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第四話

「か、かっ攫うって…僕はただ山に置き去りにされてたから―――」


「置き去り、ね。比較的魔物が居ない山。でも盗賊は時々入り込んでいるだろう?

 そんな物騒な所に赤ん坊を置き去りにするなんて考えられないな。

 しかもこの子はただの赤ん坊じゃない。ちっさい勇者さん、見ててなんとなく気付いただろう?」


「あ、うん。くるまってる布が、」


「そう。この布自体が魔力でできている。とても濃密で清らかな―――風だ」


「風?この赤ちゃんは精霊の加護を受けているの?」


「あー…うん。ゼロムは…いや、オーマは何か言ってなかったかな?」


「(ゼロムってエルオーネにも頼られてないんだ…)

 えーと、しるふふぁむーとって言ってたと思うな。あ、あとざうーでって」


「…それは、風の皇位精霊シルフェス・ファ・ムート華人(ザウーディ)と言ったんだと思うぞ…風の精霊の幼児だ」


「風の精霊の…え?!じゃぁ風人(ウィーディ)の赤ちゃん?!!」



お話なんてどうでもいいという風に、僕に抱っこされている赤ちゃんはエルオーネを興味津々で見ている。

まぁ、エルオーネは綺麗だし背中が大きく開いている服を着てるし。

別に露出狂じゃないよ。エルオーネの背中には30センチほどの翼があるからなんだ。

髪の毛と同じ綺麗な青銀色。たしか有翼人って呼ばれててとっても少ない一族なんだっけ。


すると、ふよふよヒラヒラした布がしゅるしゅるとエルオーネに伸ばされた。

ゼロムの時みたいに攻撃をする訳ではなさそうだからそのまま見てたけど、次の瞬間エルオーネが悲鳴を上げた。



「いたたっ!!」


「あわわわ?!」


「きゃはっ!」


「羽を引っ張るなっ!痛っ!!」


「ぷきゃ、きゃはっ♪」


「引っ張なっつってんだろうが、クソガキ!?」


ビクッ!


「ぷぇ、うぅぅ…ぷぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



赤ちゃんが思い切り泣き出した。

僕は抱きなおして、よしよしと頭を撫でてあげた。でもまだ泣き止まない。

ふよふよヒラヒラ漂っていた布は、今ではペタンと床に落ちてしまった。

エルオーネは二度と引っ張られてなるものか、とでも言うように壁際に寄っていた。



「「やーいエルオーネが小さいの泣かした〜」」


「なっ?!オーマ、ゼロムっ!お前ら揃って指差すな!!」


「ぷぇぇぇぇぇぇぇぇ」


「あわあわ、泣かないでよぉ」



いつの間にか怒られていたゼロムと怒っていたオーマが、エルオーネを批難していた。

でもエルオーネを批難するよりも僕の方を助けて欲しいなぁ。

僕、赤ちゃんのお世話なんてした事ないよ。しかもこの子は精霊の赤ちゃんなんでしょ?


魔法や魔術なんて、僕は皆みたいに扱えないよ。

もーどうしたらいいの?



「おやおや、賑やかだねぇお前さん方」


「「「おばあちゃん!」」」



僕らの声が重なった。

ああ!良かった!おばあちゃんが居た!


おばあちゃんはよこらしょっと抱えていた籠をテーブルに置いて、僕の方へと近寄ってきた。

そして、風人(ウィーディ)の赤ちゃんに微笑みかけ、ひょいっと抱き上げた。

赤ちゃんはぷぇぷぇ泣いてはいるものの、嫌がる事はなくおばあちゃんにあやされている。



「しかしまぁ、よくよく坊やは色んなのを拾ってくるねぇ。

 オーマや、今回はどんな子を坊やは拾ってきたんだい?まだほんの赤ん坊じゃないか」


「えっと…風人(ウィーディ)の―――加護持ちだよ、おばあちゃん」


「え!オーむぐっ」



「違うよ。精霊の赤ちゃんだよ!」って言おうとしたらゼロムに口を塞がれた。

何時の間に僕の後ろに?

何だかいつもゼロムとかオーマとか、あ、後リセも神出鬼没なんだよね。

じゃなくて!

ゼロムを睨みあげれば、困ったように笑った。そして小声で僕に耳打ちする。


「(華人(ザウーディ)はとても珍しいのだ。それこそそこらへんに浮遊している精霊よりもな)」

「(だからってウソつく事ないじゃん!)」

「(もしこの村に華人(ザウーディ)が居ると噂が広まれば、盗賊とか騎士団とかがわんさか来るぞ)」

「(精霊の赤ちゃんってそんなに珍しいの?)」

「(華人(ザウーディ)はな。ものすっごく偉い精霊の赤子だからな)」

「(領主様のご子息みたいな?)」

「(高位精霊の更に上、皇位にあたる…つまるところ王様の子供だ)」

「(!!!)」


「あらまぁ、随分と凄い子なのねぇ、精霊さまの加護持ちなんて!

 ヨルンと同じだわねぇ。あの子の様に大人になったら強くなるかもねぇ。

 あら、じゃぁ親御さんはきっと心配しているでしょうね、何処に居るのかしら?」


「加護持ちって、争いごとに巻き込まれやすいから、ね。

 多分この村に置いてくれって言う意味で、おチビちゃんに任せたんじゃないかな〜」


「あらあら…じゃぁ親御さんが此処に、この子を迎えに来るまで預かりましょうか」


「あー…うん。そーだね」


僕とゼロムがヒソヒソ話しているうちに、オーマがおばあちゃんを説得してくれた。

エルオーネは背中が隠れるようにショールを羽織りなおしてたし。


「坊や、この子の名前はなんていうんだい?」


「へ?僕知らないよ、おばあちゃん」


「んまぁ!預かってきたんだろう?!ちゃんと名前を聞かなかったのかい?」


「(あゎゎ!おばあちゃんに怒られる?!)

 え、えっと、そ、そうだ、み、ミルギス!そのこミルギスにしよう!」


「「「!?」」」


「ぷぁ!」


「おや、ミルギスって名前なのかい。じゃぁミー坊、泣いてお腹がすいたろう?

 いまミルクを温めてあげようねぇ。ほら、お前さん達も!パイを焼いてあるからお食べよ」



おばあちゃんを怒らせると怖いからね、何とか乗り切れてよかった!


「―――ってあれ、皆どうしたの?」


「おチビちゃん」

「ちっさい勇者さん」

「ちび…」


「「「なんで名前をつけるかな…はぁ」」」



僕はまた何かやっちゃったのかな…?



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