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第二十二話

ああ、この時が来た。やっと―――やっと私は私の与えられた仕事を遂行できるのだ。

エベノス地方にある各農村から一定の魔力を有する子供達を集めた。

怯える子供達の中、私が見つけてきた二人の子らは気負うことなく自然体のままこの空間に居る。


貴族の屋敷を物珍しがることはなく、品を崩すこともない。

田舎の、それこそ辺境とまで言われた村の出の者が!―――ああ、顔がニヤケてしまう。

執事たるもの、また我が主の体裁のためにもそんなミスは犯せないが…しかし、本当に今回はあたりだと断言できる。


一時は子供らに対し、『ありえない』と恐怖した自分が情けない。


彼らは逸材だ。彼らは鬼才だ。彼らは我が主の役に立ってくれるだろう。

私が見つけた、連れてきた子らは評価される!

貴族についての知識を持つ少女。精霊の依り代たる素質を持つ少年。


我が主であるツハイン=リラ様の名誉の為に―――是が非でもエベノス領主ウルト様の御めがねに適ってもらうぞ!



「遅れまして、誠に申し訳ありません。深くお詫び申し上げます、ブロワ執事長殿。

 私めが連れてまいりましたのは辺境の地(ポリメシア)より二名、魔術師の資質を持つ者として領主様の下へと推奨したします」




                                         ◆ツハイン=リラ専属執事セト=ルビィナ◆




エベノス地方にある各農村から一定の魔力を有する子供達を集めた。

子供達は皆一様に怯えている。


無理もない。


彼らの親は領主様より報奨金がでると知ると彼らを売り渡したのだ…

しっかりと、子供が魔術師の学院へと入学できた場合にのみに支払うと言ったのにも関わらず

そして、まだ子供達が魔術師の素質があるというだけで、確実に王都へと行けるとは限らないのに、だ。


私の行うべきことは、魔術師の選出。

この子供達の中から選ぶのだが、私の琴線に触れる者はいない。

私でこの状態なのだ。我が主もあまりの質の低さにお嘆きになるだろう。


恐らく、此処に居る子供たちは王都にある魔術師の学院へは行けない。

魔力があるとはいえ、教養がなく文字も読めるかも怪しいのだ。

否―――数十年前に義務付けされた法など、今も律儀に守っている貴族は少ない。

我が主であり、このエベノス地方の領主たるウルト=エヴァーゼン様は平民には寛容的だが…

此処に集められた子供達は手頃な商人に引き取らせるか…

出来がいい者がいれば此処で下働きさせることもあるだろう―――しかし。



そんな私の思考を中断させる出来事が起きた。



エベノス地方領主ウルト様の奥方や、そのご子息方に疎まれているツハイン様の私兵

―――ツハイン様の従者を務めている者が、ある子供達を連れて来たのだ。


今更何用できたのか…定刻などとうに過ぎているというのに―――はじめはそう憤慨したものだ。



しかしアレが引き連れた子供達を見た時、ふと違和感を覚えた。


一人は目を見張る程の美しい少女だ。

さわり心地の良いであろう柔らかなダークブラウンの髪と

その髪と同じ色でありながら、どこか潤んでいる大きく、くるりとした眸。

少女の頬は仄かに赤みがあり、汚れを知らぬ肌の白さが一層際立っていた。

成長すれば絶世の美女になるのではと思う程だ―――そして魔力が他の者よりも上質だった。


もう一人はその美しい少女に手を引かれて入って来た。

はっきり言って特徴がないのが特徴だろう。

否。子供らしいといえば子供らしいのだが、ただそれだけだ。

他の農村の子供らと何ら変わりない。変わりないはずなのだが…何故だ?


―――まだ違和感が否めない。



そして私の違和感は確かに間違いではなかったのだ。



                                       ◆エヴァーゼン家執事長サモン=ウ=ブロワ◆










おれらが入ってきた扉とは別のとこから、そいつらは入ってきた。



「ほら、見て。他の村の子達が集まってるよ。ボク達が最後っぽいね」



一人はその、なんてーかすっげぇ可愛い子だった。おれのいた村でも比べられないくらい可愛いこだ。

んで、もう一人がチビだった。おれより年下か?

けっこう肉つきいいよな。なんだよ。アイツ金持ちのとこのヤツかよ。

なんかムカつくし、丸太っぽいから丸太でいいや。



「ほんとだ。なんだか皆元気ないね?」



元気がない?―――当り前だろ!!

これから魔術師になるかもしれないんだ!

でもそいつらは貴族なんだぞ!素質がある?だから何だってんだよ!?

貴族のヤツらが小さな村の、平民を魔術師にしたがるわけないだろう!!



「そうだね。でも仕方ないよ。魔術師は地方には来ないからね。

 っていうか、前にポリメシアに来たアレ(まじゅつし)は本当に特殊というか奇特なものだから」


「?」


「怖いってことさ」


「え…なんで?」



そいつ…本当にわからねぇヤツだった。

すっげぇ可愛い子と一緒にいて、手までつないで!

魔術師の、貴族の怖さを知らないなんて、ぜってぇ甘やかされて育ったんだな、あのチビ助は。



「はぁ―――これから我が主がお前達を見に来る。私語は慎め。特にお前だ…ちっさいの」


「っ!――――しつじのおじさんまで僕のことちっちゃいって言った!!?」



チビで丸太っぽいガキは貴族の召使に口答えまでして、何考えてんだよ!?

本当にどこの田舎もんだよ!!?



「うぅ…僕、おっきくなるもん…ゼロムみたいによく寝て、ちゃんとおっきく育つもん」


「貴族の執事って、他人を侮辱することしかできないわけ?」


「あ、いや、その…あそこまで項垂れるほど気にしているとは…」



じっさいチビのくせに!!しかも可愛いこもチビ助のことかばったし!

貴族のヤツも何も言わないし、召使だってオドオドしてるし、いったい何なんだよ!?


貴族は、貴族に仕えてるヤツらには逆らっちゃいけないんだぞ!

逆らったら家を焼かれちまうのに!村の税金だって増やされちまうのに!!

おれらは父さんや母さんたちと引きはがされたのにっ!!!


おれはチビ助をにらんだ。思いっきり!

だって本当に、そいつのせいでここにいる貴族が怒ったら?


おんなじ平民ってだけでおれたちまで殺されたら?




――――ふざけんな!!!!





「それで?ボクたちってなんかのテストでもうけるわけ?

 それとも、そこのブロワ執事長だっけ?彼に魔力でもぶつけてみればいいの?」



な、何言ってんだよあの子…?



「え…そんなことしたらあの人気絶しちゃうよ?

 危ないことしたらダメっておじいちゃん言ってたよ!」



は?―――き、気絶?!

ちょっと魔術の素質があるから調子にのってんのか?

ここまで来る間に、貴族の召使から何も聞いてないってのか?

言葉一つで、村を燃やしちまうようなヤツら相手に、あの子もチビ助も何言ってんだよ?!!



「それはおチビちゃんにであってボクにじゃないからね。

 おじいちゃんボクには思う存分に()れって言ってくれたし?」


「えぇ…オーマ目立たないようにねって僕に言ったくせに」


「おチビちゃんにね。だってそうでしょ?

 おチビちゃんって魔術が何たるかを知らないんだから。それで?執事のおじさん―――」



なんだ…あの子はなに言ってんだ…?

そんなこと言ったら、逆らったら、おれたちは殺され―――




「彼に対持するのでないなら、そこの壁で幻術張ってる方をボクは()ればいいのかな?」




おれの方を―――おれがいる壁を目を細めて見てきた。


にらまれてる?―――誰を、おれを?


何で?―――壁に幻術使ってるヤツがいるから、じゃぁなんでコワイんだ?


後ろにいるのか?―――ほんとうに壁際にいるのか、おれまでにらまれてないか?!




「あっちの壁にいるの?僕は男の子がいるようにしか見えないけど…」


「ふふ。見えなくていいよ。知る必要なんてないんだから。そこの…」



可愛らしいあの子が笑う

おれに向けて、やわらく弧を描いていく口元で。



「そうそこのキミ。邪魔だから―――」



―――キミごと()っていいかな。別にいいよね。




「っ!!!?」




…だってキミ睨んできたんだし。




ゆるりと―――嗤う



                                     ◆連れてこられた農村の子供◆



領主さままでもうちょっと!といった感じです…


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