表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/31

幕間〜家族会議 2〜

「で?何でおチビちゃんはあんなに泣き腫らした目だったわけ?」



優雅に脚を組み紅茶を一口啜るオーマが、床に正座している―――もっと確に言うと

エルオーネの作った強力な痺れ薬を飲まされ、ゼロムに正座させられたリセが、オーマの前に差し出された。


因みにエルオーネとゼロムの二人はオーマから離れた場所に座っている。

これは自分に被害が及ばないよう考慮したためだ。

今のリセの現状は、普段ゼロムが居るべきところなのだが、今回は事情が違ってくる。



「そ、それは…ちょこーっと改良したツラッティがちびの目の前に…」


「ねぇリセ―――君って馬鹿?」


「(ビクッ)!」



甘ったるい声でオーマはリセに問う。

男にしてはぷっくりと柔く膨らんでいる唇がニィと弧を形作り、普段のダークブラウンの眸は赤みを増していた。



笑ってるのに、笑っていない―――



エルオーネ、ゼロム、リセの心境が一つになった。


本来の力関係で言えば、最強と語られる不死の一族のゼロムが一番強いはずなのだが、性格上それはない。

故に魔王の一人であるリセが頂点に立ち、高位悪魔のオーマは口出しなど出来ないはずだ。

そのはずだったのだが、しかし、それは今適応されない。


この村、ひいては彼らが溺愛している少年の傍に居る為に一つのルールが設けられている。

溺愛している少年は多種族から好かれる。そしてかなり高い確率で何かしら拾ってくるからだ。


嘗て魔王といわれた存在の一つが。

今でも神都とで恐れられている悪魔が。

稀有な種族であり立場の混血の有翼人が。

そして伝説と語られ、その姿を消した最強の一族が。


「少年を傷つない」という絶対のルールを決めていたのだ。


しかし今回はそのルールが破られた。

ヘタレでヒエラルキーが一番下に有るゼロムではなく、そのゼロムを普段いびっているリセが、だ。



「す、すまぬ」


「はっ。謝ってすめば何でもうまくいくと思ってるワケ。ねぇ、焦獄の火蛇(イゼルドゥグァル)さま?」


「そ、そう言う訳じゃ…」


「じゃぁ何?土下座?しろよさっさと。死ねよマジで。嬲らせろよ今」


「な、な、ななな!?」


「オーマ、気持ちは判るがもうその辺に。リセだってちっさい勇者さんを傷付ける気はないんだから」


「何?ボクのやり方に文句あるの?いいよねぇエルオーネは。

 おチビちゃんと一緒にいれてさ。あのクソ魔術師とお話しなかったものねぇ」


「(なんであんなにヤサグレてんだ?)」

「(あー…あの魔術師がオーマの神経を逆撫でしてなぁ)」

「(逆撫で…普段のオーマからはとてもじゃないが、考えられないぞ)」

「(神都に席を置いている魔術師―――正確には導師らしい)」

「(導師…?神都の資金集め役が何故?というか、その後はどうなったんだ?)」

「(オーマが精神的に追い詰め弄った挙句、どこぞかに捨てに行った。それきり知らん)」

「(ゼロム。ここら辺で死体をあげるなといつも言ってるじゃないか!)」

「(儂とてちゃんと言ったわ!オーマも理性は残ってたし、別の場所で始末つけたようだ)」

「(始末つけたのに、何でオーマはリセに八つ当たりしているんだ?)」

「(―――若いからなぁ。感情が制御できてないんだろう)」

「(ゼロム。お前っていったい幾つなんだ?)」



ゼロムは視線を遠くへとやる。エルオーネの疑問イは答え無かった。

ゼロムの顔は、完全に憔悴しきっていたのだ。

それもそのはずだ、オーマと魔術師のやり取りを間近で見ていたのだから。


魔術師イースと会話していたオーマは、会話が進むに連れて笑顔が引き攣っていき

神都の教えを説かれた時は、口元が痙攣しだしていた。

そして魔術師が、このポリメシアを私欲の為に灰にしようと提案した時、その場の空気が凍った。

無論ゼロムとて魔術師の話に腹を立て、つまみ出そうと動こうとしたのだが、オーマの方が早かった。


『いい加減、自分の立場弁えて。君さ、中身暴かれてるのにも気付いてないの?』


相手の喉を片手だけで握り潰し、暴れだす前にそのまま宙吊りにした。

そして冷え切った眼で相手を射抜く。冷笑を添えて。


『若さゆえの過ちなんて言葉では片付けられない事態に陥ってるね?

 ウラド市から流してもらっている魔薬(ポイズン)が此処最近滞っているんだって?薬中の信者って笑える。

 でもそれってさ、表向き神都(アーズカルド)ではご法度でしょ?君、神官だよね。簡単にバラしていいの?

 導師でもある君が他国に催促しに来て、たらい回しにされた挙句に収穫なしだったんだぁ。

 それで怒った君が使い魔を放ってウラド市で暴れて、でもやり過ぎて手に負えなくなって?

 じゃぁ面目丸つぶれだよねぇ。どうにか汚名返上するために、こんな辺境まできちゃったんだ!』



くすくすと笑うオーマは楽しげに秘密を暴いていく。


魔薬(ポイズン)―――それは依存性の高い毒だ。快楽と過去への回帰が約束される。

とある毒草と魔獣の血を混ぜる事によって作られる。

ウラド市は辺境―――森の彼方の国(エルデーエルヴェ)が近くにあるためか、あまり重点的に警戒されない。

されないというよりも、どの国も不可思議で不気味な国には近づきたくないようだ。

大抵の国は魔薬(ポイズン)の精製・売買を禁じている。しかし神都は違った。

信者を増やすため、魔薬(ポイズン)を薄めた水を参拝者に聖水と称し売ることがしばしば。それも金持ちを中心に。


その時ゼロムは思った。

―――ああ、悪魔て性格悪いんだ。これじゃぁ故郷(くに)の小公爵と大差ねぇや。



『あはっ。怯えてる。不思議そうな顔してる―――ボクね、オーマって言うんだ。

 この名前じゃぁ君はピンと来ないかぁ。そうだね、蠢欲の悪魔オーセルダ・マーティスって言えば判る?』



イースは恐怖した。潰された喉の痛みが判らなくなる程、体が震え心が潰された。

神都―――アーズカルドの導師としてではなく、また一人の魔術師でもなく、ただ一人の人間として。

恐怖から逃げるように魔方陣を描こうとする魔術師に対し、オーマは少女が花開くように笑う。

そして、必死の思いで魔方陣を描いている魔術師の手に、オーマは少しずつ力を加えていった。

イースは悲鳴を上げる事も許されず、ミシミシと音を立てて潰されていく己の手を見せ付けられた。

肉が潰れる音、肉に圧迫され骨が潰される音。

ぼたっと落ちる血と肉片。ぎちぎちと緩やかにねじ切られていく魔術師の右腕。

恐怖しか感じられなかった状況から、視覚で捉えてしまった現実に激痛が走る。

魔術師の目の端には涙がたまる、オーマはそれを赤い舌で掬い上げた。

その行為が、さらに魔術師に恐怖を与え体を強張らせた。


『久々だなぁ。こんなに哀願されて、忌々しく思われたの。いいね。食べ甲斐があるよ』



オーマは笑みを深く、恐怖に屈した魔術師イースの心臓を貫いた。




ゼロムは今さっきまで、この部屋で人間一人を嬲っていたオーマを見て溜息を吐く。

楕円形のテーブルに顎を載せ、行儀の悪い格好のまま顔をエルオーネに向けた。


「(なぁ、エルオーネ。オーセルダ=マーティスって知っているか?)」

「(知っている。精霊の間でも評判が微妙な悪魔だ。…オーマがソレなのか?)」

「(うむ。微妙なのか?)」

「(微妙だ。精霊を喰う事もあれば、人間を堕落させる事も有る。

 しかし専らの被害は人間だ―――神都の神官で精霊や魔族を虐げている者ばかりだから)」

「(成る程な。オーマの本名を知ったあの魔術師、目の前で自殺しようとしたんだ)」

「(賢明な判断だと思う。蠢欲の悪魔オーセルダ・マーティスは残虐な思考の持ち主で有名だ)」

「…儂、よくぞ発狂せずに過ごしてこれたな」


「ちょっとそこ!ボクがリセを説教してるんだから、べちゃくちゃ喋らないで!」


「「はーい」」



「オーマ、我の話を聞いてくれても良いではないか!」


「はっ。おチビちゃんを泣かしてる時点で死刑って決まってんだよ」


「あそこまで驚くなんて!グレーンだって騎獣が欲しいと言ってたんだもん!

 ちょっとツラッティを改造して、皆の交通手段にしようとしただけだもん!

 別にちびを怖がらせようとか怪我させようとか、泣かせようとか思ってないもん!」


「キモっ!何もんもん言ってるの、キモイよリセ。」


「だて、だて、我だって皆の為に色々しようと頑張ってるんだもん!」


「ちょっと二人とも、このキモイのどうにかして!?」


「キモイ?!我はキモくないもん!」


「キモイよ!本当にこれが焦獄の火蛇(イゼルドゥグァル)と呼ばれた魔王なの?!」


「「本人が言ってるからそうなんだろう?」」


「ちょっ「うわーん!皆して、皆してっ!また我のこといじめるっ!!」


「「また?」」


「あ…そういえばリセの家出の原因って、他の魔王達にいびられたからだっけ…」


「家出?!魔王が家出?!ドンだけ人間くさい魔族の王様達なんだ?!」


「あ〜。判る判る。身に覚えのない事で催促されたり、知らぬ間に人身御供にされたり」


「ゼロムっ!お前もか、お前もそう言う経験があるのか!ひどいよな!辛よな!

 彼奴ら自分達は好き勝手遊びくさってからに!我にだけ雑務を押し付けるんじゃ!」


「儂の事を散々殺しておったヤツが気安く共感するでない。キモイわ阿呆」



「!!!!!!」



「あ、固まった。ゼロムにキモイって言われて相当ショックだったみたいだね」


「本当だ。オーマが説教するよりも、ゼロムに侮辱された方が効果あるようだな」


「侮辱ではなく事実だろうに…つか、お前らの方が儂を侮辱しとるぞ!」



ゼロムに侮辱?されてから暫くの間、リセは抜け殻の様な状態だった。

溺愛している少年が潤んだ眸で見上げながら説得して、やっとリセが元に戻ったのは暫くしてからの事…



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ