第二十五話、タックルボア①
遅くなってごめんよ。でも不定期更新だし、ほら、ね……?
「食糧が足りない……?」
「えっ!?そそそれって大変じゃないですか!?食糧が足りないってことはつまりご飯が食べられないってことですよね!?」
「(……そこを説明する必要はあったんだろうか?)」
深刻そうな面持ちでテータイくんらから告げられたのは予想よりも移動に時間がかかっていることと、それによって手持ちの食糧……保存食が足りなくなっているということだった。メルマークまでの道程にはヤバノメ、アリエリエという二つの街がある。この二つの街で食糧を購入するつもりで計画を組んでいたらしいのだ。……まあ戦だというのに街の中で食糧を買い集めるのは無理があるし無理を通せば目立ちやすくなってしまうからな。実際私も彼らの動きを知れた理由の一端はそれだ。……あれ、そう考えると隠せてはいなかったのか?
ともあれそうした理由から余り食糧を運べてはいなかったのだという。しかしそれでも想定の日程なら食糧には多少の余裕がある量はあったらしい。だが人間の襲撃や想定よりも全体の進みが遅いこと、そしてそれでも非戦闘員たちの体力を考えると無理に急がせるわけにはいかないことから今回の食糧不足になったらしい。
まあ仕方ないだろうな。こんな風に大人数での移動というのは基本的に都市単位で暮らす今世の人々にとってはそれこそ侵攻する軍隊程度しか経験がない、あっても商人を含めた小隊だとかその程度だろうからな。そして小学校の遠足を思い出しても分かる通り、大勢を移動させるというのはとても大変なことなのだ。しかも前世のイメージは行進やらの練習をさせたり、年季を積んだ統率者たる教員が居てあれなのだから。
とはいえ仕方のないことであるからと言ってそれではい、そうですかで終わりにするわけにはいかない。だからこそ彼らはそれを考えるために私たちを――――いや、この感じは対応策はすでに考えていえそれに対する協力か?この状況で食糧を手に入れられて私に協力を求めるようなこと……うげぇ。
「で、モンスターハントでいいのかな?私たちが呼ばれた理由は。」
「話が早くて助かる。そういうことだ。足りない分の食糧を我々で確保したいと思うんだ。」
モンスターの中には食べられる奴らもいるからな。それを確保するために戦力を、というのは分かる話だ。普段の移動……皆で行動しているときは警戒して大きなものは迂回して避け、小さい奴は音を出して避けさせているが、それは足手纏いがいる中で戦うのが危険ということで普通に見極めれば我々でもなんとかなるのだろう。とはいえ、だ。
「目星は付いているのか?戦闘力もそうだが、遭遇できるかどうか、それに何より食べられるかどうかが重要だろう?」
「もっともだな。だが安心してくれ、目星はいくつかついているんだ。」
まあそりゃそうだよな。出なければ警備でもある戦闘可能な人員を動かすのは聊か以上にギャンブルだろうしな。テータイくんたちから語られたのはこの辺り一帯に住んでいるモンスターの情報。どうやら彼らの中にこの場所を通ったことのある人物がいたらしい。
よくよく考えれば当然ではある、でないとこんな大人数で移動するのは自殺行為と言われても仕方がないからな。えっ、私?ま、まぁまぁ、細かいことはおいて置こうじゃないか。いやそれなりに準備はしてたんだぞ?してたんだけど、ほら、仮にも街を治める者の娘が街の外に軽々しくいけないというかな?うん。それにお父様に一度言ってみたけど猛反対されたせいだから責任はお父様にあると思うんだよ。
この辺に住んでいるモンスターのうち、どれが狙い目で逆にどれが危険かだとかどこにいるだとかといった説明を聞きながら、私はどうしたものかと考えを巡らせる。考えているのは私の立ち位置だ。はっきり言ってこの集団の中で一番強いのは私である。だから普通なら大物……ある程度強くて取れる肉の量が多い大きなモンスターを宛がわれることになるだろう。私は狩人などではないから別に索敵が上手ということもないのでそこそこのモンスターを数集めるというのには向かないしな。
だが私としてはそういう運用方法はごめん被りたい。何が悲しくてせっかく大人数で行動しているの強い奴と戦わなければならないのか。だから私は狩りに関する話は話半分に聞いて、その分空いた意識でなんとか私がモンスターの狩りに行かなくていい言い訳を考える。
「ということで皆にはそれぞれモンスターを手分けして―――」
「そういうことなら私はここに残って警備をしようか。」
「むっ?いや君にはタックルボアを……」
「まあ待て、まずは話を聞いてくれ。正直私は今まで街から出たことがなくてね。土地勘やらこういう時のセオリーはよく分からない。だがこれでも吸血鬼、それなりの力はある。けれど私のスタイルは手数と回復重視でね、獲物を狩るのにはそれほど向いていないんだ。それなら私を防衛に回して君たちのような土地勘や経験がある者が狩りを行った方がいいだろう。手数……獲物の量の方を重視すべき状況だろうしな。」
「なるほど。そう、だな。……お願いしてもいいか?」
「もちろんだ、任せておいてくれ。ああでも、もし手に負えない何かがあったら空の方に『影絵の獣』……影の動物を出す魔法で大きな鳥でも出すことにするからその時は急いで帰ってきてくれよ?」
「ああ。―――よし、皆!狩りに行く面子と班分けを決めるぞ。」
ふぅ、なんとか誘導できたな。というかタックルボアってさっき言ってた話によると巨大な上に相手を認識すると全力でタックルしてくるとかいう輩じゃなかったか!?仮にもあれだぞ?今世の私は美少女だぞ?それに当たらせようとか扱いがひどくないだろうか?これでも少なく見積もって上の下の容姿をしていると自負しているんだが……それともあれか?私のセンスが異世界産なだけでそうでもないのか?だとしたらかなりショックなんだが。いやだがいつの場でもシンメトリーと清潔さとかが重要だよな?ならきっと大丈夫、大丈夫のはずだ。いやこの姿でモテる気なんてないんだが、でもほらそれと顔が良いかどうかは別だろう?前世は……まあ悪くはなかったんだが、何故か胡散臭いとかむっつりそうとかひどい評価でな、うん。だから今世ではこう、綺麗で居たいのだ。うん。
テキパキと班を振り分けて森の中へと散って行くテータイくんたち。ふむ、やはりこういうところの手際はいいな。私としては本心ではこのまま賭けに行きたいんだが……さすがにそれをするにはちょっと状況が悪い。どう考えてもバレるからな。仕方なく皆に目が届くような位置にキャリーバッグを置いて座る。なんというかキャリーバッグが椅子になりつつある。まあ便利なのはいいことだけれども。
私は『影絵の獣』を皆を囲むように配置する、私と同じように待機をすることになったのは……ルブラリエちゃんか。まあそうだな、ヒーラーは戦いに出すより拠点に置いておいた方がいい、納得だ。そしてそれ以外は外へ出て行ったらしい。ふむ、休んでるやつや調理班の中にも戦える奴はいるんだろうが、だとしても基本が私とルブラリアちゃんということは信用を勝ち取れたということだろうか?する意味がないしする気もないが今私が裏切ればあっさりと全員鎮圧できそうでもある。
いや回復魔法があるし少し難しいか?私は火力や殲滅力はあんまりないからなぁ。まあいずれにせよ被害を出すことは簡単だ。それを許すような配置ということはやはり信用を得られたということでよいのだろう。それがどの程度のモノかは分からないが、嬉しいことだ。色々と動きやすくなる。あっ、別に何か企んでいるとかじゃないぞ?いざという時だ、いざという時。
なんてことを考えつつ、横目でギャンブルを勤しむ人々をいいなーと嫉妬の籠った眼差し――と言っても私は視線の意味が伝わらないように周囲を見ているのだが――で見つめる。だが私の横には私よりも遥かに嫉妬の念を滾らせる人物が居た。――ルブラリエちゃんだ。
眼を細め、今にも「ウギギギギ……!」とでも言いだしそうな彼女を見る。容姿は良い。細身で整った顔と身体。それでいて大きいとまでは言えないがそこそこはしっかりとある胸。緑のゆったりとした、けれど関節などはしっかりと保護してあり街の外の活動に適した衣服。薄茶色の髪に赤い瞳、細長い耳。……もしかしてエルフの血でも混じっているのだろうか?ともあれ目の保養要員としては文句ない仕上がりだ。
「ギャンブルが出来なくなって、残念だったな。」
「うぅ……全くですよ。せっかく良いところだったのに。」
「ははっ、まあこんなこともあるさ。……昔から賭け事はやるのか?」
「賭け事――ギャンブルですね。えぇ、そうなんですよ。前からずっと好きで好きで。だからこんな旅の中でも出来るってなって嬉しくて嬉しくて、なのに、なのに……!!」
「分かるよ、私も楽しみだった。それなのに今からやろうって思った時に声を掛けられてな。」
「ナイトリアカード様も……うぅ……悲しいですよねぇ……。」
「イオカルでいい。逃げた先で家名を名乗るべきかも分からないしな。ちなみに今日はどうだったんだ?勝ってたのか?」
「うぅ……あの賭けさえ、あの賭けさえ成立していれば今頃……」
「そうかそうか、それは残念だったな。口惜しいだろうなぁ。」
他人の不幸は蜜の味、という言葉がある。他人が不幸な目に遭っているのを見ると心が軽くなったり楽しくなったり嬉しくなったりするというものだ。それとは別に加虐心という言葉がある。他人を虐めたいだとか苦しめたいだとか思う感情のことだ。つまり何が言いたいのかというと……私は今ちょっと気分がいい。何気なく話しかけただけだったんだが、彼女は思ったよりも深く悲しんでいるようなのだ。漫画だったらしくしくとでも文字が出ているんじゃなかろうか?
ああ、もちろん娯楽が少ないだろう旅の中で私が持ってきたもので楽しんでくれたというのならそれは喜ばしいことである。それはそれとしてルブラリエちゃんがどっぷりギャンブルに嵌っている割と駄目人間気質なのは確かだが。とはいえ本当の駄目人間なら迷わずギャンブルの方を選んだだろうし、こうして私と一緒に仕事に従事していることを考えれば手遅れと言われるレベルではまだないのだろう。えっ、基準が低すぎる?自分を肯定するのに基準を下げるのは常套手段だからな、癖になっているのかもしれない。
「それにしてもよく逃げるっていうのにあんなに一杯持って来れましたね?」
「ん?ああ、それか。いやほら私は吸血鬼だろう?『強化』しなくともそこそこ力があるんだ。だから多少重くとも、な?それに私これでも荷物を小さく纏めるのは得意なんだよ。」
「へー。力持ちの整頓上手さんなんですね。」
こういう収納に関する整理整頓は遠足や修学旅行で遊び道具やらお菓子やらを沢山持ち運ぶために一時期熱心に研究して手に入れた技能である。力の方は特に鍛えたりとかしていないので純粋に才能と種族スペックだが。
「ところで、その聞かれたくないなら答えなくてもいいんだが……君は、何の種族なんだ?」
「ん?ああ、大丈夫ですよ、よく聞かれますから。私にはですね、森人族と蝙蝠族、それから吸血鬼の血が流れているんです。」
「ほう……?」
なんでも彼女は森人族の父と蝙蝠族と吸血鬼のハーフの母を持っているのだとか。どうやら蝙蝠族全体の方針として人間側に付くことになったらしく、それで吸血鬼の血が混じる彼女は幾許かのお金と荷物を持たされてこちらに合流することになったのだという。両親はどうしたのだろうと思いはしたのだが、ここにいないということは何かしらあったのだろう。あまり触れない方がいいか。地雷だったら不味い。それに彼女の両親は現状別に必要な情報じゃないしな。だから単に大変だなぁと悦に浸りつつ、神妙そうな面持ちで「それは……すまない、聞きづらいことを聞いたな。」とだけ返す。
「いえ、お気になさらないでください。結構色々持たせてもらいましたし……仕方のないことですから。」
「……そう、か。」
「それにほら!ギャンブルやってると楽しいですし、ご飯も美味しいのでいい旅ですからね!!……今は仕事でできないんですけど。」
「なに、今取りに行ってるのは明日以降の分だろうし、時間帯的にもうすぐ調理も終わるだろうからそこまで長く待たないだろう。だから食事が終わったらのんびりとやればいいだろう?」
「ふふっ、そうですね。あっ、せっかくですし一緒にやりませんか?」
「おおっ、いいな。やろうやろう。ふふっ、仕事終わりの楽しみが出来てしまったな。」
「ですね!いきなり危ないモンスターが襲ってくる、なんてことも早々ないでしょうしこれは食後が楽しみ――――――――」
ガサリ。
植物の葉が擦れる音が響く。まず目に入るのはこげ茶色。意識するのはその大きさ。なんだ、いったいと頭が動き、一瞬の後にそれが巨大な猪であることを理解する。
「っ――――全員逃げろ!!」
「ブモォォォォォォォォ!!!」
咄嗟に向かわせたと道中の『影絵の獣』ごと直線上にいる人々を巻き込んで――幸いなことにギャンブルをしている者はいなかったので私のダイスやらトランプやらは壊れなかったはずだ――こちらへと突き進む巨影。とりあえず声を掛けたし最低限の仕事はしたよな?というかなんでいきなり私を狙ったんだ、他にもたくさんターゲットはいるだろうに。ええい、運の悪い。しかしあれだな、こいつ、動物、いやモンスターか。モンスターの癖に目の近くに傷があって割とかっこいいな、ちょっと生意気だぞ。
などとまるで走馬灯のようにゆっくりと感じられる感覚の中、騒音で誰にも届かぬであろう声を私は上げる。あるいは仕方のないことなのかもしれないが、それでも言いたかったがゆえに。そして今ならきっと誰にも聞こえないだろうと判断したがゆえに。
「このくそったれ!!!フラグを立てたなぁぁぁぁぁ!?」
身体に走る衝撃を感じながら、回転する景色と共に私は数秒の飛行を楽しむことになった……。
ちなみに主人公がタックルの対象に選ばれたのは運が悪かったのではなく強そうだったからです。




