第四十話、何で逃げた先でこんなに戦わなければならないのか①
遅くなりました(いつもの)
「へぇ、驚いたな。まさか首を刎ねても蘇れるほどの吸血鬼だったなんて。どうしてアヴラパヴァンから逃げてきたんだい?残っていればきっと助かっただろうに。」
今にも消えそうな気配を持ち、とても朗らかなのにこいつきっと裏切るぞと言わんばかりの顔と声をした銀髪の少年に視線を飛ばす。優しそうに話しかけてきてはいるが、先ほど私の首から上と下を見事に分割してくれやがった奴だ。油断などできそうにもない。というか普通に怖い。
「まぁな、私も多少は戦える。ゆえにいれば助かったのは間違いないのだろうが、だからと言っても誰もが戦いたいわけではないだろう?かくいう私も逃げてきたのはこういう目に遭わないためにだったんだが―――」
飛んできたナイフを躱しつつ、素早く魔法を発動させる。発動させるのは『陽炎歩き』、目の前の銀髪くんの固有魔法である。私の『無対価利用』の特性上どういう魔法かまでは分からないが、おそらくは銀髪くんの気配が少し目を逸らしたらいなくなってしまいそうなほど薄いことと関係があるのだろう。
「――なぁ!!」
魔法を発動させた直後、私は後方へと蹴りを繰り出す。武術の類などお母様との訓練で身に着けさせられた見様見真似のものでしかない。だから銀髪くんから目を離さなかったことによって彼にカウンターとして攻撃を放ったとしても防がれることは仕方がない。
だが彼は恐るべきことに私の攻撃を実に楽しそうに嗤いながら切断して見せる。その直前の少し驚いたような表情はどう見ても不意を突いたことを示しているはずなのに、だ。
「おっと危ない。冷や冷やしたね、お返しだよ。」
「ぐっ、がぁぁぁぁぁぁ!?」
血が空を飛び、切断された私の足の断面が視界に写る。熱のような痛みを感じながらすぐさま足を『再生』で治しつつ、『血液操作』で細い槍のようにした血液を複数本伸ばしていくくものの、それらは月明りを反射する銀色が数度踊ることで全てが無へと帰す。
ならばと『影絵の獣』で烏の群れを作り追撃したものの、それらも躱され、刃によって刈り取られていく。どころか私の方へ何本も投げナイフまで投擲される始末だ。
……ところでフィクションで投げナイフとか使うキャラクターってちらほらいるが彼らって戦いが終わった後に回収しているんだろうか?それともその場で使い捨てなのか?如何にもスタイリッシュです、と言わんばかりの彼らが屈んでナイフを回収するのも中々にシュールだが、だからといって使い捨てもなんとうかこうとてももったいない気がする。投げナイフとは戦っている時のかっこよさとは裏腹に戦闘後に美麗さか懐にダメージを与えてくる諸刃の剣だったのか。なんと言うか白鳥が水中で物凄く足を動かしているのを見てしまった気分だ。
「痛そうな叫び声とは裏腹にちゃんと外れても二の矢、三の矢を放ってくる。どころかせっかく切ってあげた足ももう治ってるうえに発動してるのは同系統の固有魔法、だなんてやっぱり厄介だね、君。警戒しなきゃいけないのはシェイプシフターくらいだと思ってたのに。」
「……痛そうじゃなく本当に痛かったんだがな。それにしてもシェイプシフター、ねぇ。確かに似合いの渾名だが、そんなに有名なのかあの子は。」
「おや、知らなかったのかい?」
「生憎箱入りでね。そういう方面は詳しくないんだよ。だからもっと花を愛でるように扱ってほしいんだが。」
「あははっ、悪いけどさすがにそこまで慢心しきれないかなぁ。」
中空で接触した『魔弾』とナイフが衝撃を伝え合う。ほとんどの攻撃は躱され、当たりそうなコースのものはナイフによって霧散させられる。どころかこちらに正確無比に飛んでくる刃。夜目の利く吸血鬼でなければ見失ってしまいそうなその銀色をなんとか見つけ出して撃ち落としていく。
辛さのせいで冷や汗が一滴、額から流れ落ちる。周囲に展開できる魔法である『魔弾』が何故投げナイフと戦っているというのに押し切れないどころか一歩間違えれば押されてしまいそうになるのか。この世界は理不尽だ。けれどだからといってやられてやるわけにはいかないと、不満を押し込めて前を向く。理不尽とは押し付けるものであって押し付けられるものではないのだから。
「そもそもなんで狙ってきたんだ?できることなら話し合いで解決したいんだが、なっ!」
気合を込めて増やした攻撃の応酬を行いながら少しずつ私は距離を取ろうとし、銀髪くんは逆に詰めようとする。固有魔法の情報と取り回しだろうが、再生による魔力枯渇だろうが、隙を突いた一撃狙いだろうが私の戦法はどこまで行こうと時間経過有利。だからこのまま会話を続けて時間を稼ぎたいところ。できれば攻撃の手が緩んでくれるとなおよし、だ。
「やだなぁ、逃げられるかもしれないのに言う訳ないだろう、そんなこと。あ、それとも冥途の土産って奴かい?諦めて死んでくれるんなら話してもいいんだけど、どうする?」
「ははっ、受けるわけないだろう?情報は気になるがそれで自分が死ぬのなど論外だ。」
「だよね~。」
だがそんな私の期待を打ち砕くように一切衰えないナイフの雨。どころかこちらの動きを学んだせいか、あるいはこちらの『陽炎歩き』に慣れてきたのか、さらに精度が上がっていく。
というか銀髪くんは一体何本ナイフを隠し持ってるんだろうか。懐?から出す動きが早いのと『陽炎歩き』の隠蔽効果でどこから出してるかもちょっと自信がなくなるほどだ。こんな物騒な仕事ではなくマジシャンとかやったらどうだろう?そっちの方がお互い平和に生きられると思うんだが。
「ちなみにちょっと聞きたいんだが、もしかしなくても他の場所、というか私が居たキャンプの方にも襲撃かけてるよな?」
「ははっ、耳がいいのかな?それとも状況判断?どちらにせよ、良い性能してるね、君。―――やっぱりここで死んでもらうしかないみたいだ。」
「うぉぉぉ!?はやっ、いきなり速い!?というかやっぱりも何もさっきから殺す気満々だろうが!!」
話を続けるネタにでもと少し鎌をかけてみたらどうやら大当たりしてしまったらしい。いや、それともずっと機を狙っていたのだろうか。今までの速度を明らかに越えた速度でこちらへと迫る銀の影。しかも一直線ではなく左右に動くことで『陽炎歩き』を利用し、私の視界から外れ切ろうとしている。視野を広く保つ技法を身に着けていなければとっくの昔に認識の外へ行かれていただろう。
移動しながらも間断なく放たれ続ける銀の刃。増え続ける血と傷と痛みという名の電気信号。もはや私は牽制さえも間に合わず辛うじて距離を詰められるのを逃げることで遅らせるだけ。しかもそれだけではなく何故か段々と身体のキレが悪くなってきており――――
「ちっ!毒、それも麻痺毒か!?」
「―――正解だよ。」
それが刃に塗られた毒によるものだと認識し、急いで『再生』を応用して解毒する。余談だが魔法のメカニズムがどうなっているのかは私にはいまいち分かってはいないのだが、これに限らず魔法というのは熟練度や発想によって応用が効くらしい。頭の中で毒を受けた時の『再生』の使い方を態々毒を投与した状態の私に雷撃と共に教えてくるお母様の記憶を追い出し、次の手を打とうとした。
「はい、二回目。」
だが限りなく速やかに行ったはずの私の対処でさえ彼にとっては隙だったらしい。私に追いついた銀髪くんはそのまま刃を振るう。こんなに至近距離だというのに固有魔法により種族すら分からない風貌。捉えられない斬撃。もはや私にそれを防ぐ術はなく、再び泣き別れさせられる私の首。いくら『強化』があろうともあまりにも鮮やかに首の骨ごと切断して見せるその攻撃は確かに積み上げた技量を感じさせた。
「分かってるよ、まだ終わってないんでしょ?」
だが私の首を刎ねた程度で彼の攻撃は終わらない。そのまま刃が二度三度と振るわれていく。私の首が刎ねられてまだ地面に落ち切っていないというのにあまりにも当たり前のように攻撃は続く。苦し紛れに出した『影絵の獣』の大型犬もそれがさも当然であるかのように一瞬で断ち切られて消失し、『魔弾』は発動する機会さえも許されない。
それだけではなく、先の『再生』の時に私が首からではなく残った身体の方から再生していたのもきちんと確認済み。ゆえに彼は私に『再生』を使えないほどの傷を与えるために、あるいは魔力を枯渇させるためにその刃を振るうのだ。
放たれる斬撃で私が切断されていく。まずは両手、次に両足を、より細かくなるように丁寧に四肢を削り取っていく。行われる私の解体ショー。解体、解体、解体、解体解体解体、解体解体解体解体解体―――――――
「―――――ようやく隙有り、だ。」
「なっ、馬鹿、な……!?後ろからっ!?」
地面に転がった私の頭部から放たれた血の槍が無防備な銀髪くんの左足を貫き、彼の肉体の内部で形状を変えて傷を広げる。事態を認識するために揺れる瞳から私が消えたその瞬間に発動する『再生』。大急ぎで作られた牙が銀髪くんの首筋へと突き刺さり、その血と魔力が私の糧となっていく。
「これで形勢逆転、と威張ってもいいんだが……いやはや、ここは素直に褒めておこうか。よくあそこから脱出しきれたものだ。」
「あはっ、あはははは……おほめに預かり恐悦至極、とでも返しておこうか。」
私の逆転への一手。流れた血を地面に伝わせそれを地面に転がった私の顔へと接続し、増やした血液量を用いた行った『血液操作』による一撃。本来なら心臓付近を狙ったはずの一撃は、けれど彼の咄嗟の機転により致命の一撃とはなりえなかった。
詰めるために行った二の矢こと『吸精』も再度首を刎ねられたことで不完全。ある程度は回復できたものの、三度の死から再生に使った魔力は回収しきれず、このまま戦うのは不味いかもしれないという予想が脳裏を過る。
だが状況が悪いのは私だけではない。むしろあちらの方が深刻だろう。左足が傷ついたことで明らかに機動力は落ちているだろうし、今だって出血が止まっていない。私に血を吸われたことと相まって体内の血液量が足りているかは怪しいし、『陽炎歩き』がいくら燃費がいいと言っても『吸精』で大きく魔力を失ったことには変わりないのだから。
「さて、どうかな。このまま続けると仮に勝てたとしてもそちらも被害は大きいはずだ。ここらでやめにしないか?私としては殺されかけたから応戦しているだけで特に君に思うところは―――まあそこまでないし、君だってこんなところで死にたくはないだろう?」
そして、否だからこそ今が停戦を持ち掛けるチャンスだ。確かに現状では私が続ければ高確率で勝ちそうではあるものの、必ず勝てるとは言い難い。あちらにはもしかしなくても隠し札の一つや二つくらいありそうだしな。というかまだ種族魔法を使っていないのでまず何かしらはあるだろう。
それにそもそもこの手の交渉は天秤が揺れ動いている時にこそ行うべきものだ。どちらかに傾いた状態でおこなれるのはもはや交渉ではなく命乞いか脅迫なのだから。
……もちろん殺されかけたことによる怨みとか隠蔽されているのに分かるほど顔がいいことに対する嫉妬とか、そういう負の感情の色々がないわけではない。また時間を襲ってくるかもしれないという不安もある。
けれどそれでも私は死にたくはないし、何度だって言うが痛いのは嫌なのだ。だからここで矛を収めてくれるというのならそれに越したことはない。そもそも私は戦闘者ではないのだし。世の中で重要なのは妥協だと思うのだ。だが―――――
「やだなぁ、つれないこと言わないでよ、お姉さん。ここからが面白いんじゃないか。」
――――私が平和を求めているからと言って相手もそうだとは限らない。そして平和というのは双方が平和を維持しようとしなければ築くことができないのだ。
『陽炎歩き』でも隠しきれないほど歪んだとても愉しそうな表情。麻痺毒さえ塗っていなければナイフで舌なめずりでもしていそうなその顔はどうしようもないほど雄弁に停戦を受け入れる余地がないことを示していた。
いやそれだけではない。こちらへと一直線に駆けてくるそのスピードは片足が傷ついているというのに万全な頃と比べても衰えがない。いやむしろこちらの方が早くなっているのではないかと錯覚するほど―――いや、錯覚じゃない!実際に速くなっている!原因は一体―――――
「―――『天の翼』を利用した加速!?翼人族、いやハーフかクォーターか!?」
仕切り直したにも関わらず恐るべき速度でまたしても彼我の距離を詰められる。その速さのせいで刃を扱う技術の鋭さに陰りが出ることを期待するものの、当然そんなこともなく。私が雇っている用心棒を思い出すような愉しそうな声を聞きながら私の首は四度目の分離を迎えるのだった……。
一話の中で3回も首刎ねられる主人公がいるってマ?




