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第十話

野菜たっぷりのスープと、オーマがぱぱっと作ったふっくらなパン。

川を上ってきた身の引き締まっているお魚のムニエル。

そして山で採ってきたオレンジを絞ったジュース。

食後のデザートはシャーベットだって。これはゼロムが昨日の夜から仕込んでたもの。

初めてシャーベットを見た時はすごく感動した。だって冷たくて、甘くて直ぐにとけちゃう。

オーマもちょっと驚いてた。王都でも珍しい食べ物なんだって!

ゼロムっていったい何者?!って思ったけど、ゼロムはゼロムだし別にいいや。


即席で此処まで作れるオーマとゼロムは凄いと思う。



「はい。ミルギス、あ〜ん」


「ぷぁ〜ん」



一月も経つと、ミルギスも慣れてくる場面がある。

それはご飯の時。傍にオーマやリセがいてもご、飯を食べている時は泣いたいりしない。

どっちかって言うと、オーマの作るご飯は好きみたい。

ミルギス用にちょこんと取り分けられた食べ物は、今では綺麗にお皿の上からなくなっている。

取り分けてくれたのはゼロムだったけど。

エルオーネはミルギスに前掛けをしてくれて、膝の上に乗っけてる。

普通に椅子に座らせてもテーブルに届かないからね…

エルオーネがいない時はゼロムの膝の上に我が物顔で乗っかってる。

でもデザートを食べさせるのは僕の役目!だって可愛いんだよ。

ぱくぱく食べてくのが。まるで餌付けしてるみたいでさ!



「生後間もない赤ん坊が固形物を取るって何だかシュールな場面だね。

 みてよ。魚の骨とか器用に吐き出してるし…野性の本能が強いのかな?」


「そうか?俺は華人(ザウーディ)は知らないが、普通の精霊の子はこんなもんだぞ。

 そもそも野性の本能って、悪魔(おまえ)らの方が格段強いだろうが―――」


「エルオーネお前、やけに詳しいな…野生って、精霊は自然と共にあるのだから野生だろう」


「ああ、俺はハーフだから。有翼人と水守(ウンディーネ)の。

 何だか野蛮と言われているみたいで嫌なんだよ。ゼロムだって化け物(ノスフェラート)と言われるのは嫌だろ?」


「ああ―――って、」



「「え?」」


「ゼロムは兎も角、おチビちゃん知らなかったの?」


「えぇぇぇぇ?!!エルオーネは水の精霊だったの?!うわぁ、うわっ!」


「…有翼人にしては変った色だと思っていたが、混血児だったのか」


し、知らなかった。エルオーネって水の精霊とのハーフだったんだ!

だから時々エルオーネの周りに、水の玉がぽよよ〜んって浮かんでたんだ。

庭に池を作って水の中に青いバラって花を栽培したり、川釣りで一番魚を多く捕まえたり

枯れた井戸に何かを放りこんだらぶはーって水が噴出したのも、全部エルオーネが水の精霊とのハーフだから!

あ、噴出した水はオーマが留めてくれたよ。さっきの噴水はそのために作ってたんだ。


すごい。オーマやリセもすごいけど、精霊ってすごい!

ミルギスも大きくなったら竜巻でも起こせるのかな?

あ、でも竜巻起こされても村が壊れそうだから困るかも…



「まあね。有翼人でも稀有だけど…別に俺みたいなのはいないわけじゃないだろう」


「儂はあまり見ぬがな。しかしミルギスが懐いとる訳がようやっと判った。

 風人(ウィーディ)水守(ウンディーネ)は穏やかな気質同士、仲が良いからな―――ぐはっ!?」


「み、ミルギス?!ご飯の時は遊んじゃダメ!まだシャーベット食べてる途中でしょ!

 食器の破片で怪我したらどうするの!!悪い子にはゼロムだってデザート作ってくれないよ!」


「ぷぇ?!」



ゼロムが天井にぶつかって、びたんって音を出しながら床に落ちた。

ミルギスはふよふよヒラヒラした布をぺたんと床につけて驚いていた。

あれ…

ミルギス、デザートをゼロムが作ってたって知らなかったのかな?

いや、でも、ゼロムが料理作ってるのを知らないはずは…



「もうご飯中に遊ばない?」


「ぷぅぷぇ」


「約束だよ?じゃぁ、これ食べちゃおうね〜」



一先ず、残ってるシャーベットをミルギスに上げた。




「儂の安否はスルーなのか…」

「仕方ないだろう。お前は赤子ではないんだから」

「差別だ…此処にきてまで差別を受けるなんて。儂って…」

「ゼロム。これは差別じゃくて区別だ。子供と大人の」

「あははは。エルオーネ、ものは言いようだね。にしてもヘタレだねゼロムは」



コンコン。


「「「!」」」


オーマが笑い終わった時、誰かが扉を叩いた。

誰だろう?お昼はおばあちゃんもおじいちゃんもいないって村の人は知ってるのに…



「は〜い!って、え、オーマどうしたの?」


「僕が出るよ。おチビちゃんはエルオーネとミルギスと一緒に此処にいて」


「どうして?」


「どうしても。ゼロムはボクと一緒に行くよ」


「ああ」



片腕にミルギスを抱え、もう片方の手で僕を引き寄せる。

背中の羽がパタパタと動いている。皆どうしたって言うんだろう?




◆    ◆    ◆



「こんにちわ。ウラド市より参りました、魔術師のイースと申します。

 此方のお宅に、リセという方が居るとお伺いしのですが、今はいらっしゃいますか?」


「ああ、リセはここに住んでいるけれど今は出かけているよ。

 どこぞの愚かな魔術師から逃げてきた、失敗作のツラッティを退治しに行ってるけど?」


「…お詳しいのですね。リセという方は魔術師なのですか?」


「さぁ?僕はリセじゃないからね。本人に聞けば?」


「ご一緒に住んでいらっしゃるのに、仲が悪いのですね」


「そう?で、魔術師なのになんでここにいるの?ウラド市の不始末を、此処の人達に押し付けるつもり?」


「まさか!綺麗なお嬢さん。私もお力をお貸ししたかったのですが…」


「へぇ、でもリセには会ってないんでしょう。じゃなきゃここに来る筈ないものねぇ」


「ええ。お会いする前に、其方いらっしゃる方に必要ないと言われてしまったので」



ちら。



「(何余計な事を喋ってんだヘタレ!寧ろ追い出せよ!!)」

「(無茶言うな!ちびもおったんだぞ!プライド高そうだから焚きつければリセの所いくと思ったんじゃ!)」

「(他力本願なわけ?!居据わってるじゃないかヘタレ!)」

「(ヘタレっていうな―――すいません。調子に乗りました…)」


「素人に言われたくらいで引き下がるなんて、随分と低いプライドだね」


「お話によると、リセという方は四年前の洪水で荒れ狂っていた川の水を塞き止めたとか…

 そのような高等魔術を使える方は極僅かですが、私は『リセ』という名の魔術師を聞いた事がありません」


「ふ〜ん。それで、君は何がしたいの?」


「お会いしたいのです。そして確かめたいのですよ。正規の魔術師か否か」




◆    ◆    ◆




僕はこっそりと壁に耳を当ててオーマたちの会話を聞いた。

なんだかオーマもゼロムも普段のニコニコした顔はしてないみたい。

それって、やっぱり


「オーマ怒ってる」


「ああ、そのようだな。しかしこんな辺境の村に魔術師か…」


「ゼロムも魔術師のこと苦手みたいだったけど、僕もその理由わかった気がする」


「それは、どういう意、」


「だって、オーマは確かに綺麗だけど、女の子じゃないよ!

 昔は女の子っぽかったけど今は違うのに、あの魔術師の人失礼だ!」


僕が、ぐっと力説してるのに、エルオーネは僕の頭を撫でただけだった。

そして僕らはまた壁に耳を当てて会話を盗み聞くのだった。



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