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虎の威を借りる吸血鬼  作者: トカウロア
交易都市への道程編
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第三十八話、ポーカー勝負②

すまない、遅くなり申した……



 一戦目。手元のカードは♠の8、♡の8、♠の9、♣の10、♠のA。8のワンペアを残して3枚替えるか、8、9、10の流れからストレートを狙うか、♠に揃えてフラッシュを狙うか。中々悩ましい選択だ。


 こういう時は周りに目を向けよう。まずはルーニャちゃん。彼女はいつものようににこにこと笑っている。そこにはどういう手札だったか、なんて情報は全くない。どころかこちらの方を観察さえしていそうな感じだ。如何にも慣れているという雰囲気である。やっぱり工作員相手に裏を読もうというのは無謀だったか。流石に手札の強弱は分かりそうにないな。




 ルブラリエちゃんは―――何っ!?楽しそうに笑いながら4枚替えだと!?どういうことだ!?


 今回のポーカーにはジョーカーは入っていない。つまり1枚だけ残してペアが作れるようなカードはない。だから5枚替えならともかく4枚替えをする意味はないと思うんだが。


 あー、同じ強さの役なら数字が大きい方――なおKよりもAの方が強い――が強い。どうせワンペア狙いなら強い数字は手元に残しておいた方がいい、ということか?


「ふっふっふっ……」


 だがあの自信満々な表情がブラフとも思えない。なにかあるのか?まさかイカサマを?しかしそんな気配は微塵もない。それほどまでにルブラリエちゃんが手練だと?


 何か違和感がある。なんだ、何を見落として――ロイヤルストレートフラッシュ一点狙い!?


 いやいやいや!?ないよな?流石にないよな!?




「さぁ、私の元まで来てください!!絶対勝利の福音よ!!!」




 あ、これロイヤルストレートフラッシュ狙いだ。しかも替えた瞬間露骨にテンション落ちた。演技では……なさそうだし、これは所謂カモという奴じゃないか?ともあれ彼女は余り障害にはならない気がする。


 最後に見たのはエルレリエちゃん。見るからに慣れていない様子で今も渡した役の一覧表を見ている。まあそもそもこの世界にはない遊びであったし、知らないのは当然だろう。何度も遊んで慣れているルブラリエちゃんはともかく一回見ただけで覚えきったルーニャちゃんがおかしいのだ。


 しかもその様子が余りに分かりやすいため、ちょっと注視すればその目線の動きから大体どういう役を見ているかも把握できてしまう。見ているのはワンペア・ツーペア・スリーカードにフルハウスの辺り。となればエルレリエちゃんの手元にはおそらくワンペアが揃っているのだろう。


 う~ん、これはどうしたものか。ルーニャちゃんが1枚カードを替えるのを見ながら私は何を捨てるべきかを思案する。ルブラリエちゃんはいい、おそらく左程強い手札ではないはずだ。問題は残る二人、エルレリエちゃんはワンペア以上、ルーニャちゃんも4枚残しということはツーペアの可能性が十分にある。


 となると勝とうと思うのなら少し冒険しないといけないだろう。ワンペアはまず負ける。スリーカードでも微妙なライン、とくれば目指すべきはフラッシュだ。私は♡の8と♣の10を捨て山札から2枚のカードを引き寄せる。


 1枚目は♠の3。よ~し、よし、良い感じだ。さぁ、もう一枚♠を頼むぞ。♠だぞ♠。色が同じだからって♣と間違えるなよ?私は運命の女神に細かく注文をしながら2枚目のカードを視界に入れる。


 2枚目は―――――――







――――♢のA。つまり私のペアはAのワンペアで決定だ。Aが強いとはいえワンペアでは恐らく戦えない、というわけではない。何故ならこれはポーカー。ハッタリを使うのも主題のゲームだからだ。うん、いけるはずいけるはず。




「あっ、私からですね。私は4枚上乗せしてアルカ銅貨5枚を賭けますよ!」

「うぇっ、い、いきなり!?」

「ほほう……?」


 自信満々に掛け金を上乗せするルブラリエちゃん。最低限の場代がアルカ銅貨1枚であることを考えるとゲーム的には結構大金だ。アルカというのはこの辺り一帯を治めていた件の吸血鬼の名前で、彼の統治時代に発行された銅貨だからアルカ銅貨と呼ばれている。他にもアルカ銀貨、アルカ金貨も存在しかなりの流通量を誇る……のだが、もう発行されていないから段々と流通量は減っていくと思うんだがずっと使ってても平気なんだろうか?


 その自信満々な様子に対してエルレリエちゃんがむっ、そんなに強いのかしらなんて言いながらアルカ銅貨1枚を払って場から降りる。対してルーニャちゃんはせっかくだし、ちょっと戦っていきましょうか、とコール――同額を場へと出して勝負に乗った。



 さて私はこれに乗るべきか降りるべきか。ルブラリエちゃんの手は恐らく強くない。4枚替えのためあってワンペア、性格的にもしかしたらノーペア(役なし)なこともあるかもしれない。だからAのワンペアで十分戦えるだろう。よって問題はルーニャちゃんだ。


 ルーニャちゃんが変えたカードの枚数は1枚だけ。となるとツーペアかフラッシュ、ストレート狙いだろう。このうち元からツーペアならば私の負けだが、フラッシュ・ストレート狙いなら勝ち目がある。何故ならそれらの役はどうやってもやはり揃いにくい、1枚替えなら当たる確率がストレートより多いであろうフラッシュだっておおよそ1/4の確率でしかないからだ。


 そしてそれら狙いで外れた場合なら替えなかった4枚は全て違う数字のカードであるため出てくるのは最大でもワンペアしかありえない。ここで注目すべきことは私のワンペアがAのワンペアであるということだ。つまりワンペアの中では最も強い手札である。これは……これはいけるんじゃないか?勝てるんじゃないか?




「ははっ、皆強気だな。じゃあ私もせっかくだし乗ろうか。最初だからな、景気よく行こう。」



 そう言って私も同額を、アルカ銅貨5枚を場に出した。それを以て上乗せは終わり、ついに各々の手札が開かれる。まずはルブラリエちゃん。開く手札は♣のA、♣のQ、♠の10、♡の9、♡の5―――ノーペアだ。



「えっ、嘘!?ノーペア!?あんなに自信満々に上乗せして!?」

「ふっふっふ。驚きましたか?」



 驚愕するエルレリエちゃんとそれにとても得意げなルブラリエちゃん。だが良し、読み通り私の方が上だ。というか本当にノーペアで強気に賭けてきてたのか。


 あとはルーニャちゃん。ルーニャちゃんがツーペア・ストレート・フラッシュのいずれでもなければ私の勝ち―――――――










「――馬鹿なKのスリーカード!?1枚替えで!?」

「あははっ、引っかかってくれましたぁ?イオカルさんは……ワンペアですね。じゃあ掛け金いただきま~す。」

「そんな……驚き度で上を行かれるだなんて……」

「……どっちにしろ乗らなくてよかったわね、負けてたわ。」



 一人何か別のことで驚いている子がいるが、それはともかく。替える枚数にブラフを貼る、というルーニャちゃんの作戦により私は敗北し、掛け金を失った。おそらく彼女は最初からスリーカードの役を持っていて、だというのにわざといらないカードを1枚残しておいたのだ。


 その作戦がいつも意味があるかどうかは分からない。だが少なくとも今この瞬間は有効で、しかもこの後の勝負でも頭にこのブラフがちらつくことは避けられないのだから大したものだ。私はこの一戦においてルーニャちゃんに完膚なきまでに敗北した。であれば当然―――――





「ぬがぁぁぁぁ!!お金は支払ったのだから次だ!!次やるぞ、次は勝ってやる!!」

「えぇ!えぇ!!そうですとも!!まだ始まったばかり、ここから逆転してみせますからね!!!」

「えっ、えっ、二人とも何そんなに熱くなっているのよ?」

「いいですよぉ、次やりましょうかぁ。」



―――とても悔しいのである。


 無論、金銭的な損失はそう大きくはない。アルカ銅貨5枚なんてはした金、安酒が一杯買えるかどうかという値段でしかない。だがギャンブルの場においての値段の価値は最低限の掛け金が何枚かによって決まる。


 つまりチップ5枚分は大きいものであるし、何よりもこれはいけると判断した勝負で裏を掻かれて負けたのだ。それが悔しくないはずがない。いやむしろチップよりも敗北による悔しさこそが本旨であるとさえ言えるだろう。


 だから私はこの悔しさをルーニャちゃんから今失った5枚を取り返すことで解消する宿命を背負うことになったのだ。ゆえに次こそは、と私は意気込みカードを引く。敗北を乗り越え勝利の美酒を味わうために!




 えっ、高々軽いギャンブルの一回で大袈裟過ぎるって?はぁ、何を言っているんだ、逆だ逆。軽い遊びの勝負だからこそ大袈裟にやるのだ。こういうちょっとしたことは一回一回を騒いだ方が面白い。破滅が掛かった大勝負ではないのだから盛り上げて馬鹿になるべきだろう。その結果、負けたとしても別に大きく痛手になるというわけでもないのだから。……いやもちろん負けるつもりはないがな!



「さぁ、さぁ、次の大勝負ですよ!?乗りますか、乗りませんか!?」

「あっ、今回は降りますね~。」


「ふっふっふ、かかったな。喰らえ、フラッシュだ!どうだ抵抗できま―――フルハウスだと!?」

「はい、残念でしたぁ。」


「ん、全員降りたか。じゃあ掛け金もらっていくぞ。」

「あと一枚、あと一枚さえ揃えば……」


「むっ、勝てると思ったんですが、やりますね……。」

「あ、危なかったわ。同じ役勝負とか心臓に悪いわね。」



 火のついた私とルブラリエちゃんがどんどんと掛け金を上乗せして大勝負を仕掛けつつ、それを上手く往なしてルーニャちゃんがお金を巻き上げていく。その横でちょっとずつポイントを稼ぐエルレリエちゃん(ビキナーズラック)。もちろん私もただただ負けるだけではなく、小まめに小技でポイントを取り返してはいるのだが……残念ながら収支をプラスまで持っていくには至らない。


 結果、大負けとなったルブラリエちゃんをこれ以上は駄目とエルレリエちゃんが止める形で勝負はそれまでとなり、順位が決定した。その並びと収支は以下の通りである。


 1位:ルーニャちゃん  +アルカ銅貨49枚

 2位:エルレリエちゃん +アルカ銅貨12枚

 3位:私        -アルカ銅貨4枚

 4位:ルブラリエちゃん -アルカ銅貨57枚



「あ~、負けた負けた。やっぱり要所要所で大負けしたのが痛かったなぁ。」

「いや、大負けしてるのにここまで取り返してるだけで凄いと思うわよ?」

「そっ、それは取り返せずに大損失になった私に対する当てつけですか!?」

「私何度もそろそろこの辺でやめましょうって言ったのにそのたびにあとちょっとで勝てるって言いながら続けたからよ。」

「ぐぬぬぬ……!!くっ、実際負けたので言い返せません。」

「あははっ、ありがとうございます、今日は稼がせて頂きました。」

「いつもは天使に見えるその笑顔が今日は悪魔にしか見えない、だと……!?」


 結局巻き返せなかった悔しさを感じつつ、エルレリエちゃんの様子を見てとりあえず本題の好感度稼ぎは出来たかな、と胸を撫でおろす(良かった探しをする)。ルブラリエちゃんも多少悔しそうにはしているものの別段何か負の感情を抱いている様子もないし、交流として考えてみれば大成功だろう。私としても純粋にこういったゲームをするのは楽しかった。


 ゲームと言えば元地球人の私としては電子系のゲームをやりたいという感情とかも結構出てくるんだが、まあ叶わない願望とホームシックは一回棚上げしておくとしよう。それらの負の感情があるのは本当でも今日の楽しさが陰るわけではないのだしな。お酒も美味しかったし。


「じゃあそろそろいい時間だし寝ようか。おやすみ、皆。」

「えぇ、おやすみなさい。」

「「おやすみなさ~い。」」






















 薄ぼんやりとした沈みかけの月が寂しげに光る。時折吹くそよ風は標高のせいか、肌寒さを感じさせるもののその冷たさが少し心地よく思えた。曇った空の宵闇にホーホーと響く声は梟だろうか?大き目の角ばった石が散乱し相変わらず殺風景な岩山だが、深夜のその風景は意外と悪くなかった。



 あの後気持ちよく眠りについたのはいいのだが、やはり吸血鬼(ヴァンパイア)が夜行性なせいか、あるいは思ったより高揚していたのか、日が明ける前に目が覚めてしまった。どうにも寝なおす気にも成れなかった私は寝床を他の皆を起こさないように抜け出すと、一人でこうして夜空を眺めていた。


 とはいえ私は花より団子ならぬ、花と団子の両取りを目指す者。それだけでは片手落ちだろうと大きな岩に腰かけ、懐からグラスと隠し持っていたちょっとお高めのワインを取り出す。


 注がれるワインの音を楽しみながら、どうせ一人なのだからと、『血液操作』(ブラッドウェポン)を使って指の先から紅い血をワインの中へと注いでいく。


 如何に吸血鬼(ヴァンパイア)であろうとも自分の血を飲んだりはしない。どころか人前で同族の血を飲むこともはしたないと言われる行為だ。この姿がお母様に見つかればこっぴどく怒られることは間違いないだろう。


 だが中身がどうあれ私とて処女の美少女であることに変わりはない。血液の接種だけを考えるのならば収支はどう考えてもマイナスの行為だろうが、例え自分の健康を損なっても美味しいものや好きなものを食べたいと思うのは世界を問わず不変だろう。


 喉を通過する血と葡萄の芳醇さ。背筋を駆ける背徳感が、滑らかな味わいによって増幅され、私に酔いを巡らせる。その味にうっとりとしながら遠くへと視線を向ければ多少の灯りが付いた大きな街が見える。



「あれがメルマークか。この距離なら今日か明日にはたどり着けそうだな。」



 まず感じるのは広さ。遠くだというのにはっきりと見えるということはそれだけ大きいということ。アヴラパヴァンよりも明らかに広いことを知識ではなく感覚として理解する。灯りが灯っていることも好印象だ。


 前世と違い電気などというものが汎用的な技術になっていないこの世界において夜間に灯りを灯せるというのは街の力を示すバロメーターと言っても過言ではない。つまりそれだけメルマークは発展しているということを示す。これから暮らす街が発展している、というのはとても喜ばしい。



 長いような短いような逃避劇ももうすぐ一段落だと分かる。もう一度やりたいかと言われれば否ではあるものの、思い返せばこの旅もそれほど悪いわけではないように思えてくる。皆で歩いて食べて遊んで、というのもたまにはいいものである、というのを認めるのもやぶさかではないほどだ。









 この時の私は、気分よく酒に酔いしれていた私は大切なことを失念していた。一つはよく言うだろう、遠足は家に帰るまでが遠足だ。つまりいくら近づこうが安定の地にたどり着いていないのだから、振り返りをするには早すぎたのだ。


 もう一つは運命。単に移動するだけでもトラブル続きの道中だったというのに、今までよりも険しい場所に踏み入れたというのに、その最後がただの芋虫くん程度の障害や命も大金も掛かっていない程度のギャンブルであるはずがなかったのだ。


 だというのに暢気に護衛(ルーニャちゃん)も連れずに皆から離れた私には、当然のように災厄が襲い掛かった。物音一つしなかった災厄が私に向かって小さなナイフを躍らせる。闇の中、迫る刃に月明りが反射した。けれどそれを認識したその瞬間には時すでに遅し。




「悪いね、これからメルマークを攻めるっていうのに不確定要素にうろちょろされちゃ迷惑なんだ。―――だから死んでくれるかい?」




 ゾッとする冷たさが首を通過し、私の視界が回転する。こんなにも痛いのに叫び声を上げることも儘ならない。これが走馬灯という奴なのか、緊急事態だというのにびっくりするほど緩やかに流れる時間が過ぎていく。


 ナイフを持ち優しく微笑む綺麗な銀髪の少年と、その横で噴水のように勢いよく赤い液体を噴出する綺麗な首のない女性()を眺めながら、まだ現実を受け止めきれない酔った私の意識が硬い地面とぶつかるのであった。



身体を攻撃しても再生するなら首を刎ねればいいじゃない。

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