第十一話、決戦VSフレリアちゃん②
筆を早くしたいと思いつつもついつい先延ばしにしてしまう悲しみ。
「くっ……が……ば、馬鹿な、『決意の灯』だと!?」
突然跳ね上がった力に、先ほどまで魔力が枯渇気味だったはずなのに目に見えて分かるほど行使されている『強化』。何が行われたかは分かるが、それでもその結果に驚いてしまう。
フレリアちゃんが使用したのは『決意の灯』、人間唯一の種族魔法だ。この魔法は独特で、極めて扱いづらいため、これを理由に人間を下等種族だと見下す者も多い。だが逆にこの魔法のおかげで人間の勢力範囲が多くなっているのもまた事実である。(まああいつらは他の種族と比べて内輪揉めと分裂が多いのも特徴だったりするんだが。)
もったいぶらずに早く説明しろ、という心の中のツッコミ(幻聴という名の現実逃避)が聞こえてきそうなので話すと、人間の種族魔法『決意の灯』とは簡単に言えばピンチで強くなる魔法だ。
正確に言うのならピンチに陥った時に精神力を身体能力や魔力に変換する魔法、と言われている。何故言われているなのか、それはもちろん精神力なんてもの計測ができないからだ。だがこの魔法の評価が悪い原因はそれではない。
少し考えれば分かると思うのだが、例えばあなたが危機的状況に陥ったとして、その状況で前を向くことができるだろうか?決意や信念、そう言ったもので己を奮い立たせることができるだろうか?もしあなたがそれができないのなら、残念ながらあなたはこの魔法を使うことができないだろう。
そう『決意の灯』という種族魔法は使い手に精神力を、前を向く力を、最後まで諦めないことを要求する魔法なのだ。ピンチでなければ使用できず、ピンチであっても使えるとは限らない。その特性ゆえに使い勝手が悪い魔法として認識され、これしか種族魔法を使えない人間は他種族から弱者扱いされているのだ。
だが敵として見てみればこれほど厄介な種族魔法はそうは存在しない。自分が使うとなれば産廃もいいところだが、敵としてみればある程度の魔法使いの集団がいればそのうち誰かしらは発動するのだ。いや、それどころか魔法が使えなかったはずなのにこの魔法に急に目覚めるという話もあるほどだ。
この魔法を前世風に表現するのであれば、主人公補正と言ったところだろうか。ピンチにおいて精神力で強くなるとかチートもいいところだと思う。これをこの世界の人間たち―――人間は誰であろうと使える素養があるというのだから驚きだ。(まあ魔法使える段階で私の知っている人間とは別種族と言われればそれはそうなんだが。)
だが今驚くべきことはそういった『決意の灯』の特性でも、フレリアちゃんがそれを扱えることでもない。前者に関してはずるいなとは思うが、すでに知っていたことだし後者に関してはまあ、フレリアちゃんは割とストイックなところがあるし私との対決もどうやら結構真面目に修行して臨んでいるらしいのでそこまで驚くべきことでもない。だから私が真に驚いたのは、だ。
「これ模擬戦なんだがね?」
「ふー……ふー……。……だから?種族魔法を使ってはいけない、なんてルール聞いてないわよ。」
フレリアちゃんが模擬戦だというのに『決意の灯』を発動したことである。先ほども言ったがピンチにおいて精神力を力に変えるのがこの魔法だ。そしてフレリアちゃんはハーフであるため普通の人間よりも種族魔法を扱いづらいはずなのである。であるにも関わらず彼女は今『決意の灯』を使用できた。
つまり彼女にとってこの戦いはピンチであり、なおかつ精神を振り絞って戦うのに適した場であったということだ。……やっぱりこれ私が彼女を殺すつもりだと思われてるのだろうか?あれか?この場を設けるにあたって少し強引というか逃げ道を少し塞ぐように持ちかけたのが原因か?
い、いやそうだ。観客だ。先ほど観客が好き勝手に色々言っていた。死ぬところがみたいだとか母親を殺したいだとかだ。まったくもって物騒な話である。何度も言う通り私にはそんな気は毛頭ないのだが、周りが囃し立てればもしかして、などと思ってしまうのはよくあること。彼女は真面目だから少し真剣に受け取りすぎてしまったのであろう。まったく対して役に立たないのに迷惑な観客たちである。いやそれどころか私が勝つところだったのに『決意の灯』なんて発動させる機会を与えるなどマイナスもいいところだ。えっ、責任転嫁じゃないかって?知らんな、私の辞書に私に都合の悪い言葉はない。
さて、心の整理をしたのはいいのだがそれはそれとして模擬戦の方だ。フレリアちゃんは『決意の灯』によってイケイケモード、またの名を主人公補正モード。先ほどよりもだいぶ強いことは想像に難くない。というか一回思いきり吹き飛ばされたしな。
だが欠点がないわけではないのだろう。いや欠点というよりはまだ使いこなせてはいないと見るべきか。先ほど私の言葉に返事をする時に肩で息をしていたし、いつもならすでに突っ込んできている場面のはずだがこちらの出方を伺っているように見える。おそらく彼女にとって『決意の灯』は消耗の激しい、体力を大いに消費してしまう魔法なのだろう。
であるならば私の取るべき戦法も決まってくる。当然持久戦だ。なるべく距離をとってチクチクと時間をかけて戦う。そうすればフレリアちゃんは消耗がたたり戦えなくなるという魂胆だ。そもそもが私によって魔力を枯渇寸前までに減らされた事実には代わりがないのだから、おそらくすでに彼女のスタミナは危険水域であろうと思うしな。
すでに壁から抜け出していた私はそのままフレリアちゃんに向かって『魔弾』をばら撒くように展開する。『決意の灯』が発動している彼女どころかいつもの彼女でも『強化』で普通に押し切れるような弾幕だが……目くらましと時間稼ぎ、後は対処する手間で消耗が誘えればそれで十分だと考える。
「――――!」
私の攻撃を見た瞬間、彼女の姿が消える。いや私の『強化』では見切れないほどの速度ということだろう。……私の様子を伺っていると思っていたがまさか私が動いたらすぐに動くつもりだったのか?あちらもスタミナに不安があることは分かっていた、ということだろう。どうやら短期決戦狙いと見た。
私の放った『魔弾』が刹那の速さで消え失せる。至近距離に詰められてようやく視認に成功した彼女の姿は、私が念のための保険にと前方へと放った『血液操作』を叩き切った態勢。そこから刃を返し私の首へと突きつけるために彼女の剣が振るわれる。
だがその姿はかろうじてではあるが見ることができる。おそらく最初の移動は踏み込みと魔力を貯めて一気に放出したことが大きいのだろう。私よりもかなり速いが、しかし見えるということはつまり対応する手を差し込む猶予はあるということだ。
私が選んだのは彼女と同様の踏み込みによる前進。もちろん彼女のそれとは比べるべくもないものだが、潤沢に魔力を消費すればそれなり以上の速さを出すことはできる。……本来は時間稼ぎをして跳躍で距離と取りつつ、『血液操作』を壁や天井、床などに刺すことで支えにし、踏み込みが行いにくい空中戦を仕掛けようと思っていたのだが、それを行う前だったので多少の調節で方向転換できたというわけである。
「なっ!?」
フレリアちゃんの私の首を狙うはずだった一撃は私が彼女へと勢いを付けて一歩踏み出したことで大きく狙いが逸れる。剣の根本に近い部分が脇腹へと突き刺さり切断していき―――半分を過ぎた辺りで止まる。しかしそれは私が何かしようとした結果ではなく彼女の意思によるものだ。彼女がそうするかどうかは分からなかったが、した理由は分かっている。
単純な話で、あくまでこれは模擬戦だということだ。彼女が『決意の灯』を使うほどに追い詰められていようと、例え彼女やあるいは無遠慮なギャラリーたちの認識が私が勝てばフレリアちゃんを殺すというものであったとしても、逆、すなわち彼女が私を殺害するのは不味いのである。
何故なら彼女の立場はお父様―――ここの主が浮気相手と作った不義の子であり、敵対種族との間に産まれた子。それが模擬戦中に跡継ぎである私を殺してしまったとなれば、彼女の、そして彼女の母親の立場がどうなるかは想像に難くないだろう。だから彼女は私を殺さないように私に勝利しなければならないのだ。それゆえにいつも彼女は私の首筋に剣を当てる、つまり吸血鬼であってもそのほとんどにとって致命となりうる首刎ねをできる直前まで持っていって私に降参を促していたわけである。
だが今回の場合はどうか、彼女がこのまま剣を振り切って私を真っ二つにした場合、私はどうなるかというのは彼女目線ではかなり微妙なラインであろう。吸血鬼は不死に近しいほどの再生能力を持つが、それは万能ではない。仮に身体を両断されたのなら死んでしまう吸血鬼も数多いるだろう。具体的にはお母様ならその状態からでも再生することは可能だろうが、お父様は多分死ぬ。そして先述の通り彼女は私を殺しては不味いのである。ゆえにこそ彼女は剣を振り切ることができなかったのだ。
……しかし参ったな、止めてくれるのなら大人しく受けたほうが良かったかもしれない。私としては『決意の灯』を使うほどの精神状態であるうえに普段よりもさらに強力な『強化』での勢いもあったため止まってくれるかは分からなかったので、この戦法をとったのである。それに短期決戦狙いの彼女にとってここで勢いを無理やり止めるのは体力的にも戦術的にも避けたいであろうしな。
止まってくれるのならそのままでもよかったのだが、失敗しただろうか?あるいはフレリアちゃんの理性を甘く見ていたということか。結果としていたずらに辛い時間を延ばすことになってしまった気がする。いやまあ、勝ちたかったこの方法選んだというのも多少は入ってはいるがね?それでも今の段階で普通に痛いし、身体を冷たいモノが通っていくこの感触はかなりゾワっとするので普通に終わるのならそれでも、あるいはその方がよかったのだ。
ちなみにこう考えていることから分かるだろうが、私は別に胴体が真っ二つになるのは平気である。いや痛いから全然平気ではないんだが、全然平気ではないんだが!首を刎ねられるよりは平気である。私は『再生』の魔法は大得意なのだ。まあこんな魔法使わないで済むならそれに越したことはないしできれば使うような状況になりたくないとは常々思っているが。
それからそんなこと言うんならさっさと負けを認めたらどうだという意見もあるかもしれない。だが、悲しいかな、それをするにはギャラリーが邪魔なのだ。散々の負けで私の評価は下がっていたというのもあるが、今の戦闘を見ている彼らの中ではその評価がきっと盛り返していることだろう。
で、ここで考えて欲しいんだがこのタイミングで私が怖いからだとかあるいは腹痛だとか言って棄権したらどうなると思う?そう、もう針の筵と言っても過言ではないくらい私の評価がだだ下がりするのである。
人というのはギャップに弱い生き物で、不良が雨の日に段ボール箱に入った捨て犬に傘を差してあげるだけで割ところっと評価が上がってしまう。これは最初のラインが低ければその分ちょっとしたプラスがポイントになりやすいということなのだが……仮に不良が雨の日に捨て犬に傘を差した後に急に傘を閉じて傘に溜まった水をぶっかけたらどう思われるだろうか?きっと大概の人物の中でその不良の評価は底辺に落ちてしまうことだろう。これと同じ現象が私が今棄権した場合に発生しかねないのである。それはさすがにちょっと避けたいところだ。これが検討虚しく負けてしまった……とかならまだマシなんだがな。
で、だ。これで一区切りで仕切り直しで距離を取りあって……などというのなら話は楽だったのだが、私はフレリアちゃんよりも身体能力というか『強化』の質で劣っている。それこそ先ほどなんて視認すら出来なかったほどに。そんな私が彼女の剣を避けるために加減して飛んだりしたら間に合わなくなるのは目に見えているため、私は全力で前方―――彼女の方へと踏み込んだ。
そしてその勢いは剣が脇腹に横から食い込んでいるからといってそんなに衰えたりはしないのである。結果として私は脇腹の傷を広げつつ彼女へと急接近し――
―――――――思いきり頭と頭が衝突した。
ちなみにご都合主義的な部分ではありますが、主人公は思考スピードだけならかなり速いです。それこそ走馬灯とかなら1話使えそうなくらいに。




