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得てして巻き込まれる ⑤

1ヶ月以上ご無沙汰しました。すみません・

得てして巻き込まれる ⑤

車内にて漆原から軽いお小言を受けたのち、麹町は国調付きの腕章を腕に巻くことになった。

「さて、麹町さん、現場状況についてわかる範囲で教えて頂きたい」

後部座席の2列目を回転させて3つ目と向かい合うボックスシートにして、2列目に漆原と麹町、奥に貴船が腰掛けて対面する形であった。なお、貴船は車内にあったA3判サイズのタブレットを持ち出して、現場地図を表示していた。

「えっと・・・」

「麹町さん、諦めなさい」

「は、はい・・・」

少し躊躇いがちになりながら、タブレットの端末の地図上で説明を始める。

「事件現場を中心として付近一帯に個別訪問して安否確認の作業を行なっています。今先程までで半径500メートルに居住している人達の大半の安否をとることができています」

「なるほど、首の事件現場を探している訳ですね」

「ええ、捜査本部からは早期発見を第一にと命令されています」

「それ以外は?」

「被害者女性の着衣の物証などを調べていますが、今のところ犯人につながる様なものは見つかっていません。」

「首の現場が見つからない事には、捜査は何も進展しなさそうですね」

「実際の所、ほぼその通りだと思います・・・。あとは巡回カードから年齢の近そうなお宅へ訪問して確認作業を行なっています」

「付近の学校には問い合わせは行いましたか?」

「児童・生徒の個人情報とのことで断られたと聞いています」

「こんな事態なのに?」

「ええ、残念ですが強制はできません。教育委員会にも、どうにか協力を頂けるようにお願いをしていますが、時間がかかりそうです」

「まぁ、無理でしょうねえ」

教育委員会が許可を下すのはまずないだろうなと貴船は思った。児童より委員会を守るのが仕事なのだからしかたない。

「詳細であれば、現地本部のテント内で詳しくご説明できると思います」

「それには及びませんよ。ここでちょっと調査を行いましょう」

貴船がそう言ってタブレットを操作するのを2人は覗き込んだ。

地図アプリを少し操作するとマップ上に赤い小さな点が散りじりに表示された。中には移動しているものも見受けられる。

「この赤い点が携帯電話の位置情報にアクセスしたものです。これはある程度の間隔で携帯電話から送信されています」

「でも、それを何に使うのですか?」

「このデータはかなりの期間保存されるんです」

「つまり?」

「実際に見てもらった方がよさそうかな」

検索画面に昨日の事件発生時間から今までの時間で動いていない携帯電話と、電源が切られたままの電話を指定して探す。

「これがその結果です」

赤い点がかなりの数まで絞り込まれた。マップ上に数十か所と言った具合だ。

「犯人は一家を丸ごと狙いますから・・・」

地図上で赤い点が重なる、もしくは近くにあるものをピックアップする。

「ここまで絞れましたね」

何か所か候補がある中で、一か所だけ500メートル圏内に6台の端末に動きがない一軒屋があった。

「多分、この家でしょう」

「たまたまじゃないでしょうか?お休みで動いていないだけかもしれませんよ」

「可能性はありますが、調べる必要はありそうです。7課で調べて貰いましょう」

貴船は一軒屋の住所をコピーしてメールで送信する。

「7課?」

「ええ、私の所属している部署なんです、そこでこう言ったことを調べるのに慣れている方がいますので、調べて貰いましょう」

2分ほどすると返事が返ってきた。

当番のコントロールオペレータが、住所から割り出したマイナンバーシステムに登録されている一家情報を送ってくるだけでなく、その家族構成から割り出した小学6年生の女子児童の顔写真と首の司法解剖データが比較されてあった。

結果はほぼ一致に近い数値である95.4%。間違いないと言っても過言ではない。

家族構成は父親(38歳)、母親(27歳)、長女(12)、次女(5歳)の4人家族、父親は会社員、母親は看護師だ。職業上、必ず自宅をでていくタイプである。

資料を見ていると追加情報が送られてきた。子供は2名とも小学校を無断欠席しており、父親も会社には出勤しておらず、また、母親の勤める病院からは準夜勤で帰宅し、朝から日勤であったが父親同様に出勤していないとのことだ。

ここまで判明すればほぼ間違いはないだろう。よくここまで調べたものだと関心する。

「ここまでデータが揃えば、ほぼ間違いないでしょう」

貴船が2人へデータ内容を説明していると麹町が何かを思い出したような顔をした。

「麹町さん、なにか?」

「思い出したのですが、この家は家人が対応してくださったと記憶しています」

家は半径500メートル圏内であり、しかも、事件現場からは50メートルと離れていない。事件直後の聞き込みを行った時も、その家では母親らしき女性が対応してくれたと報告を受けていた。

「子供が不安になってしまっていて困ります。早く犯人を捕まえて下さい」

玄関口でお小言まで貰ってしまったと捜査員がボヤいていた。薄暗い廊下の先で幼子が不安そうに俯いて立っていたとも聞いていたのを思い出したのだった。

「それは事件発生からどれくらいの時間が過ぎていました?」

「事件発生後、2時間くらいは過ぎていたかもしれません。火災処理に手間取ったのもありますが、それ以外に現場には知らされていないものもあったようで、対応が遅れてしまいました」

「1時間以上は過ぎていたということですね」

「ええ、聞き込み開始はそれくらいの時間であったと記憶しています」

「まったく・・・」

顔に手を当てて貴船はため息をつく。

「その捜査員は腕利きですか?」

「ええ、寝名榎市警察署でも古株の捜査員です。私も話しましたがある程度は信用できます」

ある程度と言うあたりが麹町の性格をよく表している。

「そうですか・・・、じゃぁ、この現場に似顔絵捜査の研修を受けた者はいますか?」

「ええ、居ます。県大会でも優秀な成績を収めた腕利きがいますよ」

「それはよかった、さて、麹町さん、今からいうことを山之辺さんに伝えて欲しいのです。まず、先ほどの家で聞き込みを行った捜査員と似顔絵研修をうけた者、それから突入訓練を受けた、または、実際に突入をした経験を持つ機動隊員を2名ほど完全装備で現場本部にて待機させてください。私と漆原さんはもう少しだけ話をしてから向かいます」

「了解しました」

「山之辺さんが要請を聞いて頂けない場合は、国調権限を行使する旨を伝えて下さい」

脅しだと漆原は理解した、それと同時に今だこの事態に気がつかない麹町に呆れる。

「はい、そうお伝えします」

車から降りた麹町が本部方向へと走っていくのを、締まり始めたドアの窓から見送った貴船は扉が閉まり終わると、また一段と深いため息をつく。

「まさか、犯人と鉢合わせをしている可能性があるとは思いませんでしたよ」

「私もです・・・。気が付かないあの子もあの子ですが・・・」

「あそこまで言えば気がつくもんなんですがね、真面目一辺倒は中々に動かし易く御し易いといのは、案外、的を得ているのかなぁ」

「面白いこといいますね」

「受け売りなんですけどね、まぁ、その話は置いておくとして、今からの事ですが、まず、刑事達には犯人と思われる人物の似顔絵作成に協力して貰います。その間に私達は先程割り出した民家へ強制突入をかけます。警察の方で行おうとすると裁判所への手続きやらなんやらで手間がかかりますので、国調の権限にて突入を行う形でスムーズに終わらせたいと思います。警察庁にはその2点と、検死官と司法解剖がすぐに対応できる体制を県警に用意させる様に伝えて頂けるとありがたいですが・・・」

「捜査本部ではなく警察庁へですか?」

「ええ、今の話を捜査本部に伝えても、なんやかんやと質問攻めとうちからの捜査員をと、時間を掛けられて邪魔をされるのだけは困るのです。ですから、警察庁から検死と司法解剖のみを命令して頂ければ、面倒くさいこと自体を大いに避けられると思うのですけどね」

「ああ、そういうことですね」

その通りだと漆原は納得した。それなら手間は省けて現場のみを気にすればいい。

「分かりました。伝えておきます。電話はここでかけていいですか?」

「ええ、構いませんよ、私は降りていますね」

車から降りた貴船は、頭の中にタブレットで見た付近の地図を拡げて辺りを見回した。

車を背にして右側に現地本部と嵐山が襲われた現場が見えた。現場は規制線が今も貼られており立ち入る事はできない様になっており、その登った辺りに数台のテレビカメラとレポーターが見えるのが目に入った。

「大変だなぁ」

まぁ、他人の不幸を売り物にして仕事をするのは、国調もマスコミも変わらない。

その中に三角形のマークをつけた報道車両が混じっているのを貴船は見つけると、ポケットからスマホを取り出して電話をかける。

「はい。元栗です」

と、元気のよく心地よい声が電話口から聞こえてきた。

「どうも、国調の貴船です、以前はお世話になりました」

「貴船さん、お久しぶりです!なかなか電話しても出なかったのは番号を変えていたんですね」

グラビアアイドルからレポーターへと可憐に転身した、元栗雪菜の嬉しそうな声が聞こえてきた。レポーターへ転身した?と思われるかも知れないが、転身後の彼女は時に他社を出し抜き、とても魅力的なスクープを手に入れる事が多くあることで有名だ。

電話番号の件は、国調課員は自分の個人番号とは別に使い捨ての番号をいくつか所持しており、案件終了の度にランダムで変更することが義務とされている。

このレポーターとは別の事件で知り合った際に知った番号で、それ以来の付き合いである。

「どうも、伝えられていなくて申し訳ないです。ところで、もしかして今、寝名榎市にいます?」

「ええ、寝名榎市に来ていますよ。今さっき、現場の高台でレポート終わったところです。見てもらえたらよかったのに・・・。あ、でも。貴船さんも来られていますよね」

「あれ、何で知っているんです?」

「だって、国調の警光灯をつけたクランエースが現場に止まっているのが、上から見えていますから」

「なかなか目敏いですね。ところで、ちょっとお願いがあるんですけど、頼めます?」

「ふふ、いいですよ」

「その撮影ポイントなのですけどね、多分、撮影に規制がかかるのですよ。他の局巻き込んで解除までその場で粘って貰えます?その代わりにクルー1人にカメラ持たせて、こっち側から現地本部を撮れる場所へ移動したらどうですかというアドバイスでどうです?」

「へぇ、そんなことが起こるんですかぁ…」

「ええ、起こるのですよ」

「もう少し、サービスはあります?」

「あはは、いいでしょう。新証拠が発見されて付近を大規模に捜索する可能性があること、こっち側から撮るのは、現地本部が慌ただしくなるからですかね」

「こと終われば流す、で、いいですよね」

「そうしてもらいたいです。あと、被害者の名前をお教えしますよ」

「え、いいんですか・・・、メモ取りますからちょっと待ってください」

バックを捌くっているような音が聞こえてくる。

「準備できました」

「小坂井里江、小学校6年生、現場の近くらしいですよ」

「もう少し欲しいですけど・・・我がまま言うと嫌われちゃうからやめておきますね」

「はは、助かります」

「そんな、他人行儀に言わないで欲しいです、今度、ご飯でもいきましょうよぉ」

魅力的な声色で彼女が誘いをかけてくる。

「考えておきますね」

「そう言っていつも保留じゃないですか」

「あはは、そうですね」

少し膨れた彼女の表情を思い出し、貴船は思わず笑ってしまった。

「では、私はここで引き留めておきます。今日の夜を楽しみにしていてくださいね」

「ええ、期待していますよ。素晴らしい映像とレポートだとなお良いですね。では」

「はーい、またです」

電話を切るといつの間にか車を降りた漆原が、不機嫌な顔で貴船を睨んでいた。

「情報漏洩ですよ」

 あきれ果てた、と言っているに等しい声色だった。

「ええ、わかっています。でも、少なくとも崖上の連中はしばらく足止め出来そうですからね」

「報道協定って知ってます?」

「ええ、存じてますよ。それする為には面倒くさいでしょう」

「そ、それはそうですけど・・・」

 言葉がどもりを見せた。報道協定なんて簡単に結べるものではない、ましてや、現場判断の一存でそれがまかり通るはずがないことぐらいは、漆原でも簡単にわかることだ。

「先ほどお伝えした計画通りに進める為には、こう言う手段がもっとも有効なんですよ」

「そういうお考えならいいんですけど・・・、いや、良くないですけど・・・」

「安直すぎだと?」

「ええ、言えばそうです。まだ、確定できているわけではないのに、それを万が一流されたら、どうするんです?」

「ああ、その心配には及びませんよ。彼女はそこまでの度胸がない」

「え?彼女?」

「ええ、元栗雪菜って知ってます?」

「グラビアからレポーターへの転身で話題になった子ですね」

「よくご存じですね」

「すっぱ抜きが警察関係のものが多いものですから、要注意人物としてマークされていると聞いています」

「警察庁で噂になるほど?」

「ええ、誰がリークしているのかと調査していましたが、目の前に漏洩者がいるとは思いませんでした」

「漏洩者・・・そういわれると間違ってはいないのですね。でも、彼女は国調の協力者ですから安心してください」

「協力者?」

「ええ、ちょっとした事件でかかわりを持って、そこからの付き合いなんですよ」

「かかわり・・・まさか!?」

「いやいや、そんな関係じゃないですよ。変な勘繰りはしないでください。でも、彼女は国調の身内であることは確かなんです」

「身内ですか・・・?」

「ええ、その事件が表立って出れば、彼女は芸能生命だけでなく、本当の意味での身の破滅なのです」

「そこまでの事件を起こしたというのですか?」

「ええ、詳しくは言えませんがね」

 クスクスと笑う貴船を見て漆原は深いため息をついた。

「まぁ、詳しい話は聞きませんけど、そういうことにしておきましょう。それを聞かなかったら、てっきりグラビアアイドル上がりのレポーターに入れ込んでいるのかと、本気で勘繰ってしまうとこでしたから」

「聴こえていました?」

「ええ、しっかり漏れていましたよ」

 じとっとした目で貴船を見る。

「まぁ、安心してください。そんなめんどくさい関係ではないですから」

「へぇ、めんどくさいですか」

 相変わらず疑ったような目が貴船に向けられていた。

「ええ、嘘つきの塊と付き合うのはめんどくさいでしょう」

「嘘つきの塊って・・・・」

「真実1つに9の上塗り、それが転じて記事となる、有名な文言ですよ」

「初めて聞きましたけど、誰が言ったんです?」

「私です」

笑った貴船を、呆れて見た漆原が再び深いため息をついた。

「そうそう、警察庁の方は対応してくれそうですか?」

「依頼しておきました。すぐに対応するとのことです」

「それは良かった。じゃぁ、現地本部に向かうとしましょうかね」

現地本部へと向かって行く貴船の後を、再びため息を吐きながら漆原は追って行った。


突入までもう間もなくです・・・

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