第十八話
カルローンおじさんがミルギスを探しにきてから、またずいぶんと時間が経った。
盗賊のジュードさんも、ちゃんと罪を償うって言ってリセに連れてかれてからは
よその人がこのポリメシアに来ることがなくなった。
うん。
だって、もう冬だもの。
短いけれど、とても寒い冬がこのポリメシアにやってきた。
「ふぇっ…っ―――くちぇっ」
「寒くなったな。ほら、マントを忘れてるぜ」
「うぅ…エルオーネは寒くないの、もう慣れたの?」
「俺は慣れたよ。でもゼロムがダメみたいだな。ほらミルギスに小突かれてガタガタしてる
(あれは完全に腹を抉られたな…しかしミルギス、消音で術を行使できるなんて将来有望か?)」
「あ、本当だ!ふふ。ミルギスはハナコのこと気に入ってるみたいだね!」
「ああ。本当にあのハナコを気に入っているな。
大体移動する時はハナコに乗っているか、ゼロムに抱っこされてるかのどっちかだし」
ミルギスはハナコの背中に乗っかったまま。ふふ。本当にハナコが好きなんだね!
ハナコはセインと同じ真っ黒なんだ。でももふもふじゃなくてサラサラな毛並みなの。
それから、ハナコはヨルン兄さんが付けた名前。
なんでもヨルン兄さんの故郷では普通に皆に知られてる名前なんだって。
うん。ハナコも名前をあげたときすっごく喜んでたよ。
ああ。ほら、今だってきゃんきゃん吠えながらヨルン兄さんに飛びかかってたるもの。
ミルギスってば最近腕力が付いてきたからなぁ。
ぷら~んってゼロムの首にしがみ付いてたり、でも何でかセロムの顔が土気色になってたけど…
あと僕のことぎゅってしてきたり可愛いよねぇ。
ほんとに仲がいいなぁ。
「HAHAHAHA!ほーら花子(笑)とってこーい」
『チクショー!!てめぇ変な名前付けやがって!!』
「ほーら、ほーら。適度に運動しないと太るぞー。HAHAHAHA!」
「ぷぁ!」 ぶちっ。
『ぎゃっ!?あ、あねさんっ、背中毟らないでっ!ひぃぃぃ?!!』
「ほーらほーら。」
『竜殺しの騎士!この恨み、何時かはらすっ!!』
でもゼロムがなんだか微妙そうな顔してるけど、なんでだろう?
あんなにじゃれてきてるのに、何が不満なのさ?
ハナコは僕にあんまり懐いてくれないのに…
ヨルン兄さんが、ハナコは玉ねぎが大好きって言ってたからハナコのご飯に玉ねぎいっぱい入れてあげたのに…
あれ以来ハナコはご飯のときになると僕から離れちゃうんだよね…何で?
一緒にお散歩行く時も、そろそろと遠くに行っちゃうんだ。
お風呂の時だって、オーマの方について行っちゃうし…僕って嫌われてるのかなぁ?
あーぁ。
ほっぺが冷たいなぁ。
「はぁ―――あ、息が白いや!本格的に冬が来るね。星焔達が恋しいなぁ」
「炎の精霊か、水守に近い俺のとこにはあんまり現れないな」
「?」
「仲が悪いわけじゃないんだが、水守と星焔は相反する性質なんだよ」
「へぇ」
「それはそうと、リセとグレーンがまた遠出をするらしいぞ」
「あ、ゼロム!寒いなら家に入ってればいいのに。それとも僕のマントの中に入る?」
そう言ったらゼロムは僕の頭をなでてくれた。えへへ。
でもちょっと手が冷たいんだよね。うーん。
「いや、儂がダウンしとるいのは主にミルギスの所為だから気にするな。
で、話をもどすが。なんかここの領主が子供を集めろとかなんとか言ってると」
子供を集める?
オーマみたいにお勉強会でもひらくのかな。
でも何でおじいちゃんが領主さまの所に行くの?
普通村長さんが領主さまの所に行くんじゃないの?
「脈絡がないな。いったい何のために?」
「さぁな。確認するために騎獣に乗って出かけたのだろう。リセは護衛だ」
「ふへ~。そうなんだぁ。ゴエイってなに?」
「護衛は守ることだ。領主の館まで遠いからな。
途中で悪い奴らが来たら困るだろう?というか、俺は領主が誰だかも知らないぜ」
「儂だってポリメシアに流れついたのは最近だ―――あ、ちょっと待て確か…」
ゼロムがおでこに手を当ててぶつぶつ何かを言ってる。
うーん。時々「ケルト」とか「知り合いだからか…」とか言ってるのが聞こえる。
あ!もしかして、ケルトって人から貰った魔術で何か知ってるのかな?
「あぁ、コレか…?…、…ふむ。エベノス地方領主で、名はウルト=エヴァーゼン?」
「何でそんな疑問形なんだ?」
「儂の使い勝手の悪い能力の一部だ」
「ケルトさんがくれた力なの?」
「!…よく覚えていたなちび。そう儂が喰ったケルトの記憶だ。
若りし頃は魔術師として王都に居た…あー…っと、んん?
ちょっと前にケルト達が魔術師育成の義務?というのを作っとったようだな」
「ちょっと前って…お前の感覚だとちょっと前ってどれくらいだ?」
「ちょっとはちょっとだろう?うむ。多分コレだな…
数年毎に地方から王都の学院に素質のある子供を推薦する制度がある。
おそらく、今回はポリメシアを含めたエベノス地方の子供らの数人が王都へ送られるのだろう」
ゼロムがぐりぐりと眉間のしわを伸ばしながら言う。
でもさ、「ケルトの若りし頃だから60年前か?」とか聞こえたんだけど…
あれぇ…ゼロムっておじいちゃんよりも若いよね?
それに、魔術師の学校って、お金持ちの貴族しか入れないんじゃなかったっけ?
◆ ◆ ◆
からころからころ。
僕たちは馬車に乗っている。行者さんは領主さまの知り合いの人。
エンビフク服って言うのを着てるんだ。なんだか貴族の人みたい!
「で、ボクとおチビちゃんが領主の家に行く事になったワケだね」
「お出かけだよ!僕ポリメシアからでるの初めて、すっごく楽しみ!!」
なんで僕たちが馬車に乗ってるかって言うと、ゼロムが話した通りのことがあったんだよね。
「魔術師の素質のある子供を王都に送る」だって。
おじいちゃんが帰ってきて、村の皆に領主さまからの伝言を伝えたの。
本当はティコたちも一緒に行くはずだったんだけど、行者さんが僕とオーマだけって言ったの。
ちょっと残念。子供だけで遠出してみたかったのに…
「ヨカッタネ。えーと、メモには魔術の素質のある子供…何コレ?
年の頃は8~13歳。女児でも可。魔力感知ができる事が最低条件。
属性を持つ魔術が行使できればなお良し―――おチビちゃん、ボクら領主の所に行くのやめない?」
「えー。せっかくエルオーネにゴシンジュツって言う魔術教えてもらったのに。
リセにはケンゾクを貸してやるから安心しろって言われたし。
ヨルン兄さんは、えーっと、あ、見て見て!ナイフもらったの。
ゼロムにはウルトって領主さまに怖い事されたら『フィヨーダの落日』って言って逃げてこいだって」
「そ。護身術とナイフはいいよ。万が一とか考えたらね。でも後のは何さ?
ったく。リセはヘンな所で馬鹿ったゆーか、突拍子がないってゆーか…
ゼロムもゼロムだね。何、フィヨーダの落日って?どっから情報仕入れたのさ」
「うん?なんかゼロムの力でケルトさんの力を借りたんだって」
「!―――へぇ。夜の一族特有の能力ってワケだ。
他人の能力を借りる?少なくとも一人は喰べたんだ」
「オーマ?」
「何でもないよ、おチビちゃん。そうそう、リセが言ってた眷族は喚んじゃダメだよ?
あとヨルンから貰ったナイフも背中に隠しておくんだ、いいね?
あ~。めんどくさいなぁ。でもおチビちゃんと二人で遠出するってのもなかなかイイかもね」
「うん!僕もオーマと一緒にお出かけするの嬉しいよ!!」
からころからころ馬車に揺られながら、遠い領主さまのお家へ向かって行く。
領主さまはどんな人かな?
他の村の子たちと早く会いたいなぁ。