第十六話
「いやいやいやいやいや。ちょっとまてよ、坊主!
何で普通に会話を継続しようとしてんだよ。ここは怖がるとこだろう?」
「え、なんで?」
「いや、普通はよぉ、賞金首が目の前にいたら捕まえるか怖がるかするだろう。
盗賊ジュードは『漆黒の爪牙』って呼ばれて国家レベルで指名手配されてんだぜ。
しかも騎士団とか特殊部隊の魔性討伐軍とかすらも相手取れるわけよオレ様。
けっこぉ強いんだぜ、マジで。有翼人誘拐の依頼とかされるくらいにはな。
なのになんで坊主は普通にオレ様と話をしようとしてんだ?
ここは命乞いとか、これから自分がどうなるのかとか焦ってオレ様に聞くとこだろうが!」
指名手配って、悪い人がなるものだよね。
ジュードさん国から追われてるんだ。
「大変なんだねー…?」
あれ、そう言えばゼロムも故郷から逃げてたんだっけ?
じゃぁゼロムも国家レベルの指名手配犯?
ううん?でもゼロムって農民だって言ってたし…よくわかんないなぁ。
「指名手配されてても、ゼロムはいい人だよ?」
「馬鹿にされてんのか、純粋培養液にひたすら浸けられて育った坊主の天然発言なのか…
つーかゼロムって…今一わからねぇ。あーっと、ともかく!背中見せろ。
運が良けりゃ男として鑑賞用で売ってやる。運が悪けりゃ女にして愛玩として買われるからな」
あ―――人買いの人なんだ。
ずっと前にエルオーネにヒドイ事をした人達と同じ事をしてるんだ。
でも、ジュードさんの言っている意味が分からない。
ジュードさんは僕の上着をするすると脱がして、上の服に手をかけてきた。
「ジュードさん。僕は男の子だよ。男の子は女の子になれないよ。大丈夫?」
「だ−かーら−!有翼人は両性だろ!!手順を踏めば男にも女にもなれんだろうが!
何で有翼人がそんなことを知らないんだよ。一族の特性だろうに。
まさか親から何にも聞いてないのか。ああ、だったら頷ける。ここまで無防備なわけがな」
「僕のお父さんもお母さんも、僕が小さい時に遠い処へ行っちゃったよ?
おじいちゃんが僕は小さいからまだまだ会いに行けないねって言ってたもの」
「…は?」
ジュードさんの手が止まった。
うん。僕が小さいからお父さんにもお母さんにも会えないんだよね。
ああ、早く大人になりたいなぁ。
そうすればお父さんとお母さんに会いに行けるんだもの。
でもこの話をおじいちゃん達にすると、なんでだか皆困ったように笑うんだよね。
どうしてあんな顔をしたんだろう?
あんまりにも困っていたから最近はこういう風に話さなくなったんだ。
村の皆も僕のお父さん達の話はしないんだよね…
本当に遠いところに行っちゃってるからなんだよね、きっと。
「どうしたの?」
「坊主、お前、親が…亡くなったんだな」
「?―――ねぇジュードさん。なくなったって、僕はなにも無くしてないよ」
「なっ…お前、何言ってっ、」
ジュードさんが僕の肩を掴んでガクガクゆする。
なんで、痛そうな顔をしてるんだろう…
うぅ。
ちょっと気持ち悪いよぉ。
「そこまでにしてもらおう!」
ぐるぐると回る景色の中、懐かしい声が聞こえた。
◆ ◆ ◆
「!―――何者だ?!」
「俺が何者か…いいさ、手短に語ってやろう―――
数年前、突如として現代社会からこっちに放り込まれ、必死に日々つつましく生活をしていた俺。
なんか知らん内に勇者と祭り上げられて、各地のモブ…モンスターをハントせざるおえなかった俺。
しかも有名になりすて、勇者の名を騙った偽物として指名手配された経験のある俺…
あ、ちゃんと俺が勇者に祭り上げられた本人だって事は証明して誤解は解けたけどな!
で、どっかの地方にいたちまいドラゴンを根性と気合と意地で倒した俺!
竜の逆鱗すらも打ち砕く!俺の名は、霧間夜―――ヨルン・キリマって言えば分るか?」
「ヨルン、キリマ…まさか、そんなバカな。こんな辺境の地に竜殺しの騎士だと?!!」
「日本男児なめんなっ!!おとなしくお縄につけぇぇぇいっ!!」
「っぐ!」
ヨルン兄さんが目の粗い縄をジュードさんに投げつけた。
それからは簡単。
いつもゼロムがリセやオーマにされてるみたいに、ジュードさんも芋虫になったよ。
「うわぁ。ヨルン兄さんの七つ道具が増えてる」
「あぁ、最近ウエスタンに目覚めてな。ところでコイツ誰だ?
なんでちみっこはこんな裏道にいるんだ?つーか、なんのごっこ遊び?」
「ヨルン兄さぁん。ジュードさん気絶しちゃったよ。
あとね、遊びじゃないよ。気がついたらここにいたの」
「………ま、いいか。怪我ないし。なんもされてねーよな?」
「うん。目が回っちゃっただけで、平気だよ」
僕はヨルン兄さんに今までの事を話した。そしたら兄さんは暫く動かなかったんだ。
ただ固まってた間にリセが暴れるとか、オーマが笑うとかブツブツ言ってたなぁ。
「あー、うん。分かった。コイツは突きだそう。
何よりも俺の為に!リセ辺りならコイツの親知ってそうだし?」
「リセはジュードさんのお父さんたちと知り合いなの?」
「あー。うん。多分。だって魔王様だしー?」
「マオーサマー…?」
「発音がちょっと違うぞ。ま、もうちょっと大きくなったら話してやるよ」
そう言ってヨルン兄さんはジュードさんを抱っこしたんだ。
それから小声で何か言ってたけど…僕には聞こえなかった。内緒話はずるいなぁ。
◆ ◆ ◆
「あー。あー。ジュード君に告げる。無駄な抵抗はやめなさーい。
ちみっこに怪我させなかった事は情状酌量の余地があるから言い分は聞いてやる。
でもこっから逃げることは許さない。赦されない。よりにも寄ってあの子を狙った。
リセからキツーいお叱りと、オーマからツラーイ尋問?を受けてもらう。拒否権はない」
「大人一人分の大きさの剣。刀身は空色。額には水守の加護…
竜殺しの騎士がこんな辺境にいるとはな。情報収集不足だ。オレ様もやきが回ったか?」
「まぁ、人のいない場所を求めてきたならここは最適だろうけどよ。
ほんとーにお前は運がねーよ。
焦獄の火蛇と蠢欲の悪魔、あと夜の一族が共同保護してるちみっこを狙ったら、なー?」
「は…?お前、いま、何を…ま、待て!?
今ものすっごい名前が出てこなかったか?!焦獄の火蛇?!
蠢欲の悪魔!!?夜の一族!!!伝説がこんな辺境に―――っ」
「がんばれワカゾー。君ノ明日ハ真ッ暗闇ダ。HAHAHAHA!」
「嘘だ!ウソだと言ってくれ竜殺しの騎士!!
親父に殺される!むしろ親父が殺されるっ!!頼むから嘘だと言ってくれ!!」
「HAHAHAHA!」