第三十五話、ラピエルテ山②
せめて4日に一度くらいは投稿を、と思いつつも気が付けば時間が経っている……
「■■■■―――――――!!!!」
咆哮と共にこちらに迫る芋虫へと発射するのは『炎の球』―――――はないので『合成獣』経由、毒蛇人の『毒弾』!大口を開けている今なら体内へ直接毒をぶち込める!
えっ、なんで『炎の球』がないのかって?いやなんかルーニャちゃん当座の資金にするために売り払ったらしいんだよ、あれ。正直勿体ない気がするんだが……炎を扱う種族魔法もあるらしいというのが理由なんだとか。まあ単純な性能なら『炎の球』のがいいらしいので少し迷いはしたらしいが。
毒が口の中に入った芋虫は空中で悶え苦しむ――ざまぁみろだ――が、しかしそれで勢いが収まったりはしないらしい。どころか暴れる分狙いが不明瞭になって避け辛く(まあ元から避けれるかというとそうではないのだが)、しかも範囲が増えているではないか。
「えぇい、そこは大人しく身悶えして沈んでおけよ!?」
全く気の利かない芋虫だと思う私に芋虫の尾――尾でいいのか、これの呼び方?ともかく尾の部分が振り回されて高速で迫る。くっ、状況が悪いな、さすがにあの巨体だけあって『魔弾』程度じゃ方向を変えられそうにないし、面積も大きい。
かといって避けようにも今私は空中で絶賛墜落中。ちょっと動きようがない。いや無理をすれば躱せる可能性もあるがそれをすると追撃が怖いのだ。
けれど素直に受けるというのもまたよろしくない。仮に『血液操作』などを使って上手く被害を逸らしたとしても勢いは殺せないからな。私は思いきり地面に叩きつけられることになる。ただでさえ勢いが付いているのにこれ以上は避けたいのだ。ミンチにまではならないだろうが、かなり身体がずたずたにされそうだ。
だが今回に関しては案ずる必要はない。すでに対策は行っているのだ。私へと巨大芋虫の一撃が飛来するよりも早く、行っていた対策が尾を追い越して私を捉えて距離を取る。間一髪のところで回避される攻撃。体に感じた風圧がもし当たっていたら、という嫌な予感を抱かせた。
「――大丈夫ですか、イオカルさん?」
けれどそんな私の不安を吹き飛ばすよう私へと声を掛ける彼女、用意した対策ことルーニャちゃんだ。そう、私は空中に投げ出されたタイミングで口パクでルーニャちゃんに助けてくれと声を掛けていたのだ。雇い主である私の要請に彼女は従って『合成獣』まで使って私を助けてくれたという訳である。
美しい『天の翼』に、『飛行』に『韋駄天』、それから『追い風』もか。それら四種の種族魔法の組み合わせで凄まじい加速を行った彼女はそのまま空を飛んで私を救出してくれたのである。というか彼女と戦ったのが室内で良かったな。広い場所でこのスタイルで来られたらもっとヤバかったぞ……?私の攻撃が当たらなさそうだ。
「いやぁ、助かったよルーニャちゃん。ありがとう。……でもなんでお姫様抱っこなのか聞いてもいいか?」
「なんでって言われましても位置関係的に急いだらそうなっただけですよ……?というかイオカルさん、そういうの気にするんですね。」
「ううん、何と言うか縁遠いものだと思っていたからな、困惑が大きい。」
いや正直本当にされることもすることも想定してなかったからなぁ。前世でも今世でも。嬉しくは……相手がイケメンとかならみぞおちにエルボーでも決めてやりたいところだが、相手がルーニャちゃんなら割と嬉し―――はっ!?
待った、待ってくれ。ゆるふわ系ルーニャちゃんがシリアスをして、それにお姫様抱っこされるのが吸血鬼の私だと!?これは絵になる、絶対に絵になる光景だ!あああっ、何故私はカメラを持っていなかったのか!?いや待て、まだ可能性はあるはずだ。
「な、なぁ、ルーニャちゃん!!こう景色を切り取って絵にできる種族魔法はないか!?私は今から急いで頬を赤く染めるからこの景色を収めてくれ!!」
「いきなりどうしたんですか!?というかありませんよ、そんな種族魔法!?」
くっ、駄目か。残念だがここは至近距離のルーニャちゃんのフードの中の表情とか厚めの服を以てしても隠しきれない太ももとか胸とかを眺めるだけで諦めるとしよう。
あれ?よくよく考えると私もしかして要求が肥えてきたのか?これはこれでかなりのシチュエーションだと思うんだが、諦めるって自然に使っていたしな。知らず知らずのうちに贅沢になっているとは……。
娯楽や舌のレベルは高い方が教養があって良いものに思われがちだが、私は違うと思う。もちろん違いが分かるに越したことはない、それは事実だ。だが安いものやチープなもので満足できないようになるのはよろしくない。何と言っても味わえる幸福の量が減ってしまうからな。
まさか生まれ変わることでこういう女の子方面の娯楽を味わうレベルが上昇するとは。中々どうして儘ならないというべきか、面白いというべきか。まぁ、正直女の子のレベルが上がったとしても前世の方が圧倒的に住みやすかったし娯楽レベルも高かったんだがな!!要求レベル下げるのそれはそれで結構大変なんだぞ、私は!?それでもなんやかんや順応して楽しく生きてはいるが!!
「■■■――――!!!」
などと私が今世と前世の違いについて思いを巡らしている間に、どうやら芋虫くんの悶絶タイムは終了してしまったらしい。私たちの方を向いて、眼がどこについているか分からないから恐らく、ではあるけれどこちらに敵意と怒りを向けているように感じる。
「なんだ、虫けらの分際で一人前に怒っているのか?いきなり襲い掛かってきていやはや、実に良い身分なものだ。ああ、それともさっきのが美味しくてもう一度食べたいのかな?」
「■■■――――!!!」
「なんで挑発しているんですか、イオカルさん!?」
「いやどうせ意味通じないから別にいいかなって。こういうの言うと気分が良くなるだろう?」
「どう見てもニュアンスは通じてますよ、あれ!?」
襲い来る巨大芋虫。スピードもパワーも申し分なく、声を聞くだけで畏怖の念を人によっては抱かせられるのだろう。私もヤバノメにたどり着く前ならそれはもううんざりした顔を内心でしていたことだろう。少なくとも私が単独で戦えばそこそこ以上には苦戦しそうだ。
だがしかしここにいるのは恐らく百戦錬磨なルーニャちゃん。しかも私が助けを頼んだために固有魔法の制限がほとんど取っ払われている。太陽も落ちようという頃合いで、吸血鬼が受けるダメージもこの分なら左程多くはないだろう。が、せっかくだし『夜の帳』の範囲を広げてルーニャちゃんも巻き込んでおこう。多分吸血鬼である、という嘘は貫くだろうしな。
えっ、そもそもなんでこんないきなりルーニャちゃんをしっかり戦闘させているんだって?いやしょうがないだろう、そりゃ私には『再生』があるので即死はない。ないけど普通に考えて死なないからって身体を強打されて思いきり硬い地面の抱擁を受ける羽目になりたいかと言ったら答えはNOだろう?
そりゃどっかの電撃系お母様とかなら気にしないのかもしれないが、私はほら、ごくごく一般的な現代人であって、そんなものはごめんだ。辛い思いをして最大の結果よりも楽な道でそこそこの結果を選びたいタイプなのである。
それに私も何も考えずにルーニャちゃんに動いてもらったわけではない。ルーニャちゃんの力がバレた結果厄介なのは我々の扱いが悪くなることだが、そこに関して割とどうにかなると思ったのだ。
その理由はいくつかあるが、まず一つ目として彼らがかなり甘いということ。ここまでの旅の中で彼らが人を騙したり不意をうったりするのが苦手なのは分かっているし、そもそもそうでなければ足手纏いを連れて街を出ようなんて思わないだろう。ついでにその中ではマシだったテータイくんはこの場にはいない。
二つ目が彼らが我々を必要としている、ということだ。おそらくは彼らにとっても予想外のことなのだろうが、どうにもモンスター、とりわけ強力な連中との遭遇率が高い(今みたいに)。そんな状況で最高戦力である我々二名をそう簡単に捨てきれないだろう。
三つ目は単純に戦力比。ぶっちゃけ私とルーニャちゃんが揃っていれば、残り十三人と戦っても勝てるだろう。急な奇襲であってもまあ私は物凄く痛いだろうが『再生』でなんとかなるし、ルーニャちゃんはそもそも察知して反撃するだろうしな。
四つ目はこれからのこと。道筋は教えてもらったし、いざとなればルーニャちゃんに飛んでもらうという手段もあるので彼らと一緒に移動したほうが楽であっても必須というわけではない。正直別にルーニャちゃんとの二人旅になってもそこまで困らないのだ。
と、私はこのようにきちんと考えてルーニャちゃんに助けを求めたのである。えっ、別にバラしても大丈夫だとしても態々バラす必要はない?……それは、まあ、うん、そうかもしれないが、そういう細かいことは一回置いておこうじゃないか。細かいこと気にしすぎるとハゲるって言うしな。
「■■■■――――!?」
などと私が心の中で弁解をしているうちに戦況は動いていた。放たれる『魔弾』の援護射撃の雨霰。巨体であるがゆえに効きは悪いが、同時に巨体であるがゆえに避けられず細かな傷が増えてゆく。
それだけではなくルーニャちゃんが私を抱えながら器用に攻撃を避けつつ『血液操作』の剣を使って空中戦を行っていく。近づいては剣で斬り裂き、そこから素早く放射状に剣先を分裂させて体内を攻撃、相手が暴れる前に剣を手放し、一旦離脱してのヒット&アウェイだ。……正直私より『血液操作』使いこなしてる気がする。
ついでに私も攻撃をしておこう。とはいえ余りルーニャちゃんの魔力を削るわけにはいかないし……そうだな、雑に相手の魔力でも貰っていくか。私は爪の先から『血液操作』を発動。伸びた細い剣先を刺しながらそこから魔力を『吸精』していく。
かすり傷を与える程度で、肉体のダメージはさほどないし、割と簡単に刺さっているのを解除されたり壊されたりするが、しかしそれでも私の『吸精』レベルなら収支はプラスである。つまりハラスメント攻撃として優秀な訳だ。ついでに挑発をある程度理解する脳があるのならわざとらしくにやにやしておこうか。あちらの攻撃が単調になってくれれば儲けものだ。
「■■■■■―――――――!!!!!」
「いやイオカルさん!?滅茶苦茶怒ってるというか、とても攻撃が激しくなっているんですけど!?」
「ま、まあ基本全部大振りになっているから避けやすくはなってるはずだ!!」
「避けれはしますけど攻撃激しすぎて反撃する暇ほとんどないんですがぁ!?」
なんて言いつつも空を踊るように駆けながら被弾せずに細剣で斬り傷を作っていくルーニャちゃん。ついでに他の皆の『魔弾』も降り注ぎ、ドンドンと傷が増えてゆく。一発一発が例え軽くとも積み重なればいずれ死へと至ることは間違いない。だからこそこの芋虫くんはもう少し冷静に戦わなければならないんだが……そう簡単にさせるものか。
「ははっ、無様だな芋虫くん。それだけ熱心に攻撃しているというのに未だに私に一度も攻撃を当てられないとは。……もう少しスリムになった方がいいんじゃないか?」
「■■■―――――――!!!」
「あのっ!?避けてるのは私なんですけどぉ!?」
私の挑発にか、それともこの当たらない現状にかは分からないが、怒りが頂点に達してしまったのだろう芋虫くんが憎き我々を一飲みにしようと大口を開けて襲い来る。どこにそんな力があったのか、今までよりも早く、また口の大きさも今までの中で一番開いている。―――だが、それは悪手だ。
「「『毒弾』。」」
「―――――!!??」
私とルーニャちゃんによる二重の毒液が、芋虫くんの体内に衝撃を以て入り込む。意味は分からずとも苦しんでいるのは間違いないと思える悶絶の咆哮を上げ、『飛行』が切れて墜落していく芋虫くん。
力なき谷底への落下。ドスンという大きな音が響く。硬い地面の岩により裂かれる分厚い肉。噴き出す気持ち悪い色の血と思われる体液。全身に毒が回っているのだろう、悶絶さえもどこかゆっくりで、しかも段々と力が失われていくのが見て取れる。
よし、勝った。いやぁ、今回はあっさり目だったな。まあこっちにはルーニャちゃんがいるんだ、早々大変なことは―――――
「メギョリ」
―――待て、何の音だ?
驚いた私が音のした方―――倒れ伏したはずの芋虫くんを見ると、彼(または彼女)は驚くべきことに地面や岩を貪っていた。それはただの自棄ではなくきちんと意味のある行動だったようで―――
「げぇっ、そこらの岩を食べて再生してるだと!?推定『飛行』以外にそんなのまで使えるのか!?」
「っ、不味いです。皆さん、追撃を!!」
急いで仕留めなければと数多の『魔弾』にルーニャちゃんの『火の粉』――小さな火の粉の弱い散弾を発射する種族魔法――が放たれる。
だが谷底という角度の問題により届く攻撃は少なく、またせっかく届いた攻撃も硬い皮膚によって弾かれる。いや待て、奴の皮膚は確かに分厚く耐久性に優れていたが、攻撃を弾くほどだったか?
見れば奴の身体には多くの石の棘、あるいは鱗のようなものが生えておりそれが『魔弾』をいなしていく。ルーニャちゃんの『火の粉』も多少の火は付くもの燃え広がらずにすぐに消えてしまう。
「くっ、土や岩を食べることによる硬質化だと!?回復だけでなくそんなのもあるのか!?」
焦った私が『影絵の獣』で鷲を作り芋虫くんの所へと向かわせたが時すでに遅し。たどり着くころには土を食べることで突き進み土の中へ潜ってしまった。……芋虫くんはミミズだったのか。
「気を付けてください、イオカルさん。多分また私たち狙いでタックルを仕掛けてきます。」
「……挑発しすぎたかな?」
「そう思うんならもうちょっと自重して下さいよ!?」
ルーニャちゃんのツッコミに苦笑いを返しながら、私は芋虫くんがやってくるのを緊張と僅かばかり――いいな、僅かばかりだぞ!?――の恐怖と共に待つのであった……。
一応今回はルーニャちゃん活躍回ですかね?




