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虎の威を借りる吸血鬼  作者: トカウロア
故郷脱出編
4/46

第四話、四話目で修行回とか早すぎるし何より痛いので金輪際やりたくない

バトル描写って難しいですね(白目)。


 振るわれる大きな槍に身体を運ばれる。当たった腹部に痛みを感じながら宙を浮く。背中に衝撃が走り自分が壁に激突したのだと把握する。


「ごほっ!!げほっ!!」


 私は咽ながら体調を整えようとするが血でできた赤い槍が無慈悲に迫る。このままでは顔面激突コースだ。慌てて勢いよく立ち上がる。しかしそれだけでは躱すことなどできず、ただ着弾点を変えるだけ。結果、槍は再度私のお腹へと刺さるように殴打される。


 そう、殴打だ。わざと槍の先が丸めてあるため刺さることはない。だがそれは運動エネルギーが減るということではなく、当然の帰結として槍と壁に身体が挟まれることになる。痛いし苦しい。


「かはっ!!……いきなりハードモード過ぎやしないか、お母様。」

「我々は吸血鬼(ヴァンパイア)です。この程度がハードに入るわけがないで……しょう!」

「っぎゃふぅ!?」


 槍が離されたかと思った次の瞬間に思いきり蹴り飛ばされ無様に転がる私。何故こんなことになっているかと言えば、私がまたしてもフレリアちゃんに負けたのがバレてしまったからだ。当然のように御冠な我が今世のお母様。


 そもそもが旦那――言うまでもなく私とフレリアちゃんの父親のことだ――を寝取られてその相手と子供が城の中で住み始めたのだから、最近はもうずっと機嫌が悪い。そしてその子供に自分の子供がやられたとなれば、うん、まあこの程度で持っているのは十分理性的な方ではあるのだろう。ゆえに私を呼びに来たメイドから血の匂いが漂っていたことからは眼を逸らすとしよう。


 とはいえ彼女にしろ私にしろ被害を被る側としては堪ったものではない。そもそもが私は現代産まれ現代育ちの温室箱入りちゃんであってこういうどこぞの都市国家の名前が付きそうな教育は嫌なのである。痛いし。すごく痛いし。確かに吸血鬼(ヴァンパイア)には『再生』(リジェネ)という肉体とそれから事前に血を含ませておいた衣服を再生するという(ご都合主義な)魔法が存在する。魔力さえあるのなら首でも刎ねられない限りはまず死なないという強力な種族魔法だ。


 無論、フレリアちゃんとの戦いではこの魔法にお世話になることはほとんどない。なにせそこまでするような戦いではないし、基本的に彼女がいつも私の首に剣を当てて終了であるからな。……考えていて悲しくなってきた。ともあれお母様の言う通り、『再生』(リジェネ)があれば戦うのに支障はない。この魔法に関しては『血液操作』(ブラッドウェポン)などよりもずっと得意でもある。


 だがしかしここで少し立ち止まって考えて欲しい。再生するからと言って、すぐに治るからと言って痛くないわけではないのだ。叩かれたり蹴飛ばされたりしたら当然痛い。それはもう痛い。そんなことを進んでやりたいと思うだろうか?いや思うはずがないのである。つまり何が言いたいのかというと……この修行もう辛いので止めたい。


「お母様、そろそろ3時、すなわちおやつの時間だ。もうやめにしな―――げふぅ!?」


 思いきり槍で叩かれた。痛い。そしてそんなに鋭く睨みつけてなくてもいいと思うのだが―――って、げぇ!?お母様が今まで使っていた血の大槍を細槍へと変える。それ自体は別にいいのだが……厄介なのはその数と状態だ。そう、今お母様の周りには数本の血で出来た細い槍が()()()()()


 あー……なるほど、そういうのも可能なのか。いやそりゃそうか、銃として放てるということは、ある程度離れても平気であるということだものな。ところで槍の穂先が全てこちらを向いている気がするのは気のせいだろうか?


「もう少し強度を上げてから、と思いましたがそちらの方が得意だと言うのならいいでしょう。実践で掴んでみなさい。」

「いや得意って訳ではなく今の方式だときついというだけであって新しい方は未知す――――うおぁぉぉぉぉ!?」


 私の方に飛んできた二本の槍を全力で躱す。恐ろしいことに先ほどまでと違って先端が潰されていないのだ。つまり当たれば普通に刺さる。刺さっても私なら死にはしないが、だからと言って刺さりたいモノでは決してない。だが必死になり私が避けたというのに何故か今度は三本の槍がこちらに向いているではないか。


 つまりお母様はこう言っているのだろう。槍に貫かれたくなければ真似をして見せろ、と。言いたいことは分からないでもないがこれ虐待ではないだろうか?


 仕方がないので飛んできた三本の槍のうち一本をこちらの『血液操作』(ブラッドウェポン)で同じように槍を作って迎え撃つ。遠隔操作が可能ならば私にもできるはずだ。腕から血を噴出し作り上げた血の槍を勢いよく放ちお母さまの槍を迎撃する。


 同時に二本の槍の機動から身体を逸らす。キィィィンという金属音とともに私とお母様の血槍が衝突する。よし、これでこの攻撃は防いだ―――




「―――はずだった、のだが。」


 次の瞬間、私の腹部に刺さった紅い槍。痛みが私に現実を訴えかける。口から漏れ出る空気と血液。何が起きたのかと私が視線をお腹から戻すと、そこにあったのは砕かれた私の槍。ああ、そうか。押し負けたのか。理解するとともに槍に手を触れ吸血鬼(ヴァンパイア)の最後の種族魔法『吸精』(ドレイン)を行使して刺さった槍を崩壊させる。回収した魔力を用いて『再生』(リジェネ)を行使して傷を速やかに塞ぐ。


 何が悲しくて自宅でこんな目に遭わねばならないのか。本音を言えば泣きながら転げまわりたいところだ。傷が塞がろうと痛くてたまらないことに変わりがない。どうせ腹部を刺されるのならせめて痴情の縺れとかそういうのがよかった。今世の私の母であるだけあってお母様は美しいし、実に熟れたいい身体をしている。それこそ鞭とかすごく似合いそうだ。私にそちらの性癖があればワンチャンこれもご褒美になっていた可能性が……いやさすがに上級者すぎるか。


 ともあれ、そういう風に転げまわったり現実逃避をしたいのだがそうもいかないようだ。何故なら私が刺さった槍を崩壊させたあたりでまた五本の血槍がこちらを向いているからである。


「これならもう少しいけますね。」

「ちょっ、ちょちょちょ、ちょっと待ってくれお母様!?何で今三本防ぎきれなかったのに二本増やしてるんだ!?」

「三本くらいならあなたにとっては大した痛手にならないようですから。」

「いやいやいやなってる、なってる!!痛い、すごく痛いからなお母様!?」

「―――そもそもそれが余分だというのです。」


 放たれる五つの攻撃。一つ、あえて前に一歩出ることで機動から外れる。二つ、『強化』(ブースト)した左手で側面を叩き無理やり機動を逸らす。三つ、下方から掴み取る様に『血液操作』(ブラッドウェポン)を行使し、止める。四つ、躱し切れずに右足の膝を貫通する。五つ、どうにもならなかった心臓狙いの一撃が突き刺さる。


「ぐ……がぁ……!?」


 『吸精』(ドレイン)の魔法、触れたものから魔力を吸い取る種族魔法を両手で二本の槍に触れることで行使する。それと同時に傷ついた箇所を再度『再生』(リジェネ)を持って癒す。痛い。すごく痛い。足の小指を箪笥の角に思いきり強打した時を思い出すほどの凄まじい痛みだ。


「痛みなどにいちいちうろたえる必要などありません。首を刎ねられるか身体の大部分を一度に失いでもしない限り、魔力が尽きない限り、我々吸血鬼は不滅。痛がっている暇があるのなら次の行動をしなさい。そうすればあんな薄汚い混ざり者程度に後れを取るなど万に一つもあり得ません。」


 言いながらさらに六本を宙へと浮かばせるお母様。言ってることも私からすれば暴論にしか思えない領域だ。だが彼女はそんなことを気にせずに攻撃を放ってくる。さすがの私と言えどその豊満な胸を注視する余裕がなくなるほどだ。


 えっ、そんなくだらないことを考える余裕はあるのかって?当たり前だ、こういうことを考えられなくなったらそれこそ詰みというものだろう。いつだって思考には余裕を持たせておくべきなのだ。


 そんなことを考えながらこの地獄のようなスパルタ教育――というかこれは拷問じゃないか?――を受け続ける。槍を避け、弾き、絡め取り、そして貫かれる。そのたびに手で触れて槍を壊しているが、だんだんとそのペースが間に合わなくなってくる。


 貫かれる、壊す、貫かれる、壊す、貫かれる、貫かれる、壊す、貫かれる、壊す、貫かれる、貫かれる、壊す、貫かれる、貫かれる――――


 手が足りない。否、手すらも貫かれている。壁に縫い付けられた私に、けれどお母様はまだ槍を向ける。飛来する数本の槍。風を切りその赤い死の象徴は私へと迫る。その動きは不思議とゆっくりに感じられる。


 思い起こすのはフレリアちゃんとの戦い、スパイだけど優しいしツッコミ上手いし胸が大きくて可愛いからいいかなってスルーした思い出、行きつけの店で食べたエスカルゴの味、鏡の前で少し際どいポーズを取ってそれをじっくりと眺める一人鑑賞会。そうした楽しかったことや印象深かったことが鮮明に脳裏に浮かび―――


 ―――いやちょっと待って欲しい。これ走馬灯ではないか?走馬灯だよな?待った待った待った、いやいやいや。私まだまだ死ぬ気なんてないぞ?というかお母様手加減というものをしてくれないだろうか?


 あれか、もうボケたのか?吸血鬼は不老に近い種族なので実は結構な歳なのかもしれない。なんて思っていたら気のせいだろうか、視界の端で血槍がさらにこちらに放たれたのが見える気がする。気のせいでないのだとしたら人の心を読んだにせよ、普通に追い打ちをかけたにせよ、ちょっとどうかと思う。……いやどうかと思うのはその前からだな?


 いくら頑丈な吸血鬼(ヴァンパイア)と言えど普通ならこんなに槍を打ち込まれれば命が危ないというラインだ。『再生』(リジェネ)にだって限界はあるしな。とはいえこうしてやっていてもただ痛いだけだし少し賭けになるが『血液操作』(ブラッドウェポン)を利用してなんとか抜け出せないかを試すことにしよう。


 まず『血液操作』(ブラッドウェポン)の基本となるのは自分の血液だ。普段は自分の血管から皮膚を貫通させて手に出すとかそういう痛々しいことをしているのだが、私は今多くの槍に貫かれて血を流している。つまり態々そんなことをしなくとも魔法を扱えるわけだ。そして先ほどは撃ち負けたがそれは勢いやら残存魔力の差などがあったから。つまりこうしてお母様の手元を離れた今なら普通に切断できるのではないかと思う。


 私は私を貫通し、壁に刺さっている槍の近くにそこから流れた血を使って細いナイフを作り、それを切断する。場所によって時間差や角度の問題があるため斬れる時間に差があるが……しかし多少動きやすくなれば十分だ。少し外れて動きやすくなった身体を無理やり跳ね上げる。そうすれば放たれていた槍は私が元々居た場所――今の私と薄皮1枚挟んだ下の空間に突き刺さる。


 そして並行していた壁と相思相愛だった槍の切断が終了し、私は晴れて自由の身に。そこから地面を蹴ってさらに跳躍。後続の攻撃からも非難する。これで―――


「甘い。」

「がっ!?」


 ―――次の瞬間私は足場から生えてきた紅い槍に身体中を、手に足に喉に心臓に太もも――余談だが私は太ももも好物だ。たまに自分の太ももを部屋で一人でスリスリしている。今世の私は綺麗だからな、役得という奴だ。――を刺され、今度こそ身動きが取れなくなる。


「ごふっ……な、なにが……?」

「そもそも『血液操作』(ブラッドウェポン)とは単に自分から出した血をその場で操るだけではありません。このように自分から離れた血であっても再び操っている血と混ぜ合わせればある程度は再使用が可能なのです。崩壊させた後の私の血がどうなっているかにも注意を払うべきでしたね。そのようなこともできぬからあんな混ざり者に遅れを取るのです。私の娘だというのにどうしてあなたはそんなにもできないのですか。」

「ぎゃがっ!?」


 私の敗因を告げながら苛立ちを隠さずにさらに二本、三本と私が抜け出せないように追加の槍を刺していく。だが正直さすがにここまでされるといくら美人だろうが、いくらナイスバディだろうがちょっとキレてしまいたくなる。どうせ人妻で私のモノにはならんしな。


 というかそもそもなんだこのクソゲーは。なんで『血液操作』(ブラッドウェポン)の練習って言ってどんどん初見殺しみたいな新技術のオンパレードなんだ。難易度ジェットコースターか?むしろよく私ここまで対応した方だと思うんだが?


 なんというか割と真面目(私基準)にやっていたのが馬鹿らしくなってきた。なんだこれ、悲鳴上げてクリアしたらそれがノルマになる負のループとか、いったいどこの現代社会だ。もう嫌だ、痛いし、疲れたし。こんなのもうさっさとやめよう。


「お母様、私はもう疲れたので今日は帰ることにする。」

「は?何をいきなり―――」




 ―――次の瞬間、私を拘束していた全ての槍が一斉に崩壊し、私は自由の身になった。

君が最初からそれしておけばもうちょい楽だったと思う。

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