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第十三話

薄手の上着を羽織、僕は外へと出る。

勿論、水汲み専用の桶は忘れてないよ!

あ、ちょっと寒いかも…今のこの時期は季節の変わり目かな。

段々と冬の寒さを風人(ウィーディ)が運んできてる。

村ではそろそろ薪のを集めだしている。ほら、冬を越すのにやっぱり薪は必要だしね。

でもオーマやリセは、魔法や魔術で村に有る家を改築しようとか話してた。

うん。

僕達の家だけがっつり防寒設備着いてるのはずるいもんね。



「あ!おはようセイン!」



真っ黒な毛のセイリオス―――セインに挨拶をした。

地面にお腹を付けて寝そべっていたセインは、僕を見てのっそりと立ち上がった。

うわー。もっふもふの毛だ〜。

でも何でお家の前に寝そべってたの?



「セイン。どうしてここで寝てるの?

 ちゃんとセインのお家があっちの方にあるでしょ。ここ寒くないの?」



セインのお家はちゃんと牧草地に面している所に小屋を建てた。

スケィル・ヒップスやアヌビス達もそっち側に居る。

不満なのかな?

僕がそう思った事が判ったのかそれとも寒くないのか、セインは頭を横に振る。



「えっと、お散歩してたとか―――あ、もしかしてエルオーネに会いに来た?」


「わふっ!」


「そうなんだ!エルオーネはまだ地下室に居たから、でもそろそろ出てくると思うよ。

 今ね、井戸の水がなくなっちゃった事を調べてくれるよう頼んだから、一緒に行くといいよ」


「わふ!」


「じゃぁ、僕は川まで水を汲んでくるね!寒かったらお家に入っててね!」



僕はお家の扉を開けたままにして、川がある方へと歩き出す。

パタン。と後ろの方から音がした。セインがお家の中に入って扉を閉めたのかな。

リセの連れてきた騎獣は、他の人への気遣いとかできるからすごいと思う。

あれ…?

何か動き辛い…

ちょっと後ろを振り返ると、セインが僕の上着の裾を噛んでた。


「セイン…裾を噛み切らないでね?おばあちゃんは怒ると怖いんだよ、本当に」


セイン、お家に入ったんじゃないんだ。

え?

何で、僕のお洋服に噛み付いてるの?


「…エルオーネに会いに来たんだよね?それとも僕に用事があったの?

 僕はこれか川に水汲みに行かなくちゃいけないから、後にしてもらえる?」


セインは噛み付いていた服を放して、僕の隣に並んだ。

これは僕と一緒に川まで行くって思っていいのかな?

でもエルオーネに用があったんじゃないの?


「わふっ」

「わふっ!」


「あ、ロウファもいた!」




白と黒のセイリオス。ロウファとセイン。

もっふもふの色違いの毛。大きさは、少しだけロウファが勝ってる。



「ロウファはエルオーネと一緒に行かないの?」



首をこてんと傾げてから、ロウファもセインとは反対側に並んだ。

大きな犬に囲まれた。

えへへ、ちょっと暖かいかも…じゃないくて!



「一緒に川まで行くの?」


「「わふっ」」



二匹とも仲がイイなぁ。

そんなことを僕が思っていると、ロウファが低く屈んだ。

セインは僕の持っていた桶のとっての部分を咥えてじっとしている。

え、え?何?



「え〜と。乗っけてくれるのロウファ?セインは桶を持って行ってくれるんだね?」



僕の確認に、二匹は首を振って答えた。

それからが早かったよ!

だってロウファが翼をミシミシ出したと思ったら、ふわぁ!って飛んだの!!




「うぇ?え?!すっごい!すごいよ、早い!空飛んでる!!」




わくわくしているうちに下に川が見えてきた。


川は相変わらずキラキラきれいなんだけど

でもなんかヘンなんだよね…?


シュッタ。っとロウファとセインが着地して、僕もするりとロウファから降りた。

それから周りを見回す。だって昨日と違うんだもの。

何が違うのかって言われたら、ちょっと説明できないけど…

川は、水はきれいなまま、でも―――


僕は川をのぞきこむ。何が違うのか、知りたくて。

ロウファとセインも僕の両隣にいて、一緒に川を見ていた。



「やっぱり…違う気がする。井戸がかれちゃったのと関係あるのかな?」


「ほう。井戸が涸れたと…水守(ウンディーネ)の怒りでも買ったのではないか」


「え?」



ロウファとセインに聞いたはずだったのに、他のヒトの声がした。

あれ…?何でこんな冬に川の中にいるの?

と、いうか…『青』を持つヒト。ふよふよと周りに水が浮かんでる。



「え〜っと、エルオーネの家族のヒト?」


「―――何故、そう思うのだ?」



なぜって、だってロウファは威嚇してないし、セインも普通にしてる。

髪の色もエルオーネに似ている青い色なのに。

あ、でも背中に翼はないや。じゃぁ。誰なんだろう?



「色が似てたから、なんだけど。え〜っとおじさんだぁれ?」


「おじっ?!」


「知らない大人のヒトはおじさんって呼びなさいって、おばあちゃんが言ってたよ」


「わ、わたしが、お、おじさんっ?!」


「ねぇ、だれなの、おじさん」


「ええい!私にはカ「どの面下げてここにいるんだ、ん?ヒスオ」



笑ってた。なんて言うか、笑って林檎を握りつぶした時と同じ。

あ、でも今回はどっちかっていうと、ゼロムをいじってる時と似た感じかも。

すごく生き生きした笑顔をしているエルオーネがいた。



「エルオーネ知り合いなの?」


「はっはっは。ぼこ殴りしたくなるような面のヒスオなんて知り合いに欲しくないぜ!」


「あ、知ってる!ヒスオって、『ヒステリックで全くダメな男』の略でしょ!」


「よく知ってるな。これはちょっと昔に流行った水守(ウンディーネ)の私語なのに」


「おじいちゃんが時々ボヤいてたよ。『ヒスオがうざったいんだよね〜』って」


「…グレーン。只者ではないと思っていたけれど、ほんっと、何者なんだ?」


「え?おじいちゃん?おじいちゃんは婿養子だよ。

 昔はおばあちゃんをモノにするのに、30人切りしたって言ってたよ!」



おばあちゃんは今でも楽しくおじいちゃんとの馴れ初めを話してくる。

ポリメシアの村ではすでに伝説になってる。

あ、伝統の間違いだ!

一人の女の子に複数の男の人が告白したら、バトル開始なんだって。

でも今のところ、おじいちゃんの30人切りがぶっちぎりで一番多いって言ってたよ。



「僕も大きくなったら、おじいちゃんみたいに30人切りしてみたいなぁ」


「…ちっさい勇者さんはそのままでいて欲しいんだけどな」





「き、貴様ら!いい加減わたしを無視するなっ!!大体わたしはヒスオではないわ!!

 カルローン=シューテリナス=カンツォーレと言う名がちゃんとあるんだぞ!

 しかもエルオーネ!貴様はわたしの世話になっておきながら、なんなのだその態度はっ?!」


「はっ!片腹痛いな。いつ、誰が、どんな理由で、お前なんぞの世話になった?

 だいたい事ある毎に俺にひっついてくるひっつき虫が、でかい口をきくな。

 そもそもお前精霊としての自覚があるのか?この子の前で真名を明かすなんて…

 言っておくが、この子はこう見えてもかなりの実力者だぞ。

 悪魔を制御したり魔王を拾ってきたり伝説の一族を発見したりで、本当に何の用だ?」


「うぐぅ」



うわぁ…エルオーネ、最後の方は一息で言い切った。

悪魔とか伝説の一族とか言ってるけど、そんなウソ付かなくったていいのに。

僕もポリメシアの皆も普通の農民だよ。

え〜っと。カルローンとかいうおじさんは悔しそうにエルオーネを見てる。

それから僕を見て、ものすごくおでこにしわを寄せた。



「ここに華人(ザウーディ)がいるだろう。風の精霊王(シルフ)の末姫が…」


「っ?!」



風の精霊王(シルフ)って、末姫ってミルギスのこと?

え、どうしよう。

でも同じ精霊だしミルギスにヒドイ事はしないよね?だ、大丈夫だよね?



「何で風人(ミルギス)を探すのが水守(おまえ)なんだ?こういうのは同属が探すべきだろうに」


「本気で言っているのかエルオーネ?だってあの人間の村には―――」


「…あ、あーうん。それは、確かに天敵(ヤツら)がいるけどね…

 まさか俺を呼び出すために井戸を涸らしたのか?自殺行為だぞソレ。

 間違って他のヤツ来たらどうするつもりだったんだ?

 言っとくが、あの村の人間―――主にこの子に手を出したら殺られるぞ、間違いなく」



エルオーネ。なんだか物騒な言い方になってない?

というか、ミルギスのお迎えにカルローンおじさんは来たってことだよね。


じゃぁ、ミルギスのお父さん達はやっぱり探してるんだ。



「あの…」


「―――と、いうか、ミルギスとは…?」



「え?」

「あ、」

「まさか、」



「カルローン、ちょっと村外れで話さないか。ってか話を聞け」


エルオーネが強制的にカルローンおじさんの首をつかんで、森の奥まで引きずって行っちゃった。



「僕はお水を汲んでお家に帰ったほうがいいんだよね?」


「「わふっ!!」」



ロウファとセインが力強くうなずいてくれた。

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