自分の弱さを受け入れることでパワーアップ、というとまだかっこよく見えるかもしれない……?




