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得てして巻き込まれる。

ここからをスタートなりますかね・・・。

  得てして巻き込まれる。

 結局、なんだかんだと飲み続け、スローフェレッセを出る頃には、時計が午前零時を廻っていた。

 夏帆は千鳥足まではいかないが、いつものような酔っ払いの足取りで、自宅のマンションまでの坂道を登っていく。心地よい夜風に吹かれながら、先ほどまでのことを思い出して、久しぶりに楽しい一日だったと表情を緩ませた。

食事のち、ワインを追加しながら、ゆっくりと話をした。途中からは順子も混ざって、3人で盛り上がった。といっても、もっぱら貴船は聞き手にまわり、私と順子が主に話していたのだけど、それでも、彼はとても聞き上手だった。

帰り間際に3人で電話番号とレインを交換して、送りましょうかと気を使ってくれたが、彼の電車の時間もあったので遠慮した。

「せめて、タクシーで帰りなさいよ」

「酔いを醒ましながら帰るし、大丈夫よ」

 と心配する順子に返事を返し、分かれて10分くらいが過ぎたところだが、彼から丁重なお礼のレインがスマホに入っていた。

「こちらこそと・・・」

 返事を酔っ払い特融の誤字脱字で返事を返した。この癖は一向に治りそうになく、翌朝、返事を読み返して真っ青な顔で絶望するのだ。

 歩道のガードパイプに腰掛けて一息ついた。

 坂道は片側がコンクリートの擁壁で、車線を挟み、反対側には名榎市街地と国防軍航空基地を一望できる。

 この景色が夏帆は好きだ。市街地と基地の夜景が特にお気に入りだった。

 ふと、基地の辺りからヘリが離陸していく、深夜だというのに珍しいなと思いながら、空に消えるまでぼーっと見ていた。

「帰ろ」

 立ち上がろうと腰を上げて立ち上がった彼女の視界にふらふらと歩く人影が入った。

「酔っ払い、私も同じか」

 心の中で苦笑して視線を外そうとして、ふと、妙な違和感が過る。

右手に持っているバックをガードポールに軽くぶつけながら歩いていた。

「あれじゃバックが痛んじゃうよ」

 そんな独り言を呟く、と、その人影が10メートルくらい手前で立ち止まった。

 雨合羽のようなコートとフードを被って表情は見えないが、視線が確かにこちらを見ているのが感じられる。

「えっと・・・」

 先ほどの食事で話題になったことを思い出して背筋が寒くなる。

「ま、まさかね・・・」

そしてガードポールに当てていたモノに視線を移す。

途端に、酔いが飛んだ。

全身に震えが走って毛が逆立つ。

「あ、頭・・・」

長い髪の毛を、バッグのハンドルを持つかのように握りながら持っており、首と思われる部分からぽたぽたと何かが滴っているのも見えた。

「ひぃ・・・・」

 本当に叫びたい時に人間は叫べない。

 夏帆は木枯らしの様に喉を鳴らしただけだった。

 足腰が震えて、思わず崩れ落ちそうになる体を必死になって立て直す。

 逃げなきゃいけない。

 心が警鐘を鳴らしている。

震える足で一歩、また一歩と後ろに下がる。

街灯下からくる視線は離れることはない。ただじっと夏帆を見ている。

重たい荷物をその場に捨てて大慌てで坂上へと夏帆は走り始めた。足取りはアルコールと恐怖のせいでおぼつかない。

「ふぅろぅ」

 坂下から吹き上げてきた風に不気味な声が伝ってきた。

「・・・ぃぃ・・・」

声にならない声を上げて夏帆は必死に走る。

殺される。

否定することが困難な状況だ。

後ろから走る音が聞こえくる、ガードポールが何かが当たる音を響かせるが、それが何かは分かっているのに頭がそれを認識するのを否定した。

「だれッ・・・・」

 叫ぼうとした瞬間に後頭部に固いものが当たった。視界が激しく揺れて息が詰まり、その場に倒れこむ。

めまいのように視界は揺れてその場で嘔吐してした。

「うぅう」

 それでも必死に腕を使って這いずりながら離れようと顔を上げる。

目の前の顔と視線が、合った。

 長い黒髪に、顔中いたるところに傷があり、目は飛び出さんばかりに見開かれ、鼻から下は無残に崩れ落ちている。

 叫び声上げようと、思い切り息を吸ったところで、わき腹に重たい蹴りが入った。

夏帆の体は、そのままコンクリートの擁壁まで転がって背中を強く打った。肺に溜まっていた空気がショックですべて吐き出される。

「・・・・ァァ・・・・」

 声にならない悲惨な音を上げ、再度、息を吸おうとしたところで、喉を潰すように手でしっかりと首を掴まれた。

 声にならない声も出ない。

 首を掴んだまま力任せに擁壁を引きずられて立たされた。

体は痛みを避けようとその動きについていく。

「やぁめ・・」

 体を擁壁に叩きつけられた。目の前がチカチカと霞む。

「うるさいわ」

 雨合羽を着た黒い相手のフードからは顔は一切見えない。声は低いが女性のようだ。

「こんな時間に出てはだめよ」

 もう一回、体を叩きつけられる。

「あひゅけて」

 酸素が足りないせいで視界がぼやけていく。

「聞いているの?」

 ぼやけ眼で少しだけ見えた相手の口元が笑う、そして雨合羽のポケットから少し大きめの瓶を取りだした。

「いうことを聞かない悪い人」

 体重を乗せた膝蹴りを夏帆に当てて、意識朦朧としている夏帆の体を、地面に尻餅をつかせるような姿勢で座らせる。そして首の手を離した。

 夏帆の体が無意識に酸素を求めるように息を吸い込もうとする。

「さっきいろいろ使ってしまって、これしかないの」

 黒色瓶のキャップを外して液体を夏帆の左半肢に勢いよく振り掛けた。

 髪の毛が、皮膚が、服が、じわじわと溶けていく。激しい痛みが全身に走って、息を吸おうとした体が無理やり息を吐き、苦しさと痛みで地面にのた打ち回った。

意識が焼き切れそうだ。

「虫みたいね、素敵だわ」

 雨合羽の腰あたりから身の厚い短剣を出して、左腕を足で抑えると勢いよく振り下ろした。

 左腕の肘から下が切り落とされ、刃が勢いよく地面に当たって火花を上げた。

「あ、血が出ちゃう」

 落とした切り口に液体を振りかけた。

あっという間に溶けて出血は止まる。

「やっぱり綺麗に塞がるものよね、さぁ、次は足よ・・・っ」

 遠くからサイレンの音がこちらへと向かってくるようだ。動きを止めてえ音を探ろうとすると坂下から怒鳴り声が響いた。

「何をしてるんだ!」

 坂下の交差点に消防車が止まっており、6人の消防士が棒のようなものを持って、こちらへと向かってくる。

「もう、災厄」

 足元で泡を吹いて痙攣している夏帆を残して、雨合羽は瓶の蓋を閉めるとポケットに戻した。

そして、一息整え、落とした頭部を持って、再び、坂道を、走り下り始めた。

下り坂を生かしてどんどんと速度を増していき、雨合羽の裾がガサガサと音を上げる

「こっちくるぞ!」

 この人数にまさか立ち向かってくるとは考えてもいなかった消防団員たちに動揺が走る。

ますます気を良くした雨合羽は口元を歪め、そして、手に持っていた頭部を彼らへと投げつけた。

「うゎぁ」

 それが何かわかったのだろう、お約束のような叫び声をあげて、何人かの消防団員が尻餅をつく。

「お馬鹿さん」

 一番近くで尻餅をついた消防団員の喉元を下る速度を生かし、両手でグリップを持つと短剣で横一文字に喉元を切る。

刃は抵抗を受けずスッと喉元を切り抜けた。

 次はその隣に立っている男だ。振り上げた棒を下ろすのを躊躇っているようでその場に固まっている。

目の前まで近づき、速度を生かしてばねの様に両足で飛び上がる。体伝いに下半身から胸部まで一気に刃を滑らせた。

刃が肉を抜けたところで体を一回転させて首筋に刃を入れると綺麗に首を切り離した。どうやら頸椎の隙間に上手く入ったようで雨合羽は機嫌をさらに良くする。

血飛沫が上がる前に体を蹴り上げ、その後ろにいた男に噴き出す血液をかけて目くらましにする。

両腕で顔辺りをガードしている男のがら空きの胴、心臓の辺りに勢いそのままに全体重を乗せて短剣をしっかりと突き刺し、体を両足で蹴って刃を引き抜く。

これまたうまく抜けたので、さらに気持ちを良くした彼女は、隣で尻餅をついている男の目に短剣を向け体重をかけて差し込んだ。

しばらく痙攣してその男も息絶えた。

「ひぃぃ」

 車へ逃げようと腰の抜けた姿で匍匐前進する間抜けに、勢いよく頸椎へ短剣を差し込んで一撃でとどめを刺す。

残りは一人だ。

すぐ近くで棒をもって震えている女性消防団員、綺麗な顔に涙と恐怖を溢れんばかりに表している。

「可愛いわね、貴女」

ポケットから先ほどの瓶を取り出して液体を思いっきり顔へ振り掛けた。

「ぎゃぁぁぁ!」

 絶叫、腹の底から出した絶叫に雨合羽は思わずうっとりと目を細めた。

「かわいい」

 そう言って近づこうとして、止まっていた消防車の横から、勢いよく赤青の警光灯を灯して4輪駆動車が飛び出してきた。

 その開かれた窓から、銃口が狙っていることに雨合羽は気がつく。

「あら遅い」

 そう言って絶叫している彼女の後ろに潜り込んで、制服の首筋を握って盾にした。規則正しい銃弾の音が響き、女性消防団員の体が何回か震えると動かなくなった。

「くそ!」

 車内から大声で悪態が聞こえてきた。

「国調のお馬鹿さん」

 もう一つのポケットから、お手製の手榴弾を取りだして開いている窓に放り投げると、死体を上にかぶってその場に伏せる。激しい爆発音とともに破片があたりに飛び散るが、その破片は盾にした死体が全て受け止めてくれた。

「ありがとう、おねぇさん」

 死体を捨て、坂上の夏帆の方に戻ろうとして諦めた。上にはすでに3台のパトカーが止まっていてこちらを伺っており、夏帆の辺りに数人の警官がいる。今からあの人数を「駆け上がって」挑むのは無理だと悟る。

「今度にしよう」

 潔い諦めと共に、その場から雨合羽は素早く走り去ると夜の住宅街へと消えていった。

 残されたのは、燃えている車両と死体、まだ虫の息のある夏帆、それを救助する警察官だけであった。


さて、できるだけ、良くなりますように。

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