第二十一話
ざわざわ、がやがや。
森の中とは違う音がいっぱい。
ざわざわ、がやがや。かっぽかっぽ。
人の笑い声とか馬の蹄の音がそこかしこで聞こえる。
馬車は道の真ん中をからころからころ。
僕とオーマはゆらゆらゆら。
窓から見える景色は人とかお店とか。
人と人と人と、たくさんいる。皆楽しそうに動き回ってる。
大きな荷馬車とロウファ達よりもちっちゃい犬とか、てこてこしてるし
ポリメシアにはあんまりいない猫が、わんわん、にゃーにゃー。可愛いなぁ。
「うわぁみてみて、すっごくお家がいっぱいあるよ!」
「そーだねぇ…あ、あそこの露天でケンヤンが売ってる」
「ケンヤン?」
「鶏肉で固い部分の肉をタレに一晩漬けて、味をしみ込ませたのをああやって焼くんだよ。
ポリメシアでは鶏肉よりも魚の方が主食になってるからねぇ…まぁ帰りにでも寄ってみようか」
「ほんと!?あ、でもお金?僕持ってないよ」
「おじいちゃんからちゃんと二人分のお小遣い貰ったし、平気さ。
おチビちゃん、買い物してみる?ポリメシアじゃぁ物々交換しかしないからねぇ。
ここらで買い物の仕方を覚えておかないと、隣村とか大きな町や都市に行った時カモられちゃうよ」
「えっと…いいの?じゃ、じゃぁねぇ、さっき言ってたケンヤン食べてみたい!
あと、皆にお土産買って帰る!あと、あとねぇ、えっと…リボンが欲しいの!」
「リボンって誰にあげるの?」
「おばあちゃんに!髪の毛結んでたのが切れちゃったって言ってたから」
「そっか。じゃぁ丈夫で綺麗なのお土産にしよっか」
「うん!」
ポリメシアを出てからもう十日が過ぎて、しつじのおじさんと僕とオーマはずっと馬車での旅だった。
でもそれも今日までなんだって。そっか。もう領主さまのお家に着くんだ。
人がいっぱい居て、お家がいっぱいあって、いろんな音があふれてるこの町に領主さまはいるんだあぁ。
「おチビちゃーん。感慨に耽ってるところ悪いんだけど、実はまだ着いてないからね」
「うぇ?」
「これからまた別の馬車で移動さ。今度のは使い魔に繋いだ馬車かな?」
「つ、使い魔?!」
使い魔って、前にポリメシアにきた大きなネズミ!!?
ど、どうしよう?!
僕、あのツラッティとか言う使い魔は怖いよ!ダメだよ、苦手だよ!!
「あ…言っとくけど、前にポリメシアを荒らしに来たツラッティじゃないよ」
「ぇ…ほ、ほんと?」
「うん。ツラッティって使い魔だけど主に失敗してできたようなモノだし。
本来はもっと有効に使えるモノだよ。特に移動用は上位者の魔術師が行うから
三流以下の魔術師よりもまだ信用できるし、何かあってもボクがいるから平気だよ」
「そ、そっか。そうだよね」
「まぁエノベス地方って余所に比べたら狭いし、あと一日もすれば領主さまのとこに着くって」
「えぇぇ!?」
オーマが言ったように、町の中を突っ切って馬車は大きな広場まできた。
その後に、その広場で待っていた…真っ白な馬―――使い魔―――
遠目から見ても普通の馬とは違うって分った。
だって白い馬の首に赤い模様がゆらゆらしてるんだもの。
確かあれって古代文字だよね。僕オーマに教えてもらったよ!
じっくりと見てる暇はなかったけど、馬に繋がれてる手綱にも
何かの文字が描かれてたみたいだし…そっか、これが普通の魔術師の使い魔なんだ。
色々な所を見れて楽しいかったけど…領主さまのお家ちょっと遠いいと思うな。
うん?
領主さまのお家って街の中にないってこと?
あれ…もしかして村長さんみたいにちょっと離れた所に住んでるのかなぁ。
◆ ◆ ◆
馬車から下りて、僕は辺りを見回した。
森って言うにはなんだか物足りなくて、でも木はいっぱいあって、それでも不思議な感じだった。
あ―――木の下にお花が一つ二つ、三つ…
他の木の下にも同じ花が同じ数だけある…領主さまの庭だから整備されてるのかな?
そっか…だからヘンな感じがしたんだ。うん。なっとくだね!
うんうん僕が頷いてると、オーマが僕をひっぱった。
「あ…つ、ついたの?」
「そうみたい。おチビちゃん疲れてるね」
「そんなこと…あー、でもちょっと喉が疲れたかも。感謝祭のお歌の練習今しなくてもいいと思う…」
「暇だったんだから。それに来月はお祭りなんだし、詩歌ぐらい暗唱できなくちゃね」
「むぅ…でも去年のよりもながくなってるぅ」
「今年はミルギスがいるから仕方ないの」
「うぅ」
オーマはクスクスと笑いながら僕の手をひっぱて行く。
ああそうだ。これから領主さまに会うんだっけ?
なんだかこう、うろうろとかそわそわとか、そんな感じがする。
そんな僕を見て、オーマはまたクスクスと笑ってそっと言ってきた。
「おチビちゃん―――i Де иЛю…」
「ぇ…い・でぃ・る…?」
「軽いおまじないだよ」
「―――お前たち、これから入る所では無駄口を叩かぬように」
しつあじのおじさんはそう言ううと、どっしりとした大きな扉を開けた。
うわぁ…チリチリとした雰囲気だなぁ。
あ、でも、うろうろとかそわそわとかはもうなくなったかも…なんでだろう?
「ほら、見て。他の村の子達が集まってるよ。ボク達が最後っぽいね」
オーマがまたこっそりと言ってくる。
「ほんとだ。なんだか皆元気ないね?」
「そうだね。でも仕方ないよ。魔術師は地方には来ないからね。
っていうか、前にポリメシアに来たアレは本当に特殊というか奇特なものだから」
「?」
「こわいってことさ」
「え…なんで?」
僕の声が大きかったのかな?
しつじのおじさんの他にも大人の人がこっちを見てくるし、他の村の子たちもじっと見てくる。
「はぁ―――これから我が主がお前達を見に来る。私語は慎め。特にお前だ…ちっさいの」
・・・・
・・・・・・・・・うん?
・・・・・・・・・・・・・
「っ!――――しつじのおじさんまで僕のことちっちゃいって言った!!?」
しかも指で僕の方をさしてきた。人を指さしたらいけないっておばあちゃんが言ってたのに!!
ひどい!僕は平均的な身長だよ!
オーマは髪の毛がふわふわだから僕よりちょっと大きく見えるだけだよ!!
ポリメシアにいる皆がちょっと大きいだけだよ…同い年の子だって僕と背は変わらないもん
「うぅ…僕、おっきくなるもん…ゼロムみたいによく寝て、ちゃんとおっきく育つもん」
…か、変わらないもん。ほんのちょっと、ちょこーっとだけ
僕の方が背がちっちゃい…だ、だけで。
「貴族の執事って、他人を侮辱することしかできないわけ?」
「あ、いや、その…あそこまで項垂れるほど気にしているとは…」
「あーあ。
ボク達はあんな大人にならないようにしようね、おチビちゃん」
うん。僕、もうオーマたちのことはあきらめてるから。
愛情表現って分ってるから…
次は視点が変わります。そろそろキャラについて詳しく描写しようと考え中です。
しばらく旅行に行くので更新がちょっと止まりますが、帰ってきたら連続で投稿したいと思います。