第十九話、マジックアイテム争奪戦③
VSルーニャ戦終了です。
ルーニャちゃんとの耐久戦を開始してから数分、戦いは私がサンドバックになり続ける一方的な展開から変化が生まれていた。その理由は主に二つ。一つは私側の慣れだ。『合成獣』そのものの使い方だけではなく種族魔法の使い方も合わせて戦い始めた時よりも上達していた。
例えば『合成獣』を発動し、腕や顔などを生やす時相手に突き出すような形で出していたのを、自身の後方に出し、さらにそこから身体を生やしつつ前進という押し出し方式を採用したり。例えば『魔法操作』と『思考加速』の組み合わせに慣れて相手の攻撃を受けるタイミングや箇所にピンポイントで魔法による防御を行えるようになったりだ。
けれど戦いが様変わりしたのはもう一つの理由の割合の方が大きいだろうと思う。それはある一つの気づきであった。つまり――――――ただ攻撃を受け続けるより積極的に『吸精』を狙いに行った方が効率がいいのではないか、というものだ。
そもそも――私としては痛いので非常に不本意ではあるのだが――現状での私の必勝法は『再生』利用したサンドバックからのリソース勝ちである。それゆえに相手のリソースを奪える『吸精』はこの戦法はとても相性が良い。さすがは吸血鬼、強い種族である……とは思うのだが、私の知る限りこれをメインにする吸血鬼は知らない。大抵の場合『血液操作』で攻撃を、『再生』で回復を行うスタイルで、『吸精』は戦闘中には余り行わないようなのだ。何故なのだろう?やっぱり痛いからだろうか?
ともあれルーニャちゃんから魔力を奪い取るために私は攻めっ気を出すことにしたのだ。なお言い訳をさせてもらうとそれまで出していなかった理由は、攻めっ気を出してもすぐにやられてしまい、むしろロスに繋がるのではないかと思っていたからだ。
けれど戦いという名のサンドバックタイムの中、ルーニャちゃんが私に牙を剥いた――物理的な意味で――ことで私は『吸精』の有効的な使い方に気づくことができた。彼女はまるで八岐大蛇か何かのように増えた蛇の顔が私に襲いかかったのである。狙いは蛇人族の種族魔法『毒の牙』、文字通り牙で噛みついた相手の体内に毒を注入する魔法だ。私の再生力を見て埒が明かないと判断したのだろう。
無論、『再生』の魔法は毒であっても治療することができる。だがそれは当然その分それだけ魔力を消費すると言うことであるし、それが魔法による毒ならば練度でより強力な、言い換えればより治療に魔力を消費するような毒を放つことができるからだ。
だがその苛烈な攻撃は私に気付きを与えた。顔が生やせるということは歯―――牙を生やすことができる、と。私の種族は吸血鬼、中でも私は才能に満ち溢れた存在(自画自賛)であるからしていくら相手が複数の種族魔法を使いこなすほどの力量を持っていようと吸血鬼の種族魔法なら私に軍配が上がる。(『血液操作』を除く。)
そして吸血鬼とは文字通り血を吸う種族、つまり直接相手から血を啜るのがもっとも効率よく『吸精』を使用できるのだ。ゆえに私は身体――と言ってももう滅茶苦茶なことになっているが――に大量の牙を生やしてルーニャちゃんへと絡みつきながら数多くの牙を突き立てた。
口内に広がる血の味はとても雑味が多い、『合成獣』によって数多の種族が混ざっているからだろう。けれども意外と嫌いではない味だ。なんというのだろう、色々混ざってはいるがこれはこれでいいかな、と納得できる雑味とでも言おうか。冷蔵庫と冷凍庫の中身を適当に鍋に入れてじっくり原型がなくなるまで煮込みました、何食べているのか分かりませんがなんとなくまとまっている気がします……みたいな?それに今ではまるでラスボスか何かに思えるような姿のルーニャちゃんだが、本来はゆるふわ系の巨乳というとてもあざとい姿だ。それを想像しながら血を啜るのはやはり気分が良い。
なんて考えていた私に痛みと毒が走った。考えてみれば当たり前で私が牙を生やして『吸精』を行うのなら、あちらも同じことをするに決まっているからだ。私も負けじと『毒の牙』を起動する。私とルーニャちゃんの手が、足が、伸びた首が、身体全体が絡まりながらお互いに毒を渡し合い、魔力を奪い合い、そして再生しあう。炎はこの状況下でも変わらず私たちの身体を燃やしていく。
減っていく魔力という名のリソースと痛み。遠くなっていく意識。変化した耐久戦は今やインファイトですらない零距離戦を展開していた。きっと私やルーニャちゃんの表情がいつもの通りならお互いに苦悶の表情を浮かべていたであろう。互いを刺し貫く数多の攻撃、身体に回る毒、それを補うための『吸精』と『再生』に『合成獣』。気を抜けばあっさりと死んでしまいそうな緊迫した泥仕合である。
ところでこれ、『合成獣』を使っているせいでお互いにモンスターというかやばいナニカへと変貌しているが元々の姿だったら中々にエロいんじゃなかろうか。服だってもはやほとんど意味をなさないので半裸か全裸でお互いに絡み合いながらお互いの柔肌に牙を食い込ませて吸血しているのだ。しかもその二人はどちらも美女、あるいは美少女である。これはとても耽美な光景になるはずだと思う。いやチラリズムに代表されるような見えないこそのエロスを考えると現時点でも十分にエロいのかもしれない。―――はっ!?そう考えると現在の戦いはルーニャちゃんとの特殊プレイと言い換えることができるのでは!?
大いなる発見に心が湧きたつ。参ったな、私にはМっ気はなかったはずだったんだが、この状況に少しドキドキしてきた。あるいは双方向だからだろうか?痛くて辛いのにちょっと気分が上がってくる。どことなく気持ちいいような気がしないでもない。なんというか新しい扉が開きそうだ。冷静に考えれば単に意識が朦朧としてきて思考が変な方向へ行ってしまっているだけな気がするがな。
けれどやはりこの状況は不味い、それが錯覚であれ性癖の扉というものは一度増えればそう簡単になくならない、永続デバフであり永続バフなのだ。昔はこれにエロさを感じなかったはずなのに、今では大興奮、みたいな経験は健常な男性諸君なら同意してくれると信じている。……とはいえそれは奈落へのダイブでもある。
私は常の戦いとは別種の危機感に追い込まれ、行動を余儀なくされる。行うのは『炎の球』を二発、標的はこの地下保管庫の入り口、ルーニャちゃんの『石の壁』によって塞がれたその地点である。
私の放った攻撃で壁がひび割れ、そして砕け散る。その結果起こるのは空気の流入。完全に密閉されていたわけではなかったとはいえ、石の壁によって塞がった出入り口から入る酸素の量は炎によって消費されていた酸素の量よりも少なかっただろう。段々と部屋の酸素が減り、炎の勢いも弱まってきていた。だが私が壁を破壊したことでそこに変化が生まれる。流入した空気によって一気に炎が勢いを増したのだ。
「っ――――――!?」
視界を赤が染める。毒と合間りもはやどこが痛いのか分からなくなる感覚。動揺するルーニャちゃん。炎によって被害を受けたのもそれに驚いたのも同じ――自分でやったこととはいえ驚くのは仕方ない、よな?――だが、備えていた分だけ復帰までの時間が変わる。この状況でのその差は十分一手分を満たす。明確に有利に立った一手で持って私は『巨大化』で腕を大きくし『金剛力』で単純な力を底上げ、『爪刃』を使って硬さと衝撃により彼女を弾き飛ばす。
「ぐっ!?しまっ―――――」
その衝撃で密着状態は解除され、それと同時に彼女が持っていたマジックアイテムが宙に浮く。それを目視した瞬間にしめたとばかりに触手を伸ばし、確保を試みる。だが彼女も同様に触手を伸ばしていた。さすがの復帰の早さ、しかも私が伸ばした触手が一本なのに対して彼女は二本である。ここに彼我の実力の差を感じずにはいられない。だが今回のルーニャちゃんはその差を活かしきることはできなかったようだ。
私が掴んだのは『影絵の獣』、彼女が掴んだのは『石の壁』と『炎の球』だ。どちらにも取られなかった『血翼』は今も私と彼女の間の地面に横たわっている。まあ翼なら『合成獣』で普通に生やせるからな。自分の血液を翼に変える『血翼』は優先度が低いのだ。
「はぁ……はぁ……やってくれましたね。」
息を荒げながら私を睨みつけるルーニャちゃん。仕切り直したこともあり、お互いに姿は前の人型に戻っている。着ている衣服はお互いにボロボロだが……今から街を出ようというのだ、お互いに予備くらいは持っている。
とはいえ今にもポロリしそうな彼女の姿は私としてはとても興味深いものだ。できればそのまま『合成獣』を使わないでいてくれるととても嬉しい。とても眼福である。そんな私の願い虚しく彼女は私へと攻撃するために右腕を変化させ―――
――――そして膝をついた。
「なっ!?そんな……まだ魔力は残っているは……えっ?もう残量がほとんどない……?」
「おやおやおや?ようやく気付いたのかな、ルーニャちゃん?」
私はにやにやと魔力が底を尽きかけている彼女へと笑いかける。分かるとも、戦いが激しくて自身の魔力残量を確認する余裕すらあまりなかったのだろう。それにお互いに『超音波』などの感覚に干渉する種族魔法で相手に妨害も行っていた。だからこそ今までの自分の経験を元に判断し戦っていたに違いない。そこに私の毒――文字通りの意味ではなく罠という意味だが――が効いたのだ。
「ま……さか、まさかあなたの固有魔法は――――」
「くふふっ、もう正解にたどり着いたのか。さすがだな、ルーニャちゃん。実戦慣れという奴かな?そうとも私の固有魔法、『無対価利用』は正確にはコピー魔法ではない。相手の固有魔法を使用する権利を得る魔法だ。」
絶句する彼女に対して優しく諭すように私は私の固有魔法の説明をする。フィクションでどうしてああも簡単に自分の能力を話すのかと思っていたが、納得だ。だってこのネタバラシは―――すごく楽しいし優越感に浸れるのである。
「当然使用権を借りているだけだからどうあがいても私の『無対価利用』では本家本元は越えられない。だが代わりにこの魔法には極めて大きな利点が一つある。それは私がこの魔法に支払う魔力はあくまで使用権を借りるためのコストであり、実際の魔法を行使する分の対価は私ではなく持ち主が払うのだ。」
「そんな……でたらめな魔法が……」
つまり私が『無対価利用』を使用して相手の固有魔法や相手の保有するマジックアイテムの魔法を使うだけで、直に相手の魔力というリソースを削ることができるのである。チート?ろくでもない?そうだな、私もそう思う。この魔法はろくでもない。だから私はこの魔法が好きなのだ。特に相手の上前を撥ねてその費用を押し付ける感じが最高である。
「さてさてルーニャちゃん。私を君が積極的に攻撃してきたのはバレたら不味いというのもあるが、おそらくだがそういう依頼なのだろう?吸血鬼を根絶やしにするために協力しろとかそんな感じの。とはいえ、だ。今から私を倒してさらにこの街から脱出するほどの余力はあるかな?」
「……………………。」
「いくらなんでも私やこの街と心中するのは嫌だろう?私も嫌だ。それに煙も出ているからな、直に誰かやってくるだろう。つまり魔力や体力だけでなく時間的な余裕もないわけだ。それに君は今の段階でマジックアイテムを二つも持っている。どうかな、私としてはここらが損切り、いや利確というべきか。そういうタイミングなんじゃないかと思うけどな。」
私は傍らにあったキャリーバックを取り寄せながら彼女に手打ちを持ちかける。うげっ、少し焦げている。しょうがないが買ったばかりなのになぁ。実際命懸けで私を倒すとか言われるとかなり辛いのでここは素直に引いてもらえると助かる。別にそこまでする場面じゃないだろう、ルーニャちゃん。我々美人が死ぬのは世界の損失さ。……なんて話をするよりは選択を押し付けたほうがいいか。
私はキャリーバックを引きずって出入り口へと歩を進める。一応保険に『影絵の獣』で私の盾になるように熊でも出しておこう。止めたければ貴重な魔力をはたいて止めてもらおうか。そんな私の行動に対してルーニャちゃんが少し反応を見せるが……しかしどうやら何もしてこないようだ。ならば交渉成立と考えてもいいだろう。
「協力、感謝するよルーニャちゃん。機会があったらまた会おう。」
「……私はもうごめんなんですがね。さすがに疲れました。」
「ははっ、つれないなぁ。こんなにも熱烈な時間を過ごしたというのに。まあ痛いから私も同じ展開はごめんだがね。」
ルーニャちゃんに別れの挨拶を済まし、ケホケホと煙に今更ながら咽つつも私は地下保管庫を後にした。さぁて、時間的にはかなりギリギリになってしまったんだが、上手くゴルドくんたちと合流できるだろうか?できないとちょっと困るんだが。まあきっと大丈夫と信じよう。やれることがない時は楽観が一番だ。
それからしばらくの間、カラコロと壊れかけのキャリーバックの音とずるずると何かが這いずるような音だけが地下に響いていた。
明かされる主人公の固有魔法の全貌。
敵として出てきたらふざけるなって言いたくなるような糞ビルドですね。
とはいえ殺そうとしないなら、特に試合のような形式だと結構勝ち筋は多いです。




