第七話
ミルギスが僕達と一緒に暮らしてすでに一月が経った。
村の人達は僕がまた拾ってきたのかって呆れてたけど、誰も文句は言わなかった。
寧ろ赤ちゃんをホッポリ出すミルギスのお父さん達の事を怒ってた。
事情を話すと、皆ミルギスを歓迎してくれた。精霊の加護持ちだからってだけじゃないみたい。
ミルギスは最初、不思議そうに村の人達を見てたけど、大丈夫って判ったらぷきゃぷきゃ笑ってた。
精霊の赤ちゃんは普通の人間の赤ちゃんと変わりなく未だ一人で座る事もできないでいる。
でもね、見ててすっごく可愛いんだけどね…
ぷきゃぷきゃと笑うのが特徴のミルギス。
でも誰もその事にツッコミを入れない。ほら、可愛いと何でも許せちゃうあれだね。
ミルギスは僕やおじいちゃん、おばあちゃん他の村の人にも懐いている。
でもオーマを前にすると、泣く一歩手前みたいな感じになるからなぁ。
あ、でも僕が抱っこしてるとプルプル震えてるだけになる。一応泣かなくなるから―――いいのかな?
リセの時はもっとヒドイ。僕が傍にいても全力で泣くんだ。
しかも泣き声が「ぷぇぇぇぇぇ!!!」じゃなくて「むっきゃぁぁぁ!!!」になってるんだ。
本当にミルギスは変った泣き声してると思う。
リセ曰く、「我らの気に当てられている故、仕方なし」だそうだ。
別にリセもオーマも威圧感があるわけじゃないんだけどな…
だからオーマとリセはミルギスのお世話から外してる。
だって、ミルギスがおお泣きするんだもん。なんか可哀想だしね。
初めて会った時から、エルオーネはミルギスを苦手に思ってたみたい。
羽を引っ張られたのがよっぽど痛かったんだね。
だからミルギスの面倒を見る時は羽が隠れるような服を着てるんだ。
まぁ、ミルギスもエルオーネに怒られてからはは、羽根を引っ張らなくなったけど…
昼間はだいたい僕達がミルギスの世話をしている。
おじいちゃんとおばあちゃんは畑や糸紡ぎのお仕事あるしね。
僕はまだ小さいからおばあちゃんのお手伝いの方が多いいけれど
もう少ししたらおじいちゃんと一緒に隣の村までの配達業を手伝うんだ!
で、夜のミルギスの世話はゼロムがしてるの。ゼロムって夜行性なんだ。オーマが言ってた。
エルオーネは薬師として忙しいから夜くらいはゆっくりしなくちゃ体を壊しちゃうし。
ゼロムはミルギスの事をしっかりと世話してると思う。
だってミルギスってばゼロムを見て、すっごく喜んでるんだよ。
ゼロムと一日中遊んだ日とかはぐっすり次の日の昼まで眠ってるし。
まぁ、ゼロムもミルギスと遊んだ次の日は死んだように動かなくなるけど…
でもさ…寝室の分厚いカーテンを閉めきって、頭まですっぽりと毛布に包まってるのはどうかと思うよゼロム。
あ、僕の家って部屋が幾つもあるし、二階建てなんだ。時々村の集会場になってる。
オーマとリセが何処からか石と大木を持ってきて、家を改築したんだ。
僕が昔、「お部屋いっぱいで、ベランダでてぃーたいむしたい!」って言ったらしいんだ。
で、二人はそれを実行したんだって…ごめん。あんまり覚えてないや。
ま、兎も角、僕のお家には部屋が幾つもあって、ゼロム達も一部屋ずつ使ってる。
それでも部屋が余ってるって結構すごいよね。
オーマもリセも魔法や魔術が使えるからって張り切りすぎだよ…
「ゼロムー。そろそろ起きてくれないと、シャシャイの世話手伝ってくれるっていったんじゃん!」
「ぅぐっ―――す、すまん。もう少し…流石にミルギスの全力を喰らってしまうと回復が追いつかん」
全力って、何?
「もー何言ってるの?怠けちゃだめだよ!」
「…あのな、ちび。ミルギスは精霊で赤子だ。力の制御が出来とらんのだ。
そんなミルギスの相手を儂はしとるんだぞ。風の刃で滅多切りにされたりとか。
真空状態の中に放り込まれたりとか、空に吹っ飛ばされたりとか…子守で命がけってありえん!」
「空が飛べてよかったじゃん」
「最後のところだけか、ツッコミは?!どれだけポジティブな視点なんだ!」
「もー。リセはおじいちゃん達とツラッティ退治に出かけてるし。
オーマだって土木作業してるし、エルオーネも、薬草採取がてらミルギスの面倒見てるのに。
ゼロムだけ怠けちゃダメだよ。ほら。後でお酒をちょこっと飲ませてあげるから、ね。ほら行こうよ!」
「酒…(別にそこまで好きではないんだが…まぁ御位相に預かろうか)
ツラッティって、あの異常繁殖して異様にでかくなったネズミか?」
「うん。被害は出ててないけど。見つけちゃったから退治しておくべきだってリセが」
「…妥当だな。そういえばツラッティとは使い魔にもなるんだったか?」
「ゼロム?」
「なんでもない。さて、動けるようになったし、シャシャイの毛でも刈り取るか」
「うん!」
そう言ってゼロムはフラフラと歩いていく。
…本当に疲れてる見たい。ちょっと無理強いしすぎたかな?
僕とゼロムが外に出ると、村の入り口の方に人だかりが出来ていた。