第二十九話、合流
2話ぶりの主人公登場
「ちょっとー、別の街から来た私よりも遅いってどうなってるんですかぁ?」
「……済まないな、色々トラブルが多くてね。」
不満そうに頬を膨らませてこっちを見つめるはルーニャちゃん。ルーニャ・ステイアハートと名乗っていた私の友人と私は言葉を交わしていた。しかしその頬を膨らませる動作も実に愛らしい、いやあざとい。それを自覚して行っているのか、それとも無意識の産物なのか、どちらにせよ恐ろしい存在だと思う。ソシャゲーのキャラだったら今頃ガチャを回してるほどだ。
ここはヤバノメの街の酒場。巨大なタックルボアを倒した私たちはその肉を食糧とすることで食糧不足を防いで、あれから数回モンスターに襲われたりはしたものの何とか無事にここまでやってきた。そこからはどうやら事前に話を通していたらしく、予約された宿屋に全員が泊まることになりひとまずの自由時間を過ごせることになったのである。とは言っても人数超過しているのか結構手狭だが。
「もう、こっちはてっきり罠かすっぽかしにでもあったんじゃないかって心配したんですよ?……それでトラブルって?」
「街を出たところで人間たちに襲われたり、やけに大きくて強いモンスターに遭遇したりとかだよ。はぁ。君の件を含めてまったく、こういう被害に遭わないために逃げることを選んだはずなんだがなぁ。」
「あははっ、トラブルに好かれてるんですねぇ。」
「やめてくれ、トラブルになんて好かれて一体なんの得があるって言うんだ。どうせ好かれるなら女の子か、いい感じにヨイショしてくれる相手がいい。」
「なんですか、ヨイショしてくれる相手って。」
「そりゃあれだよ、権力者とか主人公の傍にいる言うこと為すこと、オウムのようにすごいとかさすがとか褒めてくれる奴さ。阿諛追従の輩、というかもしれないがね。」
「……そんな人に好かれたいんですか?」
「そりゃ好かれればおべんちゃらにも多少の熱が入るだろう?こういうのは下手な奴だと白けてしまうしな。ああ、欲を言うのならある程度心を込めてくれるとさらに嬉しいところだ。」
やれコバンザメだの思考停止だの言うけれど結局のところよっぽどひどい褒め方をしなければ褒められれば嬉しいに決まっているのだ。阿諛追従の輩?だから何だと言うのだ。気分よく過ごすことができればそれでいいだろう。この手のタイプばかりを周囲に置くとろくなことにならない?では正論で人を傷つけるタイプばかり周りに置けとでも?そんなことをしてみろ、あっという間に心を病んでしまうぞ?
「ふぅ~ん、じゃあ私がもっとヨイショしてたら引っかかってくれました?」
「いやそれとこれとは話が別だが?」
「え~~?そこは騙されてくださいよ~。」
そうは言われてもなぁ。『無対価利用』で周囲を探るのはもう癖みたいなものだしな。今だって割とやっている。例えばそこの角の席で一人でチビチビと飲んでいる男の固有魔法は『青天の雷』って言うとかな。つまり私が彼女の固有魔法を知るのは確定事項で、『合成獣』なんて種族変化の魔法を持っている吸血鬼がいたら、なぁ?当然疑いの眼で見ることになる。だからどうやっても素直に騙されることは難しいのだ。
とはいえそれはルーニャちゃんも分かっているのだろう。ただ揶揄っているだけだ。その証拠に彼女は終始笑顔でチーズを摘まみながらグラスに入ったお酒を傾けている。怒っている様子は微塵もない。だから私も軽口を飛ばしながら同じように酒と摘まみの味に身を委ねるのだ。あっ、このチーズ美味いな。
「そっちはどうだったんだ?大方ケチられたりしたんだと思ってるんだが。」
「それだけじゃありませんよ、追加報酬の踏み倒しのついでに口封じをしようとしてきたんですから。まったく、ひどいと思いませんか?」
「ははっ、それは災難だったなぁ。どうやらルーニャちゃんもトラブルに好かれているみたいだな。いや、それよりあれかな?品行方正な良き吸血鬼である私を攻撃なんて下から罰が当たったんだな?」
「いやいや、普通にイオカルさんも火事場泥棒目的だったじゃないですか。それでよく品行方正だなんて言えますね?」
「おいおい、失礼なこと言うなよ。私はちゃんとマジックアイテムを持ち出す許可は取ってあったさ。」
「……そうなんですか?」
「ああ、お父様に餞別としてな。だから私は清廉潔白吸血鬼だとも。」
「………………。」
「………………。」
「で、いくつ持っていっていいって言われたんですか?」
「~~~~~♪」(口笛)
何やらルーニャちゃんがこちらをジト目で見てくるが、スルーする。お父様とのやり取りを知っているのは私とお父様しかいないので私が喋らなければそれ以上の追及はできないのだ。なにせ証拠なんてものは在り様筈がないからな。この世界には録音器具だってないのだから。
えっ、誤魔化しに口笛とか表現が古い?それは仕方あるまい。なにせこれ前世からの癖だからな。この誤魔化しがしたいがゆえに必死に綺麗な口笛を練習した思い出よ。結局これで誤魔化せたことなんてあんまりないんだが、とはいえやはりこういうのは様式美だ。誰もが分かり切っていることをあえてなぞる楽しさが様式美にはあるのだ。
ん?この世界だともしかして誤魔化しの口笛って様式美ではない?それはあり得るな。こういうものは文化だし。とはいえここはポジティブに考えよう。今様式美になっていないのならば私が様式美にすればいいのだ。こうやって誤魔化しの時に使うことで周囲も段々慣れてくるはずだしな!そもそもそんな回数物事を誤魔化そうとするな?いやいや何を言う。誤魔化しは人間……知的生命体の営みの一つだぞ?それを捨てるなんてとんでもない!大体こういうのは見抜けない方が悪いのだ。
「ふふっ、まったくイオカルさんは相変わらずですねぇ。」
「そりゃそうだろ。私も多少の演技したりはするがな?プライベートならなるべく素に近くしておかないと疲れるだけだろう。……で、一応聞くが口封じは大丈夫だったのか?」
「えぇ、もちろん。あの程度の雑魚にどうこうされるほど弱くはありませんので。」
「ははっ、それはそれは。実に頼もしい。」
戦闘力高い女の子って良いよな、うん。前世だとフィクションと一部のバグ枠しかいないような存在だったがここはファンタジー世界。戦闘力が主に魔法によって決定する世界であるがゆえに、強弱に性別は関係ない。つまり彼女のように可愛くて強い子が存在できるのである。実に素晴らしい。えっ、前のキモンスター状態?いや、まあ、うん、わ、私は嫌いではないぞ、うん。どうせ抱き着くなら今の姿が良かったと思っているけれども。
「―――で、前金はすでに頂きましたし細かい話を伺ってもいいですか?」
「もちろんだ。とは言っても基本は依頼した通り、護衛だよ。君は私の命を護ってくれればいい。強さは知っているからな、君が居てくれれば安心だ。」
「期限が不明瞭になってましたがそれは?」
「まあそれはあれだな、どの程度で腰を落ち着けられるか分からないからだな。それなりに予算を持ってきてはいるが、もしかしたらそちらが無くなる方が早いかもしれない。ああ、ちゃんと更新するところまでの金銭は支払うから安心してくれ。」
声を落としながら具体的な契約の内容についてを詰めていく。禁止事項や細かな勤務内容、行動方針などルーニャちゃんの意見も聞きながらメモに文章を書きこむ。とりあえず先に逃げていた私の知り合いの吸血鬼ということにして基本的に『合成獣』は今のグループには隠してもらうことにした方がいいか。『合成獣』を使う場合の条件はまず第一に私かルーニャちゃんの生命に危機が発生した場合で、その他には―――。
ああ、もちろん後でちゃんとした用紙に清書して写しも用意して渡すから内容は慎重に決めているぞ?それに相手はおそらくこの手の仕事がベテランのルーニャちゃんである。何等かの落とし穴がないかを厳重にチェックし、適宜特例事項やら、補足やらも書き入れて行く。とまあ私はそういう感じに至極真面目に話をしていたのだが―――
「ん?どうした、その表情は。何か気になる点があったか?ここは重要な場所だから何か気になることがあるのなら遠慮せずに言ってくれ。」
「いや気になることというかなんというか――――――イオカルさんこんな真面目なことできたんですね!?」
「さすがにひどくないか!?」
――――何故かこんなことを言われてしまった。
「いやっ、その、すいません。まさかこんなにしっかりした契約を、あのイオカルさんが用意しようと考えるなんて思わなくて。」
「いやいやいや、いくらなんでも私だってこういう時くらいは真面目にやるさ。というか自分の護衛なんだ、命が掛かっているんだぞ?当たり前だろう?」
「でもイオカルさん、今作っている契約書、私が結んだ中で一番細かいですよ?」
「―――何?」
あのイオカルさんだとか、色々と私の評価に異議を申し立てたい内容を言ってくるルーニャちゃん。とはいえ少し気になることは今の条項で細かいと言われたことである。正直なところ私としては、そりゃ細かくはしているものの一番と言われるようなモノを作っている自覚はなかったからだ。そこでこの差異は何かと少し考え――そして納得した。私の基準の話だ。私は転生者であり、その基準もどうしても前世に引きずられる。そして私の前世での契約事項というのは、ちょっとしたスマートフォンのゲームをやるに当たっても大量の条項を記載してくる世界なのだ。その基準からちょっと少ないけど最低限大丈夫、という事項の記載をしていくと、この世界では細かくなるのだろう。しかし、だ。
「ほうほう、これはそんなに細かいんだな?」
「急ににやにやしだしてどうしたんですか?」
「いやこれが一番細かいなら―――ちょっと悪用できそうだと思ってな。」
「すいません、その書き途中の紙貸してください。」
「おいおい、さすがに命綱でもある君にまでその手のことはしないさ。」
「ならいいんですけど……」
ジトーと可愛らしく疑いの目をこちらに向けるルーニャちゃん。ならいいと言いつつ私のメモを喰いつかんばかりに読んでいる。しかし私はむしろルーニャちゃんが私の方に何か仕掛けてくるかと心配してたんだがな?明らかにプロなスパイをしていたわけだし。とはいえこの様子なら多分大丈夫か?もちろん出来上がった契約書を二、三回は読むつもりではあるが。
えっ、意外に豆だなって?いやそりゃそうだろう。そりゃ私だってスマートフォンのゲームの注意事項を読み飛ばしたりはするけどな?でもそれはあくまである程度は保証されているだろうとか、前評判を調べてるだとかそういうことに由来している。欲を言えばそりゃ怠けたいが、しかし私はこういう契約書の類が、あるいは法律や仕組みという類が悪用すればとてもとても強力であることを知っているんだ。戦闘中と同じである程度は真面目にやるとも。それに戦闘と違ってこういうのは別に痛くないしな!
「……はぁ。」
「どうかしましたか?」
「いや何、さっきも似たようなこと言ったが戦闘なんかせずにずっとゴロゴロと暮らしていたかったのに、世の中全然上手く行かないな、とふと思ったのさ。」
チーズを口の中に入れる。噛む。感じる独特の柔らかさ。広がる特有の味と香り。それを流し込んでいくアルコール。取り留めない愚痴ではあるが本心だ。だが私のそんな切なる思いを聞きながらからからとルーニャちゃんは笑う。畜生、似合ってなかったら、可愛くなかったら散々心の中で何笑っているんだと罵倒できるんだがなぁ。仕方がないから代わりに普通に言おう。
「……何を笑っているんだ?」
「いや全然上手く行かないって言いますけど私に勝ったりこうしてなんやかんや脱出していたり、その時にお金をいっぱい持ち出していたりするじゃないですか。だからこう、色々できているように見えるのにおかしいなぁって。」
「ははっ。なんだ、それは褒めているのか?」
「褒めてるんですよ?」
「なら褒めついでにお酌してくれ。ついでにここの会計奢ってくれるとなおよしだ。」
「これから雇おうって相手に集らないでくださいよ!?」
「あははっ、いいじゃないか、減るもんじゃないし。」
「減りますよ!!お金は使ったら減るんですよ!!」
別れてからさほど時間も経っていないというのに懐かしさを感じるやりとり。ツッコミを行いながらも優しく行ってくれたお酌。その様子にこれなら大丈夫そうだと、これからの生活は楽になりそうだと内心で安堵するのであった。それにある程度気心を知れている可愛い子を護衛にできるとかご褒美だよな!いやぁ、上手くいってよかったよかった。
チーズって美味しいですよね。




