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虎の威を借りる吸血鬼  作者: トカウロア
交易都市への道程編
32/46

第三十二話、やっぱり戦争なんてするもんじゃないよな

今回は一方その頃回です。



 真っ赤な炎が骸を燃やす。轟々と燃える火種の束が周囲を明るく照らしだす。その紅の中心に佇むのは一人の少女。周囲に溶け込むような赤紅の剣を振るい、骸の山の量産する戦場の支配者。その名はフレリア・ナイトリアカード、アヴラパヴァンを治める領主の娘にして人間(ノーマル)吸血鬼(ヴァンパイア)の混血という不義の娘。


 けれどそれを咎める者はもはやこの地には一人もいない。咎められるはずもない。誰よりも前に立ち、敵陣を()()()()()()()()固有魔法を持って駆けるその姿に抱くのはただただ畏敬のみ。味方を包み、敵だけに引火する血の如き紅き炎が骸の数を増やしていく。断言しよう。彼女が居なければ、すでにこの街は人間(ノーマル)たちの手によって陥落していたと。










「はぁぁぁぁ!!!」


 黄昏た太陽が光っているというのに中空から降り注ぐ指向性と勢いを伴った雨。不自然なタイミングで発生した不可思議な加重により剣を振るう速度が緩まる。そこにタイミングを合わせるように前触れなく手足に出現した大きな氷の花。三つの固有魔法による連携が戦場を駆けるフレリアを襲う。だが振るわれた炎を纏った剣がそれら全てを無へと変えた。


 熱により氷の拘束を溶かし、炎を噴射した勢いで重力増加を跳ね除け、切り払って降り注ぐ雨を蒸発させたのだ。魔法を放った三人組はそれに思わず頬を引き攣らせる。接敵してすでに10分余り。一対三という人間(ノーマル)側に数的有利なはずの戦闘はけれど一であるフレリアの優勢で続いていた。


 三人の熟練の魔導士がただ一人の少女相手に苦戦する。それは彼ら―――人間(ノーマル)側の精鋭にとって悪夢のような光景だった。けれども今までの戦争で目前の相手を手放しにすれば味方が凄まじい勢いで死んでいくことを知っている彼らは己が武器を握りしめて相対するしかないのである。


 遠距離発動し突如として物体の周りに氷を精製する魔法『氷の枷』(アイスロック)、任意の対象1名の身体にかかる重力を増大させる『沈みの呪い』(グラビティダウン)、大量の雨を降り注ぐ弾丸として運用する『雨の撃鉄』(マシンガンレイン)。そのいずれもが強力な魔法であり、そして相手を拘束して倒すということにおいてシナジーが高い。


 対多戦においては『雨の撃鉄』(マシンガンレイン)以外は対象人数の少なさによってそこそこ程度であるが、しかし個人への性能、より正確に言うならば厄介さという点では攻めてきている人間(ノーマル)軍の中でも最高峰である彼ら。再生力が高い吸血鬼(ヴァンパイア)への対抗策として集められた三人の精鋭部隊は本来であれば苦戦すらなくこの街の多く吸血鬼(ヴァンパイア)を討伐出来ていたはずで、実際すでに一人の吸血鬼(ヴァンパイア)の生に終止符を打っていた。




「くそっ、なんだこいつは!?俺たち三人が居てなんで苦戦してるんだ!?」

「愚痴はいい、魔法を掛け続けろ!!可能な限り奴に何もさせるな!!」

「っ!?駄目だ、拘束を抜けた!またあの炎の薙ぎ払いが来るぞ、構えろ!!!」

「――――三人纏めて吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」




 だが彼女、フレリア・ナイトリアカードを相手取るためには相性が悪かった。降り注ぐ雨の弾丸は彼女に届く前にかき消され、当然それを利用した連鎖的な氷の枷も展開不可。だからと普通に彼女に纏わせたところですぐさま溶かされるのは先ほどから何度も経験した通り。唯一ある程度の効力を産み出している重力の呪いも炎噴射による勢いや大出力の『強化』(ブースト)というこれ以上ないほどの力技で突破される。


 当然、こんな真似は以前の彼女ではできなかった。それは単に固有魔法に目覚めたというだけではない。戦いの中、一分一秒という短期間の時間さえ今の彼女には値千金の授業となっている。上がり続ける出力、洗練されていく技巧、適応していく吸血鬼(ヴァンパイア)の血脈。その爆発的な上がり幅を前に敵は今までの経験の蓄積と連携を活かして辛うじて綱渡りを続けているに過ぎない。


 無論、この成長には種がある。その名は『決意の灯』(スピリット)、自身の精神力を魔力や身体能力、そして()()()へと変換する規格外の種族魔法だ。ハーフの身でありながらフレリアはこの戦場にいる誰よりもこの魔法を使いこなしていた。







「ふざけんじゃねぇぞ、化け物が!!!こんなところでやられてたまるかってんだ!!」

「おお偉大なる我らが神よ、私に邪悪を討つ力を与え給え!!」

『決意の灯』(スピリット)を使えるのはそっちだけじゃねぇんだよぉ!!!」



 しかし相対する彼らもまた『決意の灯』(スピリット)の担い手、本来の所有者たる人間(ノーマル)だ。確かに扱いづらく半ば無いものとして扱われることすらあるこの魔法だが、しかし使えれば有用であることを数多の戦いの経験を持つ彼らは知っていた。当然それを行使した経験も保有し、だからこそ、このピンチにおいて戦意を振り絞ることでその力を引き出すことに成功したのである。



「喰らいやがれ、『雨の撃鉄』(マシンガンレイン)一点集中!」

「援護する、『氷の枷』(アイスロック)雨弾直接変換!!」

「もっともっと遅く!!もっともっと重く!!不信心者に相応しき罰を!!!」



 『決意の灯』(スピリット)の行使合戦ともなればその天秤は彼ら三名へと傾く。純粋な人間(ノーマル)である彼らとダンピールである彼女では種族魔法の適応度に差が存在する。それでなくとも三対一という場面で、戦闘者としての技巧や場数だって上回られている。ゆえに『決意の灯』(スピリット)という切り札による優位性が失われた今、勝利の天秤は彼らの側へと傾くのが当たり前で――――





「舐めるなぁぁぁぁぁ!!!!」




―――しかしそんな理屈を彼女は圧倒的な精神力で持ってねじ伏せる。爆発する炎は周囲一帯を灰燼と変えんと燃え盛り、振られた剣はその全てが必殺に、辛うじて与えた傷も圧倒的な再生力に潰される。そう、『決意の灯』(スピリット)の効果は精神力の変換。相手が仮に二倍の変換効率を誇っていようとも、燃料である精神力を相手の三倍注ぎ込めば上回れるのは当然のこと。


 彼女の精神は今や暴発寸前の炉心の如く。怒りと決意が次々と無限に溢れ出で、眼前の彼らに追従すらも許さない。大切な街を人間(ノーマル)たちによって破壊されたこと、共に戦っていた仲間が幾人も殺されたこと、陣頭で指揮を執っていた父親が致命的な一撃を受け後方で意識不明に陥っていること、自分が踏みとどまらなければこの街は負けるであろうこと、本来頼れるはずの血縁者(ろくでなしの姉)が街の資産をごっそり持ち逃げしたこと、それらを許さざるを得なかった自分自身の未熟さ、その全てが彼女を奮起させる高出力の燃料だ。


 ある意味において『決意の灯』(スピリット)の天才と言うべき彼女に、もはや普通の精鋭程度の三名が勝てる道理などありはしない。ただ順当にその出力と成長力に刈り取られるのみ。鮮やかな焔を纏った一閃が三人の魔導士の胴を二つへと分かつ。それを持って今回の両陣営の魔導士による頂上決戦は終止符が打たれ――――







「「「「今だ!!目標前方のダンピール、奴目掛けて『破城投撃』(バリスタ)を放て!!」」」」

「なっ!?まさかこのタイミングを狙ってたっていうの!?」



―――そこへ待っていたとばかりに鬼札が投入される。放たれたのは人間(ノーマル)たちによって新規開発された汎用魔法『破城投撃』(バリスタ)。複数人が同時に一つの魔法を行使するというこの世界において画期的な発想により産み出された魔法が四つ一気に放たれたのである。


 そもそも魔法の開発なんてものが可能なのか、と思う者もいるかもしれない。だが種族魔法、固有魔法と違い汎用魔法は誰もが使用できる魔法である。それはつまり魔力を扱うことさえできれば特別なモノはいらないということ。他の魔法と異なりこれは生来の素養を必要としない魔法である。ならば新しい魔法が産み出せるのではないかという発想はごく自然なものであり、成功例こそ少ないもののその研究が一定の成果を出すこともあった。今回使用された『破城投撃』(バリスタ)もその成功例の一つである。


 『破城投撃』(バリスタ)というこの着弾と同時に大爆発を発生させる魔力の砲弾を放つ魔法はその威力の高さから元来攻城用、今次の戦争においては吸血鬼を陽の元へと引きずり出すことを目的として運用される予定のものであった。破壊力に優れたこの魔法を受けてしまえば、よほど再生力が高い純正の吸血鬼(ヴァンパイア)であればともかく所詮優れたハーフでしかないフレリアは一たまりもなくやられてしまうだろう。


 だが避けるにせよ、迎撃するにせよ、角度が悪かった。逃げ場を封じるように別方向から放たれた四発の砲撃を全て躱す隙間も全てを打ち落とすほどの火力と範囲を持った攻撃もありはしない。加えて体勢も悪い。現在彼女は渾身の力を込めて三人の魔導士をその剣で切り裂いた直後。そこから再び剣を振るおうとしてもどうしても時間的猶予が足りない。



「こんな、ところでぇぇぇぇぇ!!!」



 それでもと心の力を振り絞り、剣を返して炎の斬撃で持って『破城投撃』(バリスタ)を迎撃する。衝突する炎と砲撃。十以上の人員を用いて発射されたその魔法を驚く勿れ、彼女はただ一人の力を持って拮抗し、そして凌駕する。燃え盛る炎が収束し、迫る魔力の塊を打ち抜いたのだ。


 だがそれだけではまだ危機は脱していない。未だに脅威はまだ3つも残っている。精神力を漲らせ『決意の灯』(スピリット)を行使しようともこの状況を打開する手段は彼女にはない。死力を尽くしてさらに一つ、限界を超えてもう一つを仮に撃墜できたとして、そこで手詰まり。残った最後の一つの爆発によって彼女の命運は尽きるのだ。



「まだ……まだよ!!まだ終われない!!終わるわけにはいかないのよ!!私が、私がやらないと一体他の誰がこの街を、お父様とお母様を護るって言うの!?」



 そんなことは分かっている。()()()()()()彼女は駆け抜けるしかない。自分が居なければこの街は疾うに壊滅していると、太陽が出ている間に軍勢を迎え撃てるのが自分しかいないと、これ以上なく分かっているから。だから例え無理だったとしても、例え届かないのだとしても、例え今から行うのが徒労なのだとしても、彼女は抗い続けるのだ。



「舐めるな、舐めないでよ。これでも私は!!例え半分だろうと吸血鬼(ヴァンパイア)、不滅の吸血鬼、お父様と同じ夜を統べる支配者なのよ!!その私が!!こんなところで終わるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



 爆発する意思と炎。彼女の決意の咆哮が圧倒的な出力と成長力を以て迫りくる脅威を真っ向から打ち破る。ねじ伏せられる数の利。踏破される限界。自身の身の安全を考慮しない無茶な『強化』(ブースト)によって崩壊し始める身体を『再生』(リジェネ)で無理やりねじ伏せる。


 それはまさしく奮闘だろう。あるいは奇跡と呼んでもいいかもしれない。戦い続けたことによる疲労も本来存在するはずの限界も彼女は優に越えているのだから。だから彼女が『破城投撃』(バリスタ)の連続攻撃という理不尽な暴威ここまで生き延びたのは紛れもなく称賛されるべき偉業だ。しかし――――――



「くっ、私、は、まだ――――」



―――偉業や奇跡のような奮戦を以てしてもでもどうにもならない現実を人は絶望と呼ぶのである。


 先に彼女が認識してしまった通りの結末が彼女の元へと降り注ぐ。死力を尽くし、限界を踏破してなお()()()()()()。撃ち落とせなかった最後の『破城投撃』(バリスタ)がどうしようもない速度で彼女を打ち据えんとする。発動するのは広範囲の破壊の暴虐。逃げることも防ぐことももはや間に合わない。ゆえに彼女の人生はここで終わりを迎える。













「本来ならばあなた如きが吸血鬼(ヴァンパイア)の誇りを語るなど、と言うところですが。その奮戦に免じて今だけは特別に許容して差し上げましょう。よく夜まで持たせました。」







 彼女の人生はここで終わりを迎える。()()()()()()()()()()()()()()()()()。放たれたのは闇を照らす雷撃。自然の雷さえも凌ぐその暴威がフレリアのみではどうにもならなかった最後の砲撃を木っ端微塵に粉砕する。その強力無比な魔法の名は『稲妻』(ライトニング)。領主の妻、アラネル・ナイトリアカードが操る固有魔法である。



「……ありがとう、助かったわ。でも大丈夫なの?傷、治ってないんでしょう?」

「あなたに心配されるほど落ちぶれてなどいませんよ、フレリア。それに―――これ以上我らの血を落ちぶらせるわけにはいきませんから。」



 胸についた傷と、そこから滴る血液を撫でながらアラネルは己が武具たる槍を構える。ある人間(ノーマル)の魔導士が命を賭して与えた癒えぬ傷を、今も集中的な治療を受けている彼によって庇われたことでなんとか死を免れた事実を、彼女は噛み締め怒りを滾らせる。


「これより先は我ら吸血鬼(ヴァンパイア)の時間。半端者とはいえその誇りを口にしたのです、よもやもう戦えないなどということはありませんね?」

「はっ、誰に言ってるのよ。私はお父様の娘なのよ?」

「―――ちっ。誇らしげによく言うものです。いいでしょう、ならば着いてきなさい。」


 一方的に攻められ続ける地獄(太陽)の時間は終わり、怪物たちの跋扈する冥府()の時間がやってくる。今度はこちらが攻める番だと言わんばかりに駆ける二つの影によって人間(ノーマル)たちの軍勢はその多くが死の薫陶を受けることになるだろう。本来ならばすでに終わっていたはずのアヴラパヴァンの戦争は、依然としてその暴威を保ち続けていた……。

















「今頃どうなっているかな、アヴラパヴァンは。そろそろ戦争が終わったころだろうか?多分悲惨なことになっているんだろうな。いやはや全くお気の毒に。それに比べて我々はこうして月を眺めて酒が飲めるのだから、多少の不満はあれど良しとしようじゃないか。人の不幸は蜜の味、とも言うしな。」


 ヤバノメの街の宿屋の一室、そこには開いた窓に腰を掛けながらとても愉しそうにグラスに入れたワインを飲む一人の吸血鬼(ヴァンパイア)。聊か酔いが回っているのか、あるいは気分が盛り上がったためか、普段よりも磨きがかかったろくでなしの主張を赤みがかった頬を夜風に当てながら口にする。ふーっと吹いた風が美しい鍍金色の髪を攫う。


「……さすがにそういう物言いはちょっとどうかと思いますよ、イオカルさん?なんというか、人として。」

「なんだルーニャちゃんはこういうの苦手なタイプか?頑張っている奴の努力を嘲笑うのは万国共通の娯楽だと思っていたんだがなぁ。」

「どこですか、その恐ろしい世界は。そんなのが共通になんてなってたらたまりませんよ。……そういう人がいるのは知っていますけど。」


 じとっとした眼を向けるもう一人の吸血鬼(ヴァンパイア)()()()の女。それに「なんだ、職業の割にルーニャちゃんはいい子だなぁ。」なんて言いながら机の上に置いてあるチーズを爪の先から伸ばした『血液操作』(ブラッドウェポン)で刺して口元へと運ぶ。戦いから逃げ出した面汚しの女は、けれど自分を恥じたような様子もなくただ今この時を謳歌していた。



イオカルさんでは最初の三人組はかなりきついです。

逆にバリスタの対処は覚悟さえ決まれば割と楽にできます。

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