第十話、決戦VSフレリアちゃん①
ちょっと油断するとあっという間に日数が過ぎていく……
ざわざわと色めき立つ室内。吸血鬼、狼人族に蝙蝠族、山羊族にそれから鼠人族などなど。多種多様な種族が部屋の中央にいる私とフレリアちゃんを見つめていた。そう、今日はフレリアちゃんとの再戦の日。あちらはすでに『血液操作』で産み出した剣を片手に握りしめている。対する私の方も……実はちょっと用意してきた。今日こそは勝ちたいからな。
「さて、いつも通りコインを投げてそれが地面に着いたら開始で構わないかな?」
「……構わない。」
私は手にした大き目の水筒の口を開けながら、私の方へ敵意と闘志を漲らせて見つめてくるフレリアちゃんへと問いかける。それに対して彼女はいつものようにぶっきらぼうに答えてくる。果たしてこれは私がよっぽど嫌われているのかそれとも単に彼女がコミュニケーションが苦手なだけなのか。……両方というのもあるか。
私が弾いたコインが宙を舞う。これこそ私がフレリアちゃんとの戦いが始まって最初に修得した技、かっこよくコインを宙に弾く、である。前世ならば態々こんなことをしようとは思わないが、せっかくのファンタジー、こういう細かい部分にもこだわっていきたい。西部劇とかにもよくあるこのコイントスは何というか、実にかっこいいのだ。使い古された表現のはずなのに、かっこいいのである。
天井付近まで昇ったコインが重力――きちんと検証したわけではないので自信はないがおそらくこの世界にも普通にあるようだ、それが万有引力かどうかは知らない――に従って落下を始める。それを見ながらいつでも飛び出せるようにフレリアちゃんは剣を握りしめる。
コインが地に着くと同時に一気に突撃し私の首元に剣を突きつけるというのが、いつものフレリアちゃんの必勝パターンだ。後衛型である私にとっては距離を詰められるのが中々に痛く、また私の『魔弾』ではあまり牽制になってくれない、点の攻撃であるがゆえに剣で凌がれてしまうのだ。
ゆえに今回試みるのは点ではなく面の牽制だ。コインが地面に接触し、チャリンと小気味いい音を奏でると同時に私は持っていた水筒の中身―――事前に用意しておいた血液をぶちまける。それと同時に私の手首の血管から『血液操作』により血液を噴出させ、それをぶちまけた血液に混ぜてゆく。
「水筒に入れた血液!?」
戦闘開始と同時にこちらへと駆けてくるフレリアちゃん対策。それがこの事前に用意しておいた血液を使った『血液操作』による面攻撃だ。放たれた血液は空中で薄く広がりながら迫ってくるフレリアちゃんを取らえんとする。
当然というかさすがというかその動きは剣によって切断される。だがしかしこれは血液、即ち液体だ。凝固させた剣で斬られたところでまた繋ぎ合わせればいいだけ。そのまま彼女に纏わりつくように血液は彼女の方へと走り―――すんでのところでフレリアちゃんが大きく跳躍し、攻撃が空を切る。
情けないことだがこれでも大きな進歩だ。今まではこの最初の戦いで終わっていたのだから。……お母様との時のように損傷を受けること前提に動くのならもう少し持ったとは思うが、そんな痛いことはごめん被る。というか今の『血液操作』だってちょっと痛かったのだ。抜けた分の血液は『再生』で回復できるにしても、一瞬ちくっと注射器を刺されたような痛みが走ることには変わりがないのだ。
子供の様に泣きじゃくるほどではないが、私は前世の頃から注射は苦手であった。いや受けに行かないとかそういうことではないし、なんならお菓子目当てに献血に行ったことだってある。ただどうしても苦手意識が残っているのだ。あの独特なちくっとした感じが、どうにも好きになれないのである。……まあ注射刺されるのが好きというのはそれはそれで問題だとは思うが。
ともあれ戦いは一度仕切り直し……というのも始まったばかりなので違和感があるが、ともあれ仕切り直しになった。だが動かなければすぐにでもフレリアちゃんに再度接近されて厄介なことになるだろう。
私は懐に用意しておいた二本目の水筒を開け私の周りに維持させている血液と混ぜてゆく。同時に私の血液の量も増やしていこう。私の血液自体と接触していないといけないのは難点だが、液体状武器というのはやはり強力だ。フィクションで強キャラが良く使っているだけのことはある。とはいえ水筒二本分だと全身を覆うようなあのレベルを用意するのは難しい。いやいけなくはないがそれをすると大分薄く延ばす必要があるのだ。
対するフレリアちゃんの行動は―――っと!?こちらに持っていた血の剣を投擲してきた。『血液操作』の壁で捉え得ようとするが、勢いが強く止まらずに私へと到達する。見えた瞬間に回避行動をとっていたおかげで直撃ではなく肩の一部に深い切り傷を作りそのまま私の背後へと飛んでいった。当然痛い。
というかもしかしてこれ刺さった方がよかったのだろうか?それなら『吸精』で分解して血の量を増やせるし。いやでも今よりももっと痛いだろうからなぁ。もう傷は治ったけど。
……確かにお母様の言う通りこれは私にとって弱点なのかもしれない。痛みや苦しみを避けるがゆえに『再生』でゴリ押せる場面でも回避や防御を優先してしまう、という。とはいえもうこれは性のようなものであるし、治せるとも思わないので諦めよう。というか傷を負うこと前提の戦闘スタイルとかどうかと思う。……なんだかこれからもそんな感じな予感はするが。
いや必要そうならできないことはないのだ、そういう行動も。でもそれはそうしないといけないようなどうしようもない時だけなのだよ。というかどうしようもなくなったらできるだけでも私十分頑張っていると思うのだが。こんなに頑張っているのだから世界はもっと優しくしてくれてもいいのではないだろうか。
だがそんな幼気な私の願いは届かなかったらしい。気が付けば正面に居たはずのフレリアちゃんは居らず、どこへ行ったのかと周囲を見渡せば、今まさに私を切断しようと上から降ってくるフレリアちゃんの姿。
回避は―――うん、無理だな。直撃コースだし。だが勢いがついていて空中にいるというのなら方向転換は難しいだろう。そこで私に対処法が浮かぶ。浮かんだ……のだが、これ痛いよな。どうする?フレリアちゃんがいつも通りの感じなら剣を首に突きつけてくるだけで痛い思いをせずに済むか?それならそちらの方がいいんだが。
そう思い彼女の姿を見たのだが……これは駄目だな。完全に剣を突き刺すような態勢で下に向けている。というかこれ頭に刺さったらヤバイと思うんだが……?いやまあ頭に刺されなくするぐらいの余裕はあるが。というかなんでこんなに殺意が高いのか。あれか、発狂ボス的なあれで私が初撃を凌いだからブーストが掛かったとかそういう?
「まったく、危ない攻撃だ。頭に当たったらどうするつもりだい?」
「なっ―――」
私は彼女の攻撃に対してあえて手を突き出す。真剣白刃取りだとか指の間に刃を入れて挟んで止めるだとかそういうかっこいいあれではない。突き出した掌は当然のように刃に貫かれ、私に痛みが走る。もちろんただ痛い思いをするためにこんなことをしたのではない。私は手に剣が触れると同時に『吸精』を発動する。勢いがあるため私の手が貫かれることは防げないが、それ以上は防ぐのだ。
血の剣が魔力を失い、ただの血液へと戻る。同時に私の血と混ざったことで私の『血液操作』の管理下になる。どうやら彼女は剣を作ったらすぐに傷は塞いでしまうようだからな。私の影響力の方が断然強いのだ。……もしかしたら普通にやっても私の方が強いのか?ハーフの種族魔法とそうでない種族魔法なら(熟練度等に大きな差がなければ)ハーフでない方が強いのだし。
剣が消え去ったことに驚いた彼女をそのまま手を広げて受け止め―――ごふっ!?まさかこのタイミングで頭突きをかましてくるとは……だがフレリアちゃんを捕まえることには成功した。勢いのおかげでよろめきそうになりながらも『血液操作』を用いて支えを作りこらえる。それと同時に彼女と私をぐるぐると巻いていく。
とはいえこれだけでは彼女の『強化』によって突破されてしまうだろう。それに私は意味もなく彼女に抱き着いているわけではない。彼女の髪の毛からいい香りが漂ってきたり少女独特の柔らかさを堪能してはいるが、それが主目的ではないのだ。というか私はそっちを主目的にしようとすると尻込みしてしまうしな。童貞の悲しみである。
「くっ、この……!!離しなさい!!」
彼女の加虐心を高めるような、もとい彼女の必死な声を聞きながらも当然離すわけはない。むしろ敵対しているのだから攻撃を行うのが当然である。この状況で発動するのはもちろん『吸精』だ。接触によって彼女の魔力を吸い上げ、私のモノへと変換していく。
「がっ!?」
「くっ、この……!!間違いなく刺さってるっていうのに―――!!」
彼女はそれに気づき必死に暴れ、なんなら私に剣を突き刺してくるが、それもまとめて『吸精』していく。ふはははっ、確かに痛くて苦しいが勝ちが見えているこの状況、美少女に合法的に抱き着けるこの状況ならさすがに緩めたりはしない。何度も剣が私を貫くが踏み込みも上手くできない状況ならそれほど問題な―――――おっと、それは不味い。
「ふがっ!?」
剣で私の首を狙っていた彼女に今度は私から頭突きをお見舞いする。……当たり前だがこれする側でも普通に痛いのな。とはいえさすがに首を今刺されるのは問題であるため、私はこうして彼女の行動を阻害する必要があったのだ。そして頭突きの甲斐もあり少し、彼女の抵抗が弱くなってきた気がする。
「隙ありだ。せっかくだ、少し早いが頂かせてもらおうか。」
「ぐっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ならばと私は彼女の首筋に犬歯を突き立てる。そして一気に彼女から血液を吸い上げる。あ、美味しいなこれ。彼女はというと私の吸血に対して痛みと魔力を失っていく感覚、だけではなく悲しいことだが普通に私に血を吸われるのが嫌なのもありそうな悲鳴をあげる。いやまあ誰かに血を吸われたいかって言われればそんなことはないので、当たり前と言われればそうなんだが少しショックである。
血を吸われたこと、そして魔力を急速に失ったことで彼女の力がさらに弱っていく。この血液は狙っていただけあって美味しい――なんというか香りがよくて甘いのだ、ごくごく飲める――のだが、この辺でやめておくべきか?さすがに死なせたいわけではない。血だけなら『再生』もあってまだ限界のラインは先だと思うが、魔力不足の影響が出てきているみたいだ。
魔力不足が起こると意識が朦朧とし、身体に力が入らなくなり気絶する。早い話が衰弱するのだ。とはいえそれもやりすぎなければ死ぬというほどではない。……が、これはもう私の勝ちということでやめてもいいんじゃないだろうか?彼女の眼も虚ろに、焦点が合わなくなってきているし。
「私は……ま……だ……」
ドクン……
私の勝ちを確信したのはどうやら私だけではなかったらしく、周囲からよかったよかっただとか、手を抜いて混ざり者に希望を見せるなんてイオカル様もお人が悪いだとか、早く彼女が惨めに死ぬところが見たいだとか、彼女の母親もさっさと殺すべきじゃないか、吸血鬼なのだからもっとスマートに勝ってほしかっただとかそんな声が聞こえてくる。最後の奴覚えてろよ?
ドクン……
いやまあ(最後以外は)言うのが悪いとは言わないが、そういうこと言うなら私を手伝うなり私が勝ったらおひねりを投げるなりしてもらいたいものである。というか今までだって手を抜いていたわけではそんなにないんだがなぁ。ともあれこれでやっとリベンジ成功だ。そろそろ危ないなと牙を首筋から離し、『吸精』も停止する。それと同時に『血液操作』による拘束を緩める。
「っと、もういいだろう。これで私の勝――――――がっ!?」
次の瞬間、私の腹部に強い衝撃が走り、気が付けば私は壁に食い込む形で激突していた。
「な、なにが起こっ……た……?」
「ふぅーーー……悪いわね、少し眠くなってしまったわ。さ、勝負を続けましょうか。」
めり込んだ身体と腹部を強打された吐き気と痛みを堪えつつ私が前を見ると、そこには拳を前に突き出した形のフレリアちゃんがいた。……どうやらまだ私の勝ちではなかったらしい。
実はこの姉妹は両方とも追い詰められると強くなります。




