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第六話

「り、リセ!」


「ふむ。ちび、怪我は…何を抱いておるか?」


「えっとー。あ、あは…」


何でだろう、何故かリセにはミルギスを見せちゃいけない気がする。

さっきオーマに怒られた時よりも、ミルギスは僕の服をギュッと掴んでる。

ぷぇぷぇ泣いてたのに、今では声を上げないでプルプル震えてるだけ。



「何ぞこの有様は?今し方隠したモノと関係がありや?」


「え、えへ。ちょっと」


「精霊―――風人(ウィーディ)かや?」


「あ!あのね、」



僕が何かを言う前にリセが手を伸ばしてきた。

そして、僕達を守るように、硬化した布がリセに向って特攻する。


こうやって見ると、何だかリセが悪者のように見えてくるから不思議だ…

じゃなくてっ!


「リセ、あ、あぶな、」



じゅぼっ



「へ?」



「フン。この程度で我の征く手を阻もうなど、笑止!」



も、燃えた?燃え尽きた?ミルギスがくるまっていた布。

エルオーネ曰く、濃密な風の魔力で出来ていた布が、あっさりと燃え尽きてしまった。

右半分だけしっかりと出ているリセの顔には、蛇の鱗っぽい模様が浮き上がっている。

そして普段赤銅色の右目は、今は鮮やかな灼熱の色をしていた。


うわぁ…リセがゼロム相手にどつく時と同じ状況だし。

これって、僕がリセにどつかれるのかな…あ、ちょっと目の前がかすんできたよ。

冷や汗が僕の頬をた〜りと流れる。

いや、本当に無理。ムリムリ。



「ほぉ…焦獄の火蛇と謳われた我と敵対するなど、ゼロムと等しく愚かぞ」


「ぷぇ…ゃ!」


「しょーごくのかじゃ?えっと、」



んーっと…リセはゼロムを馬鹿にしているのはわかったよ。

うん。相変わらずゼロムってばヒエラルキーの下に位置づけされてるんだ。

ミルギスもなんとなく不満げな声を上げてる…「ゃ」とか最後に言ってるし。


「なんだかゼロムが可哀想だな…」


「ちび、あの愚か者、お前になんぞ不埒を働いたとか。

 オーマは別段変りないが、エルオーネが便乗するなど由々しき事ぞ?」



リセが視線で「何をされた?」って問掛けてきたけど、僕自身、別にゼロムに何かされた覚えはないよ?

強いて言えば、ひ孫でも見ているような目で、頭撫でられたくらいだよ。

ふらち―――いやな事をされた覚えはないから、僕は首を横に振った。



「真かえ?」



僕って信用ないなぁ…



「うん。えっと、ミルギスの名前を勝手に僕がつけちゃって…

 本当はそれは良くない事だってオーマが言ったんだけど、でもゼロムは平気だよって」


()を与えた―――?」


「えっとね、怒らないで聞いてくれる?というか、家が燃えちゃうから魔法はやめて」


「我のは魔術ぞ。魔法とは悪魔や、悪魔と契約せし人間のみが使うものだ。魔族(われら)は違う」


「?―――まぁいいや。兎も角、ミルギスは皇位精霊の赤ちゃんなんだって。

 それでオーマが、僕が勝手に名前を付けると服従させちゃうかもしれないって思ったんだと思う。だから怒ったの。

 でもゼロムが『名には祈りと祝福を捧げるものだ』っていうから、僕はこの子が幸せになれるように…

 精霊だからとか、そういうのじゃなくてね。でもこの子はミルギスって名前が嫌いみたいなの―――どうしよ?」



僕は腕の中でじっとしているミルギス…ゴメン、名前が思い浮かぶまでミルギスって呼んでていいかな?

ミルギスを困ったように覗き込むけど、逆にじぃと見上げられちゃったよ…

リセに攻撃した時はどうなるかと思ったけど、なんか収まったみたい。

まさか「ゼロムに等しく愚かだ」って言われたから大人しくしているわけじゃないよね?


いつの間にかリセの眸は赤銅色に戻り、肌からも蛇の鱗のような模様も消えていた。

良かった。家の中が火事にならなくて…

リセはゆっくりと僕達に近づく。そしてミルギスに何かを囁いた。



風の皇位精霊シルフェス・ファ・ムート―――成る程のお。我を恐れるのは然り。

 風の御子(ザウーディ)よその子が汝を守護する限り、我は汝をを喰らう事はせぬ。

 そう怯えるな。しかし逆にその子に刃を向けるのならば、我と他の者達が汝に制裁を与えるぞ」



僕とリセの距離はすごく近いのに、どうして声が聞こえないのか…

これも魔術なのかな?僕に聞かれたくない事なのかな。


「ぷぁ!」


リセが何かを言い終わった後、ミルギスが返事をした。

うん。何か通じるものがあったらしい。



「ちび。この御子ミルギスと言ったかえ?汝に与えられし銘を嫌ってはおらぬようだ。

 単に、精霊食いの魔族(われ)悪魔(オーマ)の気配に慄いておっただけ故、気にするでない」


「え…ミルギス、オーマとリセが怖かったの?皆やさしくていい人なのに」


悪魔(オーマ)夜の一族(ゼロム)そして魔族(われ)は、極端な話精霊(ミルギス)よりも力がある。あれだ―――

 立場的に我々は捕食する側で、ミルギスは捕食される側。詰まる所、格下ということだ」


「格下?でも、ミルギスはゼロムの事フッ飛ばしてたよ。始めてあった時に」



ゼロムってミルギスより強い?

でもゼロムちょっと不幸体質の一般人なんだけど…

しかもミルギスはほっぺを膨らませて「ぷぃ〜」と不満げな声を上げてる。

うん。本当にゼロムが可哀想に思えてきた。今度こっそりお酒でも飲ませてあげよう。うん。



「…あの愚か者(ゼロム)めつくづくヘタレなのだな。まあ良い。

 今後このことについて他の者達と話し合う。

 ちび、ダリアとグレーンには追々我が伝える故、暫し部屋に入らぬように言ってくれ」


「はーい」



ダリアはおばあちゃんでグレーンがおじいちゃんの名前。

リセは会った時からおじいちゃん達を名前で呼んでいる。あ、ゼロムもだ。

リセはパチンッと指を鳴らし、魔術で扉を直してから部屋を出て行った。



「ミルギス―――名前を気に入ってくれてありがとう。これからよろしくね!」


「ぷきゃ!」



僕もミルギスを抱っこしたままリセの後を追った。



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