第二十二話、出発前③
ナンバリングを普通の数字から丸で囲まれた数字に変更しました。
周囲を取り囲む軽装の男たち。後方にいる私が動き回るのを妨害する役立たずたち。えっ、自分で護衛の立ち位置を選んだのに非戦闘員たちを貶すのは理不尽だ?いやいやそもそも自分で自分の身を護れないのが悪いと思わないか?自己の防衛を自己以外に依存するというのは楽だし私も好きだが、だからこそ多少の工夫が必要なのだ。状況を調整しろとは言わないけれど、せめて色仕掛けやらお酌の一つなりよいしょの一つなりしてくれよ。合流して今だ誰もしてくれていないんだが?
私は一歩敵側へと踏み込むと『血液操作』で大きな剣を作り大振りで振るう。私がそんなことをしたところで普段なら大した効果はないだろう。だがここで『一撃粉砕』が輝く。一撃の威力を引き上げるこの魔法によって速度と威力が増大し、十分効果的な一撃と化す。連撃や防御には使えないこの魔法だが、大技で攻撃する場合はとても有効だ。
「ぐっ、こいつ、こんな力が―――!」
「気を付けろ、相手は吸血鬼、油断するな!」
「畜生、昼の吸血鬼は弱いんじゃねぇのかよ!?」
悪いな、腰にぶら下げた――ずっと手に持っているのもあれだったので場所を変えた――ランタンのおかげで私だけ夜なんだ。吸血鬼の弱点を帳消しにしてくれる『夜の帳』はやはり素晴らしいマジックアイテムだと思う。
「なんだこれ……何しやがった……!?」
「うぷ……気持ち悪……」
「み、水……!!」
それから諸君、私の攻撃は何も強力な大振りの一撃だけではないぞ?攻撃を躱し切れずに受けた者たちの顔色が悪くなる。『毒付与撃』、彼らの頭領の固有魔法である。即死せずに彼が生き残ったが故の技だ。ぜひたんまりと受けて欲しい。
「おや調子が悪いのかな?もしかしたら熱中症かね?私たちのことは気にせずそこらへんの木陰で休むことをお勧めしよう。」
「「「ふざけんな!!」」」
私の耳に届く罵声を受け流し相手が動揺しているのをいいことにもう一度同じように薙ぎ払いを放つ。このコンボ強いな。とはいえ『一撃粉砕』は一撃を大きくする効果で、小さな攻撃が多く来るであろう現状での防御には使えないのが惜しいところだ。今のように攻めている時はいいが防御となれば先ほどのように中々きつい展開を強いられることになる。
防御向きと言えばテータイくんの『風の鎧』なんだが、私の固有魔法がコピーであることはともかく相手の魔力を使うことはなるべく隠しておきたい。それに通常のコピーと異なり私の場合は相手の魔力を使う都合上、味方の足を引っ張ることになる。もちろん味方よりは私を優先すべきではあるんだが、チーム戦で味方の足を引っ張れば結果としてより私が不利になる可能性も発生するのだ。
しかしいくらチームのことを考えたほうがいいとはいえ特に有利になるわけでもない非戦闘員のおかげであまり動けないのは辛い。木を使って飛び回るだとか相手が崩れたところにガンガン追撃をかけるという選択肢が取れないのだから。こういうところは個人戦の方が楽である。同じ人数を相手にするならそれでもこちらの方が楽なので受け入れないといけないことなのだろうが。
――うん?チーム戦?ああ、そうだな。チーム戦だった。何もこの状況を私だけで解決しなくてもいいのだ。元の作戦通り私はなるべく楽に過ごして他の人たちに頑張ってもらおう。というか敵の頭領を戦闘不能に追い込んでいるんだ、それだけで十分仕事はしている。少なくとも魔導士なのにあっさり倒されてしまった『森の癒し』の子よりはだいぶ仕事しているだろう。
ということで誰か役に立ちそうなやつがいないかと周りを見る。まず目に入るのはテータイくんと巨漢の男チーム。どうやら取り巻きは倒されたか私の方へ行ったらしく一対一で戦っている。テータイくん有利だと思っていたのだが、見ていないうちに一撃を喰らってしまったらしく血を流しながら少しふらついている。とはいえ巨漢の男の方もかなり疲労が見える。どうやらテータイくんは『飛行』と鴉天狗のもう一つの種族魔法、剣を出現させる『黒剣』を利用したヒット&アウェイを行っているらしく、大分翻弄され身体にかなり傷もある。だが倒れていないというのは見た目通りかなりタフなようだ。
次にゴルドくん……は正直余裕が無さそうだ。ちらほらやられ始めた味方の援護をしている。基本的にやられた味方をこちらに投げているのも彼のようだ。時々的外れの投げを鳥型の『影絵の獣』で回収しながら彼がこちらに来て攻撃を防いでくれないかと見ているんだが、そんな余裕はなさそうだ。というかあれだよな、下手に『再生』持っているから後回しにされている気がする。私を抜けて非戦闘員を攻撃、なんて余裕かましてたら『影絵の獣』で襲えることもあって突破されることもないだろうと思われているのかもしれない。悔しいが私ならそう判断する。
最後にモブ味方達。モブとは言えど種族魔法などを駆使して大体1対2で戦ってなんとか拮抗させている。とはいえそのままではこちらに援護へ来るのは難しそうだ。というかどこも押され気味である。時間が経過するとおそらく負けてしまうのだろう。ついでに後方のやられたモブたちは……駄目だな、誰も彼も気絶している。こちらも援軍は絶望的だろう。
ちっ、余りやりたくはなかったんだが仕方はない。私はあることを確認したタイミングで展開してた『影絵の獣』による狼たちと新しく作り上げた烏の群れを建て直し私に襲い掛かろうとしていた人間たちへと発射する。
「来たぞ、大技だ!」
「いくら吸血鬼っつってもこれだけやって魔力が切れねぇわけじゃねぇ!ここを耐え抜けばぶっ殺せるぞ、気張れ!!」
ガリガリと減っていく魔力に冷や汗を流しながら私は黒い波を操る大攻勢を行う。とはいえ大雑把なこの攻撃では一人二人倒せればいい、いやそれすらも高望みだろう。みるみる消えていく目くらましを見ながら私はこちらへと放り投げられた華奢な女性をキャッチすると彼女に対して『森の癒し』と『吸精』を発動する。草木が生えるような童話的なエフェクトとともに彼女の傷が癒えていく。
「う、ううん……」
「おい、分かるか?」
「えっと……あっ、ごめんなさい!!私、倒されて―――」
「悪いがまだ戦闘中で、こちらの状況は悪い。負傷者を治療してこちらの増援に回してくれ。」
「はっ、はい!」
よし、ヒーラーの戦線復帰だ。これでゴルドくんの行為が実を結び、戦況が楽になるだろう。それに私がやったこともそうは分かるまい。えっ、『吸精』を使った理由?魔力の残量がやばかったんだ、仕方ないだろう。それにこの状況で欲しいのはヒーラーとしての最大回復力ではなく速さ、多少魔力が減ったところでそこまで痛手ではない……はずだ。
ヒーラーの子が後方へと移動したあたりで相手は『影絵の獣』を蹴散らした終わったらしい。私はすかさず跳躍し、もう一度『一撃粉砕』と『毒付与撃』のコンボによって攻撃する。三度目の正直という言葉があるがどうやらそれを遂行できたのはたったの一人らしい。私の攻撃を搔い潜り『強化』を乗せた一撃で私の首を狙う。とても鋭い軌道だ。
だがさすがに今回に関しては誰かしら抜けてくるだろうと思っていた。私の前に待機させておいた狼が躍り出る。もちろんこの狼だけでは攻撃は防げまい。だからこそこの子には盾を拾って持ってきてもらったんだ。
「なっ―――!?」
「おいおい事切れたとはいえ仲間なのだろう?そのように乱暴に扱うのはどうなのかな?話したことだってあるだろうに。」
私の肉の盾を見事に切り裂いた男はしかし、そこで一瞬の隙を晒す。当然『吸精』の隙だ。牙を突き立て、その中身を啜る。ついでに『毒付与撃』も発動し毒に浸しておく。今回は相手の復帰が早く血を吸いきれないだろうと判断したからだ。こちらへと向かってくる敵の集団へと毒漬けになった新オヤツくんを蹴り飛ばす。――ナイスキャッチだ。
「おっとお友達が心配かな?なに、今の段階ならちゃんと手当すれば大丈夫だと思うよ?」
「てめぇ!!」
それと同時に発動するのは『魔弾』、威力控えめで手数重視のスタイルだ。『強化』があるため致命傷には到底ならない。『毒付与撃』はどうやらこういう遠距離攻撃には乗ってくれないようだ。とはいえダメージを与えれば多少なりとも怯む。ついでに地面に当たれば土埃が巻き上がる。時間稼ぎには有効だ。
時間稼ぎ、そう時間稼ぎだ。こちらの陣営にヒーラーが追加されたことで時間はこちらの味方になった。負傷し後ろに下がったものたちの中からこちらに復帰できるものが現れるはずなのだ。これはヒーラーを持たないあちらと比べてとても大きなアドバンテージと言える。……というか今気づいたんだが、非戦闘員の皆も倒れてきた奴の看護くらいはしてるんだな。誤差と言えば誤差だが、0が1になることは素晴らしい、そのまま頑張っていてくれ。
「よくもやりやがったな!てめぇら、一斉にかかれ!これ以上何もさせるな!!多少の傷くらいくれてやれ!」
「おうよ!!」
「こんなに翻弄されてたまるかってんだ!!」
「あっ、俺が言おうと思ってたのに何かっこつけてんだてめぇ!?」
とはいえさすがに私一人で稼げる時間だけでは間に合わなかったらしい。傭兵たちの群れがぎらついた目をしながらこちらへと突撃してくる。この様子だと『魔弾』ばら撒きでは厳しそうだ。不味いな、純粋な近接戦闘だと私では捌ききれないぞ?
いや正確に言えば捌ききれる。捌ききれるんだが、その場合私が滅多切りにされるのを『再生』で耐え続けるという拷問染みた対処法になる。さすがにそれは嫌だ。戦いながら『吸精』すれば魔力的にも持つだろうし、確実なのは否定できないんだが、やっぱり嫌だ。というかこれを受け入れるようになったら色々人としてずれていると思うんだ。
考えた結果、私は『血液操作』を用いての空中戦を行うことにした。まず行うのは跳躍。そこから複数の場所から『再生』を頼りに血を噴出させ――これもちょっと痛い。注射ぐらいか。余談だが私は前世で献血とかなら行ったことはある。……お菓子目当てにな――数本の柱を作り高所に陣取る。
「なっ、こいつ……あんな高所に!?」
「『魔弾』だ!『魔弾』を打ち込むんだ!!」
そうして私と彼らの遠距離戦が始まった……んだが、良いのだろうか?正直軸にしてる『血液操作』を攻撃される方が辛かったんだが。まあ付き合ってくれるというのなら好都合だ。お互いを数多くの射撃が襲う。互いに避けるのが難しい状況だ。とはいえこちらの方が有利である。私は固定されているためあまり避けることはできないが高所に陣取っているため重力が味方であるし、『魔弾』そのものの練度は私の方が上だからだ。あちらの方が人数がいるとはいえ『再生』も相まってダメージレースは有利である。いや痛いしダメージレース自体は割と元から有利だったんだが、まあ『魔弾』同士で打ち合うと私が勝つため被弾数はかなり減ったはずだから花丸だ。それでも割と痛いけどまあドッチボールみたいなものだと思えば、うん。
「お前ら全然足りてねぇぞ!!撃て!!どんどん撃て!!傷は与えてる!!」
「畜生、こんなことなら『魔弾』をもっと練習しときゃよかった!」
「くそ、当たらねぇ!!俺遠距離攻撃苦手なんだよぉぉぉ!!」
だがそんな遠距離戦にも終わりが来る。それは私を狙った余波の『魔弾』で『血液操作』による固定用の足場が崩壊するタイミングであり―――――
「すまない、遅くなった!」
「いやいや来てくれるだけでも助かるとも。」
――――治療が終わり私の肉壁たちが戦線復帰を果たすタイミングでもある。
ぞろぞろと数人の元負傷兵たちが人間たちへと襲い掛かる。『血液操作』を利用し、落下の速度を緩めながら着地した私。しかしそこに襲撃はない。私と『魔弾』を行い体力が減っていたところに増援だ。対応する余力もそう残ってはいないだろう。だが―――
「この状況で私から目を離すのは得策とは言えないなぁ?」
そもそもいくら『強化』の倍率が同程度とはいえそれ以外の手札の厚みが違う。純粋な一対一なら私の方が圧倒的に有利なのだ。そんな私をフリーにするということは、即ち犠牲者が増えるということに他ならない。血を吸われる男の断末魔を聞きながら戦場を俯瞰する。魔力はだいぶ補給できた。が、チャンスではあるしもう少し補給しておこう。
流れ作業のように何人かの相手を吸い殺した後、少し後ろに下がった私は戦場を俯瞰する。うん、これはもう勝ち、いや大勝でいいだろう。相手の頭領はろくに動けず、テータイくんも……おっ、やるなぁ!ついに巨漢の男を倒し、よしよしっ、しっかり止めも刺したみたいだ。他も戦闘員の人数差が逆転したことで次々と倒していっている。間違いない、これは勝利だ。なら非戦闘員に声をかけて安心させるとともに仲間意識を稼いでおこうか。
「どうやらこの戦いは我々の勝利に終わったよう――――――」
そうして私が気を緩め後ろを振り返ったその時、高速でナニカが私の横を通り過ぎる。何かと思い注目してみれば、そこにあった、否、居たのは地面にめり込んだテータイくん。
「――――だ…………?」
何が起きたのかと慌てて振り返り彼を雑巾へと変えた下手人を探す。私を出迎えたのはギラギラとした眼でこちらを睨みつけ、『決意の灯』を発動させた頭領の姿だった。
モブたちに対する戦いではアラネル、フレリア、ルーニャといった主人公が戦ってきた彼らの方がかなり楽です。ここにいたのが彼女たちならもっと簡単に人間たちは倒されていたでしょう。




