第二話
ぬるいですが、残酷な表現が入ります
今日もよく晴れた空が眩しい。
僕の暮らしているポリメシアは、最近とても良い気候が続いていて
作物は豊かに実り、大雨や地震も無くいたって平和な毎日だ。
そんな毎日が嬉しくて、僕はエルオーネが教えてくれた歌を歌いながら散歩をしている。
今日はちょっと崖の近くまで行ってみようかな?
崖の近くといえば、森の彼方の国に続いているんだっけ…
ゼロムを拾ったところだ。懐かしいなぁ。
あそこはとても不思議な事が起こるって、おばあちゃんが言ってたっけ。
そういえば、ゼロムは何であの場所に倒れていたんだろう?
う〜ん。おばあちゃんが言ってたように不思議だ。
「…あれ?」
何だか此処だけ空気が冷たい…冬に吹く風?みたいな。
でも何だか、ソワソワ?ゾワゾワ?した感じがする。
まるでオーマやリセと会った時みたいな…でも二人の時みたいに
ずっしりと重たい感じはしないし、いったいどうしたんだろう?
その時、背後の草が音を立て揺れた。
一瞬ビクっとなったけど、見慣れた金髪がふわふわ揺れて、それが誰だかわかった。
「あ、ゼロムだー」
「ちび、ここに居たのか」
「もー!僕はちびじゃないよ、ゼロム達が大きいんだよ!!」
僕は10歳の子供だって言うのに!ちゃんと名前だってあるのに!!
ゼロムだけじゃない。オーマやリセも、なんで僕の事を「ちび」って呼ぶんだ?
あ、オーマは「おチビちゃん」って呼ぶけど、二人のと意味変らないよね。
エルオーネは僕の事を「ちっさい勇者さん」ヨルン兄さんは「ちみっこ」
ちょ、これって皆僕の事をチビっていってるじゃないか!!
僕はぷくうと頬を膨らませる。
エルオーネだけは別と思ってたのに…見事に裏切られたよ。
ジトっとゼロムを睨めば、ゼロムは不思議そうに首を傾げてくる。
いや、僕のほうが不思議に思うんだけど…
「珍しいね…お昼にゼロムが動いてるなんて、いつもは死んだように動かないのに」
「ん?ああ。そりゃ死ぬだろ。だって儂、夜の一族だし」
「みでぃあ?」
「ま、ちびには関係ないか。ポリメシアより先の国々には儂らはおらん。
っと、それよりもオーマが探していぞ。なんか約束でもしとるんじゃないのか?」
約束?
僕、オーマと約束なんてしてなかったと思うけど…
う〜ん…
「…」
「…」
「…ぴきゃ…」
「「…」」
「ねぇゼロム。僕なんか今へんな悲鳴?が聞こえた気がする」
「奇遇だな、実は儂も…馬鹿っぽい声が…グぁっ?!」
「ゼロムっ?!!」
いきなりゼロムが吹っ飛んだ。
それからカエルが潰れたような悲鳴を上げて「ビタンッ!」って近くの木に張り付いた。
あれ…?なんかゼロムの鳩尾辺りから、木の枝が生えてるんだけど…
枝の先に赤黒い、グロテスクな塊がひくつきながら突き刺さってるし
しかも、なんだかゼロムの服に赤いシミが―――
まるでリセにどつかれてお腹に腕を差し込まれた時みたいに、ピクリとも動かなくなっちゃった。
「ゼロム?」
「ぷきゃぁ!」
僕の呼びかけに答えたのはゼロムじゃなくて、僕の背後、さっきまで僕が通ろうとしていた
進行方向から、ふよふよヒラヒラした布にくるまっている小さい塊から聞こえた。
よくよく見ると、なんか赤ちゃんっぽいなぁ…
「え〜と。きみは迷子?」
「ぷう?」
首をかしげて僕を見上げる小さい子。
喋れないから赤ちゃんでいいかな。いいよね。
抱っこしようと手を伸ばしたら、今までふよふよヒラヒラとしていた布が
ジャキンッと突然鋭い刃に変った、と思ったら目の前が真っ赤になった。
「あ、ゼロ、ム?」
「馬鹿者!!不用意に手を伸ばす奴があるか!?」
ゼロムが怒鳴りつける。僕と、赤ちゃんに向って。
目の前が真っ赤になったのは、ゼロムが僕を抱えて片腕を突き出していたから。
その突き出したゼロムの腕に、赤ちゃんがくるまっていた布だったものが突き刺さっていたから。
ゼロムが僕を庇った。
僕はいっきに自分の体が冷えるのが判った。
「っ?!ぜ、ゼロム!手が、腕がっ!!血がぁぁ?!」
「…儂が串刺しにされた時はぼぉっとしてるくせに、なんで今は慌てとるんだ?」
「へ、くしざし?いつゼロムは串刺しになったの?って、それよりも手!腕ぇっ!!」
ゼロムは何を言ってるんだろう?
さっきは木に張り付いてただけじゃないか、まったく。
でも僕を気遣ってくれたんだろうね。
冷え切っていた体が熱を取り戻す。今僕がやるべきこと
一先ず僕は持っていたハンカチをゼロムの腕に巻きつけて止血をする。
急いでエルオーネに止血ようの薬を貰わなくちゃ。
「あ、きみもいきなり人を刺しちゃダメだよ!」
「ぷきゃ?」
「おじいちゃんが言ってた。刺さりどころが悪いと死じゃうんだからね!」
「ぷう…」
「きみ、下手したらゼロムが死んじゃったかも知れないんだよ?
人を殺すのはいけないんだよ!というか、僕の家族を傷つけないで!!」
「う〜…」
僕の思いが通じたみたいで、赤ちゃんは漂わせていた布にくるまりなおした。
そして僕に手を伸ばしてくる―――抱っこしろって事かな?
あ、ちょっと可愛いかも…
僕は赤ちゃんを抱っこする。
わぁ。軽いなぁ。お向かいの家に居る猫のロマみたい。
つ、連れて帰っていいかな?迷子だし、連れ帰った方がいいよね。うん。連れて帰ろう。
「僕と一緒にお家に行こう?独りぼっちは寂しいしね。
ね、ゼロムもいいでしょ。赤ちゃん一人なんて危ないよね。うん決まり」
「寧ろそいつ連れ帰った方が危ないぞ」
「何言ってるの!こんなに可愛いのに!!」
「いや、だて、儂、そいつに殺されたし…」
「生きてるじゃん。死んでないよ。未遂だよ」
「いや、だから儂は夜の一族だから。」
「もー。子供だけじゃ危ないんだよ、この山」
「それをお前が言うのか…いや、もういい。好きにしてくれ」
僕は赤ちゃんを抱っこしたまま来た道を戻っていった。
ゼロムもノロノロと僕の後を付いてくる。
帰ったらゼロムの手当てとこの子の紹介をしなくちゃね。
「儂、何度もリセに殺されとるんだがなぁ。しかも串刺しだの絞殺だの
もっぱら魔術を使われてじわじわ嬲られるんだけど…オーマは助けてくれんし
エルオーネは笑って薬差し出してきて、一向に助ける気配などないしな
それにしても…風人の幼児など初めて見た―――よくよくちびは多種族に好かれるな」
主人公ちび(仮)は基本のほほんとしています。
ゼロムはヘタレです。やられ役です。
頻繁に殺されています。でもちび(仮)には気付いてもらえてないです。