第三話
ポリメシアの土地は比較的温暖な気候だったりする。
だからシャシャイや牛や馬と色々な動物を飼っている。
シャシャイは毛皮がもこもこしている愛嬌のある草食動物で、シャシャイの毛皮から糸を紡げる。
誰でもお手ごろに手に入るため、皆が買っていく。収入源の一つだ。
牛からは乳を搾り、チーズを作ったりそのままミルクを近くの村まで売りに行ったりして生計を立てている。
馬は交通手段。ポリメシアは辺境もいいところで、近くの村でも早馬で4日はかかってしまう。
そして短いながらも冬はある。とても寒く冷たい冬が…
「でも今って冬じゃないんだよねぇ」
「何か言ったかいおチビちゃん?ボクのお話を聞いていたの。いや、聞いていなかったね」
ゼロムとは違うフワフワとした焦げ茶色の髪と、同じ色の眸を持つオーマが
腕を組みながら僕達の前に仁王立ちしていた。
女の子みたいな顔で怒られてもちっとも怖くないよ!
―――なんていった三件隣のお兄さんが半年ほど帰ってこなかったのは記憶にまだ新しい。
帰ってきたら来たで、二度と僕のお家には顔を見せに来なくなった。
う〜ん。部屋の中が寒い…
窓とかに霜がはってるんだけど、これってやっぱり…
僕は抱っこしている赤ちゃんが寒くないように、ふわふわヒラヒラした布を撒きなおしてあげた。
そしてしっかりと抱えなおす。赤ちゃんも寒かったのか、僕にしがみついてくる。
ちょっと痛かったのは気にしないでおこう。
それよりも、僕の横に居るゼロムは既に顔が土気色になっている。
ゼロムってオーマやリセにめっぽう弱いよね。一番年上っぽいのに。
「えっとね、オーマ。何で怒ってるの?」
「『何で』?今おチビちゃんは何でかってボクに聞いたの?」
「えっと…」
「ゼロムがヘタレなのは判りきっていたけど!よくも厄介を持ってきてくれたね。
使えないにも程があるよ。まったく!吸血鬼はコレだからダメなんだ。
絶対的支配を促し至高にいたる定めの夜の一族とか名乗っといて
そのクソガキが風の皇位精霊の華人だってのにも気付かないの?
最近やっと日中活動できるようになったから、てっきり
そこそこ出来るヤツと思ってたのに。まったく、全然、どうしようもない程、きみはダメダメだね!!」
「??????」
「そこまで全否定しなくても…吸血種族に対してノスフェラートとは化け物に等しい敬称だ。
悪魔やリセにこそ言われたかないぞ。しかも儂は貴族ではなく平々凡々の平民だ!
支配側ではなく、虐げられる側だったんだぞ!すんごい力があったら逃げてなんかくるか!!
だいたい夜の一族内での差別が激しくなってきたし、儂だって好きでこんな能力を―――」
え…と二人は何を話してるんだろう?
なんかいつものように専門用語ばかりが出てきて、僕には全然判らないや。
兎も角、オーマはこの赤ちゃんが誰の子供だか知ってるみたいだね。
ゼロムも知っているのかなぁ?微妙だなぁ。
だってゼロムの土気色だった顔が今度は真っ青になってるんだもの。
そういえば、ヨルン兄さんがゼロムは『蝋人形が生きているみたいだ』とかって言ってたっけ。
…ロウニンギョウって何?
う〜ん。
「お、珍しいな。ちっさい勇者さんがオーマに説教されてるなんて。
明日はゼロムが盛大に木っ端微塵にされて血の雨が降るかもなぁ、はははは」
のんびりとしたテノールの声。でも言っている内容が過激なのは、彼がとても冗談好きだからだよね。
背中の羽をパタパタさせながら、綺麗な青銀色の髪を一つに結んでるエルオーネが奥の部屋から出てきた。
エルオーネの肩にはヒーシャがちょこんって乗っかってる。
ヒーシャは真っ白な小鳥でエルオーネの最初の相棒なんだって。
「エルオーネぇぇぇっ!洒落にならんからやめれ!!儂とて痛覚はあるんだ!!」
「殺したって直ぐに復活するじゃない。不死者の特徴でしょ」
「オーマの鬼畜っ!サドっ!化け物と呼ぶな!人間の皮を好んで被る物好き悪魔め!!」
「やっぱりもういっぺん、ううん。あと百回くらい死んどく?」
「すいませんでした!!!」
うわぁ。ゼロムが土下座してる―――本当にオーマに頭が上がらないんだな。
なんか今も色々言われてるし。ま、いつもの事だけど。
「はははは。あれが伝説に語られる一族とは案外伝説なんて当てにならないもんだな」
「エルオーネ、伝説って何?」
「いや。ちょっとね。昔から、それこそ俺や君のお祖父さんが生まれるうんと昔から
悪魔と夜の一族は敵対してるんだ。あ、リセもかな?
でもオーマもゼロムも、リセだって皆優しいだろ?本当は敵対しなくても生きていけるんだよ」
エルオーネは困ったゆうに笑った後、僕が抱っこしている赤ちゃんを見た。
そしていきなり固まった。それはもう『ピシィ!!』って音が鳴るくらいに。
「エルオーネ?」
「ちっさい勇者さん、この子をどこからかっ攫ってきたんだ?」
「へ?」