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虎の威を借りる吸血鬼  作者: トカウロア
交易都市への道程編
41/46

第四十一話、何で逃げた先でこんなに戦わなければならないのか②

時間かかって済まぬぇ……



 大きく長く醜い化生の顔面。鋭く伸びた犬歯に赤く染まった眼光。耳は四つ、顔の側面に付いた長い耳が二つに、それぞれが触手と化した髪の毛の上に伸びる白くて垂れた耳と短いがピンと伸びる黒い耳の非対称。首から下は驚くことに一般的な婦女子のそれであるが、だからこそ余計に悍ましさが募る。


 その化け物の大顎での一撃を辛うじて手にした大剣で受け流した子犬族(コボルド)にしては大柄な男が、そのまま剣を滑らせてその首を断とうとする。だが硬質化し伸びた首がお返しというように大剣を受け流し、そのまま剣をかすめ取ろうと首を絡ませる。


 間一髪のところでその動きを察知した男は剣を大きく横に振ると同時に足で伸びた首へと蹴りを放つ。そこへ首から突如として伸びる紅い血液でできた細槍。頬を掠められるものの間一髪で攻撃を受けるのを回避した男が剣を細槍にぶつけつつ、その時の衝撃で飛びのいて距離を取る。その間にあちらも引くことを選択したようで首を元の位置へと戻し、姿が可愛らしい女のものへと回帰させた。




 仕切り直された戦場へ参入するのは、どこぞの駄目吸血鬼(ヴァンパイア)であれば世界観に合っていないと文句を言ったであろう鋼の兵士たち。四脚の車輪が付いた足を駆動させながら心臓部分の炉から魔力を噴き出し、手に持った剣を掲げて疾走する金属の騎士の群れが、身体を多種多様に変化させる混沌の怪物を刈り取るべく現れた。



「……またそれですか。」



 未知の技術による優位性、被造物であるがゆえの安定性と量産性、金属製に『強化』(ブースト)が合わさったゆえの硬い身体、高速振動を繰り返すことで飛躍的に切断能力を高めた武器。名を先行試作型魔導式機械兵近接一型というそれは、個人の能力こそが猛威を振るうこの世界の法則を多少なりとも覆すだけの可能性を秘めていた。



「まったくこれだけ倒してるのにまだいるだなんて、すごいですね。どれだけ連れてきたんですか?」



 だが個として突出しているわけでも無限に近しい再生力を持っているわけでも、特別な一発逆転の固有の力を持っているわけでもない、()()()()()()()()である彼らは、この場における怪物たる彼女には叶わない。



 まず『飛行』(フライ)を利用して空中へ移動。そこから刃に触れないように『半液状化』(スライバル)によりスライム状になった両手を伸ばす。伸ばした腕をさらに分裂させながらその体積を『巨大化』(ギガント)の応用で増しつつ機械の体躯を絡めとる。そして炉の魔力を『吸精』(ドレイン)で吸い取りながら隙間に入り込み、形状を変え『硬質化』(ハード)によって硬くして、『金剛力』(ハイパワー)を以て内部の機構を破壊していく。


 これだけ倒している、という彼女の言葉が示す通り周囲にはその動きを止めた機械兵の残骸たちが転がり、無残に変形してしまったその内部を月の光に晒している。世界を革新させるほどの可能性を秘めたその兵器はけれど、天然の怪物の前にはただのガラクタにしかなれないということをこれ以上なく雄弁に証明していた。



「……無限というわけではないからもっと手加減して欲しいのだけれど、ね!!」



 突入させた機械兵たちが簡単に倒されたことを苦々しく思いながら大剣を持った男がその対処の隙を狙い己が固有魔法を発現させた。掲げた大剣が眩く光る。剣が斜めに振られる。剣閃の軌道を描きながら前へと進む光輝の奔流。触れたもの皆全て蒸発させんとする暴威の光線が、この場の怪物(強者)人間(弱者)を入れ替えた。



「ぐぅぅぅぅぅ……!!??」



 泣き別れる胴。中心部が消滅し、崩れ落ちる身体。維持できなくなり飛散した肉の断片。一撃を以てそれを為した魔法の名は『光輝の剣閃』(シャイニングブレード)。大剣を振るう男―――ルエド・アルテリアの持つ太陽や月の光を己に貯め、手に持った剣から光線として放つ固有魔法である。


 だが敵手の身体が分割されたのを見た後でもルエドは手を緩めない。分かたれた身体に牽制のように『魔弾』(マジックショット)を放ちながら『韋駄天』(ハイスピード)にて高速接近、そのままさらに敵手の身体を両断しようとする。攻勢はそれだけではない。逃げ場を詰めるように後ろに回された機械兵たちが振動する剣を前方へと構える。もし何等かの動きを彼女が行ったとしても、鋼鉄の兵士の群れはそれを剣戟を以て止めるだろう。


 正しく必殺の布陣。例え強力な吸血鬼であろうと強力な一撃からの連続攻撃の前に再生力が尽きるであろう陣形。少なくとも今討伐されようとしている彼女、裏社会でまことしやかに噂されるシェイプシフターという魔人の『再生』(リジェネ)ではこの局面から脱出することはできない。








「ふふふっ、取った、と思いましたか?」



 そう、『再生』(リジェネ)ではこの局面か脱出することはできない。けれど忘れる勿れ、彼女の異名は()()()()()()()()、数多ある種族魔法という手段を組み合わせる変幻自在。今の雇い主である吸血鬼(ヴァンパイア)にとっては生命線に他ならない『再生』(リジェネ)も彼女にとっては便利な手札の一つに過ぎない。



「「「アオォォォォォォォォォォン!!!」」」

「ぐっ、これは――――!?」



 分かたれた上半身の至る所に生成された数多の口が一斉に金切り声に近い雄叫びを上げる。身体が液状化すると同時に一気に膨れ上がる。そこへ突き刺さった振動剣に対して発動する爆発。首から上だけではなく、完全に異形の不定形生物とした彼女がそこに居た。



『超音波』(ノイズ)『月光浴』(ムーンタイム)『半液状化』(スライバル)『巨大化』(ギガント)『尾爆弾』(テイルボム)。くっ、噂に聞いていたが、これほどとは―――――!!」

「ふふっ、お褒めに預かり光栄です。」



 『超音波』(ノイズ)によって動きを封じられ、一時離脱を強いられたがゆえに未だ生存しているルエドは、己の判断ミスを悔やんでいた。元々彼の役目はここで彼女を足止めすることだった。これからメルマークの街を攻めるにあたり不確定要素となる集団を排除するために戦闘を仕掛けた彼らはまず、この集団で最も強い存在―――――何故かこの一団に同行していたシェイプシフターの対処を考えた。


 その結果として一人は大量の機械兵の監督を行いつつ少し離れた地点で待機、正面戦闘力に優れたルエドがシェイプシフターが彼女の脚止めを行い、そして最後の一人、暗殺者として高い技量を持ちシェイプシフターとの交戦経験もあるものの相性はあまり良くないハイドが吸血鬼(ヴァンパイア)の女の首を断って速やかに帰還、2対1に持ち込むというのが本来の作戦だった。


 そのため彼は時間稼ぎのために技や戦力を小出しにする戦法を取っていた。だがその戦法がシェイプシフターの戦法と噛み合ってしまう。そもそも彼女は分析型、相手の戦力や手札を分析し多彩な手札と経験から有効な手段を取ることを得手とする魔導士だ。ゆえに小出しにした立ち回りは相手に情報を与え、細かに挟んだ奇襲は地力の高さで乗り越えられてしまう。ついでに何故かハイドの合流が遅れているのもこの状況の天秤を彼女側に傾けていた。



「(しまった。これなら、初手で出し惜しみなく攻めたほうがマシだった……!)」



 だが対するシェイプシフター、現在の偽名をルーニャ・ステイアハートという彼女もまた、その余裕そうな態度とは裏腹に中々辛い状況であった。まず先ほど切ってしまった狼人族(ウルフ)の種族魔法『月光浴』(ムーンタイム)の存在。


 この魔法は月の光を貯め込み、雄叫びを発することで短期間の爆発的な出力へと変換する魔法だ。ゆえに先ほどの危機を脱出するために使用してしまったことで再使用にはまだまだ時間がかかる。次に似たような危機が発生した場合に頼ることができないのである。


 そしてもう一つ彼女を追いこんでいるのは職責、つまり護衛の本分だ。そもそも機械兵などという未知の軍勢を操る存在がまさか自分だけに何かをしているとは思えない。実際、少し離れた場所からはキャンプの皆と誰かが戦っている音が聞こえているし、何故か一人で出て行った彼女もきっと今頃襲われていることの予想は付く。


 だが優位に立てているとはいえ数の利を取られていることと、相手の固有魔法を離脱しようとして無防備に直撃を受けてしまえばそれだけで勝敗が決してしまうことを考えると大胆な行動は行えない。そしてジリジリと距離を詰めていこうにも護衛対象のイオカルが割と遠くに行ってしまったため、普段ならともかく今の状態ではかなり絶望的な溝が開いている。どころか、より近い方のキャンプであっても戻るのは中々難しいだろう。



「(時間稼ぎだと分かっているのに……乗るしかない、ですか。)」



 結果としてお互いにお互いを不利と認識しながらもその袋小路から抜け出せない膠着に陥っていた。ゆえにお互いに致命的な一線を越えないように立ち回りながら機を狙い合う。示し合わしたかのような戦いの舞踏。けれどその中で天秤を傾かせられるほどの手札がないわけではない。だが――――――



「(消耗度外視で攻めれば倒せる、とは思いますが、しかし後が続くかどうか―――)」

「(どうする?『光輝の堅盾』(シャイニングシールド)を使うか?しかし隠し札を全て失ってしまえばもう後が―――)」



――――――それを切ってしまうには状況が不透明でリスクが高い。両者ともそう認識しているがゆえにこそ天秤は動かない。ただ一定の傾きを維持したままそれ以上どうなることもなく続いていく。光を操る剣士と千変万化の怪物の戦いは、何等かの新しい要素の乱入を待つばかりとなった……。
























「くそっ、なんなんだ、何なんだこいつらは!!」

「堪えろ、前を向け!死ぬぞ!?」


 イオカル、ルーニャが続けていなくなったキャンプ。上がり続ける怒号と耳慣れぬ駆動音。大量の血を垂れ流しながら倒れ伏す骸。突然沸き上がってきた未知の敵を前に残った面々は、残酷な世界の法則を突きつけられていた。


 そう、ルーニャにとっては冷静に手札を切れば対処できる敵であろうともこの場にいる彼らにとってはそうではない。そもそも領主が時に内外から腰抜けと揶揄されるほどの穏健的融和派であり、ろくに戦争を行ってこなかったアヴラパヴァンの領地出身。彼らは決して弱いとまでは言わないものの戦士としての質で機械兵に劣っていた。


 無論、街の外へ出てモンスターと戦ってきたものも何人かは存在する。だがその中でも最も強く固有魔法を使用出来たテータイは今は居らず、一定以上の領域の戦い、1つ以上の固有魔法を使用できる魔導士たちの戦場において、魔導士に満たないものが戦果を上げるには何等かのプラス要素が必要だ。


 そして機械兵たちは技術、振動剣、素の性能というそれらを有し、対するキャンプ側の者たちは持っていなかった。唯一の魔導士たるルブラリエの『森の癒し』(フォレストヒール)は山の上という立地にゆえに力を発揮できず、魔導士としての力量で『魔弾』(マジックショット)を放つことで精一杯。


 一人、また一人と減っていく人数。回復しようにも振動剣で致命傷を与えられてしまえば、余程『強化』(ブースト)に優れていでもしなければどうにもならない。はぐれた二人がどこへ行っているのかという疑問を考える暇さえなく、ただ必死に目の前の敵に死力を尽くして当たらなければ、否、死力を尽くしてなお死者が増えていく。






「すまねぇ、テータイによろしく言っておいてくれ!」

「ま、待ってくれカゲル!!よせっ!!!」



 前線で必死に武器を剣を振るっていたテーツイ。彼が放った大振りの一撃は機械兵1体の頭蓋を何とか弾き飛ばし亡き者へと変えた。だがそんな大技は当然のように隙を生む。そしてそれを機械兵が見逃すはずもなく、そこへ致命の一閃が振るわれた。


 けれどそこに飛び出したのはカゲル、この集団の中で最も街の外に精通していた一人である蜥蜴人(ドラゴニュート)。弟を友人から託された彼は、それゆえに自らの身を顧みずに身体を前へと進める。


 上がる血飛沫。独特な機械音と共に削られ切断される骨。誰が見ても助かるはずがないと分かる絶望。それでも彼は決死の想いを振り絞り自らの尾を機械兵の首へと巻き付けた。


「――――!」

「ははっ、てめぇらが何かは分かんねぇけどよ。悪いが一緒に魔王ナイトリア様の御許へ来てもらおうか!!」


 発動するは種族魔法『尾爆弾』(テイルボム)。本来ならば切り離した尾を使用して行う爆発攻撃だ。いずれまた生えてくるとはいえ、戦闘中に生え変わるようなことはない尾を利用したそれは当然戦闘中に複数回使うことなどできず、また自身の身体の一部という魔力を多分に含んだ部位全てを使って一気に放出するこの魔法は威力も高い。正しく蜥蜴人(ドラゴニュート)たちの切り札と言えるだろう。


 その切り札を自ら身の危険も顧みず、あるいは顧みる必要すらなく放たれた決死の一撃は、カゲルという男の最期の輝きを、歩んできた旅路の終焉を大輪の花火のように彩った。


 放たれる轟音。可能な限り魔力を込めて行われたそれは常よりもさらに威力が高く、尾を巻き付けた眼前の敵はおろか、その残骸が爆風により射出されることで他の機械兵たちにすら損害を与える。この一手が不利に傾き、今まさに滅びようとしていた彼らにとっての微かな希望になることは間違いなく―――――――――――







「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」



―――――だから一体なんだと言うのか。


 助かった。希望が見えた。攻める隙が、建て直す隙が生まれた。ああ、それは事実だろう。だが、だがそんなことは彼にとって何の慰めにもならない。兄の友人が、優しくこちらをフォローしてくれていた頼れる仲間が、ニカッという擬音が出そうなその特徴的な笑みが、もう二度と日の目を浴びることはないことに比べればもはや全てがどうでもよかった。


 涙が止めどなく零れ落ち、喉はただひたすら絶叫を迸らせる。敵を倒すことに焦り致命的な隙を晒した挙句彼に庇われた自分のなんと情けないことか。振動剣による一撃を、自らが放った爆発を、それによる金属片を後ろに被害を出さないようにと全て受け止め力尽きた彼の身体のなんと惨いことか。


 テーツイは怒りが込み上げて仕方がなかった。けれどそれが自分に向けたものか、それとも目の前の敵に向けたものか、あるいは世界に向けたものなのかも判断が付かない。ただ身体を奔る激情が何もせずにいることを許さなかった。


 そしてその爆発的な感情の奔流が、ここに一つの必然(奇跡)を産み出す。無論、彼には人間(ノーマル)の血など一滴も流れてはいない。それは『決意の灯』(スピリット)を、ピンチをチャンスへと変える奇跡への切符を使うことができないということ。


 けれど、そうけれど激情によって力を目覚めさせることに種族だの才能だのという資格は必要ない。火事場の馬鹿力を発揮するのは断じて人間(ノーマル)だけの特権ではないのだ。


 古来の魔導士曰く、固有魔法こそもっとも簡単にして単純な魔法である。何故なら固有魔法とはただ()()()()()()()()()()()()に他ならないから。ならばこそ、今この時にそれを持ち出せぬはずがない。



「吹き飛べ!潰れろ!!糞共がぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



 発現する固有魔法。突如として現れた拳状の可視化された衝撃が、周囲を囲んでいた機械兵たちを吹き飛ばす。そしてその程度で彼の怒りと嘆きが収まるはずもなく、当たり前のような追撃が体勢を崩した彼らに上から襲い掛かった。


 対抗するも連続で行われる衝撃にひしゃげていく鋼鉄の身体。安定性のために用意された四脚の足もまたそれに抗うに足りず。予想外の反撃を受けて慌てて増援が駆けつけるも何のその。範囲と威力に優れたテーツイ・ウイドルメンの固有魔法『暴風の鉄槌』(ストームハンマー)の前に、雑兵のように薙ぎ払われる。


 二つの膠着した戦場に先駆けて、ここに新たな暴威が誕生した。




やはりイオカルさん出てこないとシリアスになりますね。

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