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虎の威を借りる吸血鬼  作者: トカウロア
交易都市への道程編
33/46

第三十三話、新たなる旅立ち

筆が遅い……うぐぐぐ……



「……で、結局十五人だけになったと。」



 数日後のヤバノメの街、宿屋から借りた部屋の中で私は部屋の中を見渡しながら話す。中に居るのは荷物を持った私含めて()()()の男女。私、ルーニャちゃん、テータイくん、ルブラリエちゃん、タックルボアと戦っていた二人を含めて子犬族(コボルド)蜥蜴人(ドラゴニュート)が五人ずつに森人族(エルフ)鴉天狗(ブラック)が一人ずつか。



「ああ。……すまないが町長との協議の結果、俺はまとめ役としてこの街に残ることになった。とはいえ繋がりを切るというわけではない。そっちには弟のテーツイを送るし、こちらが落ち着いたらまた連絡も入れよう。ひとまずの目的地はメルマークだからな。そこまでなら落ち着けば人も送れるはずだ。」



 やはりテータイくんはこれで脱落か。正直魔導士が一人減ったのは結構痛いが、まあルーニャちゃんが加入した件を考えれば収支はプラスか。そうだな、楽観的に捉えるべきだ。ルーニャちゃんを雇っているのは私だし、足手纏いは明らかに減った。全体の比率が変わり、まとめ役であったテータイくんが抜けたとなれば私の発言力はかなり増大するはずだ。うん、悪くない。悪くないぞ。


 だがリーダーのように扱われるのは嫌だな。責任なんてものは誰かに押し付けるに限る。能力という点で見ればルーニャちゃんがリーダー最有力候補なのだが、力を隠しており、また途中合流の彼女がリーダーになるのは少し難しい。そうなるとやはりこの場の流れ通りテータイくんの弟……テーツイくんとやらになるのだろう。


 しかしぽっと出の若い男にリーダー面されるのは少し癪だな。えっ、お前が興味なくて覚えてないだけで別にぽっと出じゃないどころかむしろお前より先に居ただろって?それはそれ、これはこれ、だ。それに実際この世界は前世と比べて個人戦闘力の重要度並びに世界への影響力が大きい。魔法使いがそれなりに優秀なことは否定しないが、それでも魔導士でないのならよっぽどでなければモブの領域を出ないのだ。……近接戦闘力高くて『決意の灯』(スピリット)使いこなしてくるフレリアちゃんとかはよっぽどの類な?


 だがこれは中々の難問である。場を取り仕切るリーダーに大きな顔をさせず、それでいて自分がリーダーになるようなことも、周囲の好感度を減らしすぎたりもしない方法を探さねばならないのだ。そうなってくると……そうだな、リーダーに必要なことやプランを聞いてその対応を見る、というのはどうだろう?ついでに出された案の批判点をそれとなく、あるいは正論にくるんで指摘するのだ。難しい質問を投げ、他人に意見を出させて自分は対案ではなく問題の指摘のみを行う。うむ、とても文化的現代人らしい振る舞いだ。




「……しかし人数が減って動きやすくなったのはいいが、それでも十五人だ。それにアリエリエを避けるとなると結構難しくないか?どういうルートで行くつもりだ?」


 私はあえていつもの広く視野を取るのを止めて――ルーニャちゃんとか見てたんだがな、まあ演出のためだ、仕方あるまい――目線をテータイくんではなくテーツイくんの方へと向ける。私の視線に気づいたテータイくんが口を開こうとするのをやめて、同じくテーツイくんの方を見る。


「あっ、お、俺か。え、えっとそう、だな。ラピエルテ山を経由しようと思っている。それならアリエリエを避けてメルマークへ行けるからな。それにえ、えっと多少は人が利用していることもある道だ。他を行くよりは確実……なはずだ。」


 よし、どもったな?これで少なくともスマートなリーダーという像は消えた。大きい顔もしづらいだろう。もちろんこれから次第のところもあるが、だからこそここは畳みかける。


「安全性の問題はどう考えている?確かに護らなければならない人数は減ったが、その分正面戦力も減った。数もまだ十五人、山を抜けるには少し騒がしい人数だ。モンスターとの遭遇率はそれなりに高いと思うが。」

「と、それは、その……ええと。」


 視線を彷徨わせながらどもるテーツイくん。だが回答がない訳ではないのだろう、なんとか話を思い出そうとしているようだ。意地悪にここで色々と詰めて行ってもいいんだが……さすがにそれをやると私の評判が落ちかねない。後で落ちるのは構わないが協力する必要がある今は少し問題だ。だから私は話し出すのをゆっくり待ってやる。さも分かっていると言わんばかりにテータイくんに目配せもしておこうか。これで新リーダーの門出をサポートするベテラン感アップである。





「た、確かにモンスターとの遭遇率は高いかもしれない。だが他の道はアリエリエを避けないルートやもっと遠回りな道だ。人数がいる以上はある程度の遭遇率上昇は避けられない。それに他のルート、淀みの森や廃都アピルバブリはラピエルテ山よりもモンスターが強いし、フェネクスの街を通過するのは時間がかかりすぎる。蓄えがそう多くあるわけでもなく、ヤバノメ自体のキャパシティの問題もある現状ここに留まり続けるわけにもいかないとなれば、やはりこのルートしかないと思うんだが…………ど、どうだろうか?」

「お、俺はいいと思うぜ!」

「私もそう思います。」

「う、うちも!」

「あっしも、それしかないと思うでやんすよ。」


 テーツイくんの言葉に上がる賛同の声。しまった、上手くカウンターされてしまった。まったく、そこはもっと失敗してテータイくんに泣きつく場面だろうに、いったいどうなっているんだ。失敗に少しいらっと来るもののそれを態度には出さず穏やかそうな表情を浮かべてテータイくんの方を見る。そうすると彼もほっとした表情を浮かべながらこちらを見返してくる。ぐぬぬぬ……。これで勝ったと思うなよ?




「よ、よし!それじゃあこのルートで最終決定、明日に出発でいくぞ!皆で協力してメルマークにたどり着くんだ!」

「「「「おーー!!」」」」











 やることが決まった後はちょっとした宴会だ。隣の部屋にいた街を出て行かない他の面子も集まってきてお別れ会が始まる。あちらこちらでまたな、だとか上手くやれよだとかの声が響く。ゴルドくんは――いつも通り料理担当か。魚介類やハムなどが乗ったクラッカーに、ガーリックトースト、グラタン、ハンバーグ、サラダに、フルーツポンチ。今日の料理も美味しそうだ。あっ!?エスカルゴもあるじゃないか!?これは後で取りに行かなければ。


 とはいえそれよりもここは話すことを優先したほうがいいだろうな。安パイ、というか優先はルーニャちゃん。後から来たとなるとこういう場には馴染みづらいだろうからな……っと思ったんだが、なんか普通に楽しそうに何人もの女の子と会話をしている。くっ、さすが工作員、すごいコミュ力だ。仕方ない、私もモブっぽい連中と話してこよう。……さすがに十五人の名前は憶えておかないと不味いだろうしな。





「えっ、この料理イオカル様がゴルドさんに提案したんですか?」

「ああ、ちょっと思いついて食べたくなってな。今思えば少し無茶ぶりだったかもしれないな。」



「あ~、イオカルさん行っちまうとゲームできなくなっちまうなぁ。」

「あははっ、そこは許してくれ。一応これ、私の飯の種にしようと思っているんだよ。また持ってくるからさ。」



「えっ、ロミオくんとジュリエットちゃんが!?」

「そうなんですよぉ、さっき宿の外で……」



「どうだ、イオカルさん。駆けつけ一杯!」

「ほほう、これは中々度数が高そうな……。くくっ、いいだろう、一杯貰おうか。」



「やぁ、楽しんでいるか?明日からはまた中々大変な旅になるだろう。今のうちに英気をしっかり養っておいてくれよ?」

「あったりまえさ!!宴ってのは楽しむもんだからね!!」



「そちらも何かと大変だろうが頑張ってくれよ?連携先があるかないかは定住にも結構重要なんだ。」

「ああ、分かっている。ちゃんとこの街に根付いてバックアップしてみせるさ。」





 さて、とりあえず一通りは回ったかな?なら後の時間はじっくり料理とお酒でも楽しもうか。私はマイグラスにワインをもらい、クラッカーやエスカルゴを皿に取りに行く。だが、そこで私に話しかける者がいた。



「ふふっ、さすがですねぇ、イオカルさん。興味ないとか言いながらなんやかんや皆さんに溶け込んで。」

「それはむしろこちらの台詞だと思うがな、ルーニャちゃん。途中参加なのに皆と楽しそうに話していたじゃないか。」


 ルーニャちゃんだ。男なら正直私の息抜きタイムを邪魔しやがってと怒るところだが、ルーニャちゃんなら大歓迎だ。やはり可愛い女の子と食事をするのは楽しいからな。私は少し気分を良くしながら人が比較的少ないところへと歩を進める。


「すまないが、あちらで食べながらでいいか?せっかくの食事だというのにまだあんまり食べられてないんだ。」

「え、えぇ。もちろん構いませんよ。(あれ?さっきグラタンを大皿で食べていたような……?)」


 なにやら困惑した様子で私の方を見るルーニャちゃんに気が付かないふりをしつつ、私は空いている二人用のテーブルの片側の丸椅子に腰かけた。……背もたれがないタイプか、個人的にはある方が好きなんだよな、楽だし。特に好きなのはあれだな、フィクションの探偵がよく腰掛けるタイプの安楽椅子。完全に背を預けたままリラックスできる。アヴラパヴァンの私の部屋には備え付けてあったんだが……残念ながらさすがに持って来れなかったんだよなぁ。また手に入るだろうか?



「どうだった、ここの集団は?色々話して回ったんだろう?」

「そうですね、素朴で優しい方ばかりでとても素敵だと思いますよ?」

「そうか、今度から一緒に行動する彼らとも馴染めそうか?」

「えぇ、もちろんです。」

「それは何よりだ。私も心配が一つ減って肩の荷が下りた気分だよ。」


 やはり凄いコミュ力だな。さすがはルーニャちゃんだ、掴みはばっちりというわけだ。だがこの場合は裏の意図も読み取るべきだろうな。素朴で優しい方、つまり戦闘面やら対人のやり取りやらで期待できなさそうな奴が多いと言っているのだろう。


 まあ実際対人も要のテータイくんが抜けてしまったし、戦闘力でも私やルーニャちゃんを除いて一番強かったのは彼だ。正直夜間なら私でも勝てるとまでは言い切れないが一緒に行動する十三人を相手取るのは多分可能だろう。少なくとも負けはないはずだ。


 となれば行動の選択肢が多彩なルーニャちゃんなら言うに及ばず、である。時間制限や初見殺し、場所というアドバンテージを駆使して泥沼の戦いに引きずり込んで勝利したが、だからと言って私が彼女より強いというわけではない。むしろ汎用的な強さならどう考えても彼女に軍配が上がるだろう。勝ったのは私だが。いくら胸が大きかろうが可愛かろうが、強かろうがあの時勝利したのは私でそれはもう二度と覆らない事実だが、彼女は強いのだ。


「なんか失礼なこと考えてません?」

「いやそんなことはないよ。精々今日も君は可愛らしいな、とかそれくらいさ。」

「あははっ、ありがとうございます。……本当に考えてませんね?」

「無論だとも。」


 それに勘もこの通り鋭いみたいだしな。そんな彼女から見れば、この集団はとても頼りなく見えるのだろう。実際私もちょっと頼りないなと思ってはいるし、気持ちは分かる。う~ん、彼らを捨ててしまうのはありか?いやだがなぁ、数は生活面では便利だしヤバノメへのコネにもなるっぽいからなぁ。そう考えるとあんまり捨てれない。それでも今まではきつかったが――――


「私は君には期待しているんだ。優秀な君となら大変な旅でもなんとかやっていけるんじゃないかって。」

「あっはっは、そこまで評価して頂けるのはとても嬉しいです。」


 ―――今はルーニャちゃんがいる。……と思ったが、ルーニャちゃんが()()()()()嬉しそうにワインを一気に喉の奥へと流し込むのを見ると、うん。どうやら私の意図が伝わっ(てしまっ)たようだ。とてもいい笑顔で表面的にはふわふわした雰囲気があると言うのに、何やら怒気のようなものを感じる。


「あ、ああ、そうだ。デザートはどうかな?良かったら私が取って来るが。」

「ふふっ、ありがとうございます。じゃあデザートと、あとワインのお代わりをお願いしてもいいですか?」

「もちろんだとも。味は赤でいいか?」

「えぇ、それでお願いします。」



 さすがに彼女の怒りをここで買うのは得策ではないと判断した私はパーティの残りの時間を彼女の御機嫌取りに費やすのであった。頼むよ、君が頼りなんだ。頑張って肉壁とか敵の殲滅とか色々やって欲しいんだ。



というわけで今回でヤバノメ滞在は終了して、次回から山登りです。

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