第十八話、マジックアイテム争奪戦②
ついに主人公の固有魔法のお披露目回です。
私へと向かって放たれた『炎の球』が石の壁に阻まれた。
「なっ、『石の壁』!?」
もちろんこれはルーニャちゃんが情けを掛けてくれただとかそういうことではない。私の固有魔法による結果だ。何?固有魔法なんて使えたのかって?そう、実は私は以前から固有魔法を使用できたのである。とはいえそれを誰かに見せたのは今回が初めてだ。フレリアちゃんはおろかお父様やお母様にだって見せていないとっておきの切り札である。今まで隠していた理由?いや色々不穏だったし、私はこの街から逃げる気満々だったからな。そりゃ隠すに決まっているだろう。
地面に対して斜めに『石の壁』を繰り出して私を囲んでいた壁を破壊する。『石の壁』は四角い石の壁を出現させるというシンプルな魔法だが、それ故に繰り出す時以外の強度はそこまでではない。いや『炎の球』を1~2回防いでくれる程度の防御力はあるんだが。
自由の身になった私に数発の『炎の球』が飛来する。それをそれぞれ『石の壁』で防ぐ。しかし先ほどよりも魔力が込められていたのだろう。石の壁が破壊され、周囲にその残骸が散らばっていく。その一部は私に小さな傷を与えるが、私が痛くて辛いといういつものダメージ以外は許容範囲内だ。
さて、ルーニャちゃんが私の魔法を『石の壁』あるいはその類似魔法だと勘違いしているうちに布石を打たせてもらおうか。私は『炎の球』をルーニャちゃんがいる場所とは程遠い場所へと発射する。この方向ならば『石の壁』は間に合わない。私も使ったから分かるのだが、この魔法は自身から遠ければ遠いほどに発動までに時間がかかるのである。
「っ!?何を、あっ、間に合わな―――――!?」
反応しきれなかった彼女を尻目に私が放った炎の球は狙い通りの場所―――油の入った瓶を保管していた木箱へと命中する。瞬間吹きあがる爆風を彼女はもろに受け、私は『石の壁』でやり過ごす。
余談だが、同じ魔法や同系統の魔法が固有魔法になる、というのは実はそこまで珍しいことではない。親子二代で性質が偏るというのはよくあることだし、私はお目にかかったことがないが代々固有魔法を受け継いでいる家というのもあると聞く。噂によれば固有魔法を複数使える存在だっているらしい。だから彼女も最初は私の魔法を『石の壁』かその同系統の魔法だと思ったのだろう。
「……コピー魔法、それもマジックアイテムもありなタイプですか、厄介ですね。」
「正解だ。これが私の固有魔法、『無対価利用』だよ。ふふっ、珍しいだろう?」
ルーニャちゃんが当ててくれた通り、私の『無対価利用』はコピー、すなわち他者の魔法を使用する魔法である。正確には私の周囲の存在の固有魔法を使用できる魔法だ。しかもこのコピーは誰かが持ってさえいればマジックアイテムであっても使用可能……なようだ。正直マジックアイテム周りの挙動については試す機会がなかったので今回初めて知った仕様である。
「なるほど、どこから私が敵だと気づかれたのかと思ってましたが、その魔法ゆえというわけですか。」
「ああ、その通り。君が純粋な吸血鬼でないことは以前から把握していた。とはいえ友人だからな、態々言いふらしてなんていないから安心してくれたまえ。なんなら惚れてくれても構わないぞ?」
「あははっ、御冗談を。」
ルーニャちゃんの固有魔法は『合成獣』。その能力は自身の種族の変更だ。この固有魔法を持っていたがゆえに私は彼女がおそらく純正な吸血鬼ではないだろうと目を付けていたのである。話さなかった理由?彼女以外にもスパイの類はいるかもしれないのに態々自分の手の内に繋がりそうな情報を言いふらしたりはしないと思わないか?前にも言ったが私はこの街に義理なんてほとんど感じてはいないのだから。
ちなみに彼女に言うつもりは今のところないが、私の『無対価利用』には固有魔法の情報は不随しない。分かるのは固有魔法が使用可能かどうかとその固有魔法の名前のみである。だから私は彼女が近くにいる時にこっそりと魔法を使用して確認を行った。(そのような感じで確認したのは彼女に限らないが。)
こっそり起動する方法はいくつかあるんだが、ルーニャちゃんの場合はトイレ休憩の時だな。距離としては近いのにお互いの姿が見えないから便利なんだ、攻撃魔法とかだとちょっと失敗する可能性が出てくるが。
部屋全体に飛び散った火種が置いてあった物品や埃などに引火したことで部屋の中がだんだんと明るくなっていく。私とルーニャちゃんの双方がおそらく熱さを感じ、それと同時に『再生』を使いだす。傷だけではなく毒――この場合は煙やら酸欠やらだが――にすら機能するこの種族魔法こそ、我々吸血鬼が強力な種族であることを担保していると言っても過言ではない。
環境を炎塗れにする、という狙いは成功した。だが気を付けなければならない、私がコピー魔法の使い手でありあちらの魔法の内容を知っているということは、あちらには自身の固有魔法を温存する理由がないということである。つまり当然ここからの勝負は――――
「―――出し惜しみなしです!!」
瞬間、部屋全体に甲高い音が反響し、私の平衡感覚が狂っていく。黒い狼と青白い宙を泳ぐ鮫が出現し、彼ら全てが『炎の球』を発射する。『石の壁』で防ぎきれずに身体が燃えたかと思えば、いつの間にか目の前にいたルーニャちゃんから巨大化した回し蹴りを受け、吹き飛ばされて勢いよく壁へとめり込む。
「ぐっ、まず――――!!」
追撃を躱すために『石の壁』で背中を押して前へと転がる。私の頭の上を鋭い爪を持った腕が通過し、さらにその後方の壁に大きな爪痕が付く。彼女の眼光が鋭くなり首が伸びて私を拘束しようと巻き付いてくる。私は自身を突き上げる形で『石の壁』を発動させ、宙へと押し出し、生やした翼で飛翔し、仕切り直す。
「『超音波』『眷属鮫』『魔法操作』『巨大化』『爪刃』『伸びる首』……『思考加速』『金剛力』『韋駄天』あたりも使っているのか?種族魔法のオンパレードだな。……というか仮にも女の子なのにその姿は色々大丈夫か?」
「仮にも、だなんてひどいですねぇ。正真正銘女の子ですよ?私の『合成獣』では性別までは変えられませんので。」
キメラの言葉通りに身体の各部分が様々な種族へと変化し、首は伸び、顔の形もぐちゃぐちゃで四肢はそれぞれ別の種族――右腕は鱗がある恐らくは水生系の種族、左腕は模様的に虎人族だろうか、右足は完全に木の根で部屋の床に刺さっている、左足は如何にも堅そうで金属のような光沢を持っている。はっきり言って統一感は欠片もない――の物になっている。あれだけ美少女だった姿はもはやなく、完全にモンスターという様相だ。それも見たら正気を失うタイプの。
「それに―――――――――――――――――――この程度、まだまだですよぉ?」
可愛らしくも不吉で、けれどとても愉しそうな声が私の耳に届く。私がSANチェック不可避だと思った姿には、どうやらまだ先があったらしい。ボコボコという音とともにルーニャちゃんの身体から手が、足が、顔が生えてゆく。しかもそれらの各部位はそれぞれ別の種族のもので中には木の根どころかテカテカとした触手もあるではないか。その姿はまさに化け物と言うにふさわしい。というか世界観本当に合っているのか、これ?ファンタジー世界だと思ってたんだが……。
怖気が走り、思わず足が後ろへと下がる。だが不思議、というのが正しいのかは分からないが違和感を感じるのが楽しそうに部屋に響く彼女の声だけはいつも通り愛らしいそれだということ。そのギャップがいいものなのか、見た目的にきついかは今の私には判断が付かない。恐怖とそれによる吊り橋効果が発生しているような気がするからだ。いやそもそも愛らしくとも言い回しが狂気的であるし、やっぱり感覚がおかしくなっているのではなかろうか。
それにしても私は彼女の固有魔法について思い違いをしていたようだ。種族を変えるとはい言っても精々が2種類のハーフ程度だろうと思っていた。けれど実際にはこれだ。十を超えるほどの種族へと変わってみせたどころか、身体の部位までも生やしている。このレベルまでを行えるというのは相当に、それこそ私よりもよっぽど固有魔法を鍛え上げてきたのだろう。
「『無対価利用』でしたっけ?イオカルさんのその魔法は確かに強力です。でもぉ、私気づきましたよ。マジックアイテムだと分かりませんでしたが、あなたのその魔法は100%コピーできるわけではないのでしょう?現に私が『合成獣』を使い始めただけであなたは追い詰められている。同じならここまでの差は出ませんよねぇ?」
私の頬を冷や汗が伝う。彼女の言うことは正解である。私の『無対価利用』は情報が得られないだけではなく、その出力等も本家本元に比べれば一枚落ちてしまう。それがマジックアイテムならば相性がいいのか、それとも元から劣化しているものだからかさして遜色はないようなのだが。
私が彼女のように大量の種族へと身体を変質させていないのもそれが理由の片方だ。あのような見るからに暴走しそうな形態に私がなった場合にどの程度使いこなせるかが不透明なのだ。私の固有魔法は相手と同じことができるが、相手と同じように使いこなせるとは限りらないのだから。そしてさらにもう一つの理由がある。
「それからさっきイオカルさんが『天の翼』を使った時に気付いたんですけどぉ、どうやらその魔法はぁ、私の『合成獣』を使う分にはサポートしてくれるみたいですけど、そのさらに先、種族魔法を使う場合はサポートしてくれないみたいですねぇ?」
そうなのだ。私が利用できるのはあくまで『合成獣』であって、それによって得られる種族魔法ではない。それゆえに種族魔法を今まで使ってきた―――それこそ吸血鬼の中に混じっても違和感を感じさせないほど種族魔法の扱いに長けた―――彼女と異なり、私は吸血鬼の種族魔法しか使ったことがない。そこには大きな差が存在するのである。
ならばどうするか、対策がないわけではない。このようにドンパチと戦っていれば誰かが気付いてしまう可能性がある。人間たちの襲撃だってそろそろ危ない時間帯に入りそうだ。そして私も彼女も炎によってジリジリと肌を焦がされている。誰だ、こんなひどい環境を作ったのは、と愚痴りたくなるが作ったのは私なのでそれは言葉には出さない。ただ今はやるべきことに集中すればいい。
私が行うのは時間稼ぎ。色々な意味で時間がないこの状況下。私もルーニャちゃんもこれが最終決戦ではなく街から脱出しなければならない。彼女だって別に人間たちのために死んでやるつもりなんてないだろう。だからこそ我々はどちらも余力を残さなければならない。私に勝てたとしてもそこで力尽きては駄目なのだ。それこそが私の勝機である。
襲い来るルーニャちゃん……だったものと形容したくなる彼女の数えるのも億劫になるほどの膨大な攻撃を迎え撃つ。『魔法操作』と『思考加速』によって魔法の操作、同時使用を可能とし発動するのは『石の壁』と『影絵の獣』、そして『合成獣』だ。石と影と肉による三重の壁。そのいずれも次々と破壊されていく。爪が瞬き、壁がバターのように切り裂かれて溶ける。口から放たれた光線が私の芯を穿つ。身体の一部なのかそこから発射されただけの武器なのかも分からない濁流が私を貫いていく。
痛い。とても痛い。ついでに怖い。とてもとても怖い。なにせ友人だったはずの怪物にこれでもかと蹂躙されているのだ。怖くないはずがない。最近こういうのばかりな気がする。前世の世界の高等遊民とまでは言わないけれど、もっとこうのんびりとお酒でも飲みながら人が苦しんでるのを眺めて時折野次を飛ばせるくらい生活は送りたい。どうして私がこんな目に遭わなければいけないのだろうか。そんなことを考えても何にもならないと理解はしているけれど、理解と納得は別のことだ。理解するだけで物事が上手く行くのならば、きっと前世の世界は世界平和を実現していたことだろう。それに私は今も諦めずに一生懸命に、それこそ小学校ならばよく頑張ったで賞とかそういうのをもらえるくらいに頑張っているのだ。心の中で愚痴を言うくらい許して欲しい。
とりとめもない戯言で心の安寧を保ちながら、もはや何がなんだか分からない混沌と化した地下保管庫で、私は懸命に石の壁や影の象などを魔法で発生させつつ、毎度おなじみになってしまった『再生』と『吸精』による耐久戦を行うのであった……。
大変だからこそ思考が変なこと考えだすことってありますよね。




