第十二話、決戦VSフレリアちゃん③
ぐにゃぁ(大分更新に手間取りました……中々筆が進まなかった……)
「「っ~~~~~~!!!」」
私とフレリアちゃんの頭が勢いよくぶつかった衝撃で私たちは声にならない悲鳴を上げる。身体と身体が縺れ合う。彼女が素早く剣を振るおうとし、私が『吸精』を発動させる。
先ほどの焼き直し。けれど先ほどと異なった結果。私が剣を刺されそれに対して『再生』で対抗した瞬間、フレリアちゃんが思いきり私の腹部を蹴り飛ばす。
「ごぶっ!?」
腹部を蹴られた衝撃で宙に舞う私の身体。追撃のチャンスではあるが、そこまではさすがに立て直せなかったようで、彼女が剣先を私の方向へ向けなおした時にはすでに私は立ち上がっていた。
ところでスカートで蹴りなんてしたからパンツが見えてしまったんだが、よかったんだろうか?それとも見せパン的な奴だったのだろうか?いずれにせよ私としては美味しい思いができたのでとてもよか―――まあお腹の痛みと合わせて相殺というところか。
えっ、美少女のパンツが見れたんだからいいだろうって?いやな?普通に蹲りたいくらい痛かったんだぞ?我慢強い(自称)私じゃなかったら文句の一つも言っているところだ。まあ私じゃなければそもそも戦いの最中のダメージに文句を言うという発想が出てこなかった可能性はあるが、そこはそれだな、うん。そういう細かい部分を突き詰めても人は幸せにならないしな。
それはともかく。いったん仕切り直したがこれからどうするべきか。やはり正面戦闘力という点では私はフレリアちゃんに劣る。『再生』を駆使する持久戦法が基本的な勝ち筋なんだが……痛いんだよなぁ。痛いんだよ、『再生』ありきだと。どうにかこれ以上使わずに勝ちたいところなのだが―――残念ながらその方法が思いつかない。
彼女はややよろめきながらもこちらへと剣先を向ける。おそらく次の瞬間にはまた同じように私を切断せんと近づいてくるだろう。そう思い、私は薄く広く弾幕を展開しつつ『強化』による脚力を用いて側面方向へと移動を試みる。スペック差はあるが何もしなければまた突っ込んで斬られる以上、しないわけにもいかないのだ。
が、私が工夫するのと同じように彼女も工夫する。本来なら普通の長さしかなかったはずの『血液操作』の剣が彼女が薙ぐのと同時に一気に伸びてゆく。それこそ私に届くまで。……しかも私の発射している『魔弾』が普通に剣の勢いに押し負けているのだから堪らない。いくら薄く広くと言えども、だ。
「くっ、そんなのありか!?」
迫り来る剣を間一髪しゃがみ込むことで回避する。しかし当然のように振り切った勢いを利用し、フレリアちゃんがこちらへと駆け抜ける。それをしゃがみ込みつつ、彼女の真似をするように十の指先から硬質化した血液を伸ばしていく。
「――――せいっ!」
それらをあるものは避け、あるものは剣で斬り彼女はさらに前進する。距離という名の盾はまたしても瞬く間に溶けていく。だが私の『血液操作』に対処したことで速度が落ちた彼女に並行して発射していた『魔弾』が命中する。それだけでどうにかなるほどではないが、『決意の灯』によって通常よりも強化されていようとさすがに『再生』は私よりも苦手だろう。特に魔力が切れかかっている現在は。
そしてついに、というべきかまたしてもというべきか、フレリアちゃんと私の距離の壁はほとんどなくなってしまった。当然彼女は私に剣を突きつけるべく振るう。後から考えればこれで負けにしてもよかった気がするのだが、私はそれを迎撃する。……いやだってしょうがないだろう。こんな一進一退の攻防、それも相手の方がスペックが高い瞬間ごとの戦いをやっているのだ。反射的に動かなければひどい目に遭う中で咄嗟に手を抜くのはかなり難しいのである。
私の剣とフレリアちゃんの剣がぶつかりあい、キンッという甲高い音が響く。次の瞬間に私の剣がまるで板チョコレートか何かの様にパリンと砕け散る。……チョコレートかぁ、久しぶりに食べたいとは思うんだが今世ではまだ見かけたことがないのだよな。ホットチョコレートというか、歴史とかで出てくるタイプのでもいいから食べたいんだが。(なお歴史とかで出てくるタイプとか適当に言っただけで詳しく知っているわけではないことからは目を逸らす。)
それはそれとしてこの当たり前のように押し負けるのはどうにかならないだろうか。あちらの方が速い上に力も強いというか、受けた手が痺れてるんだが。仮にも私はハーフではない純粋な吸血鬼なのにどうしてフレリアちゃんに押し負けるのか。いやまあ方向性と向き不向きと言われればその通りなんだが。
私の種族魔法は『再生』と『吸精』がメインで『血液操作』は添え物というか一番苦手だし、傾向を見るに精製スピードは私がやや有利、柔軟性は私の方が明らかに有利だからな。強度で負けるのは仕方ない。それに打ち合った衝撃で辛うじて軌道が変わってギリギリ首に突きつけられるのは防いだしな。えっ、近接戦闘の技術?なんのことやら。
しょうがないからと手足の先から痛みを我慢しつつ『血液操作』でプチハリネズミみたいに戦ってるのに現在進行形でどんどん追い詰められているんだがこれはどういうことだろうか。というか普通に腕切断とかまではいかないまでもどんどん切られてそのたびに『再生』する羽目になってるのでかなりつらい。いやむしろ切断まで行くと不味いと思われてダメージを与える程度で済まされているのか?
というかなんで急に何もないところから血を伸ばしても対応できるんだ。しかも『吸精』を警戒してか、私に直接触れられはしないように立ち回ってくるし。なんというかサンドバックになったような気分である。いやようなじゃなくてもうサンドバックだろ、これ。しかも衝撃で吹き飛ばされて距離を取るとか後ろに下がって距離を取るとかしようとすると綺麗に立ち回って防いでくるのでろくに移動できないしな。
私が放つ『血液操作』による槍や『魔弾』を時に回り込むように回避し、時に切り伏せあるいは叩き落しながら私に的確に斬撃を入れてくるフレリアちゃん。もちろん本命は私の首に剣を突きつけることなのだろうが、それだけは避けるように立ち回わっている。あれ?なんでだ?
やっぱりそろそろ負けに行こうかと思いフレリアちゃんを見る。巧みに今も私を斬り続けているフレリアちゃんであったが、その表情は苦々しい。それを見ていると、もしかしてこれならいけるのではないか?という気がしてくる。すでに何度も痛い目には合っているのだし、どうせなら勝って終わらせてもいいのではないかという誘惑が心を支配し始める。少し揺さぶってみようか。
「おや?顔色が優れないな。具合が悪いのなら降参してもよいのだぞ?」
「冗談!!」
フレリアちゃんの攻撃が激しさを増す。何度も何度も私の身体に切り傷を付けていきながら、ここぞという場面を探っている。痛い痛い。いや本当に痛い。とはいえ今素直に攻撃を受けると今までの時間が無駄だった気がしてしまってどうにも抵抗してしまう私がいる。
それに激しく攻め立てる分だけ、彼女は消耗していく。あるいは私の四肢を断ってしまえばもう少し楽なのだろうが、完全に切断することには躊躇があるようだ。お母様なら絶対やってたんだがなぁ。けれど私の身体に無数の傷を付けようと魔力が尽きない限り私にとって有意なダメージには(痛いという精神面の負荷を除いて)なりえない。
そして彼女の首を狙う攻撃は私の腕でガードしていく。そう、腕を切断することに躊躇うのなら剣と首の間に腕を入れれば彼女は自然と一手遅くなる。助走による加速ができない以上、その一手分の隙さえあれば首だけを護ることくらいはなんとか行えるのだ。……正直痛いんだが、慢性的に痛いと逆になんか慣れてくる。単に現実逃避してるだけかもしれないが。
「その戦い方……吸血鬼としての誇りはないのかしら?」
などと思っていたら吐息を吐きながら苦々しげにフレリアちゃんが吐き捨てた。しかし誇り、誇りかぁ。私プライドはあってもあんまり誇りとかないのよなぁ。今戦ってる理由も欲だしなぁ。とはいえ今は衆目がある以上、吸血鬼の誇り?何それ、美味しいの?と言ってのける訳にはいくまい。そうなるといい感じの誤魔化しとしては―――うわっ、危ないな、今首に突きつけられかけたぞ。
「くくっ、まさか君に吸血鬼の誇りについて聞かれるとはな。」
あえて小馬鹿にするように嘲ってみる。その目的は何か、もちろん誤魔化しだ。余裕綽々な表情をしているが、現状私はほとんど一方的にボコられている訳で、それについて言及しようと思ったら基本的に情けないものになってしまうのだ。ゆえにこそここは質問に質問で返すように、話題を逸らして言及を避ける、それこそが活路と見たのである。
「あんたたちがどう思ってるかは知らないけど。あいにく私にだって半分は吸血鬼の血が流れてるのよ!!」
「っ!?しまっ―――――――」
瞬間、噴き上げる赤い液体。血液、だが私の血液ではなくフレリアちゃんの血液だ。私に都合よく状況が動いているからと言って油断していたのかもしれない。持久戦が不利であることは彼女も当然知っている。ゆえにこそ彼女は攻め手に困っている振りをしつつ本命をぶつける機を伺っていたのだ。私の集中力が薄れ、致命的な一撃を放てる隙を。
『決意の灯』により強化された血液……『血液操作』による細い槍が私へと伸びる。その軌道の直線上に存在した私の腕が貫通されるが、しかし細いために切断には到底至らない。そして『決意の灯』による強化も相まって『吸精』を発動するよりも早く私の首元に槍が到達するのは目に見えて明らかだった。
加速する思考。腕からやってくる痛みという名の信号。首を動かそうとも中心目掛けて伸ばされている槍を避けることは叶わないだろう。首から血を流して『血液操作』による迎撃。駄目だ、確実に押し負ける。どうする?もう打つ手がないのか?私は視線を彷徨わせ僅かな可能性を探ってゆく。
観客。駄目だ、あいつらが私の役に立つとは思えないし外部からの介入で何とかしたら私の立場はひどいことになる。先んじてフレリアちゃんを攻撃する。駄目だ、どう考えても間に合わない。足を縺れさせてその勢いで一撃を避ける。駄目だ、そのまま首に剣を突きつけられて終わる。首を貫かれるようにし、『再生』で何とかする。駄目だ、その手札をここで切るわけにはない。部屋の扉。駄目だ、ここから逃げるのはいろんな意味で無理があ―――む?
今まさに開かれようとしている扉が見える。僅かな隙間から覗くのはこちらに走ってきている狼人族の男性。服装はピシッとした革製の鎧、確かここの警備やらを行っている者たちの衣装。表情はどうやら焦っているように見える。占めた、これは明らかに伝令。しかもおそらく緊急性が高いものかあるいはお父様やお母様という上位者からの命令。つまり私たちであっても聞く必要があると見受けられるものだ。
ならばここでの回答はそう、私は軽く片手をあげて「待った」のポーズをすればいい。それだけで私はフレリアちゃんの攻撃に対応できなかった、ではなく伝令がやってきたから模擬戦を中断した、という扱いになる。つまり私の立場は傷つかない。やったぜ。
そして伝令の話を聞いた後に模擬戦を続行するのならば千載一遇のチャンスを逃したことで天秤は私の方に大きく傾くし、中止するのならばそれはそれで損切りというか利確にはなる。今までは物凄く簡単にやられていたのだからこれが戦えるようになった、だけでも評価としてはプラスになるのだ。それにフレリアちゃんのパンツが見えたり抱きつけたり血が吸えたりという役得もあった。斬られたことによる、というか痛かったことによるマイナスはでかいが、それでも十分妥協できる範囲だろう。
なんて考えつつ伝令の方を見遣る。フレリアちゃんの槍は私の喉元に向けられているが私の手の状態とそれから誰かが来たことに気付いたのだろうことで怪訝な顔をしながら彼女もまた伝令の方を向く。そこで息を整えた彼が発した言葉は――
「伝令です!人間共の軍勢がこちらに向かっています!!これより我らアヴラパヴァンの街は奴らとの戦争に入るとのことです!!」
街の名前を今更決めるというあれ。




