第三十話、ゲームとかでやる女の子の着せ替えって楽しいよな
知識がない分野の描写難しい……
「どうだろうか、これなんて似合うと思うんだが。」
「いやいやいや、目的を忘れないでくださいよ、なんで露出度高い奴を勧めてくるんですか。」
煌びやかな灯りが店内を照らす。並べられたのは長い布が巻かれた物と、それを用いて作られたのであろう衣服。品揃えは一部を除き豊富とまでは言えないが必要最低限以上は揃っており、性差なく男女両方に向けたものが多い。
あれから契約書を取り交わした私たちはその足で服飾店へとやってきていた。理由はルーニャちゃんに衣服をプレゼントするため。とは言ってもただのショッピングではなく契約の一環だ。彼女にはしばらく――今の面子と移動している間は普通の吸血鬼の振りをしてもらうことになっている。日傘は予備があるのでそれを渡せばいいのだが、陽射しを遮るための衣服に関しては私のものしかなくサイズが、特に胸のサイズが合わないために新調することになったのである。
えっ、じゃあなんで露出度高い服を渡そうとしたのか?いやそりゃ、だって……見たいだろう?可愛い女の子にちょっとエッチな衣装を着せるチャンスがあったらチャレンジするのは普通のことだろう?いやもちろん、社会的なステータスをどぶに捨てるとかそういう訳ではない。実際前世ではこういう真似をしたことはないしな。だが今の私は女性、つまり彼女と同性でなおかつ一定以上の友好関係があり、さらに雇用主という立場があるのだ。この状況なら左程大きなマイナスもなしにこういう服を勧められるのである!
「――――というわけで悪くはないと思うんだよ。」
「何がというわけなのかさっぱりなんですが。」
「いやもちろん用途は分かっているさ。そっちに向いているのもいくつかすでに見つけている。だが、せっかく一緒に服屋に来たんだ。それだけじゃちょっと寂しいとは思わないか?」
「まあ言いたいことは分かりますけど……そもそも今イオカルさん逃げてる最中だって理解してます?」
「もちろん理解しているさ。だからこそ、だよ。こういう時こそ息抜きは必要なんだ。だから私に付き合ってはくれないか?」
「……まあ、別にいいですけど。でもこれはちょっと布面積が。ほとんど下着じゃないですか。せめてそっちのフリフリ系のがいいです。」
「そんなっ!?着て恥ずかしがるルーニャちゃんの姿を期待していたというのに!?」
「……その期待は捨ててください。というかイオカルさん、以前に増してなんか駄目になってませんか?」
呆れた顔でこちらを見る彼女。ビキニタイプの水着もかくやというデザインの方は駄目であったが、こちらは断られることを半分前提にしていたものなので致し方あるまい。それに本命のフリフリ系なのにへそや脇が出てるこの水色の衣装を着せることには成功したのだからここは喜ぶべきところだろう。
「駄目になっているというか、あちらにいた時と違って読み合いをする必要も左程なくなったからな。少し気を緩めているのさ。その結果、駄目になっているというのならまあ、それはそうなんだろうがな。――ルーニャちゃんはこういうの嫌いかな?」
「ふふっ、それがイオカルさんが私に心を許してくれた結果というのなら嬉しいですよ。今まではしてくれませんでしたから。ありがとうございます。」
彼女はそう笑顔をこちらへ向けるとそのままカーテンを閉め、試着コーナーの中で着替えを始める。布ずれの音。見えないがゆえに想像を搔き立てられるその音色を聞いて思わず生唾を飲み込みたくなるのを必死にこらえる。さすがにここで露骨な態度を表すのは少し好感度とか社会的な立場とかが不味いからな。やるならふざけているように見える感じに、だ。なので目の前のことを脳裏だけに焼きつけつつ別のことを考えよう。
例えば、そう、ルーニャちゃんの優しい態度についてとか。彼女が私が心を許したことが嬉しいと言っているのは真実だろうが、しかしこれは別に私の口説きスキルが上昇しただとか、第二の人生になってようやくモテ期がやってきたとかそういう代物ではない。……自分で言っていて悲しいな。
これは単に合意の形だ。ようは以前は敵同士だったが今は味方同士だから仲良くしようというそれだけのものなのだ。だから私は心を許したんだよアピールをするし、それにルーニャちゃんも嬉しいと友好的に返してくれるというわけである。これから長い付き合いになるであろうに、そこを抜かしたりはしないしできない。えっ?それを利用して露出度の高い衣装を着せて楽しもうとした奴がいる?ははは、何のことやら。それにほらお金はこっちが出すんだし別にいいだろう?(出所から眼をそらす。)
「イ、イオカルさん、終わりましたよ。」
シャーという音……という風にはいかないが開かれるカーテン。いや正確にはこれはカーテンもどきなんだろうか?私の知っているレールは工業製品であることを考えると仕組みが異なるのだろうそれが開かれるのを確認して、ヴェールの中から現れた彼女の姿を凝視する。
まず目に入るのは健康的なおへそ。そこから覗く肌色は一度途切れて、再度脇、そして胸の上部という形で色を晒す。そこからさらに目線を上げれば顔を少し赤く染めたルーニャちゃん。さすがにこのような衣装は慣れていないのか、あるいはこういう日常的な中で着たせいなのか、そこには本物の恥ずかしさが存在しているように感じられる。なにせ今も私の眼から視線を逸らしているようだし。
「さすがだな、ルーニャちゃん。実に似合っている。可愛らしいよ。」
「くっ……対比に騙されました。この服普通に考えたら十分露出度が高いですね!?」
「なんだ、今頃気が付いたのか?」
「うぅ……。」
にやにやと――いやらしい感じではなくいたずらが成功した感じのにやにやだ。ここを間違えてはいけない――問いかければさらに顔を赤くして俯いてしまうルーニャちゃん。可愛い、実に可愛い。この服は買いでいいだろう。
「も、もういいですよね!?着替えますよ!!」
「あ、着替えるなら元の服じゃなくてこっちの服で頼む。」
「なんで次の服が用意してあるんですか!?しかもまたしても布面積が少ない奴じゃないですか!?着ませんよ!?せめて本来の用途に適した奴を持ってきてください!!」
「分かった分かった。そう怒らないでくれ。ちゃんと用意してあるんだ。ほら、これ。これなら露出は限りなく少ないぞ。」
「……なら最初からそれを出してくださいよ。」
そう言って渡された衣服を受け取るルーニャちゃん。またごそごそと着替える音が私の耳に響く。かかった布とその奥にある姿を想像してワクワクニヤニヤする私。そしてカーテンが開き――――
「って、イオカルさんなんですかこの服は!?」
「気に入らないか?露出度はかなり控えめのはずだが。」
「そういう問題じゃないですよ!?」
―――開口一番私に対する文句が発せられた。
それもそのはずだろう。彼女が今着ている服はピチっとした全身タイツ(もしかしたら厳密には違うかもしれないが)にいくつかの装飾や硬い布地が付属したタイプだ。その結果何が起こるのかはもちろんお分かりだろう。―――身体のラインがはっきり出て実にエロいのである。いやはや眼福だなぁ。彼女に護衛を依頼してよかったと心の底から思うよ。
「もしかしなくても遊んでますよね!?なんなんですか、さっきから!?もしかして保管庫での一件根に持ってます?」
「いやいや、まあ根に持っていないかと言われれば少し困ってしまうがこれに関しては誓ってそういう嫌がらせではないよ。」
「……本当に?」
「ああ、本当だとも。これは純粋に加虐心と性的趣向によるものだ。」
「もっと質が悪いじゃないですか!?というか前から思ってましたけどやっぱりイオカルさんそっちの人ですか!?」
自身の身体を両手で護るようなポーズをしながらこちらをジトっと見つめるルーニャちゃん。その瞳にはうっすらと液体のようなものが溜まっている気がしなくもない。あるいはそれは見間違いなのかもしれないが、涙目とした方が私の心にグッとくるので涙目ということにしておこう。
とはいえカーテンが閉められたことでそのせっかくの桃源郷は私の眼から遠ざかってしまう。どうやらこれで終わりか、悲しいなとも思ったが、どうやら彼女は自分で選んだものを試着するようである。つまりこのファッションショーはもうちょっと続くというわけだ。実に喜ばしい。
しかしこの店、品揃えが変な方向にいいな。なんでこういうマニアックな服の類があるんだ。もしかして店主のこだわりというものだろうか?チラと店内を見渡せば、他の客はおらずオネェ系の店長らしき人が気にしないで楽しんでと言わんばかりにこちらにサムズアップをしてくる。私もありがとうという念を込めて返しておこう。言葉を交わさずに生まれる意思疎通。まさかこんなところでそういう相手と出会えるとは。いやはや人生とは分からないものである。
「イオカルさん、これなんですけどどうですか?」
着替え終わった彼女が私に意見を問うてくる。さっきまで散々弄り倒してきた相手ではあるが、それでも客観的評価が欲しいということなのだろう。私としてもルーニャちゃんを視姦もとい鑑賞できるのであれば否はない。ということで真面目に彼女の姿を見てみよう。
全体的な色の基調は白に近い水色で涼し気な印象を与える。水玉模様の袖の長いワンピースでそこに長い白と水色の縞々模様ソックス。腕の方にも実に滑らかそうな水色の薄い手袋。そしてフード付きの青のパーカー。
「そうだな、まず当初の目的である日光除けは十分だろう。これで日傘を差せばまずダメージを受けることはあるまい。次に動きやすさ、こちらも問題ないな。我々吸血鬼が肌を隠そうとするとどうしても厚着になりやすく動きが阻害されることも多いんだが、それを上手く遮光性が高く薄い生地の衣服を使用することでカバーできている。」
「え、えっと……」
「ああ、分かっているとも。実用面だけじゃなくてビジュアル的にどうかということだろう?そうだな、私が思うに君の衣装は――――」
そこでわざと言葉を切る。少し緊張した様子でこちらを見遣るルーニャちゃん……と店長。彼もとい彼女までこちらを見ている理由は分からないが、ともあれこうして間を作るのは様式美だ。その結果として今みたいにゴクリとでも効果音が出そうな雰囲気を作れたのだからとてもいいことである。
「―――実に素晴らしい。本人の持つ柔らかさはそのままに色合いと露出度の低さを利用して清楚なイメージを強調、それでいて自慢の胸の魅力を損なわないようにきちんと保っている。せっかくの可愛らしい顔を隠してしまうフードも恥ずかしさの表現と考えればむしろ効果的な演出と言えるだろう。衣服のすべすべ感もいいな、頬ずりしたいほどだ。」
「何を言っているんですか!?誰がそこまで言えって言いましたか!?」
「えっ、こういうことを言ってほしかったんじゃないのか?期待するような眼をしていたしな。だから私も精一杯表現したというのに。」
「期待するような眼なんてしてませんよ!?というか完全にセクハラですよね!?」
「なに、君と私の中じゃないか。遠慮するな。」
「遠慮じゃありませんが!?というかセクハラに遠慮っておかしいでしょうが!!」
ぜぇぜぇ、と息を切らしながらツッコミを入れるルーニャちゃん。朱に染まった頬がこの一連の流れが嘘や偽りではないことを証明する。語気の強さからはアヴラパヴァンの時にあったちょっとした遠慮が消えている。うむ、多少は心の距離も近づいたんじゃなかろうか。
えっ?その分評価は下がっているんじゃないかって?まあそうだろうな、きっと彼女の中での私の評価は駄目な奴として下降していることだろう。だが人付き合いにおいては評価の低さというのは私は適切に運用すればそこまで悪いものではないと思っている。
なにせ評価の基準値はハードルを低くするからな。雨の中で子犬に傘を差す不良がいい奴に見えるあの現象だな。気を付けるべきは交流を続けてもいいと思われる程度に嫌われないこと。そこにさえ注意しておけば評価の低さはむしろ過ごしやすさへと変わるのだ。良いことをした時はより感動され、悪いことをしてもまたやってるよ程度で済むという風に。
これが聖人君子みたいなイメージを持たれてみろ、良いことは当たり前で悪いことの傷は大きくなる。イメージ戦略は大切だが、優先すべきは自身の過ごしやすさだ。身の丈に合わない輝かしい虚像を作ったところでいつか崩れ去ってしまうだけだろう。それでも恋とかなら作ろうとするのかもしれないが……仮にも私は筋金入りの享年=恋人いない歴だぞ?今更そんなものに手を出すつもりも左程ない。私は可愛らしいちょっと怪しげな飲み屋のウェイトレスに酔った感じでセクハラ紛いの野次を飛ばすあのポジションで満足なのだ。
まったく……と怒りを可愛らしく表現しながらジト目で見てくる彼女に謝罪を入れつつ、笑顔の店長に会計をお願いする。値段は―――小さな町の服屋にしては高いが、この一連の流れを楽しむ代金だと思えば安いという絶妙なライン。中々良いところを突いてくるじゃないか。とはいえニッチ方面への品揃えの良さを思えばむしろこれでもかなり頑張っている方なのだろう。
「良い服をありがとう、楽しく過ごせたよ。」
「ふふっ、そう言ってもらえるとうれしいわぁん。よかったらまた来てねん。」
「色々騒がしくしてすいませんでした……」
「いいのよ、気にしないでん。」
こちらに挨拶を店長にお礼を言って店を出る。今後この街にやってくることがあるかは分からないが、もしまた来る時があれば必ず寄ろうと私は決心するのであった。できればまたルーニャちゃんを連れて、な。
おかげ様で三十話を迎えられました。
思えば結構やっているなと驚いています。
これからもどうか皆様、当作品をよろしくお願いします。
えっ、三十話の内容がこれでいいのかって?
いやまあ、それは、その、ね?
こういう作品ですし……




