第十七話、マジックアイテム争奪戦①
初めての連日投稿、やったぜ。
ギィィィィという鈍い音が耳に響く。圧迫感すら感じさせる重厚な扉が開き、内部への道を開く。薄暗い内部には蜘蛛の巣や埃に塗れてはいるが、何やら曰くのありそうな剣などの武具や宝石、如何にもな骨董品などが多数置かれていて、金銭的な価値を見た場合この広い部屋はかなりのものになりそうだ。そんなお宝部屋を私はカラカラとキャリーバックを引いて進んでいく。
ここは地下保管庫。お父様と交渉して手に入れたマジックアイテムが保管してある場所だ。地下に存在しているから当然暗いのだが、元より吸血鬼の私たちにとっては問題ないことである。むしろ問題はこの埃っぽさだろう。少し埃が薄くなっている場所があるのが幸いだが―――――――
―――瞬間、私は自身の頭が鳴らした警鐘に従い一直線に駆け出した。
目指すのは以前から狙っていたマジックアイテム、『夜の帳』と言われるそれだ。このマジックアイテムの能力は単純で、普通の人間に取ってはそれほど大したことはない。けれど私、否、吸血鬼にとっては極めて大きいもの。
―――― 自身の周囲の一定空間内を夜へ変えるのだ。
吸血鬼は言ってみればいくつかの大きな弱点を受け入れることで高いスペックを実現している種族である。その吸血鬼にとって最も大きい弱点こそが太陽だ。この欠点は極めて大きなものであり、弱い吸血鬼ならば無防備に太陽の元へ出れば『再生』を保有していても瞬く間に燃え尽き死へと至りかねないほどだ。それをこのマジックアイテムは防ぐのである。それがどれだけ大きいことかは言うまでもないだろう。
ん?そんなものをお前は持っていくつもりなのかって?当然だ。確かに今からの決戦でこのマジックアイテムがあればとても役に立つ……というかないと辛い戦いになるであろうことは想像に難くない。けれど私はこれから旅をしなければならないのだ。そんな中でこれがあるのとないのとでは私の生存率にも大きな差異が生まれるだろう。そして私の生存率と負け戦をやろうとしているこの街の人々の生存率ならどっちを優先すべきかは、そりゃ、なぁ?
脳内で自己弁護をしつつも走り、『夜の帳』、ランタン型のマジックアイテムを手に取った次の瞬間、私が入ってきた扉が石の壁によって塞がれる。その魔法の名は文字通り『石の壁』、地面から石で出来た四角形の壁を出現させるマジックアイテムの魔法だ。
もちろん私が魔法の中身を知っているということはこのマジックアイテムは地下保管庫に保管してあったものであり、それが今使われたということはそれを保有している存在がこの場にいるということに他ならない。ではそれは誰か、私が考えるにおそらく――――
「やぁ、ルーニャちゃん。この間ぶりだな。」
「……やっぱりお気付きでしたか。えぇ、お久しぶりですね。」
私の前に立つのはルーニャちゃん。私の友人であり人間側のスパイでもある彼女が『石の壁』、『血翼』、『影絵の獣』というこの地下保管庫に存在する5つのマジックアイテムのうち3つを身に着けてこちらへと微笑んでいた。
「しかしどこでお気付きになられたんですか?これでも私この街に溶け込んでいた方だと思うんですよ。それにほら、私吸血鬼でしたし裏切るなんて思わないでしょう?」
「そうかな?吸血鬼であっても他の吸血鬼を裏切ったり見捨てたりすることだってあるだろうさ。例えば私とか。」
「―――ほう?」
じりじりと足を動かし、少しずつ左斜め後ろの方向へ移動する。目指しているのは最後のマジックアイテムがある場所。私はこの地下保管庫に足を踏み入れたことは一度や二度ではない。今日のようなことを想定し、目ぼしい物品の場所はおおよそ把握している。だからこそ埃の薄い場所から私以外にこの場所に誰かがいるということに気付いたのだ。
「私はな、ルーニャちゃん。この街を出ようと思っているんだ。だから君がそれらのマジックアイテムを持ち出そうが、あるいはこれから人間たちがこちらに攻めてくる時のために罠などを施そうが別に気にしない。君としてもこんな土壇場で余計な手間を掛けたくはないだろう?どうかな、ここはお互い見なかったことにしないか?」
「ふふふっ、こんな状況でそんなことを言うだなんてイオカルさんらしいですね。」
暗闇の中でも映える水色の髪の毛と豊満な胸部を揺らしてルーニャちゃんがこちらに微笑みかける。私らしいと笑う彼女――私に対する評価に少し物申したいような気がしないでもない――は一見すると私の交渉を受け入れてくれたように思える。その表情はとてもこれから戦おうなどと思っているようには見えない柔らかいものだ。けれど――――
「―――申し訳ございませんが断らせていただきますね。」
「ええいっ、やっぱりか!?」
マジックアイテム、柔らかそうな黒い羽根ペンから『影絵の獣』を発動させるルーニャちゃん。黒い影の鳥が現れて私へと飛来する。迎撃のために放った3発の『魔弾』。当たりやすいようにとタイミングをずらしたそれらを影の鳥はひらりひらりと回避する。それに舌打ちをしながら襲い来る鳥へと手を伸ばして『吸精』を発動。タイミングを間違えば手痛いダメージを受けそうな行動だが、今回は成功したようで、影の鳥は私に何ら損傷を与えることなくただの魔力へと分解されて私へと還元された。
「やっぱり強いですよね、『吸精』。相手から魔力を奪うのはおまけで、実際には極めて強力な防御手段っていう。せっかく放った魔法があっさりと消されてしまうなんて。」
「いや別にあっさりという訳ではないんだが―――な!!」
私が跳躍すると同時に私が先ほどまで居た場所が隆起し、四角い壁が競り上がる。純粋な魔法に近い『影絵の獣』よりも物理的な部分の多い『石の壁』が有効だと判断しての攻撃だろう。正解だ。『影絵の獣』を脳死で連打してくれたらもっと楽だったのに。
その攻撃を紙一重で躱しながら空中でルーニャちゃんへと発射する『魔弾』。空中というのは厄介なもので方向転換もままならない。つまりとても回避しづらい状況だ。当然敵がそのような姿をしていればここぞとばかりに攻撃を仕掛けてくるだろう。ゆえにこその『魔弾』だ。上手く行けばあちらに回避か防御を選択させて私は安全に着地できる。そうでなくともあちらの放つ遠距離攻撃への迎撃手段になるだろう。
まるで散弾か何かのように景気よく発射した『魔弾』があちらの『影絵の獣』と空中で接触し相殺されていく。しかしマジックアイテム産とはいえ固有魔法である『影絵の獣』と汎用魔法である『魔弾』にはやはり格の差というべきものが存在したようで、相殺しきれなかった一部が私へと飛来する。
「ぐはっ!?」
影で出来た狼や鳥などに思いきり突撃され、壁へと叩きつけられる。それまでの間に『吸精』で影の獣たちは消し去りはしたが、だからと言って衝撃がなくなったわけではない。痛みと衝撃でぐらりと視界が揺れ、発動させた『再生』ですぐさま修正される。ごほごほと咳き込みながら立ち上がって前を見つめる。そこには戦いが始まる前と同じように可憐な笑顔のルーニャちゃんがこちらを向いていた。
「やっぱり駄目ですねぇ、高位の吸血鬼相手だと多少のダメージは誤差のようなもの。すぐに回復されて困ってしまいます。」
「困りたいのはこちらだ!回復するというだけでこっちは痛いんだが!?」
「でも痛いだけで別にそこまで危機感を感じてはいないでしょう?頭の中では冷静にこの攻撃で死ぬようなことはない、と考えているんではないですか?」
「それを言うのならそちらも同じだろう?困ったと口で言うだけで今だってどうやって私を殺そうかを考えているはずだ。……悲しいなぁ、これでも私はルーニャちゃんとそれなり以上に友好的な関係を築けていたと思っていたのに。」
私がよよよ、とわざとらしく泣いた振りをすれば、それに合わせてルーニャちゃんも「私もイオカルさんとは仲が良かったと自負していますよ?」なんて微笑んでくる。これが何もない日常であれば単にやったな、私、仲良しだ!で終わる話なんだが、悲しいかな今は戦闘中。そうは問屋が卸さないのである。
「でも私知っていますよ?イオカルさん、私に心を開いてくれなかったですよね。仲良くはしていても肝心なことは全然話してくださいませんでした。」
再度発動する『石の壁』。しかし今度の発動の起点は足元ではなく背中側、私の後ろにあった、つい先ほど私と熱烈な接触をした壁君だ。少し話をする時間があるかと思ったんだが、どうやら魔法を発動させるまでの時間稼ぎであったらしい。悲しいものだが、しかし当然なのかもしれない。今回に限らず人が誰かに優しく話しかける時など大抵は何かしらの思惑があるものだからだ。
「ぐっ……」
背中に強い衝撃を受けた影響で飛ばされ、地面を転がる私。その回転に部屋の中の物品が巻き込まれ、私にさらなる痛みを与える。ついでに埃も舞うので咽かえりそうだ。けれど移動できた影響で私は目当ての位置へとたどり着いた。右手で掴んだのはランタン型の『夜の帳』とはまた別のマジックアイテム、先端に赤い宝石のようなものが付いた木製の杖、『炎の球』と呼ばれる一品である。効果は炎の柱を出現させるという『石の壁』同様シンプルながら強力な効果で、何より炎という吸血鬼の『再生』に対して有利が取れる継続的なダメージソースである。これを使えば『再生』合戦でもあちらを上回ることができると考えたのだ。
―――が、どうやらルーニャちゃんの方が一枚上手であったらしい。私が杖を構えようとした時にはすでに『強化』された彼女の脚が迫っていた。しかもその攻撃の狙いは私へのダメージではなく『炎の球』を持った右手である。
「くっ――――」
痛みが走る。宙を舞う杖。ゆっくりと動く視界の中でこちらに迫ってくるのは数本の赤く細長い線―――ルーニャちゃんの『血液操作』!?右手の痛みに悶える暇もなく私は『強化』を強め後ろへと跳躍を試みる。間一髪で私は血の槍を回避した。だがそれはおそらく回避されることを前提にした攻撃だったのであろう。再度の衝撃が私に走る。
「ぐがっ!?な、なんだっいった―――『石の壁』!?」
私が跳躍した先にあったのはまたしても石の壁。私が後ろに飛ぶことは予期されていた。いやそれだけではない、左右にも私を囲むように壁が伸びる。追い詰められ、身動きが上手く取れない状況。どう対応するかと悩む私にルーニャちゃんは当然のように追撃をかけてくる。
「―――とりました。」
放たれるのは炎の球体、彼女が手に持った杖から伸びる赤い丸。とはいえさすがにこれ一撃でどうにかなるほど、柔くはない。のだがしかし三方を壁に囲まれた状態で永遠と『炎の球』を打たれ続ければ容易く嵌めコンボが完成してしまうだろう。痛みと熱さに耐えながら『再生』を使いつつこの場から逃げるのは至難の業だ。逃げられたとしても大きく消耗することに変わりはない。
しかもこの状況は今までの戦いの中で一番危ない。何故なら倒せてしまった場合、私を生かす理由が彼女には、ルーニャちゃんには存在しないからだ。ことこの状況において彼女と私の友情を信じるというのは出来ようはずもない。友情というのは利害関係が相反していない時にこそ真価を発揮するもの(持論)だからだ。そもそもスパイであった彼女がどれほど友情を思っているかもかなり怪しいものである。
えっ、私はどうなんだ?いや普通に好きだぞ、ビジュアルとか。可愛いし。今だって嫌いじゃない。私の命より優先するかと言われればそんなことはないが、お父様よりは上であることは間違いない。とはいえ私も彼女も自身の目的を優先するので現時点での友情は尻を拭く紙ほどの価値すらないだろう。
つまりこれを受ければ私はそのまま格闘ゲームで壁際に追い込まれたキャラクターの如くボコボコにされ、人生ゲームオーバーへ一直線というわけだ。さすがにそれはゴメンである。まだまだ生きていたいのだ。だからここはひとつ、隠していた札を使うことにするとしよう。あるいは使わされた、というべきなのかもしれないが。
「はぁ、できれば温存していたかったんだがなぁ。」
私へと向かって放たれた『炎の球』が石の壁に阻まれた。
第十六話にして初めて主人公がまともに本気を出します。(楽勝になるとは言っていない。)




